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組織側

「皆集まったようだな」


 レオが島を出てフェリーラ領の南部へと到着した頃、敵となる盗賊たちはある邸に集まっていた。

 ルイゼン領北東の町にある邸で、上座に座る1人の男が尊大な態度で話始める。

 顔の上半分を隠すような仮面をしており、口許しか分からない

 そのとなりには同じ仮面を被った男が立っていて、この2人が組織のトップに立っているようで、見えている顔の下半分だけで判断できるのは、座っている方はある程度年齢がいっていて、立っている方はまだ若いように見える。

 この謁見室には、3人の男が下座で片膝をついて頭を垂れている。

 そして、3人の男は、2人ずつ側近を連れて来ていて、その側近たちは、それぞれ自分たちの上司の背後で同じく片膝をついて俯いている。


「早速それぞれの現状を報告してもらう。まずはオアラレ班から」


「ハッ!」


 若い仮面の男の方が話始め、対面の一番右にいる男に話しかけた。

 オアラレとは、フェリーラ領南部にある村のことだ。

 この男は、そこの村を担当しているという者らしい。


「我々はこれまで同様オアラレの襲撃をおこないました。ですが、住人を数人殺したところで兵の邪魔が入り引き返すことになりました」


「……分かった」


 オアラレの村は、つい先日も盗賊の侵入が起きた。

 村にはフェリーラ領の兵もいるというのに、警護の隙を付いて侵入にされてしまった。

 そのため、住人に被害が及び、数人が命を失ってしまった。

 盗賊の彼らからすると、今の時点では僅かでも被害を負わせることができれば御の字。

 たいした成果ではないが、それだけでも充分な成果だ。


「次! ビパドゥレ班」


「ハッ!」


 最初の男の報告に、まずまず納得したように頷くと、若い男は次の男を指差す。

 3人の内の真ん中にいる男だ。

 ビパドゥレはオアラレの東隣にある村のことだ。


「我々は兵の警護が厳しく侵入は断念しました。現在侵入経路の捜索をおこなっている状況です」


「チッ! 侵入経路は見つかるのか?」


「……なかなか難しいところです」


 進展なしの報告に、若い男は思わず舌打をする。

 しかし、本来兵の常駐しているようなところへ攻め入れというのがおかしな話だ。

 無謀に突っ込んで、仲間を減らす方が先の事を考えれば不利益のように思える。


「経路がないなら、せめて兵士の1人でも殺してこい!」


「申し訳ありません!」


 苛立たし気な若い仮面の男の無茶な言葉に、ビパドゥレの担当の男は恐縮するように謝罪の言葉を述べた。

 トップのおまけのような存在のくせに、自分は動くわけではないのに好き勝手に言う若い仮面の男のことを、下座の者たちは全員が内心では舌を出していた。


「最後にカスタルデ」


 カスタルデはビパドゥレの村の東隣の町のことで、王都に近い位置にある。

 ここはフェリーラ領と王都をつなぐ街道があるため、一番重要な地と位置付けられており、組織は一番多くの人員を投入していた。


「こちらは少々兵に異変がございました」


「何?」


 呼ばれた一番左にいる男が報告する番になると、部屋の中の者たちは僅かに眉をひそめた。

 兵を派遣して防衛を高めていたようだが、財政を考えればこのままずっと派遣していられるわけがない。

 兵の数を増やして、自分たちの討伐を一気におこなおうとしているのかと考えた。


「兵を退きつつあります」


「増やしたではなく、退いた?」


「はい!」


 短期決戦とばかりに兵を増やして、思い切って攻めて来るのかと思ったが、反対の報告に座っていた仮面の男が思わず問いかけてくる。

 問われた男は、しっかりと頷いて答えを返した。


「……罠の可能性があるな」


「はい」


 フェリーラ領の経済状況を考えると、兵を退かせるには早い気がする。

 そのため、罠だと考えるのは当然のことだ。


