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手土産

 倒した盗賊たちは指名手配されている盗賊団だったらしく、全員の遺体はまとめてファウストが魔法の指輪に収納していた。

 さすが元ギルマスという所だろうか、多くの遺体を収容できる大容量の魔法の指輪を所持していた。

 生き残りが数人おり、彼らは兵に渡してアジトを聞きだしてもらうつもりだ。

 アジトにはもしかしたら捕まった人間もいるかも入れないし、これまで盗まれた金銀財宝が見つかるはずだ。


「このままアジトをがさ入れすればボロ儲けなんだが、本当に良いのか?」


「構いません」


 ファウストの再度の確認となる問いかけに、レオは躊躇なく頷く。

 確認したくなるのも仕方がない。

 先ほども言ったように、このまま盗賊のアジトを探れば金銀財宝が手に入る。

 こう言った場合、冒険者の間ではアジトの財宝を手に入れてから報告しても何の御咎めもない。

 ここには多くの冒険者もいることだし、アジトへ向かっても危険ではないはずだ。

 レオの言っていることは、大金を手に入れる機会を放棄するというのと同じことだ。


「冒険者の皆さんには申し訳ありません」


「いや、俺たちは依頼者の護衛と指示に従うのが契約になっているんで……」


 アジトへ向かえば全員で分けてもいい稼ぎになることが分かっているので、レオの護衛の依頼に就いてくれた冒険者たちも、本当はアジトへ向かいたいところだろう。

 そのため、レオは彼らに申し訳なさそうに頭を下げた。

 冒険者の中には完全に納得いっていない者もいるようだが、そこは後で依頼料に色を付けることで勘弁してもらおう。

 そもそも、彼の言ったように余程おかしな指示でもない限り依頼者に従うことは、今回の依頼を受ける際の契約書に書かれていた。

 契約を交わしたうえで同行しているので、レオの考えに従ってもらうしかない。


「ファウストさんの言う通りだぜ。レオ」


「金を得て島の発展に使えばよかったんじゃないか?」


 みんな馬車に乗り込み再出発を始めると、ドナートとヴィートもアジトへ向かうことを放棄したレオに忠告をすることにした。

 ヴェントレ島には、僅かながら人が集まりつつある。

 冬の間は食料などの関係から招かないようにしているが、春になれば移住しようという者たちの受け入れを再開する予定だ。

 1人でも多く招き入れるために、資金はあればあるほど望ましいように思える。


「確かに、島のためにも資金があった方が良いでしょう。しかし、だからこそフェリーラ領との関係を深めておくことを優先したいんです」


「……どういうことだ?」


 島のことを考えての忠告だったのだが、レオには何か他に考えがあるようだ。

 それがどんな考えなのか分からず、ドナートは首を傾げる。


「すぐに手に入る資金よりも、メルクリオ様の後ろ盾です」


「後ろ盾……なるほど、島への助力か?」


「えぇ」


 レオの考えを聞いて、ヴィートはなんとなく納得したようだ。

 フェリーラ領の領主メルクリオと関わりを深めることで、島への助力を求めるということなのだろう。


「島は今のところ安定していますが、まだまだ魔物は大量に存在しています。もしも居住地に攻め込んでくるような事があったら、島を捨てて逃げることも考えておくべきです」


「やっと村程度になってきたって言うのにか?」


「もったいないですけどね……」


 島は魔物の氾濫がいつ起こるか分からない。

 レオは、住民の命を第1に考え、もしもの時は島を捨てることも考えている。

 ヴィートの言いたいことも分かる。

 レオ自身もったいないことは分かっている。

 しかし、住人をフェリーラ領に避難させ、一時の間だけでも保護してもらえれば先の事は何とかなるはずだ。

 そのためにも、もしもの時に受け入れてもらうための後ろ盾として、レオはメルクリオとの関係を深めておくことを選んだ。


「それが何でアジトを狙わないことに繋がるんだ?」


 ヴィートと違い、ドナートはそれとこれのつながりが分かっていないようだ。

 そのため、アジトを狙わない理由をレオに問いかけてきた。


「捕まえた盗賊を領兵に渡せば、メルクリオ様はアジトの潜入を領兵に任せることになるでしょう。そうなれば、領兵が手に入れてきた盗賊の財宝は全部フェリーラ領に入ることになります。今回の強制隷属の手土産にしては、大きすぎるほどになると思います」


