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王都へ

「えっ? 私も王都へ……?」


「あぁ!」


 レオ暗殺を謀った首謀者であるカロージェロ親子の逃走から2日経った。

 結局、どこの領からも発見、捕縛の報告は上がってこなかった。

 そのため、他国への亡命の阻止が間に合わなかったのだと判断することになった。

 事件も終了したのでレオたちもそろそろ島へ帰ろうかと思っていたのだが、またもメルクリオに邸に呼ばれることになった。

 そして、メルクリオから告げられたのは、王都への招集だった。


「今回のことにより、私とレオに陛下から感謝の言葉と共に報奨を下賜されるそうだ」


「っ!! へ、陛下自らですか!?」


「あぁ!」


 カロージェロたちには逃げられてしまったが、今回のことで多少の役には立ったとは思う。

 しかし、伯爵のメルクリオならともかく、平民の自分に国王と直接会えるような機会があるとは思っていなかった。

 そのため、突然のことでレオは慌てた。


「良かったじゃねえか! レオ!」


「はい。……しかし、どうして……?」


 付き添いで来ていたファウストは、レオが陛下と面会できると聞いて喜んだ。

 ギルマスをしていたこともあり、ファウストは貴族との付き合いは何度もある。

 しかし、国王に会えるようなことは一度もなかった。

 それだけ貴重で幸運な機会が訪れたのだから確かに喜ばしいことだが、レオからするとそこまでの理由なのか首を傾げたくなる。


「宰相のサヴェリオ殿からの話だと、陛下はヴェントレ島に送られたレオのことが気になっていたらしい。どんな人間なのか見てみたいのかもしれないな」


「私を……ですか?」


 その話を聞いて、レオはますます分からなくなった。

 自分がヴェントレ島が領地になったのは前王のカルノの時だ。

 そのため、現陛下に興味を持たれる心当たりがない。


「まぁ、呼ばれているんだから行かない訳にはいかない。明日には出発するから用意してくれ」


「畏まりました」


 どうして興味を持たれたのかは分からないが、ともかく王に呼ばれて行かない訳にはいかない。

 生まれ育ったディステ領の今後のことも気になるし、レオはメルクリオと共に王都へ行くことになった。

 謁見時の礼儀作法とかは一応小さいときに教わっていたので大丈夫だとは思うが、王や他の貴族に失礼なことをしないか不安で仕方がない。


「大丈夫! 出来る限り私がフォローするから」


「ありがとうございます!」


 後ろ盾になるといったのは嘘ではない。

 レオのことも色々と報告を受けているので、心配の気持ちになるのも分からなくもない。

 幼少期から病弱で貴族の集まるようなパーティーに顔を出したことがないため、レオの不安な思いを読み取ったメルクリオは、王都でのフォローを約束した。

 心強い言葉に、レオは少し肩の力を抜くことができた。


「ファウストも護衛の彼らと共に引き続きレオの側に付いていてくれるか?」


「了解しました!」


 護衛として島から付いてきているドナートとヴィート。

 最初にこの邸に来た時からメルクリオと顔を会せている。

 話し合いの最中は別の部屋で待機してくれているその2人と共に、ファウストも王都まで付いてきてくれることになった。

 知り合いがいるだけでだいぶ気分が楽になるから不思議だ。


「では、明日また迎えを寄越すからよろしく」


「はい!」


 島を出た当初は、捕縛者から情報を得たら後はお任せして帰るつもりだったが、どうやらそうもいかないようだ。

 まさか王都にまで行くことになるとは思わなかったが、折角のいい機会だ。

 こうなったら王都も見て島の発展の参考にさせてもらおうと、レオは考えを切り替えたのだった。






「出発してくれ!」


「はい!」


 翌日、メルクリオの指示により、馬車が走り始めた。

 レオはファウストと共にメルクリオの馬車に同乗している。

 御者台の側にスペースがあるため、ドナートとヴィートはそこに座って同じ馬車に乗ってる。