「それと……兵に代わり、ファウストという名のギルドの人間が町に入ったとの話です」


「ファウストだと!?」


「どうした? 父さん!」


 続けられた報告に、上座に座る仮面の男が大きな声をあげる。

 あまりの反応に部屋中の全員が驚き、若い仮面の男は思わず何事かと問いかけた。

 どうやら、この仮面の男たちの関係は親子のようだ。


「ファウストの奴があの町に入ったと?」


「はい。噂をしている人間を多数確認したそうなので、間違いないかと……」


「そうか……」


 反応の理由が分からないが、町中に潜入させた人間からの報告のため信憑性は高い。

 カスタルデにファウストが入ったと聞いて、上座の男は口元を怒りの表情から段々と表情を和らげていった。


「クク……デジデリオ!」


「ハイ!」


 上座の男は何かを思いついたらしく、笑みを浮かべた後にカスタルデの担当の男であるデジデリオを指差す。


「罠でも兵が減ったのなら全滅はあり得んだろう。攻め入ってファウストを捕縛し、ここへ連れてこい!」


「畏まりました……」


 何やらトップの男とファウストの間に何かあったようだ。

 盗賊を組織しているくらいだから、何かしらの悪事を阻止されたくらいのものだろうと、下座の者たちは思っていた。

 罠と分かっていても攻め入れなんて命令をするところを見ると、トップの者は戦略の知識が浅いようだ。

 かと言って上の意見を拒否することも出来ないため、デジデリオはその命令に頷くしかなかった。


「捕獲第一を部下に申し渡します」


「あぁ、それでかまわない」


 命令だから攻め入るが、1人をピンポイントで狙って戦う訳にもいかない。

 そんなことをすれば全滅する可能性もあり得る。

 ただでさえ罠かもしれない所に攻め入るのだから、絶対の返事はできない。

 遠回しにできる限りの捕縛を約束することぐらいしかできないことを告げる。

 それくらいは仕方ないと理解したのか、トップの男は納得したように頷いた。


「では、良い報告を待つ」


「「「ハッ!!」」」


 報告も済み、今後のことも話し合われてようやく若い仮面の男から話を終了する言葉が告げられる。

 その言葉を受けた3人の男と部下たちは、この謁見室から去っていった。






「よろしいのですか? 頭……」


「あぁ、スポンサー様の言葉だ」


 邸を出てカスタルデ方面にあるアジトへと馬で向かう最中、謁見室で一緒に聞いていた部下の一人がデジデリオに話しかける。

 それだけで何のことだかを理解したデジデリオは、渋々といった表情で答えを返す。

 言葉では命令に従うようだが、嫌そうなのはその表情で分かる。

 しかし、自分たちが今もこうして生きていられるのは、仮面の男たちによる資金援助があるからだ。

 それがなければ死を待つしかなかった人間たちだ。


「罠と分かっていて、攻め入れなんて……」


「言いたいは分かっている。しかし、俺たちに拒否権はない」


「それはそうですが……」


 仮面の男達の下で動いている盗賊たちだが、元々は盗賊などではない。

 実は彼らは、町を襲撃するために数年前から集められた奴隷たちだ。

 盗賊全員の背中には、強制隷属の紋章が刻印されている。

 そのため、罠と分かっていても命令に従い町へ攻め入るしかないのだ。

 そういった意味で、彼らには拒否権はないのだ。


「せめて襲撃の成功を得るために、少しでも多くの情報を得てくれ」


「ハッ!」


 兵が退いたのは、きっと何かしらの罠があるのは確実だろう。

 これまでの襲撃から、フェリーラ領の兵たちも町の住民の中にスパイが紛れていることは気付いているはずだ。

 どんな罠が待っているかは分からないが、デジデリオは仲間を救う対策を練るために情報を得ることを決め、部下に情報収集を指示した。

 その指示に従い、部下の男たちは馬の速度を上げ、デジデリオよりも先にアジトへと向かって行ったのだった。



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