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収穫祭と……

「収穫祭……ですか?」


「うん。そんなに収穫できたわけではないけどね」


 いつも通りの朝の畑での作業中、レオはエレナと話していた。

 気温的にはもう秋と言って良い時期で、作物の収穫も終わりを告げようになってきた。

 レオたちが育ててきた作物も、もうすぐ取れなくなることだろう。

 商店街もでき、少しずつ住人を増やしてきたことで、形ながら町として機能し始めたように思える。

 秋にはどこの町でも豊作を祝う祭りが開かれるものだ。

 そのため、収穫量は少なくてもこの島でも開いてみようと、レオは考えたのだ。


「いいですね! 楽しそうですし」


「だよね」


 レオがいたディステ領、エレナのいたルイゼン領でも収穫祭は開かれていた。

 エレナは領主の娘として参加した事があるため、お祭りの楽しさは分かっているつもりだ。

 楽しく踊ったり歌ったりと、市民のみんなが楽しそうにしている様は、こちらも楽しくなる思いだった。

 レオの場合、領にいる頃は家から出ることなんてできなかったため、収穫祭というものを見たことはなかった。

 しかし、市民が毎年楽しみにしている行事だというのは知っている。

 どういうものなのかを知りたいという自分の楽しみもあって、収穫祭の開催を計画しようと考えたのだ。


「みんな新しく来たばかりだし、同じ領出身としても知らない者同士だからね」


「なるほど! いいきっかけになればいいですね!」


「うん!」


 レオが収穫祭を計画したのは、何も自分が楽しみたいからという理由だけではない。

 増えてきた住人はみんなディステ領から逃れてきた者たちばかりとは言っても、知り合いなんていない状況だ。

 新しい土地で新しい仲間と暮らしていく不安もあるだろうし、絆を深めるきっかけになったらという思いもある。

 レオと同じように、エレナもその考えに賛成した。


「よし! 開催に向けて計画を始めよう!」


 参加したことないレオは、祭りを開くことに少し不安に思っていた。

 しかし、エレナの賛成が後押しになり、計画を進めることを決定した。






◆◆◆◆◆


「エレナに相談してよかったよ!」


「そうですか? 私は何もしてないように思いますが……」


 収穫祭の開催をして良かったと、レオは一安心していた。

 住人のみんなは歌や踊りをして楽しんでいて、振るまわれた料理に舌鼓を打っている。

 エドモンドの造ったお酒も出されたのが良かったのか、大いに賑わっていた。

 レオに感謝の言葉をかけられたが、エレナとしては特に思い至る所がなかった。

 収穫祭の開催に賛成したのは覚えているが、それしかしてないため、感謝されても困ってしまう。


「でも、賑わってよかったです」


「そうだね」


 感謝の件はともかく、みんなが楽しんでくれているこの風景はいいものだ。

 そのため、レオとエレナも楽しんでいた。


「エレナ様! こちらへ……」


「えっ?」


 広場のようになっている所で開かれていた収穫祭だったが、住民の演目が一旦止んだところで、エレナがセバスティアーノのエスコートを受けて、中央の舞台のようになっている所へ案内されて行った。

