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酒造り

「酒造りといったが、どんな酒が望みだ?」


「う~ん……」


 エドモンドが島に住むことになり、島のみんなは喜んでくれた。

 ドワーフの造る酒が、こんな島で飲めると思ってもいなかったからだろう。

 ただ、喜んでいたのはやはり男性の方が多かったようだ。

 女性陣も飲まない訳ではないが、たしなむ程度しか飲まないからかもしれない。

 エドモンドに来てもらったのはお酒造り、早速その仕事にとりかかってくれることになったのだが、どんな酒を造れば良いのかと言われて、頭を悩ませた。


「僕は成人になったばかりで、お酒をよく分からないので、島にある食材をなるべく使ってほしいということしか言えません」


 本を読んでいたためにいくつかのお酒の造り方は分かるが、実際に作ったことはないのでエドモンドに任せた方が良いだろう。

 それに、酒を飲んだこともないので、レオはどの酒が美味しいとかはっきり言って分からないし、材料もどれだけ使うかも分からないので、現在育てている食材を使って造ってもらうしかない。


「じゃあ、まずはこの島で育てているもんでも見せてもらおう」


「はい! 案内します!」


 昨日は島の住民のことを紹介したりすることで時間を使ったので、畑で何を作っているかなどかは説明していなかった。

 何があるか分からないのでは何も始まらない。

 そのため、レオはエドモンドに栽培している畑を見てもらうことにした。


「……どうですか? 何か使えそうなのはありましたか?」


「そうだな……」


 畑だけでなく、島に自生していた果物もいくつか紹介した。

 ここはレオが来るまで無人島だったが、それまで誰も住んでいなかったいという訳ではない。

 魔物によって潰されたが、数人が住んでいたということは資料として残っていた。

 そのため、その時植えていたであろう果物の樹木もあるが、手入れされなくなって野性化したせいかどれも味はいまいちだ。

 酒造りに使うにしても、この時期だと桃くらいしか食べられるのはないだろう。


「基本酒ってのは糖質のある物からならできるもんだが、今多くあるジャガイモから酒でも造るか……」


「ジャガイモからお酒が造れるのですか?」


「あぁ、アクアピットって蒸留酒だ」


 酒造の知識が少しはあったが、さすがにジャガイモからお酒を造るということは聞いたことがなかった。

 まさかの食材の酒に、レオは驚きの声をあげた。

 その後のエドモンドの説明によると、ジャガイモを酵素や麦芽で糖化させて発酵し、蒸留したものに香草で風味付けしてから、再度蒸留したお酒だそうだ。

 この島で主食になる物として多めに育てていたジャガイモが、ここで役に立つとは思わなかった。


「流石ですね……」


 酒の種類なんてたいして知らないレオからすると、思いつかない種類のお酒だ。

 エドモンドの提案に、レオは思わず感心した。


「女性に向けてはシードルを試してみるつもりだ」


「あのリンゴでですか?」


「あぁ……」


 シードルならレオも知っている。

 リンゴ果汁を樽に入れて自然にアルコール発酵させた発泡性の醸造酒だ。

 甘めの味がすることから、女性の人気が高いお酒として有名だ。

 飲み水の衛生面で不安な地域は、アルコール度数の低いシードルを飲み水としている所もあるそうだ。

 ただ、1つ問題があるとすれば、この島に生えているリンゴがどんな味をしているのか誰も分からないと言う所だ。

 桃と同様に誰かが植えたのだろうが、手入れされていないので、実がどんな味になっているか分からない。

 桃を食べてみたが、香りはあっても味は全然美味しくなかった。

 食用にはあまり使えそうもないので、酒に使うことも出来ないだろう。

 リンゴも同様に美味くなかった場合、どうするのだろうか。


「リンゴは使えますかね?」


「さっきも言ったように、酒は大体の物から作れる。毒さえ入っていなけりゃ何とかなるだろ……」


「そうですか……」


 野性化しようと毒のあるリンゴなんて見たことはない。

