オーパーツ探偵
薄暗い路地を曲がると、そこは完全な袋小路だった。
追い詰めたと思った犯人の姿はなく、追っていた警察官は狐につままれた思いでその場に立ち尽くした。
現場検証によると犯人の足跡は、まるで突き当たりの壁面に吸い込まれたように消えていたという。
犯人は現在捜索中。しかし捜査本部の面々の表情は暗く、捜査は一向に捗らない。
捗らない原因はわかっている。皆引っかかっているのだ。
犯人はどこに消えたのか。どうやって消えたのか。
その答えがないまま捜査を次に進める気には、皆どうしてもなれなかった。
とにかく『答え』がほしい。
捜査一課強行犯捜査三係の日暮警部は、答えを求めて『あの男』に捜査協力の依頼をした。
「どう見ます? 探偵殿」
日暮警部が尋ねると、現場を一通り見終えたその男は、袋小路の突き当たりを指差した。
「犯人はこの突き当たりを、」
差した指はゆっくりと上げていき、頭上へと向けられる。
「上へと上がっていった」
「この壁をよじ登ったということですか? しかしそんな痕跡は・・・・・・」
「浮いたんですよ」
「浮いた? どうやって?」
「オーパーツです」
現場がざわめく。探偵は推理を続けた。
「犯人はオーパーツを使ってこの袋小路を脱出した。そう考えるのが自然でしょう」
警部が「なるほど・・・・・・」と神妙にうなずき、
「そう言われれば、そうとしか考えられない」
別の警官が尋ねた。
「じゃあ犯人がなかなか見つからないのも・・・・・・」
「オーパーツです。犯人はオーパーツを使って姿を消しているのでしょう」
「我々の手に余るわけだ・・・・・・」
「じゃあ、」と若い刑事が身を乗り出す。彼は先月の未解決事件についての答えを求めた。探偵は答えた。
「オーパーツです」
じゃあ俺も、と別の警官が手を上げると、ずるいぞ俺もと次々と質問が殺到した。
最近の事件について
自分の出世について
女房の浮気について
そして探偵はその全てに答えた。
「オーパーツです」
「いやーお見それしました。まさか私が結婚できないのもオーパーツの仕業だったとは・・・・・・」
そういう警部の表情は、どこか晴れ晴れとしていた。そしてそれは他の捜査官達も同じだった。
誰もが日常の疑問に『答え』を求めていた。
そしてそれは、だいたい『オーパーツ』だった。
オーパーツ探偵
彼は全ての『答え』を持っている。