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カウンター異世界!  作者: 春木
第一章 王都内乱編
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06話 召喚者

 城内はメイドたちの避難、兵士たちも騒然としている中、俺とヒヨリは、バタバタと音を立て、式の執り行われた教会へと急いだ。

 開かれたドアから見えた景色は、酷い惨状が広がっていた。


「ヒヨリ・ワーヴラー・・・」

「あなたは・・・魔王・・・!」


 魔王はヒヨリの登場に唖然とした顔を浮かべた。

 コイツがこの世界の魔王・・・。

 俺がファンタジー小説を読みすぎていたのか。

 いや、誰が聞いても、魔王と聞けば決まって”ソレ”を想像するに決まっている。

 ”魔物の王”であり、禍々しい肉体、骸骨のような顔。

 しかし、そんな想像なんてバカらしくなるくらい、魔王と呼ばれた人物は、()()姿()をしていた。


 負傷した倒れてる兵士たちの中で、ボロボロになりながら戦う五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の三人と、国王だけがそこには立っていた。

 そして、クラウラと同じ魔王軍四天王と思わしき三人と、魔王と呼ばれた男。

 全員が、何も変わらない人の姿をしていた。


 こんなの、ただの人と人の戦争じゃないか・・・。


 魔王は少し離れた場所から手出しせず、他の三人に全てを任せていた。


「君の剣とクラウラの盾ならば、クラウラを倒せないと思っていたんだけどね」


 しかし、魔王は俺を見遣ると、ニヤリと笑った。


「あぁ、なるほど。そう言うことか」


 魔王は俺に静かに歩み寄った。

 俺は困惑と恐怖で、何も動けずに、魔王が俺の顔に触れるのを、ただ黙って見送っていた。


「君は、()()()だね」


 そして、魔王の言葉に俺の胸は高鳴る。

 他の五鳥王(ロイヤルヴァーズ)や兵士に知られてはならないことだったからだ。

 何よりも、それを真っ先に突き止められたという事実である。

 仮に、俺にはまだ何かしらの力が残られていて、魔王を葬れる唯一の鍵があるのだとしたら、今この場、この瞬間で消される可能性の方が高かった。


「お、俺は・・・」

「いいよ。面白い」


 魔王はパンパン! と手を叩くと「撤収だ!」と声を上げた。


「逃がすわけねえだろ・・・!」


 動けずにいる俺とヒヨリを他所に、ドープは攻撃態勢に移る。

 地中に潜り、再び魔王の足下で姿を現した。

 しかし、


「君の魔術は効かないんだってば」


 魔王は、右手を上げただけでドープを動けなくさせてしまった。


「その魔術は・・・一体なんなんだ・・・」


 魔王は他の魔王軍たちをゲートで移動させながらクスリと笑って答えた。


「俺の魔術は、()()()()()()()()()するんだよ」


 その場にいる王国軍の全員が戦慄した。


「面白いものを見せてくれた褒美だよ。カゲツ、強くなるのを楽しみにしている」


 魔王は俺にそう言い残してゲートで消え去ってしまった。

 それからしばらく俺は、座り込んで立ち上がることが出来なかった。

 魔王軍と戦っていた五鳥王(ロイヤルヴァーズ)や、その他兵士たちもバタリと倒れてしまった。

 しかし、何が目的であったのか、死者、致命傷者は一人としていなかった。





 その晩、俺はヒヨリの王城の一部屋を借り、死んだように眠りについた。

 翌日、魔王軍と対峙した国王と五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の四人、そして、召喚者である俺が、王城内の会議室へと招かれた。


「負傷した者も多い中、緊急に招集をさせてしまってすまない。しかし、色々と整理したいことができた。特に、五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の君たちには」


 そして、選抜式には姿を見せていなかった白衣の男二人が同席していた。


「魔王自らの襲撃と少人数での城内への攻撃、しかし、死者や致命傷者がいないことを考えて、宣戦布告と見て間違いないですよ!!」


 ドープは負傷が一番多い中で、声を荒げた。


「そうじゃな。死傷者を出さなかったのには何か意図があったのか、単なる気紛れか・・・。何にせよ、兵力を削った上で、改めて襲撃してくることは確かじゃな」


「そんでよぉ・・・」とドープは俺を睨みつけた。


「ヒヨリ、召喚者(ソイツ)のことはどう説明するんだ? 召喚者なんて聞いてないぞ」


 ヒヨリは口を閉じて俯いてしまった。

 別にバレてしまったなら言えばいいのではないのか?

