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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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15.お気楽令嬢は、慰められる


 とりあえず、当面の目標は決定した。

 ゲオルグとは適切な距離を保ち、そこそこ平穏な学園生活。

 

 やっぱり人間、スローライフが一番である。




 そして。

 翌日から、ついに本格的な学園生活が始まった。


 アンネローゼの通う、グラセリア魔術学園。

 そこはラヴォワ皇国どころか大陸でも有名な名門校である。


 グラセリアの制服は全体的に白か黒を基調とした色でまとめられ、金糸や銀糸などの華やかな装飾が施されている。

 高貴さと美しさを感じさせる制服。


 それに、ここで魔術を学び優秀なクラスで卒業さえすれば、一生食うに困らない。

 うまくいけば貴族のお召抱えや、皇国での士官。文字通り、エリートとなる街道が開けるのである。


 さらに、研究のための設備や校舎も豪勢。ということもあって、グラセリア魔術学園は大陸屈指の名門校として知られていた。


 が、そもそも誰でもそんな夢の立身出世を果たせるかというと、そうではない。


 各クラスの枠の数はすでに決まっている。

 つまり、誰もが上位のクラスになれる訳ではない。



 ――だからこそ、この学園では全員が敵であり、ライバル。





 ……と聞いていたのだけれど。

 そんな中で挑んだFクラスの初授業は、平常運転だった。


 今日も朝から教室に出向き、大人しく着席をしたアンネローゼは、教室見渡してみた。

 ハンナに、ぺら男。それに、その他にも見知った顔。


 が、なんということでしょう。


 本当にラフなクラスである。

 だいたい、みんなちょっと制服を着崩している。


 一目見ただけで「あ、こいつFクラスだわ」とわかるような親切設計。

 上位クラスともなれば白い手袋をしていたり、と明らかに装いに気合が入っていたりするのだが、Fクラスではそんなこともない。


 唯一、1人だけ頑固に白手袋をして学園の正装に身を包んでいるのは、ペラ男くらいなものである。


 耳を澄ませば、今日はせっかくだしクラスのパーティでもやるか! などという威勢のいい声が聞こえてきた。


「ねぇ、ハンナ」

「どうしたの?」


 アンネローゼは思った。

 なんか緩くない?と。


「まあ、うちはFだしね」とハンナがさらっと告げた。


「上位クラスはお茶会を頻繁に開いて、すごい政治的な駆け引きとかもあるらしいよ」

「なるほど。そういえば、さっきうちもパーティやるって言ってたけど……」


 ちょっとはお茶会とか、オシャレなことに手を出すのかな?


「いや、肉焼きパーティだって」

「肉????」


 ようやく先ほどから教室が盛り上がっている理由がわかってしまった。 

 どうやら上位のクラスが笑顔で政争をしている間、このクラスでは肉を焼くらしい。


 Fクラ……それでいいのか????


 最終的に、話し合いによって、肉の準備はペラ男に一任された。

 ちなみに、こっちも食材を準備しようか?と聞いたところ、


「ふっ、まあ名門貴族の僕が、準備してあげるから君はすっこんでいるといい」とか、「アンヌちゃんは大丈夫」などと言われ、食材を準備する暇もなかった。


 ……や、一応お金くらいはあるからね??????

 第3皇子のポケットマネーだけど。


 アンネローゼが捏造した経歴が今でも尾を引いているらしい。

 やはりあまり変なことを言うものではないな、とアンネローゼは思った。


************



 そして。


「では、授業を始めましょう」という、やる気のなさそうな担任教師の声とともに授業開始。


 カリキュラムとしては、まずは座学の勉強である。

 が、これは一般教養的なアレなので、華麗にスルー。こっちもだてに王妃教育を何年も受けてはいない。


 その次に来るのが、魔術関連の授業だ。

 魔術の歴史だったり、魔術の操作する上での詠唱を学んだりする、という授業である。


 まあ要するに、長い詠唱の構成を学んだりするのである。

 マジックアローくらいの初級魔術であれば誰だって唱えられるが、エリートになると、より長く複雑な呪文を唱えたり、属性を付加した上級の魔術を学べるらしい。


 が、これは中々難しく、ちょっと苦戦してしまった。

 やはり、小さいころから魔術に慣れ親しんでいた生徒の方が多いようで、ハンナやペラ男に何とか手伝ってもらいながら、授業はめでたく終了。



 それが終わると、次は実践の授業の時間である。

 わいわいがやがや、とクラスで移動。広々とした外の競技場に出る。


「おお……!」


 こういう広大な外の空間で、授業ができるのはFクラスの唯一の強みらしい。


「いやあ、やっぱFクラスも捨てたもんじゃないよな」という声がその辺からも上がる。


 とは言え、あくまで競技場は外なので、雨が降ったら休止になる。

 ちなみにEからSSクラスは、ちゃんとそれなりの体育館があり、みんな365日練習できるようになっているとか。


 Fクラスよ。

 ……それでいいのかい?



