4話:"討伐計画"
活動再開するので、実質初投稿です。
「もらったァッ!!」
(危ないっ…!)
姿勢を崩したクロに、勢いを乗せた一撃が迫る。
これから起きる惨劇を予想し、物影から二人の戦闘を見ていたシスターは思わず目をつぶる。
―――ドゴンッ
かぎ爪のついた拳が、無防備なクロに到達した。
くの字に大きく吹き飛ばされ、地面に到達後、数回転がった。
…その後、槍を杖にして、ゆっくりと立ち上がり、咳を数回。
そのクロの様子に、『芸術家』は首を傾げた。
シスターはゆっくりと目を開け、クロを確認しああよかった、無事だ。と安心した。
「…んー、おかしいなぁ…。腹を貫いた、と思ったんですがねェ…。」
「げほっ…あぁ、今のは効いた…!」
『芸術家』は、仮面で表情が見えないが、おそらく睨みつけているであろうクロの恰好を観察する。
黒マントの下には、硬い金属鎧や分厚い皮鎧はなく、ただの布の服を着ていた。
しかし、『芸術家』が殴った時に感じたのは、間違いなく金属のような硬さだった。
「私に劣るとはいえ、ほぼ同等の力に、鎧もないのに私の剛腕を防ぐその硬さ…
…私が言うのも何ですが…あなた、本当に人間ですかぁ?」
「…。」
「…答えは沈黙、と。まぁいいや。時間がないんで、さっさと…おやぁ?」
『芸術家』の後方。その向こうの角から、こっちにいたかー?と人を探る声が多数聞こえた。
ランタンの光が路地裏の角を明るく照らす。
「あーあ…衛兵さんも来るとは…運が良いと思ったらこれだ。
まったくついていない…。うん、時間もないんで退散しまーす。じゃーねェー。」
そう言い放つと、壁に向かって跳躍し、そのまま蹴ってクロを飛び越し、猛スピードで逃げていった。
クロは追いかける様子もなく、ただその様子を眺める。衛兵が来ているのがわかっているので、下手に追いかけて、自分が犯人にされるのを防ぐためだ。それに、さっきの腹への一撃もあって、呼吸が乱れている為、追いつけないだろうと判断したからでもある。
安全になったことを確認して、シスターが物影から出てくる。
「なんとか助かりました…。しかし、何なんですか、あれ…。
あなたは知ってそうでしたけど…。」
「…知ってはいる。けど、教えたくはない。」
シスターにそう言い放ち、そして強く忠告する。
「とりあえず、アレのことは周りに言わない方がいい。…でなきゃ、狙われる。」
◇
こちらを見つけた衛兵たちに、色々と事情聴取をされた後、(怪しい恰好をしていた為、『芸術家』と間違われ捕まりかけるというアクシデントもあったが)無事解放された。
「た、大変でしたね…。」
「…別に。もう慣れた。」
「そ、そうですか…。…それにしても、犠牲者がまた出ていたとは…。
神の教えに反する行為、許せません…。」
今現在、彼らは大通りに出る為、路地裏を歩いていた。銀色の月が真上に見える。
シスターは周囲を警戒しながら歩いていたが、その後は特にアクシデントは遭遇せず、無事路地裏を抜け、教会前の大通りまで出た。
「えーっと、それでは私は教会に戻りますが…。宿は取ってますか…?」
「あぁ。」
「あ、そうなんですね。よかったー…私の用事のせいで、
宿取れなかったーってならなくて…。」
「…普通、最初に来た時に取るのでは?」
「いえ、そういう方もおられますよ。たまにですけど。」
「…。」
旅人は大体、【銀鐘】が多いので、不甲斐ない同業の実情に情けねぇ…と、心の中でため息をついた。
「あぁ、そうだ。シスター、明日ここに訪れてもいいですか?
