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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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18.お気楽令嬢は、情報収集に勤しむ



「学園の状況を知りたいんだっけ? だとしたら、まず最初に気を付けるべきは上位のクラスだねぇ」


 そう言うと、ペラ男が優雅に首をすくめた。

 少し遅れてきたハンナも興味深そうに聞いている。


「たしか派閥があるんでしたっけ?」

「そう。上位クラスは今、派閥争いの真っ最中さ。いわゆる――3大派閥、のね」


 自称情報通のペラ男によると、今、ラヴォワ皇国では主に3つの派閥があるらしい。

 第1皇子派、第2皇女派。そして、3つ目が、アンネローゼの婚約者(仮)たるゲオルグ皇子派である。


 ややこしいことに、全員母親が違う。

 そして、この3人の派閥が次期皇位を巡って揉めに揉めている、と。

 

 なんで皇位なんて面倒くさいことに、首をツッコみたがるのか。

 いやー。お貴族様の考えることはわかりませんなー。


 ま、自分もギリギリ貧乏貴族出身だけども。


「君たちにはわからないと思うけど、派閥というのは結構面白いシステムでね。上位クラスの生徒も有力者や名のある生徒は、だいたい派閥にスカウトされ所属しているんだよ」


 わかるよ、ペラ男。

 若干、派閥を率いた…………というか、気が付いたら派閥という名の神輿に担がれ、どうにも降りれなくなっていた経験のあるアンネローゼは神妙な顔でうなづいた。


 あれは一種の恐怖体験だった。

 気が付いたら周りの可愛い子がみんな武闘派になっていて、兵を率いて王国転覆。


 何を言っているのかわからない???


 大丈夫、大丈夫。

 こっちも何が起こったか、よくわかってません☆




「第1皇子派、第2皇女派。ここに眼を掛けられれば、成功は約束されたも同然ってわけさ」


 うっとおしいドヤ顔と共にペラ男の話は続く。


 なるへそ。

 第1皇子派、第2皇女派はどっちも財力・権力があり、どちらも同数くらいの勢力らしい。 


「そういえば、ペラ男は第2皇女派でしたっけー?」


 と聞いてみる。

 たしか昔、裏市の帰りに会った時、そんなことを言っていたような気がする。


 ――が、その瞬間。

 今まで、にこやかにドヤ顔を披露していたペラ男の顔が固まった。


「ん?」

「アンヌ、それまずい」と若干気まずそうな顔のハンナ。


「え? ダメなの? これ?」

「ユリアン――じゃなくて、ペラ男はFクラス入りしたせいで、派閥を追放されたらしいの」

「……ほんとに?」

「さすがにFクラスはちょっと……って、派閥の品位を堕とすって言われたらしくて」


 ペラ男の顔をこっそり盗み見る。 

 あ、ダメだ。めちゃくちゃ遠い眼をしている。


 というわけで、すぐさまフォロー。


「いや、でもねぇ! は、派閥に入れただけすごいじゃん!!」


 むりやりテンションを上げ、頑張ってヨイショ。


 おかしいなー。

 なんか朝と同じ羽目に陥っているような…??


 が、アンネローゼの捨て身の作戦は功を奏したようだ。

 少し経つと、こちら側の体力の消費と引き換えに、


「そ、そうかな?」と、ペラ男の顔に若干、生気が戻った。


 実に単純な男である。


「もちろん!ね? いやーさすがはペラ男。私なんかとてもじゃないけど無理だよ」


 と拍手。 


 いや、ほんとに。

 よくそんなことに首をツッコみたがるものだ。


「ユリアン。そもそも、どうやって派閥には入ったの?」とハンナが尋ねた。


「あ、私も気になるかも」


「ああ。僕はスカウトじゃなくて自分から志願したのさ。志願の方はスカウトに比べ、結構ハードルが上がるんだけど、普通に半日ほど我が家の栄光の歴史について語ったら入れてくれたよ」

「ん?」


 今とんでもない事実が聞こえた気がした。

 あの自慢話を、


「……半日? 語った?」

「そうさ。ま、僕の情熱が伝わったようでね」

「それは、それは……」


 新手の拷問かな……??


「え、派閥の人はなんと??」

「最後には『もうわかった充分だ、終わりにしてくれ』って派閥の人も、涙ながらに何度も頷いてたよ」


 ドヤ顔で「まったく、僕ほどの名家となると相手が泣くほど魅力が伝わっちゃうのかねえ」とつぶやくペラ男。


 ……ペラ男よ。


 たぶん、それは情熱がどうこうじゃない。

 単にそれ、相手の人が途中で諦めただけだと思います。



***********



 ペラオの自慢話を半日も聞かなきゃいけないなんて。派閥も楽じゃないんだなー。

 ということで、見ず知らずの派閥の人に手を合わせる。


 ご愁傷様です。

 や、ほんとに。


「じゃ、次は第3皇子派だね。第3皇子派ははっきり言って――」


 すると再びペラ男が口を開いた。


「皇子本人が凄すぎる派閥だ」


 んん?


