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了承

「海賊がですか……」


 ファウストと話していたさっきまでの話を聞いて、エレナは小さく呟く。

 ことはルイゼン領の話なので、レオたちはエレナたちにも聞いてもらうことにした。

 自分たちが住んでいた領地で起きている出来事を知って驚いているようだ。


「でも、そいつらのおこないは失敗だな……」


 エレナと共に一緒に聞いていたガイオは、海賊たちの行いによってムツィオの領地拡大を図る機会を与えることになってしまっていることに辛口な意見を呈する。

 たしかに、ムツィオへのダメージを与えようと考えた気持ちは分かるが、それが逆に利用される形になってしまっているのでは完全に失敗していると言って良い。


「裏にその海賊に助力している者がいるのではないかという話ですが、セバス。心当たりはありますか?」


「……恐らく、シェティウス男爵が有力かと……」


「シェティウス男爵……」


 エレナが死んだということになり、怒りを覚えているルイゼン領傘下の貴族は何人もいるだろう。

 貴族には後継者争いなんてものはつきものだが、全員が全員黙っている訳もなく、このようなことが大なり小なり起こっても不思議はない。

 その中でも、エレナの父であるグイドが領主をしていた時、特に仲の良かった者は納得いっていないことだろう。

 そういった人間が、今回のことを起こしている可能性が高い。

 領地経営に関わって来なかった自分にはその心当たりはないが、父にも付いていたセバスティアーノなら分かるのではないかと思いエレナが尋ねると、側にいたセバスティアーノが少し間をおいて1人の貴族の名前が挙げた。 

 その名前に、エレナも合点がいったように呟いた。


「どんな方ですか?」


「父と特に仲が良かった方です。父とは幼少期からの知り合いで、弟のような存在だと仰っていました」


「しかも、男爵の領地はその海賊が出る群島に近いですからね……」


 ファウストの問いに対し、エレナとセバスティアーノから男爵だと思う理由が話された。

 その話を聞いて、この場にいる者たちはみんなそのシェティウス男爵が関わっているという思いになっていた。


「ここにいる人間が思いつくのですから、すぐにムツィオも気付いたのでは?」


「証拠がないからというのもあるし、もしかしたらなんとなく分かっていて放置したのかもしれないな……」


「領地拡大のためですか?」


「あぁ……」


 証拠がなければ断罪することはできない。

 その男爵と海賊のつながりを証明しない限り、いくら爵位が上であろうと手出しはできないだろう。

 そう言った意味で男爵は上手く動いているのだろうが、それを利用される形になってしまった今では困ったことになっている。

 南の群島の問題はこの島に影響を及ぼすことはないが、南の領地を持つ貴族たちで争いが起きれば、国全体にその火種が飛び火するかもしれない。

 そうなると、ルイゼン領の北に位置するフェリーラ領に被害が及び、そこと関係のあるこの島へも影響が出るかもしれない。

 内乱で国が疲弊すれば、他国からの侵攻すら考えられるため、それは何としても抑えたいところだ。


「どうしたらムツィオの海賊討伐を阻止できるかですね……」


「そこで俺がレオに言った提案だ」


「海賊を領民としてここに呼び寄せるということですか?」


「その通り」


 この内乱になりかねない王族の領地となっている群島への海賊討伐作戦だが、それを収める考えがファウストにはあるらしい。

 それがさっき言った海賊をここの領民にしてしまうという考えらしい。


「どうしてそうなるのですか?」


 領民を増やしたいということはたしかにファウストに相談していたが、海賊を領民にするという提案が出るのか不思議だ。

 それに、そうすることでどうして内乱になることを防げるのかが分からない。

 