 そのため、危険なことはないだろうが、美味しくないリンゴで美味しいお酒が造れるのかが不安になって来るところだ。


「数年経てばブドウが取れるようになるだろ? それまでの代わりといったものだな……」


「なるほど……」


 島にはブドウの樹がなかったため、レオはアルヴァロにワイン用のブドウの苗を手に入れて持ってきてもらった。

 その苗からブドウが取れるまで、代わりに色々試してみるという思いが強いらしく、エドモンドは住民が楽しめる程度の品質しか求めていないようだ。


「誰か俺の左腕の代わりになってくれる人間はいないか?」


「ビス! 人間は居ませんが、この子をお貸しします」


「……便利な能力だ」


 酒造りに関わらず、片腕のエドモンドは何かと不便を感じることだろう。

 そのため、レオは彼の作業を手伝うための人形を用意した。

 元々はロイたちと共に魔物の警戒にあたってもらうつもりだったが、エドモンドを手伝ってもらうことにした。

 自分を知ってもらおうと、レオはエドモンドへ自分のスキルを教えておいた。

 他のみんな同様にロイたちを見た時は目を見開いて驚いていたが、彼はすぐに構造を探り始めた。

 ドワーフは細工作業も好きだという面もあるせいか、どういう原理で動いているのか気になったようだ。

 ハッキリ言って、レオ自身もどういう原理なのかと問われても、そういうスキルなのでとしか言いようがない。

 ただ、エドモンドが少しはレオに興味を持ってくれたようなので、見せてよかったと思う。


「エドモンドさんの指示で働いてね」


“コクッ!”


 基本的に、人形たちはレオの言うことが優先として動いている。

 しかし、他の言うことを全く聞かないという訳ではない。

 耳がないのにどうやって判断しているのかは分からないが、どうやら言葉は伝わっているように感じる。

 そのため、レオは言葉という音の振動を、人形たちは魔力を使って判断しているのではないかと考えている。

 なので、他の人の言うことに従って動くことも可能なため、ビスをエドモンドの補佐に付けることにした。


「ここにはトマトも多いな……」


「はい! 僕がトマト好きなので!」


 ジャガイモのお酒であるアクアピットを造ってもらうため、まずレオはビスと共に材料となるジャガイモをエドモンドの住む家兼仕事場に運んでいた。

 籠一杯のジャガイモを運んで行くと、エドモンドが畑のトマトを見て呟いてきた。

 ここの住人のために植えているとは言っても、結構な量のトマトが生っているのが気になったようだ。

 それに対し、レオはとても嬉しそうな笑顔で答える。

 自分が1番好きな野菜が気になってもらえただけで、満面の笑みだ。


「トマトでも造ってみようかと思ったが、やめておくか……」


 エドモンドとしては、ただ酒の材料になりそうだから見ていただけだ。

 しかし、レオが好きかどうかはどうでも良いとして、この村で出された料理にはトマトがふんだんに使われていたのを思いだした。

 サラダを食べた時に美味かった記憶がある。

 酒に使おうかと思ったが、使い過ぎたら食事に影響が出そうで不安になったため、酒に使うのはやめておこうと考えを改めた。


「えっ!? トマトでも造れるのですか?」


「トマトには甘さがあるんだからできるだろ?」


「そうか! じゃあ、試しに少量造ってもらえますか?」


「……あぁ、分かった……」


 トマトの酒と聞き、思わずレオは食いついた。

 色々なトマト料理にハマっているせいか、レオはトマトの酒を飲んでみたいと思ったようだ。

 予想以上のレオの反応に押され、エドモンドは思わず了承してしまった。 


「楽しみです!」


「……そうか」


 トマト酒だけでなく、どの酒を造るにしてもまだしばらくかかるというのに、レオは期待が膨らみ待ち遠しそうだ。

 思い付きで言ったただけなのに造ることになってしまい、レオの期待した顔を見たら断れなくなってしまった。

 そのため、エドモンドは余計なことを言ってしまったと若干後悔したのだった。



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