04章 魔王軍襲来
ドォォン!
鳴り響く轟音は、王都全土に響き渡った。
当然、城の近くのトレーニングルームにいた俺とヒヨリも、四方が塞がれているとしても、その凄まじい轟音は聞くことになった。
「何⁉︎ 今の音は!」
ドォン! と、またしても鳴り響き、その揺れはトレーニングルームにも達した。
「五鳥王、発見。処分するね」
困惑する俺とヒヨリの前に、見るからに幼女と言わざるを得ない童顔と身長、黒髪でショートヘアを靡かせる赤眼の少女は、ヒヨリに向けてそう告げた。
「あなた、何者よ・・・!」
「クラは魔王軍、クラウラ・ガードだよ。今から五鳥王を殺すね」
魔王軍と名乗った赤眼の少女は、その細い身体からは信じられない大きな盾と漆黒の防具を身に纏った。
◇
その惨劇は、あまりにも静かに、唐突に現れた。
禍々しい紫色のゲートは、先程まで式が執り行われていた教会内に、突如として無数に開かれた。
「やあ、こんにちは」
バタバタとしていた教会内は、その一言で一瞬にして静まり返ることとなった。
「貴様は・・・魔王・・・!!」
その場には、国王ヴァーズ三世と、西国のドープ・クロウ、北国のキング・スパロウ、南国のアクリム・チック、そして数百名の兵装に身を包んだ兵士たちが未だ滞在していた。
そして、魔王と共に現れたのは、無数の武器を携えた四天王と呼ばれる三人と、側近の一人であった。
「これは挨拶だよ。グラウド、圧力魔術を、ランド、高出力魔術を放て」
「「はい、魔王様」」
グラウドと呼ばれた上裸の褐色マッチョは、片足をズブリと地面に練り込ませた。
「重力弾圧ゥ!!」
グゴォォォ!! と轟音が鳴り響き、魔王軍以外のその場の全員が膝から崩れ落ちた。
そして、もう一人、ランドと呼ばれた紫色の長髪を翻した女性は、徐に大剣を振りかざす。
「雷轟断破ッ!」
立つこともままならない大半の兵士たちを一掃し、そのまま分厚い城壁を破壊した。
「魔王・・・好き勝手やりやがって・・・!」
動いたのはドープ・クロウだった。
ドープはバレないように地中へと潜り、そのまま魔王の懐に潜り込み、思い切り殴ろうとした瞬間。
「甘いよ、ドープ・クロウくん」
ドープは、何をされたのか分からないまま、動けずにその場に停滞した。
そして、頭を掴まれ、地中から引きずり出される。
「クソッ・・・魔王・・・!」
「攻撃とはこうやるものだ」
掴んだドープを、そのまま片方の手で思い切りぶん殴ると、ドープは激しく吹き飛ばされ、城壁へのめり込むように叩きつけられた。
キングは急いでドープを抱き寄せる。
「ドープくん、大丈夫かい⁉︎」
「だ・・・大丈夫だ・・・」
国王は、じんわりと汗を滴らせていた。
「下手に攻撃を仕掛けるな、ドープ・・・」
「すみません、国王・・・」
すると、魔王は両手を広げ、響き渡るようにその場の全員に言葉を掛けた。
「私が今回連れて来たのは三人の戦士。ヒヨリ・ワーヴラーくんの下へは別の戦士を送り込んでいる。さあ、五鳥王の特別な力を見せつけてくれ!」
その言葉を合図に、魔王の後ろにいた三人は臨戦態勢に入った。
「戦わざるを得ないのか・・・」
国王は苦い顔を浮かべる。
「任せてください、なんとかしてみせます」
そう、国王の前に立ったのはキングだった。
「私も、やれるだけやってみます」
次いで立ち上がったのはアクリム。
「こんなもんで引き下がれるか・・・!」
そして、最後に立ち上がったのはドープだった。
城内ではまさに、五鳥王と魔王軍四天王の、壮絶な戦いが幕を開けようとしていた。
◇
そして、舞台はトレーニングルームへと戻る。
俺とヒヨリの目の前に現れたクラウラと名乗った女は、静かに俺たちの反応を見ていた。
