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小型蜘蛛

 町へ攻め込むには魔物の森に囲まれているために北上以外の方法はない。

 夜襲をおこなうと言う手も考えられるが、都合が良くなるのはお互い様。

 地形的に罠を配置するには適していないのだから、敵が罠を張るのは闇夜を利用したものである可能性が高い。

 しかし、あからさまに兵を減らしている所を見ると昼間でも関係ない罠なのかもしれない。

 どんな方法かは分からないが、ならば罠であろうと数で踏み潰す。

 それがカスタルデ制圧を任されたデジデリオが出した考えだった。


「何だ?」「人形か?」


 同じくビパドゥレ村とオアラレ村の制圧を任されたトップの者たちに協力を求め、カスタルデの町一本に戦力を集中させた。

 馬でルイゼン領からフェリーラ領へ入り、微かにカスタルデの町が見えてきたところで、兵が隊列を組んで待ち受けているのが見えた。

 報告通り数は以前よりかなり減っている。

 問題は兵たちの前に並んでいる人形たちだ。

 それを見た仲間の盗賊たちの間には訝しむ声が広がっていった。


「へっ! 奴らの罠ってのは人形を使ってのお遊戯だったのか?」


「いっちょ前に防具や武器を持っているが、あれで数が多いと思わせるつもりだったのか?」


「こっちはそんなに目は悪くねえっての!!」


 敵が罠を用意しているという話だったために警戒していたのだが、周囲に何か伏兵を用意しているとか言う様子もない。

 そのため盗賊たちの多くは、敵が人形を兵に見せて引き下がるのを期待しているのだと判断し、嘲るような口調で話し始めた。

 こちらにはスポンサーから望遠の魔道具を与えられている。

 その魔道具を使えば、離れているといっても並んでいるのが人形だということはすぐに分かる。

 擬態のつもりなら浅はかとしか言いようがない。


「デジデリオの考えに乗って正解だったな?」


「あぁ! ギリギリの戦いなんかよりこっちの方が危険が低い」


 敵が何を考えているのかは分からないが、用意されていた罠がこれなら警戒して損をしたというもの。

 ビパドゥレとオアラレを任されていたトップの2人も、興醒めしたように呟いていた。


「奴らを蹴散らして、女と食料を根こそぎ奪い取ってやろうぜ!!」


「いいね!!」


「ギャハハハ……」


 ほとんどの盗賊たちは、勝利を確信していた。

 強制隷属によって、ここにいる全員がスポンサーに絶対服従の状態。

 しかし、略奪で得た物は自分たちの物にして良いと言われているので、ほとんどの者は盗賊としての働きを楽しんでいる様子がある。

 そのため、勝利の確信で品のない言葉が飛び交うのは普通のことになりつつある。


「……待て! なんかおかしくないか?」


 部下たちがはしゃぐような会話をしているのを気にせず、デジデリオは人形を注意深く眺めていた。

 兵に擬態させて敵を退かせるという策は、たしかに昔は意味があったが、望遠の魔道具の開発でほとんど無意味な策になり下がった。

 使い方次第でまだ利用価値はあるが、こんな開けた場所で使うなんて戦略を知らない馬鹿くらいのものだ。

 何かあるのかと見ていたら、デジデリオは違和感を感じた。

 弓を持った人形が動いたように思えたのだ。

 それが進軍継続の躊躇をもたらし、デジデリオは馬の速度を緩めた。


「はっ? 何人形なんかに怖気づいてんだ?」


「行かねえなら俺たちがみんなもらっちまうぞ」


「いやいや! 俺たちが頂く!」


 速度を落とし、進軍の停止を求めるデジデリオの指示に従うのは彼の部下たちだけで、他の者たちは全く耳を貸さない。

 デジデリオが何を気にしたのか分からないが、所詮は人形と少ない兵のみ。

 他の村の担当の者たちは、デジデリオの停止の指示に従うどころか我先にと馬の速度を上げていった。


「ぐあっ!!」「がっ!!」「ぐへっ!!」


「何だ!? あの人形弓を放ってきやがったぞ!!」


「クッ!! 人形にこんな細工してやがったのか!?」


 デジデリオの予想は当たりだった。

 ただの人形だと思っていた物から、盗賊たちに弓矢が雨のように降り注いできた。

 敵の狙いは足となる馬。

 中には直接くらった者もいるが、多くの矢が馬に当たり、乗っている者を振り落とした。

 速度を落としたことで距離があったからか、デジデリオと部下たちには馬にも人にも当たらずに済んだ。

 奴らの狙いが、油断させての人形に細工された弓矢による攻撃だと分かり、盗賊たちは足を失ってようやく虐殺ではなく戦闘なのだという意識を取り戻した。


「ハッ! 所詮馬と数人がやられただけだ!」


「攻めかかれ!!」


「おいっ! お前ら……」


 人形による擬態と思わせての攻撃。

 たしかにこんな細工があるとは思わなかったが、それも分かってしまえば恐れるに値しない。

 馬をほぼやられた他の村の盗賊たちは、矢を受けないように左右に分かれ、兵たちを挟み撃ちにするように進みだした。

 しかし、デジデリオの中ではまだ警鐘が鳴っている。

 もう少し様子を見てから攻め込むべきだと止めようとしたが、馬をやられた他の者たちを止めることはできなかった。






