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アルヴァロ

「こんにちは! 坊ちゃん!」


「こんにちは! アルヴァロさん!」


 押し付けられたと言って良い領地について1ヵ月が経った。

 特に困ることもなく、レオは快適に過ごしていた。

 週に1度レオの安否を確認しに来てくれているアルヴァロが、いつもの曜日に島へ現れた。

 船が近付いて来ていたのを気付いたので、いつも通り海岸に出て彼を出迎えた。

 レオは、海岸にたどり着いたアルヴァロと挨拶を交わす。 


「坊ちゃんが島に来てから少し経ちますが、何だか大丈夫そうですね?」


「えぇ、今の所……」


 成人になりたての元貴族が、この島の領主になったと聞いた時は、どう考えても家から切り捨てられたのだと思っていた。

 しかし、この若者はその運命を否定しているかのようだ。

 息子の怪我を治してくれたことに恩を感じて、安否確認にこの島への行き来をする役を引き受けたアルヴァロだが、どうやら死体を見つけるといった嫌な思いをすることはなさそうで安心する。


「運よく家の周りはそれほど強くない魔物ばかりで……」


「……いや、闇猫も結構危険な魔物ですぜ?」


「ニャ~!」


 レオの足下に大人しく座っている黒猫を指差し、アルヴァロはレオの意見を否定する。

 ロイが助けた闇猫の子供は、何度森に返しても翌日にはレオの家に来ていた。

 助けたのはロイなのに、ロイはレオが動かしていると分かっているのか、すぐにレオにも懐いてきた。

 毎日来るので、もしかしたらロイが会った時には親を殺されてしまったのかもしれない。

 レオの家に来るが、子供なために狩りがまだできないのか、毎日少しずつ痩せていった。

 流石にこのままではいけないだろうと、レオの従魔にして飼うことにした。

 元気に育つように、名前をクオーレと名付けた。

 従魔とは、契約をして服従させた魔物のことをいう。

 人に危害を加えさせないようにするためにできたと言われている。


「子猫ですから……」


「そんなもんですかね……」


 闇猫はゴブリンなんかよりも危険な魔物だ。

 特に、夜に遇ったらその名前の由来通り闇から現れるかのように攻撃され、ベテラン冒険者でも大怪我を負うことがある。

 そんな危険な魔物を従魔にしてしまったのだから、初めて見たアルヴァロはかなり驚いたものだ。

 レオもたまたま従魔にしただけのため、なんとなくで理由を告げた。

 アルヴァロもその理由に納得しているようではないが、そのまま流すことにした。


「頼まれていた調味料持ってきましたぜ!」


「ありがとう! 用意しておいたのが無くなって、塩も無くなりつつあったんだ!」


 調味料が入った瓶をアルヴァロから渡され、レオは嬉しそうに礼を言う。

 アルヴァロには週1でここに来ることから、ちょっとした買い物もしてもらっている。

 最近レオが趣味としてハマっているのは料理。

 体がだいぶよくなったため、好きなものを食べられるようになった。

 ベッドの上で、食べられないのに世界中の料理の本を眺めていたのが懐かしく感じる。

 しかし、今は食べられる。

 色々な調理法を覚えていたレオは、食べたかった料理を作ることを始めた。

 そのせいか、調味料の減りが早く、ほとんどなくなってしまった。

 塩に関しては海が側なので作ることができるが、他の調味料はそうはいかない。

 そのため、アルヴァロに調味料を買って来てくれるように頼んでいたのだ。


「後、これを……」


「ん? これは?」


 今回頼んでいたのは調味料のみ、それ以外は無かったはずだが、アルヴァロはレオに指輪らしきものを渡してきた。

 それを渡される理由が分からず、レオは首を傾げる。


「一番安い奴ですが、魔法の指輪でさ!」


「っ!! こんな高いの何で僕に?」


 魔法の指輪とは、時空魔法によって多くの物を収納できる指輪のことだ。

 冒険者はこれを得られて一人前という風に言われている所がある。

 収納できる容量に差はあるが、どんなに安くても王都の一軒家を買うくらいの金額と言われている。

