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海賊狩り

「……何でそう思うんだ?」


 急に自分たちのことを海賊ではないかと尋ねてきたレオに、ヴィートは質問で返す。

 若干険しい表情をしているのは見抜かれたからなのか、それとも海賊の疑いをかけられて腹を立てているからなのかは分かりづらい。


「この島には噂がありまして……」


「噂……?」


 質問を返されたレオは、どうして彼らを海賊なのではないのかと思うようになったかを答えることにした。

 とは言っても、ただ単純に思っただけのことなので、たいした理由ではない。


「ここは魔物の巣窟と海賊が休息所にしているという噂がありました。船員の皆さんはここに来たことがあるようですし、もしかしたらと思いまして……」


 ガイオも船員の者たちも、ここが魔物の巣窟だということを知っているかのような会話をしていた。

 たしかにその通りなのだが、エレナのいたルイゼン領からはこの島は結構離れている。

 商船が通るにしても近付くこともないため、魔物が多いと知っているというのは、立ち寄ったことのある人間である可能性が高い。

 ここに立ち寄るのは海賊くらいのため、もしかしたら彼らも海賊なのではないかと思ったのだ。


「それだけの情報で海賊だと思ったのか?」


 噂だけでなく、自分たちの会話などからその推理を導き出したことに感心する。

 たしかに、その噂と会話を聞いていたらそう思われても仕方がない。

 そうなると、他にも何か原因がなかったか気になってきたヴィートは、興味からレオに尋ねた。


「いや、失礼ながらみなさん人相が……」


「ハハッ! 確かに人相がいい連中じゃないもんな!!」


 レオが少しためらいがちにもう1つ海賊ではないかと疑うようになった理由を言うと、ドナートは笑い出した。

 そんな単純な理由で海賊だと疑われるとは思ってもいなかったようだ。

 たしかに船員の中に人相の良い人間なんているように思えない。

 レオの言うことも尤もだと思ったらしい。


「その中にはお前も入っているんだぞ?」


「…………」


 笑っているドナートだが、何だか自分のことを抜かして笑っているかのような反応だ。

 それが気になったヴィートは、思わずツッコミを入れる。

 ヴィートのツッコミを受けて、自分で自分のことも人相が悪いと笑っているのと同じだということに気付き、ドナートは笑顔が消えた。


「でも、皆さん海賊っぽくない感じもしますし、どっちなのかな? と思いまして……」


「なるほど……」


 レオとしても、別に彼らを海賊だと断定している訳ではない。

 ただ、もしかしたらという思いから確認をしたかっただけだ。

 そのレオの考えを聞いて、ヴィートは納得したように頷いた。


「レオの最初の質問に答えるなら、俺たちは海賊ではない」


「そうですか。良かったです」


 もしも彼らが海賊で指名手配などでもされているようなら、エレナのことはともかく、国に報告をしないといけないことになっていたかもしれない。

 そうなるとエレナのことも生存もバレるかもしれないため、どうしようか悩ましいことになる所だった。

 海賊ではないとドナートに言われて、レオは安心したように息を吐いた。


「……ただ、一部の者には海賊だと思われているかもしれないな」


「俺たちは海賊狩りをしていたからな」 


「海賊狩り……?」


 安心したレオにドナートが続きを話し、それにヴィートが補足した。

 話を聞いてみると海賊が出たという噂は本当で、それを潰すために彼らが動いていたということだ。

 そのためには海賊だと思われることもしなければならかったために、海賊と思っている人間もいるということらしい。


「ガイオのおやっさんが、お嬢(エレナ)のお父君であるグイド様に依頼されておこなっていたことだ」


「海賊のほとんどを削ったが、グイド様などのこともあってそれどころではなくなったがな……」


 領主であるグイドに依頼されて海賊を狩っていたが、グイドの死からそれどころではなくなった。

 エレナを逃がすことに協力をすることになって、ここに来ることになったらしい。


「やっぱりエレナを守る気持ちは本心だったようですね」


