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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第4章 お気楽令嬢は、学院生活にほくそ笑む
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3.お気楽令嬢と最年少試験官


 ――おかしい。

 ゲオルグは「君なら絶対いいクラスだよ」みたいなことを言っていたのに……。



「では、Fクラスで頑張ってください」


 んん??


「よし、今日、試験を受ける生徒はこれで終わりかな」と、なぜか引きつったままの笑顔で言う試験官。

「いやいやいやいやいや」


 ちょっと待ってほしい。

 アンネローゼは、試験会場を去ろうと準備を始めた試験官に、たまらず尋ねた。


「あの~すみません。なぜでしょうか??」

「『なぜ?』か………」


 試験官は、言いにくそうに顔を歪めた。


「それはもちろん、君が実技試験で最低ランクだったからですよ」

「そうなんですか? 一応ちゃんとやってつもりなのですが」

「はぁ……まったく。君は、納得していないらしいね」

「えぇ、まあ」


 アンネローゼだって、しっかりと試験を終えたのだ。

 それにもちろん、アンネローゼの脳内では、ゲオルグの「君に才能はあるよ」発言が、延々とリフレインされていた。


 仕方ない、と試験官がため息をついた。


「じゃあ、もう一回魔術を見せてもらえるかな?」



*********



 試験官に急かされ、アンネローゼは杖を手に取った。


 この杖は、試験用の杖である。 

 本来、魔術をできる人間は誰でも、「マイ杖」持っているそうだが、素人アンネローゼにはそんなものがない。


 ところが、魔術の名門校。

 時たま、そう言う「魔術なんて今までやったことなかったんですが、来ちゃいました☆」みたいな一般学生のために、試験用の杖も貸してくれるのである。


「ふぅ……」


 と言うわけで、アンネローゼは杖を手に、少し先にある的に狙いを定めた。

 落ち着いて深呼吸をし、ゆっくりと息を吐く。


「試験内容は極めて簡単です。こちらで指定した魔術を唱え、的に当てればいいだけ」


 少し離れたところから試験官が声をかけてきた。


 試験の内容はシンプルなものだった。

 自前でも貸してもらったやつでも何でもいいので、杖を持ち、魔術を唱える。


 唱える魔術は、一番簡単な《マジック・アロー/魔術の矢》と言う呪文である。


「いいですか、マジック・アローは非常に簡単な基礎魔術です。だいたいの人間は、魔術を始めるときにこれを習います」


 試験官が頬を引きつらせながら言った。 


 どうしたんだろう、とアンネローゼは思った。

 さっきからこの人、何かに怯えているような…………?


「魔力の矢が真っ直ぐに飛ぶ、というごくシンプルな魔術です。さあ、もう一度やってみてください」


 試験官に急かされた。

 まあいいや。疑問はさておき、おもいっきりやるしかない。


「行きます………!!」


 いや、この自分がFクラスなわけがない、という自信を胸にアンネローゼは大きい声で元気よく返事をした。


「《マジック・アロー/魔術の矢》」


 そう言って、力を込めて杖を振り回し、呪文を唱える。



 ――そこから先は、不思議な光景だった。

 紫色の矢がゆっくりと生成される。


「おぉ……」


 すごい。

 アンネローゼは思わず息を呑んだ。

 