 屋根の上には闇猫のクオーレが待機していて、レオのポケットの中にはエトーレもいる。

 馬車の前後にはフェリーラ領の騎士たちが護衛に着いている。

 事件も解決したのでそこまで厳重にする必要は無いと思ったのだが、盗賊はレオたちが潰した者たちの他にもいるため、いつどこで現れるか分からないための処置だそうだ。


「報告が入った。フィオレンツォが捕縛されたそうだ」


 出発して少しして、メルクリオが入って来た情報を教えてくれた。

 昨日レオたちが帰った後に入った情報のようだ。

 ディステ領の領主邸に向かった兵により、フィオレンツォが逮捕されたということだった。


「兵が来るまで、いつものように女遊びをしていたそうだ」


「……そうですか」


 昔から節操のない男だったが、捕まる寸前までとは呆れてしまう。

 何度も思ったことだが、自分と血が繋がっているのが不快で仕方がない。


「最後まで愚かな人間でしたね……」


「全くだ……」


 父に裏切られたとも知らず、小指の爪ほどの同情があったのだが、それすらもったいなかったと思えてきた。

 レオと同様に思っていたのか、ファウストも同意するように呟いた。


「それよりも、ディステ領の家の者たちはどうなるのでしょうか?」


 すぐに処刑されるフィオレンツォのことはもうどうでも良い。

 それよりも、レオは家に仕えてくれていた者たちのことが気になった。

 ベンヴェヌートと数人の使用人以外深くかかわることはなかったが、彼らには酷い扱いを受けたことはない。

 むしろ、父や兄たちが毎回迷惑をかけて申し訳ないと思っていたほどだ。

 彼らが今回のことに関わっているとは思えないが、もしかしたら関係者として裁かれるのではないか不安になった。


「安心したまえ、家で働いていた者たちは関与していない様子だった。だから彼らにはお咎めは無い」


「……良かったです」


 メルクリオの言葉で、レオは安心したように息を吐いた。

 関係ないのに巻き込まれて捕まってしまったと考えたら、彼らに申し訳ない所だった。


「だが、仕えていた主人がいなくなってしまったのだから、今後の働き口を探すことになるだろうな……」


「……そうですか」


 お咎め無しなのは良かったが、今回のことでディステ家は廃絶の処置がとられる。

 そのため、彼らはいきなり職を失うことになってしまった。

 結局迷惑をかけることには変わらず、レオの表情は曇った。


「まぁ、伯爵領が宙に浮いたんだ。継いだ貴族の中に雇ってくれる者がいるはずだ」


 法衣貴族の中には経営関係で能力のある者もいる。

 先代の王の時はそういった者を放置していたが、恐らくクラウディオは彼らにディステ領を分配するつもりだろう。

 今のディステ領の経営状況を改善するためには当然の処置だ。

 その貴族の中には、使用人の費用を抑えるために、ディステ家で働いていた使用人たちを雇おうと考える者もいるはずだ。

 1から集めたり育てたりするのは、その分資金がかかるから当然の考えだ。


「フィオレンツォの首だけというのがしっくりこないが、他の貴族への見せしめにはなるはずだ。まともな貴族が引き継ぐはずだから、ちゃんと見定めてくれるはずだ」


「そうですね。彼らはあの父たちに仕えていたくらいですから有能な人たちばかりです。きっと働き口が見つかるでしょう」


 これまで父たちのような面倒な人間を相手にしていたのだから、次に仕える相手はきっと楽に働けるはずだ。

 彼らの腕なら必ずどこかの貴族が雇ってくれるだろう。


「後は我々への報酬だが、それは陛下でないと分からんな」


「そうですね。僕は陛下からのお言葉だけでもありがたいです」


「欲がないな……」


 報酬に関しては王が決めることなので、何がもらえるのか分からない。

 恐らくは賞金の贈与だとは思うが、確証はない。

 何がもらえるのか密かに楽しみな自分に対し、レオが偽りない笑顔で王からの言葉だけで良いという。

 その欲のなさに、若い頃の自分を見るような思いがしたメルクリオだった。



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