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【コミカライズ9/29公開】お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそ笑む【まさかの】  作者: アバタロー
第2章 お気楽令嬢は、居候生活にほくそ笑む
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6.お気楽令嬢は、従者の真意を知る

「へ? な、なんで…… ?」


 場所は、食堂。

 楽しく食事をとった後で、アンネローゼは恐る恐る聞き返した。


「その、テオドールをクビにしましょう、と言うのは」


「率直に言って、彼が評判悪いからです」


 そう冷たく言い放すのはメイドのリタ。


 いつもはノリがよく温和で、屋敷の中でもアンネローゼと絡むことが多いメイドだったが……。


「普通、屋敷に来たばかりの使用人というのは、主人との距離感を測るものなのです。しかしあのガキ……失礼。

 あの従者は、あまりにもお嬢様にべたべた接しすぎです」


「は、はぁ…… 」


(す、すごい……怒ってる!)


 というか、怖い。普段割とノリがいいタイプの子が怒るとこんなにも怖いのである。


 リタはテオドール少年にブチ切れているようだったが、アンネローゼは自分が叱責されているような気がして、ちょっとブルーになっていた。


「許せません」


「ハハ……」


 そんなリタに対して、アンネローゼは、ただ愛想笑いをすることしかできなかった。アンネローゼは実家が貧乏だったので、使用人と主人の適切な関係、と言われてもよくわからなかったのである。


 まあたしかに、ちょっと距離感が近すぎる気もしなくもなかったが、アンネローゼは、きっとこの子も、スローライフに前向きなんだな、ととんだ見当違いの感想を抱いていた。


「私が怒りを感じているもう1つの理由も、お嬢様ならお判りでしょう?」


 リタがもうわかってますよね、みたいな目線を投げてくる。


 え、なにが???


 もちろん、検討もつかないが、仕方なくアンネローゼはリタの目線に思わせぶりな感じで、


「そうね…… 」とつぶやいた。


 なにが、「そうね……」なのだろうか。

 発言した本人もよく分かっていなかった。


「ええ。お嬢様のご推察の通りです。あの従者は明らかに節操がありません。仕事をせずに、主人に媚びる。一番使用人に嫌われるタイプの従者です。」


 リタの舌鋒は止まらない。

 そして他にも、と続けた。


「この屋敷に来たばかりのお嬢様には、わからないかもしれませんが、私の眼はごまかされません」


「ごまかされないって…… ?」


 アンネローゼは著しくテンションが下がった状態で、リタの発言を繰り返した。


 一体、うちの新たな従者は何をしでかしたのだろうか。そんなにアンネローゼのスローライフへの勉強計画が嫌だったのだろうか。


 意を決したように、リタが言い放った。


「あの従者、おそらく盗みを行っています」


「はい????」



*****




 アンネローゼ邸。


 ――いや、実際にはゲオルグの別宅のうちの1つらしいが、アンネローゼは完全にもう自分の屋敷扱いしていた。

 くれるというものなら何でももらうのが、アンネローゼの流儀である。


 もう返せって言われても、返してあげません。返品不可なり。


 こうして、アンネローゼは勝手に"ゲオルグの屋敷"を自分の屋敷として認定していた。


 そのアンネローゼ邸は四階建てで、 一階には、食堂と居間、それに来客用の応接室。

 二階にはアンネローゼの寝室。

 三、四階にも部屋があるが、今は未使用。


 ここまでが本宅で、別宅には、それぞれ使用人用の居住スペース。

 さらに、こじんまりとした主張しすぎない、のどかな庭園。


 と、これがアンネローゼ邸のすべてだった。



「まあたしかに……言われてみれば……なんかものが少なくなっているような気もしなくもないような……」


 そんな屋敷で、アンネローゼはリタからの告発を適当に受け流すことも出来ず、朝から張本人のテオドールがいない隙に、総点検を行っていた。


 言われてみれば、というレベルだが、確かに小物がちょろちょろ無くなっている。


「高価かつ持ち運びやすいものが、あの従者が来てから姿を消しています」


 リタが淡々と報告する。


「元々お嬢様が贅沢をなさらないので、この屋敷には無駄なものがあまりありません。ですから、発見は比較的早くできました。

 しかし、この屋敷は元々ゲオルグ殿下の屋敷です。備品も高品質なものばかり。売り払えばかなりの額になるかと……」


「そんな……テオドールが……」


 アンネローゼは息も絶え絶えに言った。


「ええ。私たち使用人の多くは、既に違和感に気が付いて居ました。あの従者は――」


 リタの口調が一気にエスカレートし始めた。

 もうすでにリタの中では、従者とも呼びたくないらしい。


「失礼。お嬢様の前で相応しくない言葉づかいをしますが、あの小僧は従者としての基本的な技術がなっていません。基礎的なマナーに、従者としての心得など。根本的なことができていないのです。推薦されてここに来たにしては、技量も足りず、媚びるような雰囲気ばかり」


