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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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17.お気楽令嬢は、朝から(無理やり)テンション上げる


 ――翌日。


 昨日は、非常にいい日だった。

 青い空に白い雲。そして、楽しいパーティー。


 お肉もおいしいし。

 こうなってくるとFクラスのひどい立地も、スローライフ用としては結構いい気がしてくるから不思議である。


 が、しかし。

 自分はまだ学生の身分。寮の布団でぬくぬく温まる時間は余りにも短い。


というわけで。


「ぬあああああ~~」

 

 気の抜けた声を出しながらベッドから起床。

 ぼおっとした頭のまま準備を始める。


 やはり時間割というものに縛られている時点で、華麗なるスローライフにはまだ遠い。




 そして、寮の自室から出ると、


「あ、アンヌ」という落ち着いたきれいな声が聞こえた。

「……! ああ、コンニチハ」


 声をかけてくれたのは、隣部屋のフリーダという女子生徒。

 彼女は、キャロライン侯爵家という名家のご息女であり、なおかつ、こっちが血迷ってFクラス入りした時から、ずっと本気で心配してくれた女神のような令嬢である。


「今日もいい天気ね」


 彼女がそういうと、まるで清涼剤のような笑顔が広がった。


「そ、そうですわね……?」

「ふふっ、そんなにかしこまらなくても。アンヌさんって面白いですわね」


 うーん。爽やか。

 問題児たちのクラスで、泣く泣くクラス長をしている自分なんかとは違う。


 にじみ出る気品の良さに、少し白みがかった髪の毛が素敵な美貌。魔術の腕もよく、Aクラスのクラス長として、すでに頭角を現し始めているらしい。

 天は二物を与えず……ではなく、天は彼女に一体何物を与えたのかと思うようなザ・令嬢だ。


 ちなみにFクラス=野蛮人説を教えてくれたのも彼女である。



 が、悲しいかな。


「アンヌさんって、いつも元気ですよね」とにっこり笑うフリーダ。

「そ、そうですね〜……アハハ」


 ……そう。

 入学してからというもの、すっかりフリーダの脳内では、


『アンヌ=Fクラスにも負けずに頑張る元気な女子生徒』


 と記憶されてしまったらしい。


 これもすべては、アンネローゼが前に通っていた学園とイメージを変えようと、無駄に頑張ってしまったせいである。

 深窓の令嬢から、ちょっと元気な普通の女子生徒へ。


 こうすれば変な誤解はされないはず!

 ……とそう思っていたのだけど、そのせいでだい~ぶ支障が出ていた。


 アンネローゼは朝が弱い。

 祖国のクレイン王国だったら朝から眠くても、すました顔で明後日の方を向いておけば、


「ああ、今日もアンネローゼが美しいお顔で何かを憂いていらっしゃるわ~」的なことを言ってもらえて、こっちもそれに全力で乗っかっておけばよかった。


 けれど、こっちだと自分が勝手にキャラ変したせいで、朝から陽気にふるまわないといけない。


 これじゃ、真逆である。なんで朝弱い自分が必死にテンションを挙げているのか。

 なんとなーく自分で首を絞めている感じがしなくもない。


「でも、本当に大変だったら、いつでも相談してね。アンヌさんはFクラスで馴染めてる?」

「あー」


 馴染めてる……のか??