 何をするのか分からないエレナは、不安そうに舞台に立った。


「「「「「エレナ様! お誕生日おめでとうございます!」」」」」


「……えっ?」


 みんなの大きな拍手や指笛などによって、その場が一気に盛り上がった。

 しかし、急なことで主役のエレナは驚きで戸惑うことしかできないでいた。


「あの……、これは……?」


「おめでとう! エレナ!」


 たしかに、自分の誕生日に開催されるのだなと思っていたが、こんなサプライズが用意されているとは思わなかった。

 思わぬことにエレナが照れていると、レオがカートにケーキを乗せて運んできた。


「成人の誕生日だからね。盛大に祝おうとこの日にしたんだ!」


「そうですか。ありがとうございます!」


 レオは、以前セバスティアーノからエレナの誕生日を聞いていた。

 成人(15)の誕生日なのだから、みんなで祝った方が嬉しいのではないかと思った。

 そのため、収穫祭をこの日に合わせることにしたのだ。

 当然みんなにはエレナに気付かれないようにと言っておいたのだが、サプライズは成功だったようだ。

 エレナは少し目を潤ませながら喜んでくれた。


「みんなに祝ってもらえて嬉しいです! ありがとうございました!」


 ケーキに刺されたロウソクの火を吹き消し、エレナはみんなに向かって感謝の言葉をかけた。

 叔父のムツィオに殺されると思い、ルイゼン領から逃れてきた時には、こんな風に祝ってもらえる日が来るとは思いもしなかった。

 そのため、感動も深いものになった。

 泣いてしまっては折角の祭りの賑わいも萎んでしまうのではないかと思い何とか我慢したが、それがなかったら大泣きしている所だった。

 その後、歌や踊りが再開され、大盛り上がりした収穫祭は終わりを告げることになった。






「…………」


 収穫祭が終わり、住民それぞれが家に戻って寝静まったころ、ある1人の男が夜の海岸へと足を進めていた。

 漆黒の服装に身を包み、足音も微かに進めた男は、海岸に着くと周囲を見渡して誰もいないかを確認する。


“ピッ!”


「カァ~……」


 男が懐から取り出した笛を吹いて小さな音が鳴ると、1羽のカラスが男の下へと飛んできた。

 カラスの脚に輪っかのようなものをが付いている所を見ると、恐らく男の従魔なのだろう。

 近くの石に留まったカラスは、大人しく男のことを見つめている。


「……まさか、奴が生きていたとは……」


 自分の仕入れた情報が信じられないことのように呟きながら、男は小さい筒のようなものを取り出し、呼び寄せたカラスの脚へと結び付け始めた。

 カラスは、仲間へ情報を通信するための手段として呼び寄せたのだ。


「よし。行け!」


 手紙を入れた筒を脚に結び付け終わり、男はカラスを飛び立たせた。

 これで手紙を受け取った者が上へと知らせてくれることだろう。


「ギャッ!!」


 カラスが飛び立ったのを確認し、自分もこの島から逃げ出そうと考えたのだが、それは中断せざるをえなくなった。

 飛び立ったカラスが見えなくなる前に、どこからか飛んできたナイフがカラスに突き刺さり、そのまま海へと落とされてしまったのだ。


「動くな!!」


「っ!!」


 周囲には誰もいなかったはずなのに、カラスを殺られたということは何者かに自分が見られたということだろう。

 そのため、男が慌てて武器に手を伸ばそうとしたが、その手が武器に届く前に背中から声がかかった。


「いつの間に……」


 つけられているとは思わなかった男は、思わず声に漏らしてしまう。

 それもそのはず、昨日の深夜のうちに島に侵入したため、住人が1人増えたくらいでバレていないはずだ。

 それに島の内情を探っているような不審な動きをしたつもりもない。


「元は同業の者でしてな……」


「クッ!!」


 首筋に突き付けられたナイフに、いつ殺されても仕方がない状況だと分からせたうえで、背後の者は話しかける。

 返ってきた答えで、男は理解した。

 隠密行動を仕事としている自分に気付かれず、つけられたことからも分かるように、この背後の人間は自分以上の実力を持つ者だということだ。

 まさか、そんな男がこの島に存在しているとは思わず、男は歯を食いしばるしかなかった。


「なんの目的でこの島に来たのですか? 答えるなら命は逃してあげますよ」


「無駄だ。答えるつもりもないし、俺が帰らなければ仲間が気付く」


 同業者ならそんな言葉に乗る訳が無いと分かっているはずだ。

 喋ったとしても、どうせ牢屋で飼い殺しだ。

 そのため男は当然のように提案を拒否した。


「っ!!」


「おっと! ワザと殺されようという気ですかな?」


 首にナイフを突きつけられているというのに、男は武器に手を伸ばそうとする。

 喋らずとも捕まって、何らかの方法で自白させられたら意味がない。

 この状況なら自害しかないと、男はワザと抵抗して殺されようとした。

 しかし、その手には乗らないと、武器に伸ばした手を掴んで砂浜へと組み伏した。


「ぐふっ!!」


「むっ、勘が鈍ったかもしれないですね」


 組み伏せられたと同時に、男は血を吐きだす。

 その様子を見て、捕まえた人間は失敗したように呟いた。


「背後を取られてすぐに毒を飲みましたか……」


 捕まえて歯を食いしばったのは、毒を飲むためのカモフラージュだったようだ。

 血を吐いて動かなくなった男を見下ろしながら、セバスティアーノは呟いたのだった。



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