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住民増

「あっ! 来たみたいですね……」


「結構でかいな……」


 ファウストが帰ってから4日経ち、遠くの海上に船の存在を確認した。

 こちらに向かって来ているということは、恐らく例の海賊をしていたという者たちだろう。

 彼らを出迎えるため、レオはエレナたちと共に海岸で待ち受けた。

 ある程度近寄った海上で船を泊め、小舟に乗った者たちが海岸へ向かってきた。

 遠くにある船を見て、レオは思わず呟いてしまう。

 ガイオたちの船もなかなか大きかったように思えるが、それよりも少し大きいように思える。


「あそこは船による交易がされているからな。船には力を入れているんだ」


「なるほど……」


 海に面した領地であるシェティウス領。

 当然港が幾つもあり、自他国問わずに交易をおこなっている。

 その交易による利益があるため、領民は過不足なく暮らしていけている。

 むしろ、他の地と比べると市民には生活に余裕があるかもしれない。

 船による恩恵が大きいのだから、船に力を入れるのは当然のこと。

 少しでも大きく良い船で海へ出るというのが、信条になっているのかもしれない。

 自分の船と比べられているのが分かったガイオは、レオに説明をしてくれた。


「あの洞窟に入りますかね?」


「あそこはもっと大きくても大丈夫だろ」


 この近くにあった洞窟を、船の整備や修復をするためのドックに改造した。

 洞窟の大きさは、大型船でも入れられるほどの大きさをしているため、今回来た船も収めることは全然平気だ。

 その洞窟に入るか少し疑問に思ったレオだが、ガイオがすぐに否定した。


「あの……皆さん。頭を上げて下さい」


 小舟から降りた者たちは、エレナの生存を確認するなりその場に膝をついて頭を下げた。

 中にはエレナを見た途端、涙を流す者までいた。

 重い空気になっているのを耐えきれなくなったエレナは、彼らに対し頭を上げるように促す。

 このままでは話もできなかったため、レオとしても助かった。


「エレナ様! よく生きていてくださいました!」


「我々はフラヴィオ様、グイド様に大恩ある者たちです!」


 エレナに言われて顔を上げた彼らは、涙を拭いて話し始めた。

 彼らは昔からルイゼン領に住む者たちで、エレナの祖父であるフラヴィオと父であるグイドに助けられた経験を持つ者たちの集まりだそうだ。


「憎きムツィオへの報復のためとはいえ、罪を犯したこと申し訳ありません!」


 グイドが亡くなり、その娘のエレナを死に追いやったことで彼らは怒りが抑えきれなくなった。

 どうにかしてムツィオに報復をしてやろうと考え、同じ思いを持っていたシェティウス男爵と繋がることができた。

 彼との情報のやり取りもあり、ルイゼン領へダメージを与えることができた。

 しかし、所詮苦しむのはムツィオではなく市民ばかり、申し訳ないと思いつつもムツィオの評価を下げるまで続けるつもりでいた。

 しかし、ムツィオは自分たちの討伐を利用して領地拡大を図るつもりだと聞き、しかもそのことで内乱が起きる可能性が出て来たことが伝えられた。

 こうなったら殺されるのを覚悟でムツィオの所へ攻めかかろうかと思っていたが、シェティウス男爵から逃走地を用意してもらえ、その地にエレナが生存しているという話に驚愕した。