 そして、杖の先から発生した紫色の矢は、飛んで行った。




 ――めちゃくちゃ曲がりながら、である。


 そして着弾。

 ドンッ! という爆音。


「…………」


 アンネローゼが無言で向こう側を見ると、アンネローゼの先にあった的から、2、3個離れた別の的が見事に壊れていた。

 ……うん。


「あの~どうでしょうか」


「違ううううううううううう!!!!!!!」

「えっ」


 振り向いたアンネローゼの目の前には、先ほどまでクールな感じで見守っていた試験官がみっともなく転がっていた。


 おかしい。

 眼鏡をかけ、あたかも冷静沈着な感じの試験官が力の限り叫んでいる。


「えぇ……」

「絶対におかしいですよ!!!! なんで、貴女のマジックアローは!! 途中で曲がるんですか!!!!!」


 そう言いながら、試験官は地面をのたうち回っている。例えるなら、お菓子を買ってもらえない駄々っ子のような……。


「あ、あの~、魔術は成功したんですよね??」とアンネローゼは恐る恐る聞いてみた。

「え、えぇ………。成功は成功ですよ」


 よろよろと立ち上がる試験官。


 眼鏡を直す彼は、割と絶望的な顔をしていた。

 が、すぐにぶつぶつと何事かつぶやき始めた。


「だけど、わ、わからない………。真っ直ぐ飛ぶのが売りのマジックアローが、なんでこんなキモい挙動に………」


 おい。

 こいつ人の魔術にキモいって言ったぞ、今。


「いやでも、一応今日、初めて魔術を試してみたんですけど………」

 

 アンネローゼは一応、反論を試みた。

 個人的には、結構うまくいったと思ったのだが……。大目に見てほしい。


「今日初めてでマジックアローに成功?? だとすると、才能自体はあるのか?? いやでも、それにしてもこんなキモい挙動のマジックアローは初めて見た………」


 ぶつぶつと独り言を言う試験官さん。

 なんかものすごい失礼なことを言われいるような気がしたが、「なるほど」とアンネローゼも次第に理解し始めた。


 本来、マジック・アローは、真っ直ぐ飛ぶのが普通だそうだ。

 呪文を唱えるなり、別の的を目掛けてすっ飛んで行ったアンネローゼのマジック・アローは、だいぶおかしいらしい。


「い、いえ!」


 ところが、悩んでいた彼は気を取り直したようだった。 

 銀縁の眼鏡をくいっと持ち上げる。

 

「初めてでこれ、と言うのであれば、ちょっと変な癖がついているだけでしょう。的を壊した、という点から見ても威力は十分です」


「ということは?」

「えぇっと、アンヌ君でしたっけね。君の魔術は確かに才能があります」

「ほ、本当ですか!?」


 えぇ、と微笑む試験官さん。


「君は素材は一級品です。ただ、魔力はいいものを持っていても、魔力の制御がドヘタ、と言うだけなのです」

「なるほど……?」


 こっちの微妙な理解力を察してか、試験官さんは助け舟を出してくれた。


「例えるなら、最高級の素材がド下手な調理人によって最低の料理になっている、といった状況でしょう」


 ………やっぱこの人めちゃくちゃ失礼では???


 アンネローゼは、魔術学院の言葉遣いが若干心配になった。



*********



 が、しかし。

 試験官の人は口は悪くとも、性格はそれほど悪くなかったようだ。


 やれやれですね、と言いながらこちらの方に近づいてきた。


「まあいいでしょう。幸い、今日の試験は貴女で最後です。今日は時間があります」


 そう言うと、くいっと眼鏡を上げる試験官。


「い、いいのですか??」

「今からできる限り、あなたのマジックアローを修正させてあげましょう。この、最年少試験官、ハンネスの名において」


 そして、強烈などや顔と共に、眼鏡をクイっとさせるハンネスさん。


 ちょっと格好つけすぎじゃない?? メガネクイっとさせすぎじゃない??? とも思うが、もう関係ない。

 アンネローゼは全力で乗っかることにした。


「ありがとうございます!!! さすがハンネスさん!!」

「えぇ、私に着いてきなさい」


 す、すごい。

 ものすごい、期待できそうである。


 そう。

 よくよく見れば、彼は教えるのが上手そうな顔をしている。


 そうだ、自分がFクラスなんて何かの間違い…………!!



 ――こうして、アンネローゼと試験官ハンネスによる、『マジックアロー改造計画』が幕を開けた。

本日のアンネローゼ様

→魔力はあるが制御がド下手。つまり、歩く凶器

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