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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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5.おかしいな 皇子の期待が 重すぎる



 さらに、ハンネス先生による熱血指導は続いた。


「ほら!! もっとこう………! 手首のスナップを効かせて!!」

「ま、マジックアロー!」


「く、これもダメか。な、なら今度は思いっきり振り回してみましょう!!」

「こ、こうですか??」


「そうそんな感じのスイングで!! さあ!!! いいですね」

「ま、マジックアロ~!」


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ、こっちに来たあああ!!!!!!」




 ……うん。

 言われるままに杖を振り回していたアンネローゼは、痛感していた。


 人には向き不向きってあるよな~、と。


 自分のマジックアローが、なぜかハンネスの顔すれすれを通過しているのを見ながら、アンネローゼは内心で語りかけた。


 だから、ハンネス先生。気に病まないでください、と。


 たまにはこういう生徒もいますよ。

 うん。たぶん。


「アンヌ君!? 君、ちゃんとやってます??? 僕を狙ってないですよね????」


 ハンネスの声が聞こえてきた。


「いやー、わたくしにそう言われましても」


 ひどい言いがかりである。

 自分としては、ハンネスに感謝こそすれ、マジックアローをぶつけてやろうなんて気は毛頭ない。


「もちろんです。誠心誠意やってますよ」

「あ、真面目にやってこれなんだ……」


 ――ハンネスがポツリと漏らした本音が、非常に印象的だった。



**********



 そして。

 なんやかんやで結局、夕方になってしまった。


 アンネローゼは、ぜぇはぁ、言いながら息を整えた。

 アンネローゼのマジックアローは、最後まで訳の分からない動きをしていた。


 が、


「いいのですよ」と同じように疲労困憊と言った様子のハンネスが口を開いた。

「本当ですか?」


 ハンネスは、なぜか爽やかな顔をして、壁に背を預けている。


「自慢ではありませんが、私は結構有名でしてね。今まで、色々な生徒に魔術を教えてきました。厳しく教えれば、魔術は上達すると疑っていなかったのです」

「はあ…………」


「でもね」とハンネスが首を振った。


「今ならわかります。今までの生徒は全員、あんな異様……いえ、個性的なマジックアローを唱えたりしませんでした。全生徒に同じような教え方を矯正していた、私の教育方法は間違えていたのかもしれません」


 しかし、そういうハンネスの顔は爽やかだった。


「私も一皮むけた気がしますよ。世の中、努力とか頑張りでは、どうにもならないってこともあるんですね」

「どうにもならないこと……??」


 …………ん???


 う、うん。

 何となく違和感があるが、まあいいだろう。


「でも、私、学園でやっていけますかね?」


 俄然、不安になったアンネローゼはハンネスに問いかけた。

 大丈夫ですかね、と。


「もちろん。大切なのは結果ではなく、過程です。何より、この3時間。貴方は真っ直ぐに取り組んできました。その努力はきっと報われるでしょう」


 この学園でね、と付け加えたハンネスは、屈託のない笑みを見せていた。


「先生………!!」

「君と授業で会えることを楽しみにしています」


 アンネローゼはハンネスの手をひしっと握った。



**********


 


「あ、先生。ちなみに、私のクラスはどうなるのでしょうか?」

「あぁ、それはもちろんFです」


 んん?


「ど、どうしてでしょうか??」


 おかしくない?? とアンネローゼは思った。


 いやだって、こんな感動的な雰囲気になったのに……。

 なんかすごい青春、みたいな…………。


 が、先ほどまで心を通わせた、と思っていたハンネスは、首を振りながら答えてくれた。

 

「アンヌ君」

「はい」

「周りを見渡してごらん」


 無言で見渡してみる。

 そのうえで感想を口にする。 


「………随分と模様替えしましたね」




 なんということでしょう。

 あれほど清潔感があった試験会場はひどいことになっていた。


 床はボロボロ。

 至る所に穴が開いている。


 そうだ、とアンネローゼは思い出していた。


 確かに、ハンネスは言っていた。

 威力は十分だ、と。


 そんな威力だけは一丁前で、コントロールがとんでもなく悪い魔術を連発していたらどうなるだろうか。


 結果、アンネローゼの目の前には、惨状が出来上がっていた。


「ア、アハハ……な、なにか手伝います??」


 冷や汗を垂らしながら尋ねる。


「大丈夫です」

 ハンネスが真っ白な顔で首をふった。


「もうこれ以上何もしないでください。私が始末書を書けばいいだけですから」


 ハハハ、というハンネスさんの乾いた笑いが響く。

 

