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領都へ

「随分奮発したな……」


「しかもタダなんて……」


「島には薬草が大量に生えてましたから」


 ずっと冒険者たちと共に行動していたドナートとヴィートが、治療に当たるレオに話しかける。

 最悪の場合職員寮の建物ごと破壊するということになっていたが、その際逃げるレオの護衛をする予定だったため、職員寮付近に待機して迫る敵を相手にしていた。

 しかし、結局逃走することもなくなってしまい、少数の敵を倒しただけで終わったことで不完全燃焼といったところだろう。

 2人は全然怪我をしていないが、冒険者の半分近くが怪我を負った。

 とは言っても、重傷を負うようなことはなく、回復の魔法や薬で治る程度だった。

 自分を守ってもらうために怪我を負ってしまったのだからと、レオは自前の回復薬を無償で提供することにした。

 余計な出費をしなくて済み、冒険者たちはレオに感謝していた。


「提供するにしても、半額くらい受け取ればいいのによ……」


「自作の回復薬ですし、実は先行投資も入っています」


「……先行投資?」


 冒険者に聞こえない程度の声で、ドナートは不満げに呟く。

 それに対し、レオは無償で提供する自分の考えを答えた。

 レオの答えた先行投資という意味が分からず、ヴィートは首を傾げる。


「そのうち、うちの島にもギルドができるかもしれません。その時に、ここにいる高ランクの冒険者の方たちの誰かが来てくれるかもしれません」


「……看板になってくれるってことか?」


「はい」


 レオの目標は島にギルドの支店を作ることだ。

 ギルドがある町は発展している証拠になる。

 領地を与えられた者ならば、ギルド設置を目標にするのは当然だ。

 以前ファウストとも話したので、ギルマスは決まっているため、あとはある程度の質と数の冒険者の確保だ。

 どの町のギルドでも、実力のある高ランク冒険者を抱えていて、その高ランク冒険者に憧れた者が新しく冒険者になろうと集まってくる。

 ヴィートの言うように、高ランク冒険者はある意味新しい冒険者を集める看板のようなものだ。

 実力も欲しいが、数が多ければ突発的な魔物の大繁殖に対応することができるようになる。

 今のようにロイたちに任せなくても、冒険者に魔物を狩らせ、それで経済が回った方が人が集まるはずだ。

 レオの収入としてはその分は減るかもしれないが、住人からの少しずつ集めた税金で物事に当たればいいため、たいした問題ではない。


「なかなか腹黒いな……」


「……まぁ、可能性は低いですけどね」


 レオを守るために今夜集まってくれた冒険者たちは、ファウストとリヴィオのお陰でランクの高い者たちばかりだ。

 回復薬の提供で印象を良くして置けば、もしかしたらファウストともに島に来てくれるかもしれない。

 若干腹黒いようだが、淡い期待程度の考えなので、そこは気にしないでもらいたい。






◆◆◆◆◆


「追悼ミサも終わり、早ければ明日には領主のメルクリオ様が領都へ戻る頃だろう」


「そうですね」


 敵の襲撃を制圧してから3日経ち、王の葬儀の日を含めて5日経つ。

 ヴァティーク王国では、葬儀の日を含めて5日目に追悼のミサを行うことになっているため、貴族はこの日まで王都に滞在している。

 王都からフェリーラ領の領都フォンカンポへは馬車で1日。

 そうなると、リヴィオの言うように領主のメルクリオが帰るのは、何か都合でもない限り明日ということになる。


「捕まえた奴らを連れて領都へ向かうか……」


「はい!」


 帰ったその日に面会という訳にはいかないだろうが、とりあえずフォンカンポへと捕まえた侵入者たちの輸送を開始することになった。

 そのための馬車を用意したり、護衛の冒険者を集めたりとファウストを中心として行動を開始することにした。


「領都のギルマスには連絡と協力の了承は得られている。安心してくれ」


「ありがとうございました。リヴィオさん」


 領都への移動の準備も整い、出発の日になった。

 ここオヴェストコリナのギルマスのリヴィオとは一旦お別れだ。

 リヴィオから領都にあるギルマスに連絡が行っているらしく、領主の面会日までは捕まえた者たちをそこのギルドに収容してもらうことになっている。

