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勇者と魔王の相互作用  作者: 麻美ヒナギ
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<序章>

<序章>


 世界は二つに別れていた。

 二つの世界は戦い、戦い続け、世代を変えて、時代を越えて、それでもまだ戦いの決着はつかず、戦いはずっと続いていた。

 いつの日か、大規模な戦いは行われなくなり、互いの国が選んだ少数代表により戦いは続く。

 そこからまた長い時間が過ぎ、少しずつ少しずつ、戦いは小さくなり形骸化していった。

 ある日から、戦う残りものを、誰かが『勇者』と『魔王』と呼ぶようになった。


 そして決着の時である。


 魔王城、無尽蔵にモンスターを産む『暗い海』に建造された超巨大な球体上の建造物。その最奥に、今世代の勇者が単身で乗り込んできた。相対する魔王も、また一人である。

 勇者が言う。

「魔王、長き戦いの時に決着をつけよう」

「………………」

 魔王は沈黙で返した。

「どうした? 魔王。さっさと戦うぞ」

「いや、その戦うのは良いのですが、勇者………くん。君っていくつ?」

「10歳だ」

「若い!」

 勇者は若かった。

 流石に焦った魔王は言う。

「勇者くん。私と戦うのは、もう少し大きくなってからにしましょう」

「馬鹿にするな! ボクは強いぞ!」

「う、うん、それは認めます」

 魔王は勇者の背後を見た。何十層もある城の壁が切り裂かれている。勇者はここまで壁を切って直進してきたのだ。

「強いなら問題ないな! 戦うぞ!」

「待ちなさい勇者くん。君は、強いからと言って自分より小さい子と戦えますか?」

「………………クッ」

 勇者は言い負かされた。

「強くても君は子供。子供相手に、私は戦えません」

「魔王、そういうお前はいくつなんだ!」

「ウグッッ」

 魔王はダメージを負った。

「に、肉体年齢は二十歳そこそこの中後半………………かな、たぶん恐らく、そんな希望」

「ボクの何倍も生きているのか! すごいな!」

「クッッッ」

 純粋な感想で人は傷付くことがある。魔王も同じであった。

「どうりでおっぱいが大きいはずだ!」

「ああ、胸ね。魔王になる為には、胸が最低でもE以上ないとダメなのよ」

「なんで顔を隠している! やましいことでもあるのか!?」

「この黒いドレスとベールは魔王の伝統衣装なの」

「ところで魔王! 質問がある!」

「え? はい。どうぞ」

 子供の興味はそれやすい。

「こんな大きな城なのに、ここに来るまで誰にも出会わなかった。もしかして、魔王は友達が少ないのか?」

「友達は多いです! 部下は300、幹部なんて八人もいるんですからね! 今日はみんな有給を消化する為に旅行に行ったから留守にしているだけなんですッッ!」

 魔王は早口でまくし立てた。

「ゆうきゅう?」

「勇者くん、有給しらないの?」

「馬鹿にするな! 知らない!」

 子供だから有給を知らないのだろうか、「いや、まさか」と魔王は聞いた。

「勇者くんの世界って、毎週何日お休みをもらえるのかな?」

「休み? 寝たり、死んだりしたら休むぞ」

「祭日的な意味で。こう、みんなで仕事をしない日はあるの?」

「そんなものはない。人間は汗水流して働くのが幸福なのだって、近所のおじいさんが言っていた」

 勇者の世界には有給どころか休日が存在しなかった。

「君の世界って恐ろしいね」

「魔王の世界の方が恐ろしいぞ。あの変な海はなんだ? モンスターがめちゃめちゃ湧いてて気持ち悪い」

「あれはまあ、君らの世界でいう活火山みたいなものよ」

「かつかざん? 知らんけど、よし戦おう」

「そこに戻るのかぁ」

「魔王は何で頭を抱えている?」

 魔王と言われていても良心はあるのだ。子供と戦いたくはない。魔王にも良心があるのだから、たぶん勇者にも良心があると信じて魔王は言う。

「私、実は、今日ものすごく体調が悪くて」

「………………どのくらいだ?」

「立っているのもやっとで」

「座っていいぞ」

「あ、はい」

 子供でも勇者であり、気遣いができるようだ。

 立っていた魔王は玉座に座る。今更だが、それっぽいポーズで足を組んだ。

「立てないのは辛いと思う。ボクも、片足が吹っ飛んだ時は辛くて歩けなかった」

「え、大丈夫なの?」

「一晩、寝れば治る」

「君って凄いね」

「すごいぞ!」

 胸を張る勇者の姿は、やはり子供であった。

「よし、魔王。体調が悪いのならしかたない。ボクは出直す!」

 声大きく元気よく、勇者は踵を返し帰ろうとする。

 最後に一度振り返り、


「明日また来る! 次こそは決着をつけてやる!」


 と言った。

「………………明日も来るのね」


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