「「……………………」」


 ちなみに、威力だけはあるから、くれぐれも人がいるところで呪文を唱えるな、と口酸っぱく言われた。

 解せぬ。



*********



 さらにちなみに、試験を終えたアンネローゼがゲオルグに、「Fクラスだったのですが………」と申し訳なさそうに報告したところ、


 ゲオルグは「気にすることはないよ」と言って爽やかに笑ってくれた。


「誰でも最初はそうさ。一歩一歩頑張ればいいんだよ」という優しいトーンで仰る皇子。

「ゲッ……じゃなくて、ルーク君……!」


 偽名を呼びながら、アンネローゼは己を恥じた。


 今まで散々、内心で無礼なことを言ってしまった。

 事実無根なのに。


 まあ、事実無根も何も、そんなことをゲオルグに対して言っているのはアンネローゼくらいであったが、ともかくアンネローゼは反省した。


「僕だって試験では失敗したしね」

「えっ、そうなのですか?」


 新情報だ。

 興味が出てきたアンネローゼは、


「どんな感じだったんですか?」と尋ねてみた。


「あぁ、僕も同じような試験内容だったけど、だいぶ苦労したよ」


 恥ずかしそうに、はにかむゲオルグに思わずアンネローゼも笑みが漏れる。

 

「ですよね! 難しかったですよね……!」


 あぁ、良かった。

 きっとゲオルグも、最初は失敗ばかりだったに違いない。そこから一歩一歩努力に努力を重ねたのだ。


 アンネローゼの心に希望がともった――


「僕はたまたま魔力量が多かったから、20本のマジックアローを同時に的に当てるっていう試験だったんだけどね」

「へぇー、20本ですか」


 そうか、20本か。


「そうそう、20本。特別にね」

「…………んん??」

 

 いや、ちょっと待ってほしい。

 「魔力量が多い」とハンネスさんにお墨付きをもらったアンネローゼでも、同時に打つのは1本だけしかできなかったのである。


 それが20本同時………???



「ニ、ニジュッポン……????」

「ああ、そうだよ。しかも、そのうちの1本が的の中心部から少しずれちゃってね」

「………………」


 絶句。

 あれにはだいぶ落ち込んだな~、と恥ずかしそうに笑うゲオルグを、アンネローゼはドン引きした表情で見つめた。


「僕もなるべく、手伝うよ」

 

 目の前で穏やかにゲオルグが言った。


 自然体のゲオルグ。

 そのさわやかな笑顔は、まさしく王子様然としていて、どんな女性でもうっとりするほどの魅力を見せていた。


 が、しかし。

 アンネローゼには、その魅力的な笑顔が、もはや死刑宣告にしか見えなかった。

 なぜなら、自分のマジックアローは並大抵のマジックアローではないからである。


「アハハ……」


 もはや、乾いた笑いしか出てこない。


「アンヌ。君はいつでも、僕の予想を超えてきたからね。今から君の成長が楽しみだよ」


 キラキラと。

 少年のように輝くゲオルグの瞳。


「……が、頑張りますよ………あは」


 皇子の期待が重い………!!! 

 重すぎる…………!!!




 その後。

「学園を案内するよ」とゲオルグが言ってくれ、色々案内してくれたが、アンネローゼの耳にはほとんど情報が入ってこなかった。


 皇子の底知れない才能と、自分に対する期待の重さにシンプルにドン引きしながら、アンネローゼは思った。



 ――私の学園生活、本当に大丈夫かな、と。

本日のアンネローゼ様

→あまりにセンスの無さにより、1人の教師の教育方針を根底から変えてしまう。

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