05話 真の能力
ゴォン!
大きな音を立てて、クラウラの炎は俺の身体へと直撃した。
「カゲツ! カゲツ!!」
ヒヨリが必死に叫んでいる。
「無駄な犠牲だね」
魔王軍クラウラは、表情を変えずに言った。
俺の周りは、大きな煙で覆われていた。
本当に、なんなんだろうな、この力は。
「今度こそ、五鳥王、殺すね」
クラウラは容赦なく盾を構えた。
「くっ!」
ヒヨリも剣を構える。
クラウラは盾を大きく振り、炎を放出した、その時である。
「伏せてろ! ヒヨリ!」
煙の中から、俺はヒヨリに向けて叫んだ。
ヒヨリは驚いて態勢を崩す。
炎は真っ直ぐに、ヒヨリへと向かっていく。
「頼む! 出てくれ!!」
俺は煙の中から、クラウラと同じだけの炎を投げ飛ばし、クラクラの炎を打ち消した。
「やっぱりそうだ・・・!」
俺は何度も命をかけて、やっと分かったのだ。
"真の能力"ってヤツが。
煙の中から、ガッツポーズを構えてみせる。
「カゲツ・・・?」
ヒヨリは目を丸くしていた。
「ヒヨリ! 分かったんだ!」
「え、な、何が・・・?」
「俺が与えられた真の能力だ!」
「真の能力・・・⁉︎」
そう。ヒヨリが未知だからこそ期待できると言ってくれた。
その期待に応えられる本当の力。
煙が晴れた俺の後ろから、クラウラはまたしても炎を放っていた。
「あなたも炎魔法。それで防げたとしても、結局は消耗戦。クラの盾には敵わない」
「そいつはどうかな!!」
俺は炎に向けて手を伸ばした。
「カゲツ! ダメだよ! 反乱軍の時も二度目は当たってたでしょ! 今度こそ本当に・・・!」
ヒヨリは涙目で俺に訴えかけている。
しかし、俺の予測は既に確信に変わっていた。
大丈夫だ。
「ヒヨリ、真の能力が分かったって言っただろ? まぁ、見てなって」
本当は怖くないと言えば嘘になる。
もしこの仮説が間違っていれば、俺はこの爆炎に自ら焼き殺される運命を辿るだろう。
しかし、俺はキリッと顔を浮かべ、爆炎に向けて片手を差し出した。
「頼む・・・!」
爆炎は片手の中で爆発し、爆風と共に消滅した。
「大丈夫なの・・・?」
「どういうこと・・・?」
クラウラも初めて表情を変えた。
大正解だ。
特殊能力、そう呼ばれても仕方がない力だ。
だとしても気付かせるまでに時間掛からせすぎだろ!
でもコレなら、使えない力じゃない。
「俺の真の能力、それは・・・!」
俺はそのまま、ピッチャーポーズからのフルスイングをした。
すると、手からクラウラの炎と同じだけの爆炎を放出した。
「やっぱり炎魔法・・・? でも・・・」
答えは否。
たまたま敵さんがみんな炎属性なだけだ。
俺の能力は。
「俺の能力は、相手の魔術をそのまま吸収し、それをそのまま放出する力だ!」
クラウラは急いで盾を構えた。
「俺がヒヨリの盾だ! さあ、消耗戦を始めよう! お前の盾よりも、無敵の盾の登場だ!!」
魔王軍が襲撃してきてから、俺たちの戦闘は一時間にも及んでいた。
いくら俺が敵の魔法を吸収できたとしても、クラウラの炎を全く無効化させられたとしても、クラウラへのヒヨリの攻撃は全て、盾の強化に繋がってしまう。
「クソ・・・! 俺が増えたところで、俺の体力の限界もあるのか・・・!」
結局、マナの膨大な魔術の盾の方が有利なのか・・・?
盾の強化を気にして、ヒヨリも今一歩動けずにいた。
何かあるはずだ。
敵の攻撃をいくら吸収できて、それをそのまま使えたって、同じ攻撃を打たれれば相殺がいいところだ。
本当にこれだけの能力か・・・?
一見凄いように見えるが、やはり同じだけの力じゃ相手に何も牽制なんて出来ない。
俺は思い返していた。
ヒヨリとクラウラはどんな話をしていた?
クラウラに唯一弱点があるとしたら?
自分の中に残ってる可能性は?
能力の底も分からない、魔術の戦い方も、この世界のことも分からない。
なら、小さな情報を積み上げろ。
俺はハッとしてヒヨリを見た。
「そうか! あの一瞬なら・・・」
能力の底が分からない。
そして、炎の魔術以外を吸収できたことはない。
賭け要素が強すぎる。
でも、やらなきゃこのまま負ける・・・!