 しかし、次のドープの発言で、それは間違いだと知ることになる。


「今、五鳥王(ロイヤルヴァーズ)が国王の座をかけてる中、王国軍として、まとまって魔王軍や反乱軍と対立をしている。しかし、お前は召喚者のことを黙っていた。そんな中で考えられることっつったら、魔王軍や反乱軍のための召喚者じゃなく、お前が国王の座にのし上がるために用意した武器。この召喚者は、俺たち他の五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の敵と捉えていいんだよなぁ!」

「そ、それは違う・・・! 黙ってたのにも理由が・・・」

「実際、俺らが一人として倒せなかった魔王軍四天王を、お前らは二人で倒してんだ! 召喚者には、それだけの力があるってことだろ!!」


 ドープは、怒りの矛先をヒヨリにぶつけているように感じられた。

 しかし、事実は事実。

 俺はまだ状況把握がよく出来ていない。ヒヨリが、何の為に俺を召喚したのか、正直、本意は分からない。

 ヒヨリも、ドープの言動に対して、ただ蹲って黙り込んでいた。


「は〜い! そこまで! 若いって元気があっていいですね〜!」


 パンパン! 

 手を鳴らすと、白衣を着た、緑髪で短髪の男が仲裁をした。


「あぁ、申し遅れました。私、王国の科学班班長、シリアル・ダウナーと申します。あまりこう言ったところには出向かないもので、五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の皆様に会うのも初めましてですね。隣の彼は皆様もお世話になったことがあるのではないでしょうか? 医術班班長のアドルフ・ウォーカーです。僕ら裏方は非戦闘員ですので、あまり交流はないかも知れませんが、今回は魔王軍襲来の緊急招集と言うことで、同席させて頂いております」


 科学班班長、シリアルと名乗る男はどこか虚ろ気で、ヘラヘラと気さくな男だった。

 そして、医療班班長のアドルフと紹介された男は、医療班にしてはかなり武闘派な体格で、強面なサングラスに、咥えタバコでその場に立っていた。


「ドープ・・・おめぇの怪我はかなり重症だ・・・。あまり暴れるんじゃねぇ・・・」


 アドルフは低い声でドープを睨みつけた。


「す、すいません、アドルフさん・・・」


 ドープは、アドルフの一声で、従順な子犬のように大人しくなった。

 そして、それを区切りに国王は再び口を開いた。


「話を戻すが、ワシはヒヨリが召喚者を召喚することを聞いていた。その力をこの国の為に使うと言う契約をし、召喚術式が可能な場所を伝えたのじゃ。他の五鳥王(ロイヤルヴァーズ)には困惑をさせてすまないが、ヒヨリに非はないことは、ドープ・クロウも認めて欲しく思う」

「そうでしたら・・・大丈夫です・・・」

「今回は、新たな魔王軍襲来に備える会議でもある。もう少しで王国軍前線の猛者たちが到着するはずじゃ」


 国王の言葉と同時で、そのドアはガタリと開いた。


「ワシを呼び付けるとは、中々困らされているようだな。国王よ」


 白髪の老夫、そして、それに続く戦闘服を着た五人の兵士たちが現れた。


「ゲッ・・・」


 ドープはあからさまに怪訝そうな表情を浮かべた。

 真逆に、キングはとても目を輝かせていた。


「あ、あなたたちは・・・! 王国軍元帥ロッド・チック様! 軍団長ジョッジ・クロウ様! 中将メイ・グランチェ様! 兵士長ジン・チック殿にレッカ・クロウ殿! お目に掛かれるとは光栄です!」