「ムツィオは海賊が出るから群島へ討伐隊を向かわせることを王へ願い出た……」


「その海賊が出なくなれば、兵を送ることも出来ないということですか?」


「あぁ!」


 問題は海賊が出ることで、それを退治に向かっても存在しないとなったらどうしようもない。

 ギルドへの討伐依頼金を損させるだけになってしまうが、集めた船や冒険者たちなどのことも考えると、それでもまあまあの出費になるはず。

 それでムツィオの狙いを防げるのだから、シェティウス男爵には何とかそれで我慢してもらうしかない。


「その海賊も、グイド様やエレナ様のことを慕う者たちのはず。ここの者たちとも揉めるようなことはないのではないか?」


「そうですね……」


 シェティウス男爵のおこなっているのは、エレナを死に追いやった怒りをムツィオへぶつけているに過ぎず、助力を受けているとなると、その海賊たちも男爵の考えに共感して略奪行為をおこなっているに過ぎないのかもしれない。 

 ことを収めるためにも海賊たちには姿を消してもらう。

 このヴェントレ島なら動機となったエレナたちがいるため、たしかに揉めることはないかもしれない。


「レオさん! 私からもお願いします。彼らをこちらへ引き入れることを許可してください!」


「……分かりました。彼らを受け入れましょう!」


 出来れば揉め事にならない者たちの方が良いが、内乱を止めるためなら仕方がない。

 ここの島に来る人間なんていないだろうし、エレナたち同様隠れ住むには適している。

 ここに避難してしばらくすれば、ほとぼりも冷めるはずだ。

 元々領民が増やせるなら、来る人間にこだわるつもりはないため、レオはエレナの頼みを受け入れることにした。


「しかし、どうやってシェティウス男爵を抑えるのですか?」


「俺の知り合いを使ってエレナ様の生存を伝えれば簡単だ。そのために、生存している証拠に出来る物がないでしょうか?」


 海賊と繋がっているなら、シェティウス男爵に接触すれば抑えることも可能だろう。

 しかし、レオには手出しができない。

 ファウストにはルイゼン領内に知り合いがおり、その者に頼めば男爵に接触することはできないことではないらしい。

 後はエレナが生きていることをどう証明するかだ。

 そのため、エレナに対し、その方策の助言を求めた。


「私の手紙ではいかがでしょう? 男爵には何度か書状を送ったことがございます。筆跡を鑑定すれば私のものだと分かると思われます」


 グイドと仲が良かったため、エレナも知らない仲ではない。

 姪のように扱ってもらっていたという思いがある。

 しかし、生存を証明するといってもどうしていいか分からない。

 そんなエレナではなく、側にいたセバスティアーノの方から提案がされた。


「エレナ様と共に船で逃れたのは男爵も分かっていると思います。私が生きていると分かれば、エレナ様の生存も信用なさるのではないでしょうか?」


「なるほど……、じゃあ、セバスさん。お願いします」


「了解しました!」


 男爵がセバスの書状をまだ保管しているかは分からないが、残っていれば確かに筆跡で分かってもらえるだろう。

 ムツィオのこともあるので、エレナの生存は秘匿としてもらい、何とか海賊の逃走を計ってもらいたい。

 セバスティアーノの手紙で納得してもらえれば、時間もないためすぐにでも動いてもらえるだろう。

 そのため、レオはセバスティアーノに男爵への手紙を書いてもらうことにした。


「エレナも書いてもらえる? セバスさんの手紙に本人の物も付け加えれば、信用度も上がると思うし……」


「はい!」


 手紙をやり取りしたことのないエレナだけだと信用されないかもしれないが、セバスティアーノの手紙もあるなら信用される割合も高い。

 最悪セバスティアーノの手紙だけでも信用されれば何とかなる。

 それに、セバスティアーノの手紙を信用してもらえた時は、エレナの手紙も本物だと思てもらえるかもしれない。

 そうすれば、男爵のムツィオへの報復も治まることだろう。

 エレナの味方は残っていてもらいたいという思いもあり、レオはエレナにも手紙を書くようにお願いした。


「後は任せな! この手紙をシェティウス男爵へ届けさせる!」


「お願いします!」


 海賊の討伐は王からの了承を得れば数日のうちに開始されるだろう。

 そうなる前に男爵に接触し、海賊をこの島へ逃れるように説得する必要がある。

 エレナとセバスティアーノの手紙を受け取ったファウストはレオに見送られて、アルヴァロと共にすぐさまフェリーラ領へと戻っていったのだった。



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