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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第3章 お気楽令嬢は、入学準備にほくそ笑む
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10.お気楽令嬢は、なんで????と疑問を持つ。



 アンネローゼによる突撃☆第3皇子ゲオルグのお宅訪問!から約一週間がたった。

 


 雑踏ひしめく皇都ランゴバルディアの中心部。

 そこにアンネローゼは仁王立ちしていた。



 皇都から魔術学院までは、最新の魔術が応用された列車が走っていて一種の名物になっていると聞く。

 何でも、この列車のおかげでラヴォワの魔術学院には、その広大な領土のそこかしこから優秀な人材がこぞって集まるらしい。


 そうだ。

 自分は今からスローライフを極めるために、魔術という新技術を得るのだ。


 もしかしたら自分に、あり得ないくらい魔術の才能があって、学院に入学した瞬間、魔術師としての才能が爆発しちゃうんじゃないの???という予感が全身に広がる。


(いけるんじゃない??)


 どうしようもないほど自分に甘いアンネローゼは、顔を隠すために深くかぶった帽子の奥で、ほくそ笑んだ。

 計2か月間くらいゲオルグの屋敷に安住し、それなりに居心地のいいゴロゴロ生活を満喫していたが、そんな日々も終わり。


 

 そう、自分は旅立つのである――







 と、そんな感じで珍しく真面目な顔をしたアンネローゼに、声がかけられた。


「アンネローゼ様、ちゃんと荷物は充分ですか? 必要なものは足りていますよね?? 

 鍬を持ち込もうとするとか目立つ奇行は自制してくださいね」


 とテオドールが言うと、


「そうですよ、お嬢様。あと、お嬢様の正義感は重々わかっていますから、危険なことに首を突っ込まないでくださいね」


 とリタも口をはさむ。


「………………」


 絶句。


(私はいったい何をしでかす危険人物だと思われているんだろうか……)


 アンネローゼは、ほとほと心配になった。

 第一、自分の名誉のために言わせてもらうと、鍬を持ち込もうとしたのではない。


 学院にだって、多少園芸道具くらいはあるだろう。

 鍬なんて、そんな重いものを持ち込もうとするわけがないじゃないか。


 アンネローゼが持ち込もうとしたのは、少々臭いが強めの肥料だけである。

 そこのところは、勘違いしないでほしい。


 と言い返したところ、2人は「「あぁ、ダメそう……」」と声を揃えてくれた。


 最初のころ反目しあっていた2人がここまで息ぴったりになるとは……。なんともうれしい限りだが、何となく不名誉な気もしない事もない。


 う~ん、部下の管理って難しい。

 アンネローゼはつくづくそう感じた。




*****



「で、そもそも、ここからはどういう手順で行くの?」

「そうですね。殿下からは指定された場所はここですが……」


 所変わって、アンネローゼは大通りから少し離れた裏路地に入った場所で待っていた。

 入り組んだ路地は薄暗く、人気が無い。


「たしか、殿下が人をよこしてくれるんだっけ??」


「と言っていましたけどね」


 テオドールが困惑したような顔で続ける。


「そもそも、色々よくわからないことだらけなんですよね」

「何が~?」 


 アンネローゼは、事前にゲオルグから送ってもらった魔術学院のパンフレットを、パラパラめくっていた。

 表紙には「これで君も魔術師だ!」という勇ましい文句が踊る。


 なんと、魔術学院には最上級、つまり将来を約束された人間のみが入れるというSSクラスから、最底辺のFクラスまでが存在するらしい。

 とはいえ、最底辺のクラスでも充分な補助があるらしく、「みんな楽しくやっています!」という似顔絵入りで掲載されている。

 

 いいじゃない。

 実に、アンネローゼの好みである。


「表紙には、そんな陽気なことが書いてありますけどね……あまり真に受けないほうがいいですよ。実際、魔術学院は国中から選ばれたエリートの激戦区ですからね」とテオドールが首を振った。


 どうやらテオドール君は、このパンフレットに異議があるらしい。


「アンネローゼ様が何の後ろ盾もなくてやっていけるのか……正直不安です」

「まあ、それもゲオルグに頼まれた人が説明してくれるんじゃないの?」


 あのゲオルグのおすすめしてくれる人なら、たぶん外れはない気がする。


「どなたが来るんでしょうかねぇ」とリタがのんびりつぶやいた。 


 そんなふうにして時間を潰していると。

 

「お待たせ、アンネローゼ」と落ち着いたトーンで、どっかでよく聞いた男の声が聞こえた。


 まるでゲオルグみたいな声である。


「……ん?」


 違和感を覚えた。


 ゲオルグ?????


「……」


 ゆっくりゆっくり首を回し、声の発する方向を見る。

 横を見れば、すぐ近くにいたフードを被っていた人物が、さっとフードを下ろす。


「さて、そろそろ汽車が発車する時刻だね。

 遅れてはまずい。早く行こうか」


 うん、キラキラに煌めく外見。

 彼がいるだけで、路地裏が一気に明るさを増したような気がする。


 そっくりさんとかではない。

 間違いなく本人である。


「え、ホンモノ???????」

「あぁ、特に偽物とかではないよ」


 目の前のイケメンは呆気にとられたアンネローゼを置き去りにして、いけしゃあしゃあと答える。

 アンネローゼは目を白黒させた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。なんでここにいるんですか!?」


 シンプルに意味が分からない。

 いやいや、おかしい。


「え、だって、殿下って……そもそも、去年卒業してません??? しかも首席かなんかで」



 わけがわからないよ……とアンネローゼは思った。


 そう。

 アンネローゼの知識によれば、殿下は、もうすでに去年、学院の代表として輝かしい成績を収めて卒業したはずである。

 そこに所属すれば将来のエリート街道が開けるという生徒会の会長を歴任した、と聞いている。


 つまり、わざわざ学院に行く必要がない。


「卒業?

