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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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4.お気楽令嬢とマジックアロー



 えぇ~、非常に気まずい。


 真っ直ぐ進むはずの初心者御用達魔術を、ものすごい角度に曲げてしまった。

 そして試験官を絶句に追い込んでしまったアンネローゼは、試験会場の中央でハンネスを待っていた。


 ハンネス先生は、自分を指導してくれるらしい。

 思ったよりもいい人だった。

 ちゃんと評価を上方修正しておく。


 ごめんなさい。最初口が悪いとか余計なことを言って……。




「まず、杖が合っていない場合もありますね」


 まったくもう試験最後に、とぶつぶつ不満を言いながら、山ほど杖を持ってきたハンネスが、アンネローゼの前に現れた。

 目の前には、どさっと置かれる数々の杖。


「なんですかこれ??」

「試験用の杖ですよ」


 そう言ったハンネスは若干、体力的に辛かったのか、息を整えている。


「はぁ……倉庫から、ありったけ持ってきました。ともかく、これでマジックアローを試してみましょう。私の経験上、これでほとんどの生徒のマジックアローの軌道は修正できます」 

「おぉ……!」


 思わずアンネローゼも手を叩いた。

 目の前のハンネスからは、もの凄い自信を感じる。


 ハンネスの熱い視線とアンネローゼの視線がぶつかった。 


 ――やれますね???


 ハンネスの視線は明らかに、そう語っていた。


 やるしかない。

 アンネローゼも、「はい!!!」と力強く、頷き返した。



**********



 が、しかし。

 冷静に考えれば、世の中やる気でだけでことが進むほど人生簡単ではなかった。

 そもそも、やる気で夢が叶うならアンネローゼはとっくにスローライフしている予定だったし……。


 アンネローゼのマジックアローの、へその曲がりっぷりは一級品であった。


 どの杖を使っても、相変わらず、右方向に曲がったり、左方向に曲がったり。そのたびにハンネスは絶望的な顔を披露していた。




(いや、ちょっとこれは………)


 無理なんじゃないかな、と早くもアンネローゼが諦め始めたのは、20本目の杖を使い切ってからだった。

 結局、全ての杖で、真っ直ぐ飛ばないマジックアローが確認されてしまった。 


「いや~ちょっとこれは、だ、ダメそうですね………」と口に出してみる。


 いやもう完全に素人のアンネローゼから見ても、絶望的だな、と思わずにはいられない。

 だって、ねえ……。


 アンネローゼは、ハンネスを見た。


 あれほど、「僕が君に魔術の神髄を教えてあげましょう」とか、


「本来の美しいマジックアローを取り戻して差し上げましょう」とか言いまくって意気込んでいたハンネスさんは、見事、床で崩れ落ちていた。




「こ、これはおかしい……、なんで……僕の築き上げてきた魔術理論が通用しないなんて。これは現実か??」  


 おい。

 アンネローゼはひたすら微妙な表情でそれを見つめた。


 おかしい。

 なんで自分が初歩の魔術を真っ直ぐ飛ばせないだけで、1人の教師が精神崩壊を始めているのか。

 

「それとも、このどうしようもない生徒は高度な幻覚魔術の使い手で、僕は化かされているのか?????? ものすごい地味な女子生徒だが、実は皇子と付き合っているとか…………??」


 そして、若干当たらずとも遠からずなのが怖い。


 まあそんなはずがありませんね、と一息つくハンネス。


「まだ道はあります。呪文の発音が悪いのかもしれません」

「呪文の……?」

「さあ、もっと滑らかに発音を!!!」


 目の前で指揮者のように、発音の指導をするハンネスに促され、アンネローゼは、なるべく舌を巻くことを意識し、なるべくエレガンスに発音した。


「マズィック・アロゥ~~~~」


 美しく、光出す杖先。

 そして、アンネローゼが目にしたのは――


 びゅん。

 風を切り裂くようにして、アンネローゼのマジックアローは飛んで行った。


「………………」


 天井、目掛けて。


「ああああああ、なんで途中から、真上に曲がるんだあああああ!!!!!!」


 またしても、のたうち回るハンネス先生。




 が、しかし、徐々に耐性がついてきたのだろうか。 

 次の瞬間、ハンネスさんは、ふっふっふ、と飛び起きた。


「で、でしたら、次は、もっと元気よく言ってみましょうか」 

「げ、元気に………??」


 そもそも魔術って、そんな気合で攻略できるシロモノなのだろうか??


「先生、それって効果あるのでしょうか……?」

「こういうのはやってみなければ始まりません!!!」


 絶対もう破れかぶれだな、と思ったが、言われるがままに、アンネローゼはとりあえず呪文を唱えた。


「は、はい。ええっと」


 腹の底から、声を出すようにして……!!


「マジック!!!!!! アロォォォォォォォー!!!!!!」と雄たけびを上げる。


 再び光出す杖先。

 そして――





「ああああああ、なんで真下に沈むんだあああああ!!!!!!」


 再びのたうち回るハンネスさん。


 先ほどから、ハンネス先生の体力の消費具合が凄いことになっている。

 本当に大丈夫だろうか。こっちも心配になってきた。


「お、おかしい。僕の培ってきた教育理論が………魔術教育が………」


 ふらふらとハンネスが立ち上がる。


「だ、大丈夫でしょうか?」


 ハンネスさんの服は最初、きっちりとしていたが、今では見る影もない。


「だ、大丈夫です。僕は、魔術教育が専門ですから」

 

 そ、そうだ!! とハンネスさんが頬を引きつらせながら、手を叩いた。


「こうしましょう! 杖の振り方ですよ!!」

「えぇ………………」


 本当かな? とアンネローゼは思わずに居られなかった。

 こっちだってずぶの素人だが、そんな素人から見ても、杖の振り方で曲がる方向が変わるとは思えない。


 だって、ブーメランとかじゃあるまいし…………。


 先生、限界じゃないですか??? と言いたくなってきた。

 もう、こっちとしては、魔術教育の限界を認めてほしい気持ちでいっぱいだ。


「いやいや、本来、杖は対象物に向けるのが一般的です。が、アンネ君。貴女の場合、そもそもの軌道が気色悪いのですよ」

「きしょく悪い………??」


 なんだかちょいちょい不穏なワードがあったが、華麗にスルー。


「ですから、最初から杖を振り回せば、軌道が気持ち悪くてもいい感じに中和できるのではないか、と言う予測です」

「それで成功しますかね?」


 こちらも不安だったが、ハンネスはかちゃりと眼鏡を持ち上げた。


「私を信じなさい。数々の劣等生を指導してきた、この魔術教育の専門家――ハンネスの手腕を見せて差し上げましょう」



 ………劣等生言うんじゃない。


 とりあえずアンネローゼは思った。


本日のアンネローゼ様

→初級呪文にてこずる

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