◆◆◆◆◆


「なっ!?」「人形が動いてるぞ!」


 弓による攻撃の後に、体格の良い人形の盾兵を軸にした人形たちが、向かって来た盗賊に攻めかかった。

 ファウストの指示通り連携をとりつつ動く人形に、セラフィーノの兵たちは驚きの声をあげる。

 兵器と聞かされていたが、そんな機能があるとは思っていなかったからだ。


「何なんだ!?」


「こいつら強えぞ!!」


「くそっ!! こんな機械人形見たことねえぞ!!」


 驚いているのは盗賊たちも同じ。

 弓の攻撃だけでなく普通の兵のように動く人形に、脅威すら感じている。

 しかも、その人形たちが強い。

 150cm位の人形たちが、どこにそんな力があるのかと思うくらいの力で攻撃してくる。

 人形たちの連携攻撃で、盗賊たちは1人また1人と仕留められていった。


「このっ!! 何だ!? こいつら中が細工されているぞ!!」


 人形に驚きはしたものの、盗賊たちもやられっぱなしではない。

 盾兵人形のシールドバッシュを躱し、後続の槍兵人形へと剣を振り下ろす。

 それが槍兵人形の腕の部分に当たったのだが、斬り落とすことができず半ばで硬い物に当たった感触が伝わってきた。

 全身木でできているように見えて、何か内部が細工されているようだ。


「くっ!! 盾兵を軸に統率されていやがる!」


「こんな機械人形が作られていたのか!?」


 目で見たり言葉を使っている訳でもないのに、人形たちの連携は完璧と言って良い。

 盾兵人形が盾で敵を止めたと思った瞬間には、剣兵人形と槍兵人形が攻撃の行動に入っている。

 まるで意志が繋がっているかのような反応だ。

 人間のように動いているということは、何かしら機械的な動力が施されているのだろう。

 そう判断した盗賊たちは、ジリジリと後退して連携攻撃を回避しようとする。


「なっ!?」「うぎゃ!!」「がっ!!」


 一定の距離を取ったら、今度は弓兵人形から矢が飛んで来る。

 近寄っても離れても危険だと知った時には、盗賊たちは多くの者が怪我を負い、死人も増えていった。


「頭! これじゃあ全滅もあり得ます! 撤退しましょう!」


「あぁ! 撤退! 全員撤退だ!!」


 警戒心から攻め遅れたデジデリオとその部下たちは、人形たちの連携攻撃に驚き近付くのをやめていた。

 それが功を奏したのか、怪我を負った者は少なかった。

 ばったばったと倒れていく仲間に、このままではいけないと部下の者から声が上がった。

 同じ思いをしていたデジデリオは、撤退の決断をすることにした。

 デジデリオたちの馬は無事のため、動ける者を馬に乗せ、盗賊たちは2人乗りの状態で撤退の行動に移っていった。


「逃がすか!!」


「いえ、追うのは待ってください!」


 全滅させないとまた攻めて来る可能性がある。

 そんなことをさせないためにも、ファウストは後方に控える兵たちに盗賊を追いかけるよう指示を出そうとした。

 しかし、その指示を出すのをレオが止めた。


「何故だ!?」


「大丈夫です! 彼らがどこに向かうかは分かるようにしています!」


「っ!? それは……?」


 このまま逃がしてはならないのは分かっているはずなのに、それを止めるレオのことがファウストは理解できなかった。

 そのため、思わずレオを睨んでしまったのだが、近付いてきたレオが見せてきた物を見て、すぐに文句を言うのをやめた。 

 人差し指の腹の部分に乗った豆粒ほどの大きさの何か。

 パッと見ただけではそう判断するしかない。


「これは追跡用に作った小型蜘蛛人形です。これを密かに数人の盗賊に仕掛けました。離れていても僕なら場所が分かります」


「いつの間に……」


 説明を聞いて、ファウストは驚きと共に寒気がした。

 多くの盗賊が策にハマったが、一部の者は攻め込んで来なかった。

 そのため、こっちが有利になれば逃げだすことは予想できていたが、追いかければバラバラに逃げ出す可能性もあった。

 そうなると、盗賊を掃討することは難しくなる。

 しかし、レオのこの小型蜘蛛人形で本当に場所が分かるのなら、アジトへ戻った所を攻め入るという策がとれる。

 しかも、小型のためバレにくいうえに、バレても追跡機能があるなんて分かりはしない。

 さっきの戦いも人形だけでなんとかできたし、アジトが分かるのも人形のお陰。

 つまりはレオ1人でこの戦いを制圧したといってもいい。

 敵に回したら逃げることすらできないと考えると、ファウストは再度レオの能力に恐れにも似た思いが駆け上がっていた。


『味方でよかった……』


 レオの恐ろしさは感じたが、あくまで敵だった場合のこと。

 その脅威が自分に向けられることはないと分かっているため、ファウストは内心安堵していた。


「セラフィーノ! 兵を集めてくれ! 今度はこっちから奴らのアジトへ攻め込む!」


 アジトが分かるなら、もしかしたら今回の盗賊を仕向けた張本人のことも捕まえられるかもしれない。

 そのため、ファウストはセラフィーノたちと共に盗賊のアジトへ向かうことを指示した。



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