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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第2章 お気楽令嬢は、居候生活にほくそ笑む
22/78

16.お気楽令嬢は、人生相談をする


「あなた、まだ探していない場所があるでしょ」というリタの声が、テオドールの耳を通り抜けた。


「アンネローゼ様は、お1人で裏市に行くつもりよ」


「……1人で裏市!? 正気かよ!?」


 思わず、テオドールは大声を出していた。

 

 “裏市”。

 裏の世界では知らぬものがいないとされるほどの場所。たしかに、そこではランゴバルディア中の物が集まると言われている。


 しかし同時に、”裏市”の闇は想像を絶する。金・物が集まるというのはそれだけ危険なのだ。


 暗殺者、裏社会の人間。怪しげな薬。強大な権力を持つ存在たち。

 貧民として生まれ、比較的裏の世界に近い存在だったテオドールですら、怖れて立ち入れなかった場所。


「そんな場所に1人で……?」


「ええ。そうよ。あの人はそういう人なのよ」


 涙をぬぐいながらリタが言う。


「あの人はあなたが困ってるって聞いて、すぐに裏市にあるって分析したみたい」


「おかしいだろ……」

 

 テオドールは力なく言った。

 自分なんか、俺なんて放っておけよ、と言いたくなる。


「私はこれから殿下に会いに行くわ。『お姫様が動き出しました』って」


 ねえ、とリタが問いかける。


「テオドール。あなたはどうするの? このまま一人でひねくれてる? それとも、一緒に来る?」


「それは……」


 言葉に、詰まる。


「奪われたから奪い返すっていうあなたの考えが、わからないわけじゃないわ。でも、違う人もいる。アンネローゼ様は奪われても、他人に愛を分け与える人よ」


 そんなのは知っていた。

 テオドールは痛いほど理解している。


「そうやって、奪われたからってひねくれている人間と、奪われても気にせず、それでいて他人のことを気遣える人間」


 ――ねえ、テオドール。どっちの方が強い人間だと思う?


 リタの燃えるような眼は、そう問いかけていた。


「……行くよ、俺も行く……」


 気が付けば、テオドールはそう答えていた。

 そうだ。行かなきゃいけない。


(だって、俺は………)


「俺は……あの人の従者なんだから」


 立ち上がり、リタを見据える。


「ふん。まあ多少はまともな顔になったわね。じゃあ、行くわよ」


 ああ、そうだ、とテオドールは思った。


 自分が1発言ってやらなくては。

 自分のことを後回しにしてばっかりの、あの人に、「もっと自分を大事にしてくれ」って言ってやるのだ。


 決意を胸に、テオドールは歩き出す。


 ――こうして、“神の頭脳”アンネローゼを支え続けた“理想の従者”テオドールの人生はこの時から始まった、と言われている。



 しかし、アンネローゼはテオドールのことを労働力としてこき使う気満々だったので、二人の話の流れ的には、どちらかと言えば、完全に”奪う側”の人間のメンタリティだったが、なぜか熱い思いに突き動かされた二人は、一切それに気が付くことはなかったのであった。



 

*****




 ――同時刻、そんな謎の信頼を向けられているとは知らないアンネローゼは現在、ビビり散らかしていた。


「……うっわ」


 悲報、治安がヤバい。


(お、おかしい。絶対おかしいよ、こんなの)


 ヤケクソ気味のアンネローゼは、もうこうなったらその辺で時間をつぶすしかないと、適当に歩いていたのだが、なぜか、周りの景色が次第に悪くなってきたのである。


 まずは右を見てみる。

 すると、なんてことでしょう。なぜかぼろぼろの服を着た人間がぶっ倒れている。


 次に左。

 なぜか最強にいやらしい格好をしたお姉さんがにやにや立っている。


「アハ、アハハ」 


 仕方なく愛想笑いを返しておくが。


 ――うわぁ………雰囲気、わっるぅ……。


 でも、

 い、いや、待てよ。焦るな、とアンネローゼは自分に呼びかけた。


 そうだ。人を見た目で判断するなんて、良くないことだ。きっとこの人たちは、たまたまこんな格好をしているだけで……。


 そ、そうだ。

 この人たちは普段はこんな格好をしていないのだ。


 例えば……そう。貴族とか!


 どうだろう。

 ラヴォワ皇国ともなれば、アンネローゼの出身地王国よりも断然おハイソ。

 文化的にも進んだ国である。


 アンネローゼにはさっぱり理解できないが、こういうタイプの仮装パーティーかもしれない。


 最近、皇国の上流貴族の間では仮面舞踏会なるものが流行っている、とリタに聞いたことがある。

 

 これもきっとその一種だろう。

 わざと地面に倒れて「も、もっと薬をくれぇ!!」と叫んだり、わざとセクシーな格好をしているだけで、ここは本当は限られた貴族にしか許されない至高のお遊びなのだ。


(い、いやあ紛らわしいなあ………うんうん、本当に危ないところだって勘違いしちゃうじゃない)


 少し進んだアンネローゼは、たまたま、横にいたおばあさんに恐る恐る尋ねてみた。


「こ、こんばんわ。おばさま。おばさまはどちらのお貴族様ですか」


 地面に怪しげな品を広げたおばあさんはヒョッヒョッヒョッ、とこれまた怪しそうな笑い方をした。


「お貴族様? あんた私を見て言ってるのかい。面白い小娘だねえ。ここは泣く子も黙る”裏市”。常人が生きてここを出れるとは思わないことだねえ」


 はっはっはっはっは。


 いやー”裏市”か。

 って、 


「裏市?????」


「そうじゃ」


「え、本当に?????? ここが????」


「だからそうじゃと言っておろうが」


「か、仮装パーティーとかではなく……?」


「変な小娘だねえ。ここは正真正銘の裏市さ。あんた貴族みたいだけど、身売りか何かかね」


 悲報。

 私、アンネローゼ、一応、皇太子殿下の婚約者としてこの国に身を寄せたはずなのに、身を崩した貴族の娘だと思われてる模様。

 

 もうこんなの嫌である。


 アンネローゼはヤケクソになって老婆にきいてみた。

 

「ねえ、おばあさん。人生相談とかってやってます?」


「はぁ?」


 そんなことを初めて聞かれたのか、裏市のおばさんもこれまた微妙な顔になった。


「変な小娘だねぇ。あたしゃ占い師だけど」


「私、婚約破棄したいんですけど……」


「は?」

 

 おばあさんはめっちゃ怪訝な顔をした。

 わかる、わかるよ、その気持ち。

 ですよね~~~~。



一瞬、毎日更新途切れててすみません!

また再開しますm(_ _)m

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