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奴隷盗賊団

「失礼します!」


「どうでしたか? 何か情報は得られましたか?」


 領主邸の離れを寝床に利用させてもらっているレオたち。

 その謁見室で待ち受けていると、朝早くにセラフィーノが訪れた。

 昨日捕まえた潜入者から、何かしらの情報を得られたのだろうか。


「申し訳ありません!」


「……どうしました?」


 レオの問いに対し、セラフィーノは直立不動から謝罪の言葉と共に深々と頭を下げてきた。

 その謝罪が何のことなのか分からず、レオはすぐに理由を尋ねる。


「申し上げにくいのですが、お2人に捕まえていただいた潜入者全員が死んでしまいました」


「……どういうことだ?」


 囮としてちょっと危ない思いもして捕まえたというのに、全員死んでしまったなんて聞かされたファウストは若干声が低くなってしまった。

 エトーレの糸で、自害ができないようになっていたというのに、それでも死なれたということは管理の甘さを疑いたくなる。

 この状況でそうなのだとしたら、セラフィーノを隊長にしたメルクリオの信用にも傷がつくような失態だ。

 ファウストが腹を立てるのも仕方がないことかもしれない。


「昨日の内は通常通り質疑応答をおこない、今日からは体罰も含めた尋問を開始する予定でした。しかし、服を脱がせての身体検査をおこなおうとしたところ、全員が苦しみだし、すぐに息をしなくなってしまいました」


「……何だと?」


 質疑応答の後に体罰を含めた尋問、流れとしてはマニュアル通りの順番で決して落ち度はない。

 体罰を尋問、言い換えれば拷問をおこなうために身ぐるみを剥ぐのも別におかしなことはない。

 それで死んでしまうなんて、病気の発作でも起きない限りあり得ない。

 しかも、脱がそうとした人間以外も同時に死んでしまうなんてまともな状況じゃないため、その報告に首を傾げるしかない。


「遺体を調べて分かったのですが、全員が奴隷紋を刻印されていました。そして、以前攻め込んで来た時に倒した盗賊の遺体も奴隷紋が刻印されていた所と合わせますと……」


「まさか……!?」


「えぇ、恐らく……」


「……?」


 奴隷紋が付けられていたというのなら、奴隷紋を付ける際、5人の内誰かが奴隷紋を見られたら全員死ぬようにしていたのかもしれない。

 でないと、全員が一斉に死ぬなんてことはあり得ない。

 セラフィーノに落ち度があるとすれば、その可能性を考えていなかったところだろう。

 しかし、普通の奴隷商はそんな命令をする人間なんていないため仕方がない。

 続いて報告された情報から、ファウストは信じ難いある考えが浮かんだ。

 同じ考えが浮かんでいたセラフィーノは、言葉に出す前に同調の答えを返す。

 レオはまだよく分からず、2人の話を黙って聞くしかない。


「盗賊全員奴隷だと!? この町に攻め込んで来たのが1200人近くいたって話じゃないか! しかもこの町だけじゃない! 他の村に攻め込んでいるのと全部合わせて2600人近くの奴隷を集めるなんて不可能だ!」


