3話:"クロと鎧"
工事完了したので、実質初投稿です。
とりあえず、友人宅へと行きながら話しましょう。シスターの提案で足を進めることにした。
もうそろそろ夜になってしまうような、日の沈み様だ。このままその場で話していても、ただでさえ薄暗かった路地裏が、真っ暗になってしまい色々と危険だろう。そう両者は判断した。
「とは言っても、私も詳しくはないんですけどね…。
何でも、夜に現れて人に襲い掛かるんだとか…。」
「夜、か………『芸術家』の推定犯行時刻って、もしかして夜か?」
「え、確かにそうですけど…。よくわかりましたね?」
「殺人鬼が動きやすい時間帯は大体夜だ。暗闇に紛れて犯行しやすい。
…まぁ、例外もいるとは思いますが。」
「あー…そういえばそうですね…。」
「他には?」
「…すみません、これ以上はないです…。」
「ん、ありがとうございます。」
会話が終了し、両者に無言の時間が続く。
しばらくすると気まずくなったのか、シスターが口を開いた。
「あー…えっとぉ…く、クロさんは、何故ここに?」
「…オルドクトに行くんで経由する為に、ですね。
調べたいことがあるもんで。」
「そ、そうなんですねぇ………あ、えっと、ここです。」
そうこうしているうちに、件のシスターの友人宅へと、たどり着いた。
何の変哲もない、よくある路地裏の家だ。
シスターが、玄関の戸を拳の背で2回叩く。
「おーい、ベトちゃーん。いるー?」
ベト。これが、彼女の友人の名前なのだろう。
…しかし、いくら待っても、その友人が来る気配はなかった。
「あれ、いないのかな?どこに行ったんだろう…。」
シスターが思案している間に、クロがドアノブに手をかけ回してみると、
扉は開いた。鍵はかかってなかったようだ。扉の向こうには、様々な油絵が置いてあった。
その部屋の中から何かを見つけたのか、クロは無言で侵入すると、その見つけた何かを拾う。
…無断侵入。立派な犯罪である。
シスターは、目の前のクロの行為に気付くと、慌てて家に入り注意する。
「ちょっ、ちょっとー!?何やってるんですかッ!?無断侵入は立派な犯罪ですよ!?」
「…すまない。部屋で倒れてないか確認していた。」
「そしたら、鍵はかかってる筈です!!いいから、出てくださいッ!!」
シスターに背中を押され、追い出されるように外へと出た。
そして急いで扉を閉められる。
「もう、まったく!!帰りますよッ!!」
いつの間に、自分はあんたの護衛になったんだ。クロは仮面の中で顔をしかめたが、心の中で思うだけにした。
シスターの友人宅から離れて数分後、ふとあることに気付く。
「鍵がかかってなかったが、合鍵とか持ってないのか?」
「持ってないです、けど…。」
「…空き巣が、入って来たらどうするんですか?」
「あっ…。」
頭を抱えながら、どうしましょうと呟くシスターの横で、どさくさに紛れて持ちだしてしまった、家の中で見つけた何か―
―赤い液体が少し付着した空の注射器を見つめ、クロは小さく呟く。
「…なるほどな。」
そして、それを隠す様に懐に仕舞い、シスターの後を追う。
宿屋まで帰る道を忘れてしまったが、シスターに付いて行けば大通りまで戻れるだろう。
…もしかしたら、噂の『芸術家』に会えるかもしれない。そう、心の中で考えながら足を進める。
シスターは、空き巣が入らないように祈ることにしたようだ。
◇
「…シスター、前に誰かいる。」
「え…あ、本当ですね。…何故、フラフラとしておられるんですかね。
お酒でもお飲みになられたのでしょうか?」
いつの間にか日が沈み切り、さらに暗くなった路地裏。2人がしばらく歩いていると、前方に人影を発見した。
しかし、何か様子がおかしい。ゆらゆらと亡者の様にこちらへと、ゆっくり近づいてくる。
頭頂部に、人には有るはずの無い丸い耳のようなものがあり、キラリと、銀色に光が反射して―――
「――!っ、邪魔だッ!!」
「えっ、きゃぁ!?」
人影は、急に猛スピードでこちらに接近してきた。
クロは咄嗟に、シスターを後ろへと引っ張り、背中に背負っていた槍を取り出し、迎撃する為に突き出した。
しかし、その槍が人影を貫くことはなかった。
―――鎧によって、阻まれたのだ。
人影――熊を模したかのような鎧を身につけた”鎧の男”は、クロの槍を両腕で掴み、へし折ろうとしている。
「おやおやおやぁ、いきなり攻撃を仕掛けるとは…物騒な方ですねェ…!!」
「…先に攻撃仕掛けてきたのは、貴様だろう、がッ!!」
槍を力強く払い、へし折られるのを阻止すると同時に”鎧の男”を吹き飛ばす。
勝負は、振り出しに戻った。”鎧の男”はくもぐった声で喋りだす。
「おっとっと、それはそうでした。お詫びと言ってはなんですが、
あなた方を作品にしてもよろしいでしょうかねェ?まぁ、勝手にやりますけど。」
「…そうだな、勝手にしろ。こちらも勝手に、お前の首を獲ることにした。」
「………ふふっ、くく…っはははッ…アーハッハッハァッ!!」
”鎧の男”はクロの言葉を聞いて突如笑い出した。
クロの発言を冗談だと捉えたようだ。
「そんなチンケな槍で?この私を!?面白い冗談ですねェ!!
…あぁおかげで、ウキウキ気分が引っ込みました。
どうしてくれやがんですか、ん?」
「一生沈んでろ、『ヒトモドキ』。」
「『ヒトモドキ』だなんて、酷いなぁ…
私には『芸術家』という素晴らしい―」
”鎧の男”の言葉を最後まで聞かずに、攻撃を仕掛ける。勢いを付けた、槍での突撃。
しかしその攻撃も、腕を交差し防御され、”鎧の男”もとい、『芸術家』には届かなかった。
槍と、爪が付いた両腕の鍔迫り合いが、金属がこすれる音を辺りに響かせる。
「く、くく…力だけはあるよう、ですねェ…
まるで、私みたい、だねェ…ッ!!
しっかし、こちらが話しているのに、いきなり攻撃するなん、て…
と、酷くない、ですかぁ?」
「…。」
「…あ、無視ですか。そーですか。…本当に、酷い奴、だなァッ!!」
「…!」
交差した両腕を振り上げて防御を解き、槍を上へと弾く。
槍は持ちあがってしまい、姿勢を崩され、クロは無防備な状態になってしまう。
その出来てしまった隙を、『芸術家』は逃さない。片腕を後ろへと引っ込ませる。
そして、その引っ込ませた腕を勢い良く突き出して、クロの腹を貫こうとする。
「ハッハァーッ!!もらったァッ!!」
迫る拳。クロ、絶体絶命―――