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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第3章 お気楽令嬢は、入学準備にほくそ笑む
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3.お気楽令嬢は、ギャップを見せつける


 翌朝。

 アンネローゼは、巨大なドレッサーの前に座らせられていた。


「さあ、アンネローゼ。お覚悟を……お願いいたします」


 そう――アンネローゼの後ろに立つリタが口にした。

 その眼からは、並々ならぬ意思が伝わってくる。


 凄い、とアンネローゼは純粋に思った。

 今まで見た中で、一番真剣な眼付きをしている。


 いや、でもさ。


「あの本当に……大丈夫だからね?? ただの外出だよ?」


 アンネローゼは、そんなリタに若干引きながら言った。


「全然そんなに本格的にやらなくて。ほら、こう……パパっとでいいのよ!」と反論してみる。


 というか、そもそも呼ばれたから行くってだけの話である。

 何もそんなに気合を入れなくたって、と思うのだが、リタは違うようだった。


「いえ。このリタ――今日は命を懸けて、アンネローゼ様の身支度をさせていただきます!」


「そ、そんなに?」

 

「ええ。もし、私の身支度が気に入らなかったら……」


 そこでリタが一瞬黙りこんだ。

 それから、覚悟を決めたように再び顔を上げる。

 

「この身を煮るなり焼くなりしていただいて、結構です」

「……」


 凛とした表情で、リタが言うが、完全に言っていることがおかしい。

 戦場に赴く戦士か何かかな???

  

 ま、まあ、いいか。

 どうせ、少々黙って座っておけば何とかなるのだ。


「じゃあ、よろしくね」と言いながら手を振る。


「手短にお願い」


「はい、お任せを! あの殿下にも並び立てるくらいの素敵なレディーにして見せますわ!!」


 よし、なるほど。

 アンネローゼは思った。


 取りあえず、言いたいことはいっぱいあったが、この短いやり取りで1つだけ分かったことがある。


(この子、話全然聞いてないな)


 ポカンと死んだ目をするアンネローゼを置き去りにして、リタが櫛を手に取った。


「私はきっと今日この日のために生まれたんだと、そう思います」

「…………」


 うん。

 たぶん、それは違うと思います。



*****




「おいおい、時間大丈夫かよ」


 テオドールは屋敷の正門前で、焦り始めていた。

 正門前には、珍しく外に出ていこうとするアンネローゼを見送るために、他の使用人も集まっていた。


「これ、そろそろ行かないとまずいだろ」


 時間がない。

 テオドールは我慢しきれず、そわそわしていた。


(今から屋敷に踏み込むか? いやでも立ち入るな、と言われているしな)


「焦ってばかりじゃいかんぞ。まだまだ青いな、小僧」


 不意に声がかけられ、テオドールは嫌々返事をした。


「あ~うるっさいぞ、じじい!!」

 

 テオドールの横で余裕綽々と言った様子でのんびりしているのは、屋敷を仕切る執事のアンディである。

 

「やはり従者というのは、主人が来るのをどっしりと待ち構えてなくてはな」


「チッ……! よく言うよ」


 テオドールは舌打ちをした。


 アンディがアンネローゼを甘やかしていることは、屋敷の誰だって知っている。 

 とどのつまりが、このジジイはアンネローゼの晴れ姿を見たいだけなのだ。


「御者や馬車を準備してるのは、俺なんだけどねえ……」

「はぁ!? よく聞こえんなあ~」

「この狸がッ……」


 いやもう、こんなジジイにかまっている場合ではない。

 そう思ったテオドールは、さすがにアンネローゼを呼びに行こうとした――が、


 カラン、と音が鳴った。


 それは扉が開く音。



 そして、中から出てきた人物を見た瞬間。


「……なッ!」


 その場にいた人間は、テオドールも含めて、絶句した。


 なぜなら、中から出てきて化粧やら何やらを本気で施されたアンネローゼの様子が一変していたからであった――


 複雑に編み込まれた髪。その髪には、髪飾りが。

 そして、ドレスの色は、アンネローゼ本人の瞳の色を際立たせる色合い。しかも、よくよく見れば、本人の瞳の色と似たような色の刺繍が入っていた。



「お、おお…………」


 その場を静寂が包み込む。

 アンネローゼの本気――というより、主にリタの本気に、その場にいる誰もが呆然としていた。


 もちろん、ここまでアンネローゼが美しくなっているのには理由があった。


 まず、アンネローゼはここラヴォワに来てからというもの、基本的にとんでもなく健康的な生活を送っていた。

 普通、アンネローゼくらいの年になると、それなりに夜遊びを覚えたり、社交界に出るなどして生活が乱れがちになるものである。


 しかし、アンネローゼは早寝早起きを心掛け、畑を耕し、スローライフに関する書物を読んでスローライフを妄想するなど、意図せずしてノンストレスな生活を送っていた。


 血色もよく、化粧のノリもいい。

 そして、そんな土壌に、さらにリタの命を懸けた(本人申告)化粧が加わった。


 その結果、アンネローゼの顔面戦闘力(びぼう)は飛躍的に向上した、というわけである。


 そもそも普段から野良着を着ていたり、本人も割とフランクだったりと、どこか色気的なものを感じさせるような女性ではなかった。

 そのため普段のどこか適当な感じと、現在の完成されたバージョンが圧倒的なギャップとなって、屋敷の使用人たちに襲い掛かったのである。




 誰も何も言えない。先ほどまで時間を気にしていたテオドールでさえも。



 しかし、一番早く立ち直ったのは、テオドールだった。

 自分も顔面が偏差値高い側であったため、それなりに美貌に対して対抗できたテオドールは気を取り直すと、


「じゃあアンネローゼ様の準備もできたようだし、俺たち行きますから」と一応上司であるアンディに呼びかけた。


「…………」

「おいジジイ」


 応答がない。不思議に思ったテオドールは、横にいた執事を小突いた。


「……は、……」

「はぁ?」

 

 ついにボケが来たのか。

 そう思ったテオドールがもっと強めに小突いてみるが、何やらまだアンディはむにゃむにゃ言っている。


「美しい……!」


 何がどうしたんだよ、とテオドールが聞き返そうとしたとき――



 老執事――その実力を見込まれ、かつては皇子ゲオルグの家庭教師も務めあげた戦士は、大声を上げた。


「誰かッ!!! アンネローゼ様の晴れ姿を……!!!」

「いやだから時間が……」 

「うるさい小僧!! お嬢さまをッ!!! いと美しきこのお姿を描いて、屋敷に飾らねばぁぁぁぁぁ!!!!!」




 アンディ。

 その実力を買われ、単なる荒くれ者から皇子の家庭教師にまで上り詰めた男の威圧感はすさまじく、その昔、街中で襲ってきた賊数人を一喝しただけで気絶させた、という。

 

 もちろん、近年ではそんな気力も衰え、執事として隠居生活に入っていたのだが。


「お嬢様!!! バンザイィィィィィィィィィィィィ!!!」




 アンディが崩れ落ちるのと同時に、拍手をしたり涙ぐむ他の使用人たち。


 1人、たった1人だけぎりぎり正気を保てていたテオドールは目を白黒させているアンネローゼに向き直った。


「じゃあ……行きましょうか。アンネローゼ様」

「そ、そうね」


 

 ただ、テオドールは思った。


「この屋敷、大丈夫か??」



 ――くしくもアンネローゼとテオドールの感覚が一致した瞬間だった。


アンネローゼ

→素材は悪くないので着飾るといい感じになる


テオドール

→まだ感性はまとも寄りだった。


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