表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

迷子になったウルサイ女の道案内

作者: 青丹

変な女につかまった。

今日は最悪だ、厄日だ、早く家に帰りたい。


「聞いてますか?」


怒ったようなそんな声、横には同い年ぐらいの女性、おそらく大学生であろう人が一緒に歩いている。彼女はなかなかの美人だし、通りがかる人々が見たならばデートをしているんだろうとでも思える光景だ。


「…聞いてます…、聞いてますとも」


だが自分の口から出てくる言葉はデートで浮かれたようなクサイ台詞でもなく、ため息混じりの早く解放されたいという思いだけだった。


「本当に聞いているような声に聞こえませんね。あなたのお母様に教えられませんでしたか?人の話を聞くときは目を見て、耳を傾けて聞きなさいと。とくに私の話ですよ、耳を傾けるどころか祈るように聞きなさい」


君は神か、そう突っ込みたくなったがあくまで胸の内にとどめる。目的は争うことではないのだ、自分が今最も望んで願い続けることはただ一つ、この女からの解放である。





そもそもこうなったのも数十分前、取りあえず最初に言っておくがこの女と俺は初対面だ。同じ大学に通っているわけでもバイト先が一緒ということもない。まったくの他人、初対面。


『すみません。道を教えてほしいのですが』


こう言われるととくに用事もなく、自宅へ歩いていただけの人間なら大抵は足を止めるだろう。俺は止めた。


『文化会館までの道を教えていただけませんか?』


女は離れた土地の人間のようで、口で説明してもわからないようだったのでそれならばと道案内をすることになった。文化会館はここからそう遠い場所にあるわけではない、徒歩で行ける距離だ。文化会館は住宅街の中にあり、近くには墓地や公園、図書館、なんでもある中心地となっている。


『ありがとうございます。助かります!』


こんなにうるさい女だとあの時わかっていたら道案内などせずに帰っていたのに。どうして人は見た目で性格がわからないんだろう。







「そもそもアンタ、急いでるんだろ?こんなゆっくり歩いてていいのか?」


「急いでる?私がいつ急いでると言いましたか?」


その言い方がむかつく。


「…あっそ」


「私は急いでいませんので安心してください。それより先ほど話していたことですが、覚えていますか?」


「あ―――」


「デジタル万引きは窃盗罪に当たるかということについてですよ。やっぱり聞いていなかったんですね」


人が言おうとする前にさっさと話を言ってしまう。自分勝手すぎる女だ、急いでないとか言っておきながらまるで時間に急いでいるように話したがる。


今までの話を聞いていてわかったことは女は大学では法律を専攻しており、妙に勉強熱心で人に説明したがるということだ。彼女にはしたくない性格だ。


「デジタル万引きは窃盗罪にはあたらないんです。そもそもデジタル万引きという言葉自体がおかしいんですよ。もしもどうしても罪に当てはめるとしたならば著作権法には該当するかもしれませんね。本の撮影行為自体は道徳的にはいけないことであっても刑法的には裁かれるものではありません。刑法は道徳倫理を裁くことはできませんからね」


そんなことどうでもいい、本心からそう思えた。




そんなこんなを話しながら文化会館の前までようやく到着した。普通に歩けばおそらく10分、だがその倍はかかったような気がする。


「着いたぜ。ここでいいんだろ?」


「はい、道案内ありがとうございました」


そういって女は嬉しそうに笑った。しかしこんな場所に何の用があるのかと周りを見てみたがとくに誰もいるわけではなさそうだ。駐車場にもそれほど多くの車が止まっているわけでもない。


「なんか今日、講演会でもあんのか?」


「講演会?さあ…ないんじゃないでしょうか?私は知りません」


「じゃあ何の用でここに来たんだよ?」


「ああ、それが聞きたかったんですね。最初は私の話もろくに聞いてくれなかったのに…やっと私に興味を持ってくれた!子猫が懐いてくれたようです…」


誰が子猫だ子犬だ。最後まで腹立つ女だ。


「ちょくせつ文化会館に用があるわけではないんです。裏手の御墓です」


「墓?こんな時間に墓参りか?」


「大抵御墓はどこですか?ってきいても誰も答えてくれないんですよ。だから聞き方がわるかったのかなーって思って今回は近くの文化会館はどこですかっていう聞き方に変えたんです」


確かに墓だとたくさんありすぎてどの墓を指しているのかわからない、かといって具体的に霊園の名称を言えるというものでもない。


「それで、文化会館…か」


「そしたらやっと帰ってこれました」


「帰る?」


「はい。これからあなたは家に帰るんですよね。私もそれと同じです」


「家って…墓参りするんだろ?」


「いいえ?私の家です。ずっと迷子になってたまま帰ってこれなかったんです」


わけがわからなさすぎる。何を言いたいのかわからない。

女はそんな俺を不思議そうに見たまま、ようやく一つの結論にたどりついたようだった。言い忘れていた一言を補足するように言った。




「私、死んでいますから」



お墓が私の家なんです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

微妙なホラーという気持ちで書いたのですが、微妙なホラーだったなと思っていただければ幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