 フラヴィオ、グイドへの恩を返す意味でも、エレナを助けるのが自分たちの使命と思った彼らは、すぐに船を偽装してこのヴェントレ島へと向かったのだそうだ。

 恨みを晴らすために行った行為とはいえ、ルイゼン領市民へ被害を与えてしまったことを彼らはエレナに謝罪した。

 自分たちほどではなくても、ムツィオへの怒りを持っている者たちもいる。

 そんな仲間である者たちにも、もしかしたら被害を与えてしまったかもしれないからだ。


「レオ様も我々のような厄介者を受け入れて下さりありがとうございます!」


「その恩に報いるために、我々この島のために懸命に働くことを誓います!」


 レオの簡単な情報もシェティウス男爵から報告を受けているらしく、彼らはすぐさまレオへも頭を下げてきた。

 もしも海賊を匿ったと知られたら、ムツィオに報復を受ける可能性がある。

 兄のグイドから奪い取った領地と爵位とは言っても、ムツィオの爵位は伯爵だ。

 報復を受ければ、下の爵位の者たちだとかなり面倒なことになることは確実なため、海賊の受け入れなど断るのが当然だ。

 それを受け入れたレオの器の大きさに、彼らは恩義を感じたようだ。

 レオとしては少し重い気もするが、この島への貢献を誓ってくれたのはありがたい。


「皆さんはもう、この島の住人です。いまのところここの住人の多くは元ルイゼン領の人たちばかりです。話が合わないということはないでしょう。皆で仲良くこの島の開拓を目指しましょう!」


「「「「「ハイ!」」」」」


 意図したわけではないが、レオも言ったようにここの住人は元ルイゼン領の者たちばかりだ。

 エレナに対する思いも同じのため、揉めるようなこともないだろう。

 海賊をしていたくらいだから魔物を相手にしても大丈夫だろうし、力仕事も問題ないだろう。

 レオとしても、開拓を進めるのに有力な人物たちに来てもらえて嬉しいところだ。

 彼らに期待する言葉をかけると、みんな大きく頷いてくれたのだった。






◆◆◆◆◆


「コルンバーノから報告があります。アゴスティーノ男爵からエレナ様へ、今回のことは申し訳ないという謝罪の言葉を受け取っています」


 いつものようにアルヴァロと共に来たファウストは、レオの家に招かれると早速説明と報告を始めた。

 ファウストの知り合いのコルンバーノに動いてもらい、シェティウス男爵へエレナとセバスティアーノの手紙を届けたこと。

 それによって、エレナたちの生存にシェティウス男爵は喜び、海賊を逃がすことを決定してくれたとのことだった。


「レオにも感謝の言葉を届けるように言われたよ」


「そうですか」


 海賊たちをどこかへ逃がそうにも、アゴスティーノはどこへも送ることが出来なかった。

 それに悩んでいた所だったが、ヴェントレ島なんて聞いたことはなかったが、エレナやセバスティアーノの手紙を読んだ感覚からすると、とりあえずは大丈夫な所なのだろう。

 そう思い、アゴスティーノはこの島へ送ることに決めたとのことだ。


「ちゃんと情報を提示したら、みんなを送って来なかったかもしれないですね……」


「結果オーライだろ?」


「……そうですね」


 コルンバーノもヴェントレ島のことを知らなかったのは、もしかしたら良かったのかもしれない。

 この島の周辺の領地を持つものなら、ここが魔物の多い危険な地だと分かっていたはずだ。

 もしもこの地のことを知ったら、アゴスティーノは彼らを送ることを躊躇っていたことだろう。

 貴族の3男が、成人をした時に与えられた領地という認識しかなかったのではないだろうか。

 ファウストの言うように、結果的にはどちらにも良いように終わったので、レオも良しとしておくことにした。


「そう言えば、元ルイゼン領の人間が多いとか思っているだろうが、開拓が進めば他にも連れて来れる人間がいるからな」


「えっ! そうなんですか?」


 自分で言うのも何だが、この地へ来たがるような人間なんて脛に傷を持つ者くらいしかいないように思っていた。

 そのため、レオは驚いたのだが、ファウストの口ぶりだとまだ当てがあるような感じだ。

 

「お前とも縁がある。ディステ領から逃れた者たちだ」


「えっ……?」


 ディステ領の住民が流出しているという話は聞いていたが、レオは病弱だったことから外に出ることもなかったため住民との係わりはない。

 自分を追って来てくれるような人間なんて心当たりはなかった。

 そのため、ディステ領の住民が来てくれると言われてもピンと来なかった。



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