「おいおい、キングくん。地位で言えば、五鳥王(ロイヤルヴァーズ)の君の方が偉いんだから、様はやめてくれ」


 そう言うと、ドープによく似た茶髪の男は、ヘラヘラとキングに手を振った。

 王国軍の軍をまとめる指揮官たちのご登場である。

 召喚から、まだ二日目だ。初日から国王や、偉い人たちと会ってきた。

 正直、もう驚く、といった感情はなくなっていた。

 寧ろ、この人たちにとっては、俺の方が特殊な存在なんだと、飲み込むしかなかった。


 話は、国王と、元帥ロッド・チックを中心に進み、各地方を治める五鳥王(ロイヤルヴァーズ)たちは、一度中王国から自分の城へと帰り、西部は軍団長ジョッジ、南部チック家は元帥ロッドの指揮、北部は兵士長ジン・チックの指揮、そして、中王国は、国王と中将メイ・グランチェ、兵士長レッカ・クロウによる指揮の下、守りを固める編成となった。

 話を聞くところによると、東部は既に反乱軍の拠点となってしまっているらしい。

 五鳥王(ロイヤルヴァーズ)である一人が、魔王軍へ行ってしまったことも関係しているそうだ。

 そして、五鳥王(ロイヤルヴァーズ)と、召喚者である俺の役割は、魔王軍と戦える強さを身に付けることだった。


 会議が終わると、緊張の解れた顔で、ゾロゾロとヒヨリの周りに集まってきた。


「しかしまぁ、あんな小さかったヒヨリちゃんが、禁術の転移術を本当に成功させちゃうとはね!」


 ドープの兄だと話す軍団長、ジョッジ・クロウ。ドープとは違った温厚な眼差し、しかし、少しチャラチャラとしたような口調が目に映った。


「まさか私も、カゲツが現れるまでは、自分が本当に出来るのか不安でした・・・。母の置いて行った本には、私の授かった精霊術でないと出来ないと書かれていましたし・・・」

「その、ヒヨリさんのお母様も、どんな方だったのか気になりますね」


 今度は科学班班長シリアルが口を挟む。

 禁術とされてきた転移術の成功に、みんな興味津々なのだろう。


「何にせよ、これからの魔王軍との戦いでは、カゲツくんの力で大きく左右されるはずでしょうね。魔王も、カゲツくんに興味を示していたとか」


 嫌味なのか本心なのか、どこか掴みにくい口振りでシリアルは続けた。

 そして、未だ緊張感の解けない人物が一人。

 ドープの姉であり、ドープと同じく鋭い目をし、ドープやジョッジとは変わった、赤い髪を乱雑に束ねた、兵士長レッカ・クロウはカゲツを睨みつけた。


「貴様、実戦経験はどのくらいだ」


 正直、メチャクチャ怖い。


「この世界に来たのは昨日の話で、昨日いきなり国王とお会いして、いきなり魔王軍の襲撃に遭って・・・。ヒヨリと一緒にクラウラと戦った一度切りしか、戦闘経験はないですね・・・」


 レッカは少しの沈黙の後に告げた。


「よし、ヒヨリとカゲツは私の下で一度預かろう。軍は国王とメイ中将ならば機能するはずだ。とは言っても、中王国から離れたりはしないから、万が一の際にはすぐに駆けつける」

「ハハハ! そりゃいいな! しっかり姉さんにシゴかれるといいぜ!」


 ドープは他人事のように俺たちを笑ってみせたが、


「ドープ、貴様、魔王軍の強襲の際、何も出来ず一番ボロボロになったそうだな・・・?」

「いや、それは・・・一番勇敢に戦ったと言うか・・・」

「貴様もすぐにシゴいてやる。覚悟していろ」


 ドープは涙目で逃げるようにその場から去っていった。

 気のせいではないだろう。

 ドープは、召喚者である俺のことを()()()しているような気がした。





人物紹介


名前:ドープ・クロウ

年齢:18歳

役職:五鳥王(西部地方統括クロウ家三男)

スキル:地中に潜れる

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