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ロイ

「スキルが……」


 14歳のある日、健康状態の確認のために、朝のステータス確認をおこなって驚いた。

 ベッドの上で長時間過ごしている自分にスキルが発現するなんて思ってもいなかった。

 まさかの発現に、レオはすぐにスキルの詳細を確認することにした。


操り人形(マリオネット)、魔力を与えることによって人形を操ることのできる能力か……」


 スキル名から推測しつつ、レオはステータスカードに書かれている詳細を読んでいく。

 それと同時に、これまでベッドの上による読書で積み上げた知識と合わせることにより、もしかしたらこの状況を変えることができるのではないかと思い始めた。


「趣味でしかなかった人形作りがこんなことになるなんて……」


 昔からレオは人形を作ることが好きだった。

 初めは母のために、それがそのまま趣味になっていたのだ。


「まずは、試してみよう」


 スキルの内容は大体わかったため、次は使ってみることにした。

 試しに動かす人形は沢山ある。

 どれほどの大きさの人形が、どれだけの魔力で、どれだけの時間動くのか。

 レオは、人形の素材も替えつつ実験を繰り返した。


「これならもしかしたら……」


 スキルを得て1ヵ月半経ち、実験も最終段階に入った。

 もしもこのスキルを持っていることを父や兄たちに知られたら、どのようなことになるのか分かったものではない。

 そうならないようにするために、申し訳ないが執事のベンヴェヌートにも黙っていることにした。

 あと4か月半もすれば、きっとこの家から追い出されるのがオチだ。

 そうなった時は、冒険者になってこのスキルと共に生きて行くつもりだ。

 元々冒険者は憧れていた職業だ。

 多くの仲間を作り、自由に好きな所へ行くことができる。

 ベッドの上ばかりいた自分からすると、好きなことが出来て羨ましい限りだった。


「やった! これでなんとか光が見えた!」


 最終の実験が成功し、レオは嬉しそうに部屋で1人拳を握った。

 自分の最大の欠点である病弱な体。

 それを改善させるための手段が手に入ったのだ。

 スキルを使うことによって、父に領地を与えると言われた時には、レオは病弱な体はかなり改善されていた。

 そのため、ベンヴェヌートにも大丈夫だということができたのだ。






◆◆◆◆◆


「早速だけどロイ、近場で安全そうな場所を見つけてくれるかい?」


“コクッ!”


 レオのスキルによって動き出したロイと呼ばれた木製人形は、指示を受けると頷きを返し、海岸から島の内部へと向かう坂を上って行った。


「あっ! 釣れた!」


 ロイと言う人形がいなくなってから、レオは海岸で釣りをしていた。

 レオの側には、手の平サイズの小さな布製の人形が2体、周囲を見張っているかのように立っている。

 魔物の警戒用にスキルで発動させたのだ。

 食事は持ってきているが、カバンにはロイも入れていたのでそれほど多くはない。

 待っている間に手に入れられる食料を考えた時、釣りがすぐに浮かんだ。

 釣りもやってみたかったことの1つだし、こんなこともあろうかと、疑似餌を作っていたのは成功だった。

 糸は持ってきていたし、海岸に流れ着いていた流木を使って竿を作るのは簡単だ。

 2匹目の魚が釣れ、レオは笑顔ではしゃいだ。


「あっ! ロイ! おかえり!」


“ペコッ!”


 レオだけなら、この2匹で1食分になる。

 ちょうどロイも帰って来た事だし、レオは釣りを終了することにした。

 帰ってきたロイは、指示通り拠点になりそうな場所を見つけて来てくれたらしい。

 付いてきてくださいと言いたげに、レオを誘導し始めた。


「……魔物が出たんだね? 大丈夫だった?」


“コクッ!”


 ロイの案内に付いて行く途中、ゴブリンの死体が1体燃やされていた。

 ゴブリンとは、人間の幼児と同じくらいの身長をした小鬼の魔物だ。

 繁殖力が高く、世界中で生息を確認されている。

 どうやらこの島にも、例にもれずに生息しているようだ。

 死体を見たレオは、ロイが攻撃を受けていないか心配になって問いかける。

 それに対し、ロイは腰に付けた剣を見せてきた。

 剣で倒したと言いたいようだ。

 死体を燃やしているのはアンデッド化を防ぐためだ。

 動物の死体に魔素が溜まり、ゾンビやスケルトンになって襲って来る可能性もあることから、倒した魔物や動物は焼却処分するのが常識になっている。

 少しの間資金集めを名目に冒険者として活動していたため、ロイも当然のように焼却したのだろう。


「魔石は?」


“スッ!”