あんたに聞きたいことが色々あるんで。」
「私に…ですか?別に今からでも大丈夫ですけど…。」
「…多分時間がかかって、宿屋に締め出される。」
「えっ、あっ。そ、そうですよね。すみません、配慮が足りませんでした。
わかりました、ではまた明日!」
去っていくシスターが教会に入るのを確認し、クロもまた宿屋へと戻る。
教会は、宿屋を探している時に見かけたので、そこから宿屋へと行く道筋は覚えていた。
クロは宿屋へと向かいながら、明日のことを考える。予想する。
(…おそらくだが、明日の夕方。あのシスターが狙われるだろうな。)
◇
次の日のお昼時、クロは教会を訪れる。
両扉の片側を静かに開け、中を確認する。礼拝堂の長椅子にシスターは座って、何かを読んでいた。
聖書だろうか。中に入り、シスターを呼ぶ。
「シスター、来たぞ。」
「あ、クロさん。お待ちしておりました。…それで聞きたい事って何でしょうか?」
シスターは、聖書らしきものを閉じて仕舞いながら、椅子から立ち上がり、クロを出迎える。
そして、立ち話もなんですからと、テキトーな席に座るよう促した。
クロは近くにあった長椅子に座り、1人分離れたところにシスターは座る。
「あんたの友人についてだが…その友人の部屋には絵が置いてあった。
…職業は、画家か?」
「あぁ、いえ。違いますよ。あれは彼女の趣味で…
…って、なんでそんなこと聞くんですか…?」
「………置いてあった絵が素晴らしくてな。
もし売ってるのであれば、是非買いたいと思った。」
「はぁ、そうですか。友人の絵をそう褒めてくれると、私もうれしいです。」
「…二つ目の質問。彼女は、昔陶芸とかやっていたか?」
「いえ、やっていなかったような気がします。油絵一筋だった筈です。」
「…そうか、ありがとう。それで、3つ目の質問なんだが…
最近、彼女に何か思い悩むような様子を見かけたことはあったか?」
「…思い悩むような様子、ですか。」
「あぁ。」
「うーん………あっ、そういえば。仕事が上手くいかなくて趣味である絵に
手を付けられない、って言ってましたね。」
シスターに意味ありげな質問を繰り返していく。が、もっともこれは茶番である。彼には、犯人が彼女の友人であることはわかっている。クロの聞きたいことは別にあり…
「…最後の質問だ。今日、シスターは彼女と出会う予定はあるのか?」
「いや…ないです、けど…さっきの質問と言い、もしかして、
あなた…彼女が『芸術家』だと疑ってませんか…?」
「………………なんのことやら。」
「ほら、絶対疑ってますってッ!!彼女がそんなことするわけないじゃないですか!!」
(ちッ、流石にバレるか。…まぁ、今日の予定が聞けただけでも、よしとしよう。)
クロが聞きたかったこと。それは、殺人鬼であるシスターの友人との予定と、その時間、場所である。
会う予定はなかったので、殺害現場は教会だろうと予想した。
あとは、犯行時間の予想だが、このままでは彼女に聞けそうもなかったので、ここは一旦友人を疑ったことを謝罪し、また友人関連のことはもう聞けそうにもないので、今ここにいない神父のことも聞くことにした。
「いくら助けてくれた冒険者さんでも、それだけは許しませんよ!!
まったく!!」
「…あぁ、それはすまなかった。…ところで神父を見かけないが、
何処にいるんだ?」
「神父様に御用ですか?神父様でしたら夕方まで、街中を散歩していますけど…」
「ん、そうか。ありがとう。」
(…となると、犯行時間は夕方?…神父を待つふりをするべきか。)
教会内部を首を動かさずに見回し、隠れそうなところ、利用できそうなところを探す。
シスターの知らない内に、クロの中で『芸術家』討伐の計画が組み上がっていく。
「…わかった、待ちます。…ただ、宿屋にたどりついたのはいいが、
結局締め出されたんで寝てません。なんで、ここで寝てても良いですかね。」
「あ、やっぱり締め出されたんですね…。わかりました、
神父様が来たら起こします。」
…ちなみに余談だが、宿屋に締め出されたと言っているが、これは嘘である。
眠れていないのは本当のこと。その理由は追々。
【『ヒトモドキ』・???】クマ
能力・特性:虫類の毒無効、剛腕