 と、世の中の不平等に一通り思いを馳せたところで、周りを見渡す。


 広い競技場のそこらかしこから声がする。

 さすがに、みんなあーだこーだ騒ぎながらも、初級魔術であるマジックアロー位であれば、問題なく唱えられているらしい。


  少し先には的が用意されており、それに生徒がマジックアローを当てる、という形になっている。


「ふっ、今日は華麗なる僕の、華麗なるマジックアローをお見せしようかな」

「いま"華麗なる"って2回言わなかった?」 


 アンネローゼの横にいるのはペラ男。

 ペラ男はそう言って、自慢げに杖を持ち腕をまくる。


「こう見えて、僕は結構自信があるのさ」


 見ておきたまえ、とペラ男に言われたので、横で待機。

 すると、ペラ男がまるで演奏でもするかのように、腕を振り上げた。


「さあ行きたまえ! 僕の美しき」


 そう言いながら、芝居がかった口調で詠唱を唱えた。


「――《マジック・アロー》よ」


 そのまま矢は鋭く飛んでいき、先においてあった的に命中した。 

 的のど真ん中。


 周囲からも「おぉ」という感嘆の声が漏れた。

 たしかに、自己申告通り、腕はある様である。


 が、


「ねえ……」と、微妙な表情で尋ねる。


「マジックアローって、そんな詠唱付けなきゃいけなかったっけ? 『さあ、行きたまえ』とか『僕の美しき』とか」


 たしか、マジックアローに関しては、《マジック・アロー》という詠唱だけで済む、お手軽初級魔術である。そんな「美しい」とかいう詠唱は聞いたことがなかったけど――


「いや、これは僕の口上さ」

「口上?」

  

 ああ、とペラ男が爽やかに笑った。


「やっぱりほら僕は名門だからね。普通のマジックアローではいけない、というのが我が一族の家訓なんだ」

「え、じゃあ、毎回これ言うの?」

「もちろん、良かったら君も真似するといい」

 

 絶句。

 あんな恥ずかしい口上をペラペラ平然と喋れるとは……。

 やはりペラ男はペラ男である。


「……ね、ねえ」


 本人に「そんな恥ずかしいセリフよく言えるね」なんてことはさすがに言えないので、ちょっと遠くの方で練習していたハンナに小声で呼びかける。


「どうしたの?」

「ね、もしかしてペラ男の一族ってだいぶ……アレなのかな? その~~目立ちたがり屋というか」

「そうね」


 事もなげにハンナが答える。ちなみにハンナはさすがに変な口上を述べたりはしていない。

 良かった良かった。

 

 ハンナも「さあ、お見せしましょう。私の美しきマジックアローを!!」とか言い始めたら、さすがに友人関係というものを根本的に考え直さなければいけなかったかもしれない。


「フェーデルナント家はたしかに優秀な魔術師を多数輩出した名門だけど、ちょっと社交界では面倒くさがられているわ。なぜなら、一族全員あんな感じだから」


 もう一度ペラ男に視線を戻す。クルクル回りながら、呪文を唱えるペラ男。 

 うん、楽しそうだ。本人は。


 こっちの微妙な表情に気が付いたハンナが、そうよ、と無言で頷いた。 


「全員あんな感じかあ……」


 とりあえず、めちゃくちゃ疲れそうな家系だな、とアンネローゼは思った。




************




 とはいえ、こっちも負けてはいられない。


 ということで。 

 杖を構え、呪文を唱える。

 集中して詠唱。

 

「マジック……アロー……!」

 

 身体の中から、すうっと杖に魔力が集まる感覚がした。


 久々に唱えたけど、我ながら中々いい感じである。

 これであとは、真っ直ぐいい呪文に育ってくれれば……!



「おぉ……凄い魔力だね」と、横で見ていたペラ男が言った。

「なんだ。座学は苦手そうだったけど、結構君もやるじゃない――」

「あ、ごめん」


 が、一瞬にして、ぺらおの表情が固まった。


 ――ドスン、という鈍い音が響く。


 次の瞬間、アンネローゼのマジックアローがぺらおの足元に突き刺さっていた。




「……ひっ、一つ聞いてもいいかい? ま、マドモワゼル」


 ごくりと息を呑むペラ男。

 

「ん? どうしたの?」

「君さ…なんで目の前の的に当てずに、僕の足元に当ててくるんだい? もしかして、君の気分を害していたようなら謝るけど――」

「ごめん。ただ、まだ私のマジックアロー、ちょっと制御できなくて」

「は?? 今の威力で??? 制御できない?!??」


 ペラ男が見るからに顔面蒼白になっていく。

 いやいや。でも待ってほしい。こっちだって、もちろんこのままでいいとは思ってない。

 

「今、練習中。でもこっちも頑張るから」


 そう、努力あるのみ。

 こっちも、ちゃんとやる気はあるのである。やる気は。


 が、しかし。


「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ!!!!! 中止!! ま、まずいです!!! 具体的に生命の危機を感じます先生ぇ!!!」


 ペラ男は血相を変えて、先生のところに直行してしまった。



 こうして。

 ペラ男の必死に取り直しにより。


 アンネローゼが呪文を唱えるときは、他の人は距離を取った上で、すぐさま逃げれるように準備する、という謎のルールができあがってしまった。



「……ま、まじっくあろー」


 もう一回ボソッと魔術を唱える。

 が、ペラ男のおかげで、ガヤガヤと自分の後ろ側で見学者の声がするようになってしまった。


「いやあ、凄い魔力だな」とペラ男。

「魔力はね」とハンナ。

「あれでコントロールが良ければなぁ……もうあれは凶器だよ」


 くっ。

 ……そもそも聞こえてますからね? 君たち。


 が、アンネローゼが唱えたマジックアローは、


「「「あ」」」


 なぜか的には当たらず、晴天目掛けて元気よく飛び去ってしまった。




 その後、パーティの名目が「クラス会&我らがクラス長を慰める会」になってしまった。



 ……う、嬉しくない~~~~~~!!!!!!!


本日のアンネローゼ様

→「おいおいFクラス大丈夫か~~」などと思っていたが、あまりのコントロールの悪さにより、当のクラスメイト達から「人間、魔術がすべてじゃないよ」と逆に慰められる。

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