「ヒヨリーー!! お前のありったけの風の剣術を俺にぶつけろ!!」
ヒヨリは驚いていたが、戦いの経験値ってヤツなのか、すぐに俺の考えを理解し、剣を構えた。
「そんなことしても無駄! 同じように掻き消えて終わりだよ!」
クラウラも盾を思い切り構えた。
「それでいい・・・!」
俺はニヤッと悪い笑みを浮かべ、クラウラに向けて全力疾走をした。
ヒヨリの風の剣術とクラウラの炎の魔術が前と横から同時に押し寄せてくる。
こ、怖え・・・!!
こんなもん、一方でもまともに食らったら本当にお陀仏なんだろうな・・・。
でもここまで運に勝ってきたんだ。
「さあ! なるようになってみろ!」
俺は、風と炎が同時に当たる位置で、思い切り両手を広げた。
風と炎は、俺の手の中で爆風と共に爆発し、大きな煙を上げた。
「流石に二つ同時なんて・・・」
ヒヨリは悲しそうな顔を浮かべた。
ここまで躊躇もなく剣術をぶつけておいて、流石に無茶、とでも言いたげだな。
「ヒヨリー!! ぶった斬れー!!」
無茶なんかじゃねえ!!
煙の中から、俺は尚も走り続けた。
体の中に二つの属性のマナを感じる。
これを器用に投げてる余裕なんてない!
「何をするの・・・!」
クラウラは焦りの表情を浮かべたが、自分より大きい盾を持っていては、全力疾走の俺から逃げることは出来ない。
何故なら俺は、50メートル五秒台の男だからだ!
「一瞬だ・・・! 一瞬だけ!」
俺は轟々と熱い炎纏う盾を、思い切り鷲掴む。
「俺は投げることは出来ても放出することは出来ないみたいだ。だから・・・!」
最初に、体の中を巡る風のマナを、思い切り盾に向けて、手からただ漏れ出させる!
シュオッ!
音を立ててクラウラの炎が盾から掻き消えた。
今。この炎が消えた、その一瞬で・・・!
「食らえ!!!」
次は、クラウラから吸収した爆炎を、炎のない盾に流れ込ませる。
炎は物理攻撃を与えると強化されてしまう。
しかしそれは、自分の炎のマナで、更には物理攻撃をされた時のみに起こる。
なら、炎を纏っていない盾に、強い火力の爆炎をぶつければ・・・!
「やめ・・・!」
クラウラの盾はボロボロと崩れ落ちた。
「大正解! 素材は知らんが破壊できたぞ!」
この一瞬。
次の盾を生み出す前の、この無防備にできた一瞬。
「ヒヨリーーーーー!!」
「分かってるわよ!!」
- 乱風一閃 -
クラウラが強固な盾を失った一瞬、ヒヨリの二本の剣はクラウラをしっかりと捉えていた。
ヒヨリの高速な剣技は、まさに一瞬で、何が起きたのか俺の目では追えなかった。
ヒヨリが通り過ぎてすぐに、クラウラはパタリと倒れた。
「か、勝った・・・んだよな?」
気付いたら俺は、息を切らしていた。
クラウラから血は出てない。
ヒヨリは、魔王軍すら殺しはしないのか。
「あなた、本当に無茶をするのね」
ヒヨリは剣を消し、笑いながら俺を見た。
その微笑みを見てると、俺の心はホッと、安堵していくのを感じた。
「でも、勝てただろ?」
ヒヨリはふふっとまた笑う。
「上出来よ。流石は、私が召喚した召喚者なだけはあるわね」
またしても自分すごい発言。
でも、今だけはそれが、すごく心地よく感じた。
人物紹介
名前:真欧花月
年齢:18歳
役職:ヒヨリの従者
スキル:魔術を吸収し、媒介を要せず、同じだけの放出が可能
技について補足
途中から「ヒヨリが風の剣術を放つ」という表記が当たり前にあり、矛盾を生みそうな場面ですが、ヒヨリの魔術はあくまで精霊によるもので、属性表記は「精霊」となります。
剣自体は別の魔術で創造されています。
創造魔術自体には属性はなく、割と誰でも使える魔術です。(クラウラの盾も同様)
ヒヨリは風の精霊を常に纏っており、高速移動が可能な訳ですが、その精霊を風の魔術として、剣を媒介に放出することは出来ていません。
厳密に言えば、風の精霊をただ剣に宿し、自分で磨いた剣術により、斬撃として放っていることになります。
これは、磨き上げなければ(精霊を宿すのみでは)出来ない技術です。
ちなみに、クラウラは普通に炎の魔術師なので、盾を媒介に炎を放出しています。
魔術を吸収できるとわかったカゲツですが、ヒヨリが風の精霊を剣に纏わず、ただ己の力のみで斬撃を放っていたら、カゲツは木っ端微塵にぶった斬られる結果となりました。