「その見返りが、後ろ盾って事か?」


「はい」


 今回の強制隷属のことで、レオは最初から何とかメルクリオとの関係を深めたいと思っていた。

 それが、運が良いのか悪いのか、名のある盗賊団を壊滅することに成功した。

 これを利用しない手はないと考えたため、これをメルクリオへの手土産にすることに決めたのだ。

 この盗賊団は、主にフェリーラ領内で盗みを働いていたとのことなので、かなりの手土産になるはずだ。


「それと……、もしもの時にはエレナの保護を頼むつもりです」


「っ!! それはエレナ嬢の生存を教えるということか!?」


「はい!」


 続いて発せられたレオの言葉に、ドナートとヴィートは表情を変えた。

 島ではレオの下についているという形だが、根っこの部分で2人はエレナを守るガイオの部下だ。

 ガイオと共に、エレナの居場所を守るためレオに協力しているという面もなくはない。

 エレナが生きていることが広まったら、今回のように刺客を送り込まれるかもしれない。

 そんな危険なことを起こさないためにも、このままエレナはヴェントレ島内に収めておく方が良いと思える。


「もちろんメルクリオ様に会ってから決めることですが、今回のようなことが起きた時、もっと有能な刺客だった場合守り切れるかまだ疑問です。もしもの時保護してくれる貴族がいれば安心です」


「……その場合、ガイオのおやっさんや俺たちも離れることになるかもしれないぞ?」


「分かってます。そのために今回色々試しています」


 エレナが島から離れれば、島の住人の多くはもしかしたら付いて行ってしまうだろう。

 住人が増えてきているとは言っても、まだ多くは元ルイゼン領の者たちだからだ。

 そのため、エレナを避難させればみんないなくなり、島はスカスカになってしまうかもしれない。

 ほとんどが領兵のような働きをしてくれているので、いなくなれば守りが薄くなる。

 しかし、そうなる可能性も考えて、レオは今回今まで考えていた色々な策を試していた。


「あの人形の軍勢か?」


「はい」


「いつの間にか、かなりの人形を作っていたんだな?」


 レオの策の1つが、大量の人形たちによる軍隊だ。

 以前、ガイオには一般兵くらいの実力と言われたレオの人形たち。

 まだ改善の余地はあるし、強化方法も考えてはある。

 ただ、強化するには資金などの面からまだできないでいる。

 その分数で補おうと、レオは木製人形たちを量産してきた。

 今日使った人形たちは、面食らった盗賊たちを抑え込んだが、数体は一部壊れた者もいる。

 それを見て、人でも魔物でも多くの軍勢で攻め込まれた時に数で補うにはまだ時間が必要だと理解した。

 自分のスキルとガイオたちだけでエレナを守り切れるようになるまでに、もしも攻め込まれた時の間だけでも守ってもらうだけなら、ファウストたちの様子だと信頼できそうな人なので、恐らくメルクリオもエレナのことを黙っていてくれるはずだ。


「だからロイたちを置いてきたのか?」


「はい。ロイたちと同様に魔物退治に使おうか迷ったんですけど、身の安全の確保を優先しました」


 人形を作ったら作っただけ魔物の討伐に使うことも出来たが、島に1人だった時は海賊も警戒していた。

 そのため、全部を魔物に当てるのではなく、魔法の指輪内でいつでも稼働状態にして危険を察知したら使うことをレオは計画していた。


「あれだけいれば、多少の魔物相手でも逃げる時間ぐらいは稼げると思って」


「なるほど……」


 身を隠す場所は、島に着いた時にいくつか確認していた。

 時間を稼いでそのどこかに隠れれば、魔物をやり過ごすぐらいどうということはないため、その時のためにも使う予定だった。


「あっ! 見えてきましたね……」


 レオの考えを色々話しているうちに、フォンカンポの町が見えてきた。

 それに気付いたレオは、話をやめてどんな町かを見ることに専念することにした。



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