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獣放浪記  作者: 柱餅
2/5

2話:"『芸術家』とは?"


「き、君…早く逃げてッ!!私のことはいいから!!」


 シスターが逃げるよう、小柄な少年――クロに逃げるよう言う。

さてこの状況をどうしようかと、考えていた為にじっとしていたクロに、

大柄の男がゆっくりと近づく。指を鳴らし、笑顔でクロを脅す。

尚、脅されている当の本人は、全く男達に恐れている様子を見せていない。


「おい、変な仮面付けてるそこの坊主。そこにいるシスターさんの言う通り、

 痛ーい目に合いたくなけりゃ、ここから消えな。わかるだろ、ん?」

「帰り道はお前らが塞いでるから、帰れん。邪魔だと思ってるならさっさとどけ、

 デカいの。」

「おー、そいつは悪かった、なァッ!!」


 本気の右ストレートが、仮面を付けたクロの顔を襲う。それを腕で防いだクロは真横へと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

その様子を男たちは眺め、そしてぎゃははと下品に笑う。


「おいおい、ガキ相手になーに本気になってんだか…手加減してやれよぉ。」

「まー、生意気な事ほざいたあのクソガキが悪い!」

「それもそうだな!これもまたいい教育になっただろう!俺たちはなんて、

 優しいんだろう!」

「あ、あぁ…なんてこと…」

「ははは、よぉく見てなシスターさん。無力で生意気なクソガキが、お強い大人に

 ボコられてる様子をよぉッ!!」


 ボコボコにするために大男がゆっくりと、立ち上がった少年に近づく。

ニヤニヤと笑みを浮かべながら拳を振り上げ、殴りつけようとし――


「ぎゃっ」


――そして、その男達の隣に少年を殴りつけた大男が叩き付けられた。

情けなく大男は鳴く。


「「「…は?」」」「…え?」

「先にアイツが殴った。だからこれは正当防衛。」


 突然の出来事に唖然とする男達と、シスター。自分達よりも小さい背をした少年が、大男を投げ飛ばした。ありえない光景を前に、静寂が流れる。

先に口を開いたのは、シスターを掴んでいた男だった。


「…お、おいおい、何の冗談だ?あのチビが、アイツをぶん投げた…?

 は、はは…あ、ありえねぇだろうがァッ!!」

「…そしてこれから行う行動も正当防衛だ。大丈夫、何も問題はない。」

「なっ―――ぐえっ」


 逆上した男が、シスターの腕を放し、そしてクロに勢いよく殴りかかる。

クロはその拳を危なげなくかわし、男の腹に目掛けて思い切り足を突き出す。男は後ろでまだ茫然としていた仲間を巻き込みながら、後ろへと吹き飛ばされた。


「―――とはいえ、一銭にもならない無駄な喧嘩だな。

 …あぁ、まだやるか?」


 ドスの効いた声で、まだ立っている悪漢たちを脅す。変な仮面(鹿の頭蓋骨)もあって、妙に迫力がある。

二人を圧倒した、自分達よりも強い小さな少年(ガキ)に返り討ちにされる未来(ビジョン)が見えるのに、まだ喧嘩に挑む馬の骨はいるのであろうか。



 気絶した仲間たちを庇いながら、覚えてやがれと情けなく退散する悪漢たちを眺めながら、

報復にまた来られるのも面倒だ。縄を普段から持っているべきか?と、思考の中で真面目に検討していると、助けたシスターに声をかけられた。


「き、君は一体…?」

「…冒険者ギルド所属のクロ。階級は【銀鐘】(ぎんしょう)…中位の冒険者だと

 思っていただければ。」

「は、はぁ…だからあんなに強かったんですねぇ…。」


 門番に身元確認の際に出した銀色のギルド証を見せ、自分の名と所属、階級を丁寧に名乗る。

階級は一般的には知られているものの、どのくらい凄いのかわからない人もいる為、ざっくりとした説明も添える。


「ん、どうも。…こちらからも質問を一つ。なぜ態々こんなところを?」

「う゛っ…そ、それは…。」

「こうなることぐらい予想できていた筈…何か、路地裏を通らなければ行けない箇所でもあったんですか?」

「…え、えぇ、まぁ…はい、その通りですぅ…。」


クロが想像した推理が当たっていたのか、シスターは観念したかのように話す。


「最近、この辺りに鎧を身につけた男が彷徨っていると聞いて…

 …『芸術家』っていう連続殺人鬼…は知ってますか?」


 クロは、酒場の男たちが話していた内容を思い出す。しかし、名前と【銀鐘】(ぎんしょう)の冒険者が返り討ちにされたことぐらいしか情報は持っておらず、取り合えず調べたかった情報でもあるので、聞いておくべきだろうと判断した。


「…今日来たばっかなんで名前と、同業が殺られたことぐらいしか。」

「あ、そうなんですか。『芸術家』というのは、襲った被害者を芸術品にして

 現場に残す、度し難い行為を行う殺人鬼です。今日もまた一人、その殺人犯の

 手にかかり亡くなられました…。」

「なるほど、ありがとう。」

「いえいえ…。丁度、その不審人物達が出現する地域に友達が住んでいて、

 心配で様子を見に来たんですけど…」

「あいつらに襲われた、と。」

「はい…い、今までそんなこと起こらなかったので、

 今回も起こらないだろうなーと思ってたんですけど…。」

「…警戒しなさすぎ。」

「ん゛んっ」


 真っ当な正論に、言葉に詰まるシスター。その一方でクロは、シスターが言っていたある言葉(・・・・)について興味を惹いた。


「…シスター。”鎧の男(・・・)”について、もっと詳しく知っていることはないか?」



一方、すごすごと逃げた悪漢たちは、クロに気絶させられた仲間を叩き起こす。


「おい、起きろ!」

「うっ、ぐぅ…。」


気絶させられた所を、無理やり起こされた男は、ここにはいない少年(クロ)に対して恨み節を吐く。


「い、つつぅ…。加減しろよ…。あぁクソ、あのガキめ…。今度会ったらぶちのめしてやる…!」

「おい、やめとけよ…。また返り討ちにされるだけだっての…。今回は運が無かっただけさ。」

「そうだそうだ。ほら改めて美人のねーちゃん探しに行こうぜ?」

「…それもそうだな。うし、次だ次!」


 痛い目にあったが全く反省しておらず、懲りずにまた次の獲物を探しに行く男達。

獲物は、幸運なことにすぐに見つかった。


「お、今日はついてるぞ。2人目だ!」


 男たちは早速絡みに行く。

相手は、非力そうな女性一人。こちらは、複数人。数的にこちらが有利、しかも人通りも殆どないので、助けを呼ぼうとしても来ることはない。楽勝だ。

そう思ったことだろう。


「おーい、そこのねーちゃん。俺たちと遊ばなぁい?」


 ところで話は変わるが、振り子というものは御存知だろうか?

紐につるされた物体が、行ったり来たりと揺れを繰り返す。そんな道具だ。

運というのは、よく振り子に例えられることがある。良運に当たれば、必ずいつかは悪運に当たる。

男達の悪運は、すぐに来た。来てしまった(・・・・・・)。クロが男たちの前に現れたように。


「…ふふっ。材料(えもの)が態々自分から来てくれるなんて、今日はなんて

 ついてるんでしょう!まずはぁ…ウォーミングアップから、ですか、ねェッ!!」

「え―――」


 いつの間にか女の姿は、街で噂されている”鎧の男(・・・)”に変わっていた。”鎧の男”は腕を振り上げ―――

男たちの意識はそこで途切れている。

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