おにぎりは俵型
中学二年の時に母さんが癌で他界して、うちは父子家庭となった。
中学までは給食があったけど、高校はコンビニで買うか弁当を持ってくるしかなかったから、俺は自動的にコンビニ派になると思っていた。
でも高校に入学してすぐ、近所に住む幼馴染で同じ高校に進学した夕のお母さんが、夕の弁当を作るついでに俺の弁当も作ってくれることになった。
父さんにその事を話すと、せめて材料費だけでも出さないといけないだろうと、夕のお母さんに礼も兼ねて挨拶に行ってくれた。
夕のお母さんは気にしないで良いと断ったそうだが、毎日弁当を作るだけでも大変なのだからと父さんもだいぶ頑張ったらしい。
結局コンビニで買うのに比べれば遥かに少ない金額だけれど、毎月材料費を納めることになった。
朝、いつもの時間に夕の家に着くと、玄関の前で色違いの二つの巾着袋を持った夕が立っていた。
「おはよう、今日は優君の好きなおかずだよ」
「ありがと。夕のお母さんにはいくら感謝しても足りないなぁ」
拝むようにして青い巾着袋に入ったお弁当を受け取ると、俺たちは二人並んで登校する。
「そう言えば、夕の家のおにぎりって、いつも俵型だよな」
「うん、三角おにぎりって意外と難しくて、うまく握れないから」
「コンビニで売ってるおにぎりは三角ばかりだから、ちょっと珍しいよな」
「三角の方が良い?」
「俵型の方が家庭の味って感じで良いんじゃね」
「そっか、良かった」
そう言って夕は嬉しそうに微笑んだ。
あれから十年の時が経ち、俺と夕は結婚した。
結婚式の日、夕のお母さんが披露宴の余興で読んでくれた手紙の中で、高校に入ってから弁当を作ってくれていたのが実は夕だったと明かしてくれた。
夕が風邪をひいて、どうしても弁当を作れない日はお母さんが作ってくれたそうだが、今思えばそういう日のお弁当は三角おにぎりだった。
「優君、お弁当できてるよ」
「ありがと、助かるよ」
共働きで夕も疲れているだろうに、今でも毎朝お弁当を持たせてくれる。
「偶にはおにぎり、三角にしてみようかな」
「夕のおにぎりは俵型じゃないと、らしくないよ」
「らしくないって、なんだか変」
「そうか?」
そして今日も俵型おにぎりの入った弁当を持って、俺たちは二人並んで出勤する。