 周りに集まっている使用人もちらほらうなづいている。

 どうやらみんなリタと同意見らしい。


 なるほど。

 アンネローゼはだいたい、リタの話を聞いて理解できてきた。


 つまり、なんかほかの屋敷から派遣されたにしては意識低くね? ということだろう。


「主に媚びを売り、仕事をほとんどしないタイプでしょう。使用人の中でも最悪なタイプです」


「媚……」


 なんで自分に媚びを売るのだろうか。

 最終的に悠々自適な生活をしに、屋敷を飛び出すのに……。そんな相手に媚びても意味がないのでは?


「リタ。ち、ちなみに、盗られたのはどんなものなの?」


 取り敢えず、テオドール君の真意を知るために、リタの報告を深彫りしてみることにした。


「銀食器に、金細工。シャンデリアの一部分などです。手癖が悪い。おそらく常習犯でしょう」


 疑問。

 なぜ、テオドール少年は、あんなにやる気がありそうだったのに、こちらに媚を売ったり、盗みを繰り返したりしたのか。


「ん?」


 そのとき。アンネローゼの脳裏に天才的な(しょうもない)仮説が浮かんだ。


「まさか……そんな……」


 息を呑む。

 アンネローゼはショックを受けている真っ最中だった。


 まさか、テオドールが……。でも、これだったら、テオドールが媚を売ったり盗みを繰り返した理由が思い当たる。


 彼が盗み出した品々にはある共通点があった。


 アンネローゼはそれに瞬時に気が付いた。

 いや、気が付いてしまった。


 ――青天の霹靂である。


 アンネローゼがスローライフ好きなように、あの従者テオドール君も野望を持っていたのだ。


 アンネローゼは恐れおののいた。


 まさか、あのもやしっ子が……。




 金属フェチだったなんて……。



*****



 突如としてアンネローゼの脳裏に浮かんだ、テオドール=金属フェチ説。


 それをアンネローゼはゆっくりと吟味していた。


「銀食器に金細工ね……」


 これだけ証拠物件がそろってしまえば、推理は簡単だ。


 きっと、あの少年は、重度の金属フェチである。しかも、金や銀などの高価な金属を愛しているのだ。


 そう考えると、色々腑に落ちてくる。

 アンネローゼがせっせと世界各国の地理や植物を教えても、乗ってこなかったはずである。


 そして、テオドール少年はそこまでスローライフ好きではなかった。

 だからこそ、アンネローゼに媚を売ろうとしたり、金属を盗み出して鬱憤を晴らしていたのだろう。


(なんだ、そんなに金属が好きなら言ってくれればいいのに)


 別に盗む暇があるなら、言ってくれたらあげたのに、とアンネローゼは思う。


 自然派アンネローゼとしては、銀食器とかじゃなくて木のスプーン派なのだ。

 でも、一回リタに「木のスプーンを使いたい」と告げたら、


「いえ。殿下からお金なら充分に頂いております。そんなに気を使わないでください!」と泣きながらなだめられたので、木のスプーンはいまだに実現できていない。

 

「そんなこと……私に言ってくれれば……」


 アンネローゼはぽつりとつぶやいた。

 その程度のことなら、はよ言いいなさい、という気持ちを込める。


「お嬢様は……優しすぎます」と苦しそうな様子でリタ画ポツリとつぶやいた。


「……あまりにも、優しすぎです」


「え?」


 優しすぎるとは、いったい何を言っているのだろう、と混乱したアンネローゼが聞き返そうとした瞬間。


 ふいに聞き覚えのある声が、アンネローゼの耳に飛び込んできた。





「あーあ、バレちゃったか」


 一見純粋そうなその声には、聞き覚えがあった。

 振り返る。


「テオ、ドール……」


 重度の金属フェチ小僧が、そこにいた。

2022.8.31 テオドールについて加筆修正

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― 新着の感想 ―
[一言] 金属フェチ…そうきたか!! アンネローゼはナチュラルズ派だから、金属より木造派なんですな~
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