 レオに聞かれたロイは、穿いているズボンのポケットから取り出して、小さな魔石をレオに手渡した。

 魔石とは、魔物の体内に存在する魔力の詰まった石のことだ。

 体内にこれができることで魔物へと変化するというと言われている。

 どうしてそれを取り出したかと言うと、魔石は魔道具を動かすための電池としての使えるため、魔物を倒したら手に入れるようにしている。

 魔物の強さによって魔石の大きさが変わり、大きい程魔力保有量が多いため高額で取引されている。

 週1で安否確認に来てくれるアルヴァロへの代金代わりに、魔石を渡すのもいいかもしれない。


「うん! ここなら海岸に近いしいいかもね」


 海岸から西へ2分ほど歩き、3分ほど南へ行ったところに少し開けた場所が存在していた。

 釣りをするなら海岸まで5分程度で行けるし、何といっても180度広がる海の景色はとても美しい。

 ここが魔物が蔓延る島だと忘れてしまいそうだ。


「ありがとうね」


 ここなら魔物の森から少し距離もあるし、何とかなりそうだ。

 良い場所を見つけてくれた感謝を込めて、レオはロイの頭を撫でてあげた。

 顏のない人形なのに、撫でられているロイは何だか嬉しそうだ。


「じゃあ、ここに家を建てよう」


“コクッ!”


 拠点となる場所が見つかったので、レオは早速ここに家を作ることにした。

 そうなると、家を建てるための木が必要になるため、ロイは森の方へと近付いて行った。


“ズバッ!!”


 近くの樹の前に立ったロイは、剣を構えて魔力で覆う。

 そのまま剣を振ったら、樹が一発で切り倒された。


「すごいな……」


 少し離れた場所で見ていたレオは、拍手をしながらロイの剣捌きを褒めた。

 ロイがやったのは、レオから与えられた魔力を使っての身体強化だ。

 魔法で攻撃することにはあまり役に立たない魔力も、このように使うとかなり戦闘で役に立つのだ。

 貴族の場合、幼少期からの訓練で剣技のスキルを手に入れる者が多いが、それと組み合わせるとかなりの戦闘力になることが有名だ。


「これを乾燥させて……っと」


 枝を切りはらった木を、すぐに建物に使えるように乾燥させなければならない。

 そんな時には魔法を使う。

 乾燥させるイメージを持って、レオは木に魔力を注ぎ込む。

 すると、少しずつ木は乾燥していき、建物に使うにはちょうどいい具合の木へと変わった。


「みんなは細かい作業をお願いするね」


“コクッ!”“コクッ!”


 釘がないので、建物は接ぎ木で組み立てることになる。

 レオは設計図を地面に描き、小さい布人形たちに細工をお願いした。

 この人形たちも小さいからと言って何もできない訳ではない。

 スキルの性質上、どんなに離れても主人のレオとは魔力で繋がっているらしく、ロイも含めて人形たちはレオの知識から行動を判断しているようだ。

 つまり、


“シュパッ!”


 細工を任された布人形の手からは、小さいながら風魔法が発射される。

 レオも風魔法が使えるので、この人形たちも使いこなせるようになったのだ。

 ロイの剣技も、書物による知識としてレオは持っている。

 しかし、体調が良くなって日も浅く、実家にいる頃は父や兄の目もあったために訓練することができなかった。

 書物による知識はあっても、体が使いこなせていないというのが実状だ。

 レオの知識をそのまま使えるのは、自分の能力で動いているとは言っても羨ましい限りだ。


「フゥ~……、みんなの協力もあって、ひとまず完成だ!」


 布人形たちは風魔法を使って木に細工をしていき、ロイは樹を切って持ってくる。

 レオは木を乾燥させるのと、細工された木を組み立てることをして、日が暮れるギリギリ前に小さいながらもとりあえず雨風凌げるワンルームの家を作り出すことに成功した。

 1人暮らしなのだから、今はこれで十分だ。


「さて、魚を食べよう」


 そのうち作るつもりだが家の中にはないため、今日は外に石を組んで作った簡易竈で調理をするしかない。

 家完成の祝いとして、レオは今日釣った魚を食べてしまおうと思った。

 持ってきている調味料は少量の塩のみ。

 それでも魚の塩焼きは美味しく、レオは満足した。


「お休み!」


 食事をして腹も膨れたレオは見張りをロイに任せ、家づくりでの疲れもあって早々に眠りについた。



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