 小型の船で漁をするアルヴァロが手に入れるのは、かなり苦しいはずだ。

 しかも、それをレオに渡してくるのだから驚くのも無理はない。


「失礼ながら、俺は坊っちゃんはすぐに魔物にやられると思っていやした」


「僕もそうなることは考えてた」


 真剣な表情で話し始めたアルヴァロに、レオも真面目に耳を傾ける。


「簡単なお使いと、ここまでの運賃にしてはかなりの金額の物を頂いていやす」


「いや、わざわざこんな役割をしてもらえて助かってますよ」


 週に一回来てもらえるだけでもありがたいので、レオは手に入れた結構な数の魔石を運賃として与えている。

 手に入れたといっても、レオの拠点の家に近寄ってきた魔物を、ロイとオルが倒してくれているに過ぎない。

 ほとんどオートで動いてくれるので、レオとしては苦労した思いはしないため、特に気にせず与えていたのだが、小さいのばかりで高値はつかなくても、結構な金額になっていたようだ。


「これを譲るのは、本音をぶっちゃけると坊っちゃんでひと稼ぎさせてもらいたいんでさ!」


「……すごいストレートだね?」


 強く拳を握りつつ、アルヴァロは熱弁を振るって来る。

 言ってることは俗なことだが、これだけ本音で言われると別に悪いとは思えない。


「坊っちゃんがあれだけの魔石を手に入れられるなら、魔物の素材も手に入れることができるはず、魔石や肉だけでなく、素材になりそうなのも俺に預けてくれませんか?」


「なるほど……それを僕の代わりに売って、手数料+アルファを稼ぎたいってことなのかな?」


「はい!」


 たしかに、魔物を倒しても魔石と食べられる場合に肉を手に入れるだけで、皮や牙など使い道のある素材は捨てていた。

 それらを売ったら確かに稼ぐことができるかもしれない。

 手に入れても保管する場所が無かったので捨てていたが、魔法の指輪がもらえるならその問題も解消される。


「全然構わないよ!」


「ありがとうございやす!」


 ここでは店もないので資金を得る方法がない。

 一応国の領地なので、年に1回税金を支払うように言われているが、それも収入があってのこと。

 何の収入もないのに税を払えなどというほど、国も腐っていない。

 と言うより、期待していないというのが本音だろう。

 ここを開拓していくには、何かしらの収入が無いと他に住む人も出てこないだろう。

 魔石とかもほとんどタダで手に入れているようなものなので、それが資金に変わるなら構わない。

 そのため、レオはあっさりとアルヴァロの思いに応えることにした。

 了承を得たアルヴァロは、笑顔で持っていた魔法の指輪をレオに渡したのだった。


「あっ! そうだ!」


「どうしやした?」


 簡単な契約をして、今回の用事の済んだアルヴァロは帰ることにした。

 昨日もロイとオルは魔物を倒しているため、今回はその分の素材を渡しておく。

 それを売ったお金で生活用の魔道具を買って来てもらうことを頼み、アルヴァロを見送ろうとしていたレオはあることを思いだした。


「ついでに小物細工用の刃物を幾つか手に入れて来てくれませんか?」


「何に使うんですかい?」


「ここには木が一杯あるからね。空いてる時間に売れそうな土産物でも作ろうかと……」


「なるほど! 了解しやした!」


 頼んだのは小物細工を作る時に使う刃物。

 魔物の相手をロイとオルに任せているので、色々とやっていても時間は余っている。

 その時間にロイとオルの仲間となる人形も作っているが、戦闘面では今の所焦っていない。

 人形作りも楽しいが、たまには細工物も作ってみたい。

 売れるかは分からないが、資金を得る方法ができたのだから、やってみてもいいかもしれない。

 レオの考えを聞いたアルヴァロは、納得したように頷き、了承の返事をして船へと乗り込んで行った。


「じゃ、また来週来やす!」


「はい! また来週!」


 沖へと船が進んで行く中、アルヴァロはレオへ手を振って別れの言葉を告げてきた。

 それに対し、レオも手を振って見送ったのだった。



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