 海賊、海賊でないにしても、彼らがエレナを守ろうとしていることは本気のようにレオの目には映っていた。

 そのため、そんな者たちを国に突き出さなければならないようなことにならなくて、レオは安堵した。


「しかし、どうして海賊かもしれない俺たちに尋ねたんだ?」


「確かに。もしかしたら口封じされるって思わなかったのか?」


 物騒な話だが、確かに2人の言うように、彼らはレオに通報されないように始末するという選択も可能だ。

 所詮一人しか住んでいないので、いなくなっても魔物に殺られたことにでもしてしまえば証拠も隠滅できる。

 2人が殺意を持っていれば、そうなっていてもおかしくなかった。


「みんなを見た中で、戦闘力で1番危険なのはガイオさんとセバスティアーノさんです。しかし、ガイオさんは骨折しているし、セバスティアーノさんはエレナを守る事優先でそんなことをしてくるとは思えません」


 こんな所に住んでいるのだから、レオ自身でも魔物を倒したりすることもある。

 少ない経験ながら、危険そうな人間はなんとなくだが分かるつもりだ。

 その中で、直感的に危険なのはガイオとセバスティアーノだとレオは判断していた。

 しかし、2人とも今の状態的にレオを襲って来るとは思えないが、もしものことを考えて他の人間に聞いてみることにしたのだ。


「……俺たちなら勝てるって言いてえのか?」


「いいえ! いいえ! でも、逃げるくらいはできると思いました」


「そうか……」


 たしかにガイオやセバスティアーノに比べれば弱いかもしれないが、自分たち兄弟は強さでは2人の次の位置にいると思っている。

 襲われても大丈夫そうな人間に聞いてきたのかと思い、舐められていると思ったドナートは眉間にシワを寄せた。

 ドナートの気を悪くしてしまったようになってしまい、レオは誤解を解くようにドナートの言うことを否定した。

 その否定を受けて、ドナートとヴィートは怒りを鎮めた。


「それに、ガイオさんに人形の強さを見ておくように言われませんでした? 2人に勝てるとは思わないでしょ?」


「「…………」」


 レオの言葉にまたもドナートたちはまたも固まる。

 たしかに、出発前にガイオからレオの人形の強さを見ておくように耳打ちされた。

 しかし、それがレオに聞かれたということはないはず。

 それなのに、そのことを当てられて、改めてレオの推察力に目を見張った。


「分かっていて人形の強さを見せたのか?」


「えぇ、まぁ……」


 能力を知られるのは、対処法を考える機会を与えてしまうことになる。

 さっきも言ったように襲われでもしたら、逃げることも出来なくなるかもしれない。

 それでも見せたということは、レオには何か逃げきれるだけの自信があるということになる。


「何かまだ隠しているということか?」


「……2人を信用しても、さすがにそれを今教える訳にはいきません」


「そりゃそうだ」


 自信となる能力はたしかに持っているが、レオにとっては奥の手なのでそれは秘密だ。

 信用している人間にですら教えるつもりはない。

 ドナートやヴィートも仲間以外に秘密にしている技などがある。

 仲間だからと言っても別に見せびらかしたわけではなく、海賊と戦うことになって見られることになっただけだ。

 レオが言うように、無闇に教えるようなものでもない。

 そのため、その奥の手を知ろうとするのは野暮というものだ。


「お前面白え奴だな……」


「あぁ、ただの青白い顔したガキンチョだと思ってたぜ!」


「ハハ……、ありがとうございます」


 レオの能力を聞いた2人は、戦いは全て人形に任せているのだろうと思っていた。

 それでも確かにすごい能力だが、ちゃんと自分で自分を守ることも考えていることに感心した。

 しかも、自分たちを相手にしてもなんとかなると思っているくらいの能力を隠していることに興味が湧いて来た。

 少しの時間で色々と驚かされることになった2人は、レオのことが気に入ったようだ。

 気に入られたのは良いのだが、内容としてはちょっと酷い言い方に、レオは少し複雑そうに言葉を返したのだった。



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