 あぁ、それなら大丈夫。なぜなら今の僕は、第3皇子ゲオルグじゃないからね」


「はい???」


 ぽけ~とゲオルグを見つめる。


 ついに激務の末に頭がおかしくなってしまったのだろうか、とアンネローゼは不安を覚えた。

 一応、仮とは言えアンネローゼの婚約者である。


 今度からもうちょっと優しく接してあげようかな、とか、ストレスの解消のための遠足にでも連れて行ってあげようかな、とアンネローゼが可哀そうな目で殿下を慰めてあげようかとした瞬間。

 

「この姿になるのは、久しぶりか」


 ゲオルグが、そうこぼした。


 同時に。


 ぬるり、と。

 まるで透明のヴェールをまとったように、目の前にいたゲオルグが顔が徐々に変わっていく。

 

「へ?????」


 我ながら、間抜け面を晒している気がするが、そんなの問題じゃない。

 

「何がどうなって――」

「うん。術式も問題なく動いているね」


 すると。

 一瞬の後に。


 目の前にいた金髪碧眼のイケメンは、見事にこれといった特徴がない、茶髪茶眼の平凡な男に変わっていた。


 眼をこする。

 が、見間違えではなかったらしい。


「え。で、殿下です……よね???」


「殿下?? 誰のことだい???

 僕の名前はルークだけど」


 そういうゲオルグ――いや、本人曰くルークは、さあ? 誰の事ですか? みたいなジェスチャーをしてる。


「僕はかの高名な第3皇子ゲオルグではなく、しがない男爵令息のルークだ。

 今日から魔術学院か、楽しみだなあ~」


 見事な棒読み演技である。

 どうやら、変装をしたルークさんことゲオルグは、このまま白を切るつもりらしい。


「いや、本当にしがない人間は、自分から『しがない』とか言わないんと思うんですけど……」


「まあそんなことより、手を見せてくれる?」


「手ですか? どうぞ……??」と差し出す。

 

「うん。ちゃんと指輪はしてくれているみたいだね」


「まあ、はい。一応」


 と言っても、アンネローゼの場合、何か自分の身に危険があったら、


「これは、あの第3皇子ゲオルグ様からもらった指輪よ! とりあえず、お、恐れおののきなさい!!」


 と言って、ゲオルグの威光を利用する気満々で装着していたのだが……。


「失礼するよ」


 ゲオルグが、ふいにアンネローゼの手を取った。


 あれ、意外と手がおっきい。

 そう思えば、こんな風に手を握られるのは初めてかも――


 ってそうじゃない!!!


「ちょ、ちょ、ちょ、どういうことですか?」


 後ずさりするアンネローゼに向かって、それはそれはいい笑顔でゲオルグが言った。


「大丈夫だよ、アンネローゼ。術式は正常に作動した」 

「術式って言われても……」


 ねぇ、とリタとテオドールに声をかけてみるが、2人から反応が帰ってこない。


 だが、すぐさまリタが正気を取り戻し、バッと手鏡を見せてくる。

 すると、鏡の中には、帽子を深くかぶった眼が黒いの女性が――


 ん?? 

 黒目?????


 おかしい、アンネローゼのチャームポイントの目立つ色の眼がすっかり黒くなってしまっている。



「元々ただの指輪じゃなくて、変装用の魔術が刻印された指輪なのさ。

 というわけで、今日から君は、アンネローゼではなくアンヌだ」


 さらりと、楽しそうにそう告げるルークさん。


 ここまで来たら、アンネローゼも理解した。


 なるほど。


 殿下は、2人揃って外見を変えて、名前を変えて学院に乗り込むつもりのようだ。


 これは、アカンやつである、とアンネローゼは直感で感じた。

 面倒事の臭いがする。というか面倒事の臭いしかしない。


「あの~殿下……」


「今はルークだよ」


 すげなく訂正された。

 

「あの~ルーク……いったい何をしようとしているんですか?」


「前に、『厄介事がある』って言ったね」


 アンネローゼは記憶を辿った。

 一週間前に屋敷を訪れたとき、ゲオルグが深刻そうな顔でそんな感じのことを言っていたのを地味に覚えている。


「覚えてますけど。でも、それがどうかしたんですか?」

 

「『1人じゃダメでも2人なら』」と、ゆっくりとつぶやいたゲオルグが、目を閉じる。


「……!?」


 なんかどこかで自分が偉そうに名言ぶって、言った覚えのあるフレーズがゲオルグの口から飛び出す。


「君の言葉で、自分の愚かさに気が付いたよ。何でも1人で抱え込もうとしていた。それは――僕の弱さかもしれない」

 

 んん???


「僕の厄介事はズバリ、学院内で起きていることだ」


(あっ、私の不用意な名言のせいでやる気出てるんだ)


 ここに来て、アンネローゼは問題の本質をやっと理解した。


「す、すみません。ルークさん! 私ちょっとお腹の調子が急に――」


 このまま話を聞いていると、何となくまずい気がしたアンネローゼは、脱兎のごとく駆け出そうとするが――


「アンヌ。君の力が必要だ。君のその頭脳を貸してほしい」

 

 ゲオルグが力強く宣言した。


「僕と君で、()()()()()()()()()()()()()


 そう言い切ったゲオルグ殿下、もといルークの眼は、薄暗い路地裏の中にも関わらず、覚悟と闘志で強い光を放っていた。






 が。一言だけ言わせてほしい。


 うん、なんで????

本日のアンネローゼ様

→この前ドヤ顔で「2人で協力すればできますわ」的な発言したせいで、己の首を絞めてしまう

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