 手配をしてくれたリヴィオに、レオは改めて礼を述べたのだった。


「じゃあな! 行って来る」


「もしかしたら残党が馬車を襲ってくるかもしれない。警戒はしておけよ」


「あぁ!」


 馬車に乗り込む前に、ファウストはリヴィオと挨拶を交わす。

 先日の襲撃で全員倒したととは思うが、もしかしたら残党がいないとも限らない。

 そのため、リヴィオは念のため忠告するが、ファウストもそのことを予想していたため、すぐに頷きを返した。


「出発!!」


「「「「「おう!」」」」」


 馬車は5台用意され、先頭は前方を警戒するために護衛の冒険者たちが乗っている。

 2台目はレオたちが乗る馬車だ。

 レオ、ドナート、ヴィート、ファウストが乗っている。

 若干男臭い状況なのが気になるが、この面子ならかなりの実力者たちでない限りレオに危害を加えることはできないだろう。

 3、4台目は、レオが捕まえた侵入者が縛られて牢屋に入れられた状態でそれぞれ乗せられていて、冒険者もその監視に乗っている。

 5台目は、後方の警戒をする冒険者たちが乗っている。

 この配列でフォンカンポへと向かうことになった。

 御者も冒険者で構成されているので、もしもの時の警戒は万全だ。


「……フォンカンポまではどれくらいかかるんですか?」


 出発して少しすると、窓の外には人の住む家が見えなくなり、森や草原の景色が広がり始めた。

 町から離れれば当然の光景だ。

 そんな景色を眺めていたら、ヴィートはふと気になりファウストに尋ねた。


「3時間程度ってとこだな」


「まあまあきついですね……」


 ファウストの答えに、レオが思わず呟いた。

 一応街道は整備されているが、馬車が結構揺れる。

 馬車なんてあまり乗り慣れていないため、レオからするとこの振動は酔ってしまいそうで心配だ。


「フォンカンポは行ったことないので楽しみです」


「……そうか、ディステ領からだとここの領都に寄ることもないか……」


 馬車酔いは心配だが、レオは領都のことが気になっていた。

 ファウストの言うように、レオはディステ領の実家から南西に移動してオヴェストコリナの港町に着き、そのままヴェントレ島へ向かったため、フェリーラ領のやや東側に位置する領都のフォンカンポへは寄ることはなかった。

 そもそも、寝たきりで実家の町すら碌に見ていないレオは、どういった町が領民にとって良い街なのかというサンプルが少ない。

 ギリギリ村と呼べる程度になったヴェントレ島を、今後どのように発展させればいいかの計画がいまいちハッキリしていない。

 アルヴァロやリヴィオの話だと、フェリーラ領の領主であるメルクリオは善政を敷いているという印象だ。

 父のカロージェロとは真逆なのだろう。

 きっとフォンカンポも良い町に違いない。

 そのため、レオは期待が膨れ上がっていた。


「良い町だぞ。ただ……」


「ただ……?」


 期待しているレオにフォンカンポの町のことを説明をしようとしたファウストだったが、すぐに言い淀むことになった。

 そのことが気になり、レオは首を傾げる。


「いや、これは俺の問題なのだが、領都のギルマスが苦手でな……」


「……怖い人なんですか?」


 話しているうちにファウストの表情が強張ってきている感じに見え、レオはそのギルマスが気難しい人間なのかと感じ始めた。

 ファウストがこんな表情をするのを見たことがなかったため、本当に協力してもらえるのかも不安になりそうだ。


「俺の姉貴だ……」


「……えっ?」


「「プッ!!」」


 別に姉がいることに驚きはしないが、かなりの戦闘力を誇るファウストが怯える人ということが意外だ。

 頭の中でファウストをそのまま女性にした姿を想像したのか、同乗しているドナートとヴィートは思わず吹き出してしまった。


「その方に会うのも楽しみです!」


「そっちは楽しみにするな!」


 ファウストを怯えさせる女性というのが気になり、町と共に会うのが楽しみになった。

 真面目そうな顔で言うレオに対し、なんとなく気分が滅入るファウストだった。



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