 や、というより、あまり馴染みたくないが割りと大差で勝つ。


 そんなこちらの様子に何を感じたのか、白銀の令嬢は、はぁ、とため息をついた。


「やっぱりアンヌさんは、あまりクラスの人とは仲良くないんですね、でも、それで良かったと思います」

「へ?」

「実はね、ここだけの話ですが……今年のFクラスのクラス長は例年にない速度で決まったらしいです」


 たしかに今年はなんか早いなとは思っていた。

 もうちょっと熟慮してくれりゃいいのに……。


「ええ。毎年Fクラスだけは最後までクラス長決めで揉めていて、決闘騒ぎまで起こってるらしいのです」


 ため息をつきたくなった。


 ……アホだ。

 あんなんで決闘してたら、身体がいくつあってもたりない。


「でも、今年は異例の速さで決まったらしいのです。しかも、どうも今年のクラス長が……」


 今年のクラス長はもちろんアンネローゼである。

 が、フリーダは言いよどむと、その美貌を曇らせた。


「気に食わない人がいると、見境なくマジックアローで攻撃を仕掛けてくる危険人物と聞きました」

「…………」

「その……何か目を付けられたりしたらいつでも頼ってくださいね」


 無言になったこちらを、物憂げな表情で心配してくるフリーダ。

 ありがたい。ありがたいんだけど……


 結局。

 そんな美人令嬢に、「仰っしゃられてる危険人物は私ですよ」と真実を告げる勇気もなく。

 

 ――なんか自分、酷い誤解を受けてない?????


 アンネローゼはフリーダに対して、微妙な表情で対応するしかなかったのであった。



***********



「おはようございますー」


 授業開始前の教室はのんびりしていた。

 

 弛緩した空気の中、着席。

 今日の授業なんだっけ?などと適当な話が聞こえてくる。


 そんな中、ペラ男の姿が見えた。


「やあ、今日もご機嫌麗しゅう。諸君」


「あ、ユリアン・ペラ男・フェーデルディナント」

「……あいにくだが、僕は一度もそんなミドルネームを名乗ったことはない」


 まあまあ。落ち着いてほしい。

 席についたばかりのペラ男の方を向く。


 というもの、こっちはペラ男に用事があったからである。


「あの~ちょっと聞きたいことがありまして」

「もしかして……わがフェーデルナントの歴史に興味があるのかい?」と顔を輝かせるペラ男。


「冗談はよしましょうねー」


 予言してもいいけど、この前の君の自己紹介を聞いて、フェーデルナント家の歴史を知りたがるような生徒は金輪際現れないよ、と言ってあげたい。


「ではなにを?」と不思議そうな顔のペラ男。

「いやー実はなんですけどね」


 ニッコリ笑う。


「学園の状況を知りたいなって」

「またなんでそんなことを……」


 物騒だなと言いつつ、ユリアンが首を振る。


「まあまあ、いいじゃないですか。情報収集ってやつですよ。ほら?私、クラス長ですし」


 もちろん、クラス長だから知りたい……のではなく。

 面倒ごとをなるべく避けるために聞いただけである。


 卑怯とは言わないでほしい。

 これもすべてはスローライフのため。


 そんな感じで説得をする。

 すると、

 

「まあ、たしかに状況を知っておくのも大切か」とペラ男も納得してくれた。


「ですよね!! やはりクラス長はそのくらい知っておくべきですよね!」

「仕方ない。この僕が教えて差し上げよう」

「いよっ、名家」

「ふっ、君も褒め上手だねえ」


 完☆璧。


 そう。

 ペラ男は口が軽い。

 それならペラ男をおだてて、せいぜいを情報収集させていただくとしよう。


 悪いがこれもスローライフのため。


 ペラ男よ、恨むなら己の口の軽さを恨むがいい。

 なっはっはっはっは。





 ――そもそも。こういう適当なことを日常的に言っているから、自分から大変な目にあうのだが、その辺をいまいちわかっていないアンネローゼであった。


 現に、この返事を聞いていたペラ男ことユリアンは、クラス長になってもおごることなく、他クラスの情報を把握しようとしている(ように見える)アンネローゼの冷静さに、


(やはり、なんだかんだ真面目だねえ)


 と、すこぶる感心していた。


 が、


「よっペラ男!」

「……それは褒め言葉とかじゃなくて、君が始めたあだ名では?」


 本人は割と自分のことしか考えていなかった。


本日のアンネローゼさま

→知り合いの令嬢に同情される。その後、小狡い感じで、ペラ男から情報収集しようと画策。ペラ男を上手く出し抜いた気でいるが、実際そうでもなかった。

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