「どういうことです?」


 簡単な話さ、とペラ男が肩をすくめる。

 

「ゲオルグ派は、なんといってもゲオルグ皇子の人気っぷりに支えられているってこと。頭脳明晰、魔術の腕も超一流。そして容姿も完璧と来た」


「たしかに、若い令嬢が憧れたって話は毎年のように出てくるね」と同意するハンナ。


「この前も皇都の地下にいた賊を一網打尽にしていたしね……けれど僕から見ると、その分、あまり人が集まっている印象はないかな、良くも悪くも、本人の資質だよりって気はするねえ」


 なるほど。

 皇子本人が凄すぎて、あまりついて行けないって感じだろうか。


「それと、アンヌ。忠告しておくけど、"生徒会"には目を付けられないようにね」

「生徒会?」


 初耳なので、思わず聞き返す。 

 

「学園の生徒会。成績優秀者しか入れない組織よ。派閥とは、ちょっと別のグループだけどね。学園の治安の維持と生徒に対する指導を認められた組織ってこと」


 と、ハンナが解説してくれた。


「でもなんで、そこに眼を着けられちゃまずいんですか?」

「やっぱり知らなかったか……」


 そう言うと、ペラ男が「はぁ」とため息をついた。



「生徒会はゲオルグ派の牙城――そして、Fクラスを敵視しているからさ」




 学園の生徒会。


 生徒会は学園側の組織である。あくまでも非公式な派閥とは違い、学園から正式に認められたエリートたち、らしい。 

 そしてそこには、少し前まで学園に在籍していた天才皇子ゲオルグに憧れた生徒たちが多く加入しているとのこと。


「要するに、忠告しているのよ、ペラ男は」と、横からハンナが口を出す。

「……言っておくけど、僕はアンヌにしかその呼び方を許可したことはないんだけどねぇ」


 などと、あれこれ言う2人に、


「も、もちろん気をつけますよ、うんもちろん」と感謝を示す。


 いや~~、でもありがたい。

 ホント、持つべきものは友達である。




「……あ」


 そう言えば。

 ちょっと気になったので、聞いてみる。


「ち、ちなみに、もしですよ。その仮に、なのですが」

「なんだい急に?」

「ゲオルグ殿下って、どんな人ですか?」


 何でそんな、と不思議そうに、ハンナとペラ男が顔を見合わせる。


「殿下…は本物の天才さ。まあ直接面識はないけど」と渋々答えるペラ男。

「さ、さいですか」


 ……あ、やばい。

 一気に気が重くなる。


 ――そう。

 ここにきてアンネローゼはあることを思い出していた。


 ゲオルグは、()()()()()()()()()()()()()()、と言っていたのである。

 しかもそのために姿を隠し、一旦卒業した学園に潜入しているという手の込みよう。


 だ、ダメだ。

 い、胃の調子が……。


「さ、さらに、ちなみになのですが」


 この時点で、もうのどがカラカラである。

 なーんかだいぶ、よろしくないことに首を突っ込み始めているような気がする。


 気のせいかな??気のせいと言って欲しい。

 はっはっは……。


「その、ゲオルグ殿下がなんかこう困ってたりしたら結構アレですかね? まずい感じで???」


 そう言うと、ペラ男が顔をしかめた。


「あんな人が困る? そりゃあり得ないよ」


 横にいたハンナも同じように同意する。


「そうね~、もしあの殿下に悩み事があるんだったら、相当難題だと思うけど。それこそ、国家規模とか一般人じゃとてもじゃないけど手に負えない事件……ってどうしたのアンヌ? そんなあんぐり口開けて。お腹すいたの?お昼はまだけど」



 お、終わった――。



 


 この後、先生に雑用を頼まれた。

 先生は申し訳無さそうに「机を運んでほしい」と頼んでいたが、気が付けば国家規模の案件に首を突っ込まれされそうになっていたこっちは、雑用という響きにウキウキである。


 机を運ぶ、なんと慎ましい用事なんだろうか。

 ぜひあのゲオルグ坊っちゃんにも見習ってほしいものだ。


「あ、そういえば」


 申し訳無さそうにする先生に向かって尋ねる。


「なんのために机を運ぶんですか?」

「いや、実は最後のクラスメイトが来るらしくてね」

「はあ」

 

 最後にやってくるクラスメイトのための雑用らしい。

 

 いやでもまさか。思わなかった。

 単なる雑用を頼まれて嬉しいと思う日が来るとはなー。

本日のアンネローゼさま

→情報収集に勤しんでいたが、あのゲオルグが困っている事件=相当やばいのでは?と薄々勘づき始めた。基本的に雑用は嫌いだが、単なる机運びのありがたさを思い知る。


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