「ちょっと待て状況が分からん!」
「言ってる場合じゃない!これは魔王軍の襲撃! きっとさっきの音も、城内で五鳥王を狙ったものでしょう!」
「だったら助けに・・・」
助けに行けるわけもない。
何故ならその五鳥王を狙う魔王軍の一人が、今まさに目の前にいるのだから。
「クソッ…」
「お話は終わった?」
大きな盾を振りかざし、赤眼の少女は、いきなり燃え盛る炎を放出した。
反乱軍や俺が放出した炎の球なんかとは比べものにならないほど、巨大なものだった。
「た、盾から炎が・・・また炎魔法、反乱軍の比じゃない・・・こんなの当たったら・・・」
「カゲツ、大丈夫よ!」
二本の長剣を携えたヒヨリは、二本を同時に構えた。
「五鳥王に選ばれるって簡単なことじゃない。こんな窮地、簡単に乗り越えられる!」
そして、暴風と共に炎を切り裂いてみせた。
炎は、俺の目の前で消え去った。
メラメラとした熱気が伝わっていたのを感じた。
「私も、彼らもね」
そう呟くと、俺に満面の笑みを見せた。
頼もしすぎる。俺は素直にそう思った。
「さあ、大きな盾を真っ二つにしてあげるわ!」
そう言うと、ヒヨリはまたも足に風を纏わせ、尋常ならざる速度で、敵の眼前へと飛び込んだ。
そして、以前のように長い剣を器用に操り、大きな盾に、流れるような一閃を描いた。
「やったのか・・・?」
静けさの中、煙だけが立ちのぼる。
ヒヨリの牽制による煙だと安堵していた俺は、魔王軍の恐怖を、今まさに知ることとなる。
両者の間に、ボオッ! と燃え上がる炎が舞い上がり、ヒヨリはサッと退いた。
盾は、何事もなかったかのようにそこにあり、その盾からは炎がメラメラと燃え盛っていた。
「あなたの剣じゃクラの盾は切れないよ」
ヒヨリの顔が苦くなる。
「今の一撃で全て分かったわ。あなたの盾は炎で強化されている。鍛練と同じで、攻撃のタイミングで炎を纏わせ続けることで、全ての物理攻撃から身を守るのと同時に、その盾の強化へと変換しているのね」
「正解。あなたがその剣でクラの盾を攻撃すればする程、この盾の強度は増し続けるの」
「仮に魔術によってその炎を消し飛ばすことができても、その盾自体は残る。そして、あなたがその盾を握り続ける限り、炎はすぐに灯される」
ヒヨリは冷静に状況分析をしている。
長年の戦いの経験から培われたものなのだろう。
が・・・。
「そ、それじゃあ勝ち目なしじゃねえか!」
ヒヨリは何も答えなかった。
「攻撃の威力は同等みたいだね。クラが攻撃しても、あなたの剣撃に抹消されるけど、あなたの攻撃も何も効かない。これは消耗戦。消耗戦に有利なのって、分かるよね?」
赤眼の少女は表情を変えずに構えた。
「いかに強固な盾を持つか否かだよ」
そしてまたしても大きな炎を生み出す。
メラメラと燃え上がる炎は、一直線へヒヨリへと向かって行った。
ヒヨリはまたしても剣を構える。その顔は、既に勝てない不安感を見越したように見えた。
「クソが・・・!」
俺は、ヒヨリの前に飛び出す。
「カゲツ・・・何をして! 反乱軍の比じゃないのよ! あんなマグレはもう・・・!」
「うるせえ! マグレでもなんでも、一度は無敵になれたんだ! 召喚されたら特別な能力を与えられるんだろ! だったら・・・」
巨大な炎の前で、無防備にも大の字で、ヒヨリの目の前に立っている。
怖くないと言えば嘘になる。それでも。
「その能力、ここで出なきゃ意味ねえだろ!!」
ゴォン!
大きな音を立てて、炎は俺の身体へと直撃した。
人物紹介
名前:クラウラ・ガード
役職:魔王軍四天王
属性:炎
スキル:盾へ炎のマナを補給し、敵の物理攻撃による盾の強化。
膨大なマナから発せられる巨大な炎(技名無し)