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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第2章 お気楽令嬢は、居候生活にほくそ笑む
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23.生意気従者は、経緯を語る



「アンネローゼ様はご無事なのでしょうか?」

 テオドールは、逸る気持ちを抑えながら尋ねた。


「大丈夫だ。本人は多少顔が赤かったが、おそらく疲れがたまっていたのだろうね。それはそうだ。あの裏市に、たった1人で行くなど……」


 それに感心した答えるのはゲオルグ。


 ほぼほぼこの男のせいでアンネローゼは顔を真っ赤にしていたのだが、ゲオルグは自分のせいとも知らず、すっかり体調の問題だと思い込んでいた。


「えぇ。先ほどお嬢さまのお部屋の前を通りましたが、可愛らしい寝息を立ててぐっすりと……」


 そう言って、リタも微笑む。


「主なのですから、普通、屋敷に帰ってきたら、大声で侍女でも呼べばいいのに……。もう、本当に恥ずかしがり屋なんですよ、アンネローゼ様ったら」

 




 アンネローゼの屋敷の応接間には、珍しい3人が揃っていた。

 従者のテオドールに、皇子のゲオルグ。それに侍女のリタ。


 完全に扉が閉められた密室に、テオドールは呼ばれていたのだった。

 

 色とりどりの調度品に、ふかふかの椅子。どれも派手ではないが、しっかりとした上品さを感じさせる。

 誰もがほうっと一息を付けるような部屋だったが、テオドールは、気まずい思いを感じていた。


 それはそうだ。

 自分のせいで、アンネローゼが裏市まで出向くことになったのだ。


 婚約者であるゲオルグが、テオドールに激怒していても不思議ではない。


「で、テオドール。君の母上のネックレスについて、教えてもらえるかな」


 だが、ゲオルグはテオドールが拍子抜けするほどに穏やかだった。

 基本的に生意気なテオドールといえど、流石に皇子に対して偉そうな真似はできない。


 渋々、テオドールは話し出す。


「まあ、別に大した話でも……ないですよ。いつも母が持っていたんですよ、金でできたネックレスをね。まあ今思えば、それほど大したものでもなかったかもしれませんが、それでも貧民街の人間にとっては価値のあるものでした」


 ここまで母の話をするのは、久々だった。

 それも、使用人仲間のリタだけならいざ知らず、目の前にいるのはこの国の皇太子なのだ。


「ただある日、母は帰ってこなかったんですよ。貧民が帰って来ないってのは、すなわち死んだってことです」


 実際そうだった。

 それなりに、学問や技術がある人間だったら、他の場所へ行くということも考えられるかもしれない。


 しかし、なんのツテも技術もない人間が急に消えたとなれば………。


「何日かしてから母の遺品を探したのですが、ネックレスはどこにもなかった」


 ほら、大した話じゃないでしょう、とテオドールは続けた。


「まあ勿論、残念には思いました。生前から母は、『いつかお前に譲ってあげる』と言っていましたからね。

 でも結果は、これです。誰かに奪われたのか、それとも母自身が遊ぶ金欲しさに売っ払ってしまったのか」


「なるほど」


 そう言って、ゲオルグが黙り込む。

 普段は活発なリタも、口を挟まない。


「まあ別に気にしていませんから。俺は満足ですよ。アンネローゼ様がわざわざ探しに行ってくれましたし、その……見つからなかったとしても、その気持ちだけで嬉しいです」


 これは、テオドールの本心だった。

 

 皇都には、3つの巨大な市場がある。

 ラヴォワ城のすぐ近くにあり、貴族をその対象とする第1市場。

 

 それとは反対の郊外に位置し、主に一般人相手に物が売り買いされる第2市場。

 この2つは、集まっている商会や商人の数もけた違いで、何か物を探すのであれば、ここしかない、と言われるほどだった。

 

 「それなりに探しましたけど、どちらにもネックレスはありませんでした」


 だからこそ、テオドールは密かな希望を抱いていた。

 残された第3の市場。通称、裏市。


 法も道理も通用しないが、その分通常はあり得ない品々が眠っていると言われている裏市に、期待をしていたのだが……、


「まあ、ネックレスが見つかったところで、名前が書いてあるわけでも――」


 ありませんしね、と湿っぽい空気を嫌ったテオドールが、軽口を叩こうとしたその時。

 不意にゲオルグが何気ない口調で、


「名前が、もし仮に書いてあったらどうする?」と告げた。


「はい?」


 テオドールは、向かいでゆったりとした椅子に座っているゲオルグを見つめ返した。

 意図が読めない。

 

「どうする……ですか? それは普通に名前を照合すれば母の品だと――」


 そうかとゲオルグが、穏やかな笑みを浮かべた。


「君の母上の名は――シエラか」


「は?」


 聞くはずのない名前が、もう一生聞くことがないと思っていたはずの名前が、殿下の口から発せられた。

  

「……なぜ。その名を……?」


 もはや遠慮もせずに、テオドールは口をぽかんと開けたまま、ゲオルグに聞き返していた。


 そんなわけがない。

 殿下の口から、何年も前に死んだ貧民街の女の名前が出るわけがない。


 ――だってそれは、間違いなく、死んだ母の名前だったから。

本日のアンネローゼ様

→ぐっすりお休み中

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― 新着の感想 ―
[良い点] アンネローゼ! やっちまったか!、、、やっぱり(笑) 周りが優秀なアホばかりで大変だな、アンネローゼ(笑)
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