 その思いついた考えが信じられず、ファウストは思わず立ち上がった。

 この町に1200人、他の2つの村に700人ずつの盗賊が攻めっている。

 調査から全部が繋がっていると考えられるため、全部で2600人近くの人間が奴隷と言う可能性が考えられた。

 しかし、そこまでの奴隷を集めることなんて余程の資金が無いとできないこと。

 大金を使って集めたのだとしても、盗賊行為をさせるなんてただの無駄遣い。

 村1つ程度の領土で良いのなら、その使った資金を裏金として渡せば、どこかの零細貴族が売ってくれる可能性がある。

 そっちに使った方が安上がりで済むはずだ。


「……無許可の強制隷属ですか?」


「その可能性が高いですね……」


「そんなことしたら即死刑だぞ!? そんな危険を冒すなんて頭がおかしいとしか言いようがないだろ!?」


 資金で集めた人間たちでないのなら、方法は1つだけだ。

 レオが言ったように、どこかから集めてきた人間を強制隷属の魔法で従えることで、巨大な盗賊団を組織したのだろう。

 セラフィーノも同じ考えだったらしく、レオの言葉に頷く。

 その考えにファウストは敵の異常さを垣間見る。

 もしも今回のことで3つの町と村の1つが手に入れられても、王家の調査が入ればすぐにバレて捕まることは間違いない。

 そんなことをして何も得られないのでは、何のためにこんなことをしているのだろうか。


「狙いは領土じゃないのかも……」


「どういうことでしょうか?」


 レオの呟きに、セラフィーノが反応する。 

 どこから来るのかは分からないが、盗賊はフェリーラ領の町や村にしか攻め入っていない。

 そのことからルイゼン領のムツィオが絡んでいる気がしていた。

 そして、王家管轄の群島を得ようとしていたところを考えると、領土拡大のために何か企んでいるという思いをしていたのだが、それが違うということなのだろうか。


「父たちのことで、メルクリオ様は今やクラウディオ陛下からの心象は極めて良い状態です。それはどこの貴族よりも……」


「ただ足を引っ張るのが目的だと?」


「単なる予想ですが……」


 クラウディオが王位に就く前、これまで書類の改ざんやら何やら様々な理由で王家への報告を誤魔化していた貴族は多くいる。

 そういった貴族は目を付けられており、王家への陳情の精査はシビアなものになっている。

 しかし、フェリーラ領からの陳情はすんなり通ることが多いと言われている。

 単なるこれまでのおこないの差でしかないのだが、それを不満に思っている貴族は少なからずいる。

 自分を高めるよりも、他人を引きずり下ろす方が簡単だと思っているのだろう。

 今まさに、ルイゼン領がやろうとしているのはそれと同じことなのかもしれない。

 それにしては大掛かりでリスクの大きい考えだ。

 盗賊が討伐されて、もしもルイゼン領が関わっていることが分かったとしたら、ムツィオの爵位が危ういどころか、これだけの人間を無断で強制隷属したのなら処刑しかありえない。

 ずる賢いムツィオがそんなリスクを負うのか怪しいところだ。


「結局のところ、盗賊を組織しているトップの人間を捕まえて吐かせないとだめかもしれないな……」


「そうですね……」


 ムツィオが関わっているなら、それはそれで構わない。

 盗賊を組織している人間を捕まえて、ムツィオとの繋がりを聞きだせばいいのだから。

 もしもムツィオが捕まれば、ルイゼン家は潰されるかもしれないが、エレナが生きていると報告すれば何とかなるかもしれない。

 さすがに死んだとされたエレナが、ムツィオに協力したと思われることはないだろうから。


「潜入者からの報告が止まったとなると、ここに攻め込んでくる可能性は低いか?」


「いえ、来ないのならルイゼン領との分断を図れてこっちには好都合です」


 盗賊の対策として、ルイゼン領との間で行き来出来ないようにする予定だ。

 もうメルクリオが王家からの許可を得ている。

 それに文句を言おうにも、クラウディオのムツィオへの印象は最悪。

 完全無視をされるだけだろう。


「……なら罠と分かっても攻めて来るかもしれないな」


「はい。兵には警戒を高めるように言っておいてもらえますか?」


「畏まりました」


 潜入者から何の情報も得られなかったのは痛いが、全く何も得られなかった訳ではない。

 裏で強制隷属をした貴族が関わっているのはたしかなため、その者を捕まえて事件の解決を図るしかない。

 フェリーラ領とルイゼン領の南北分断をされる前に何とかしようと、ファウストの言うように罠だとわかっていても攻め込んでくるはずだ。

 そのため、レオは兵に警戒心を高めるようにセラフィーノに頼んだ。

 その指示を了承したセラフィーノは、頭を下げて部屋から退出していったのだった。



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