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招待

「なぁ、ボウズ! ここに渋めのおっちゃん来なかったか?」


 まず海岸に降り立った若い男性の2人。

 その片方で、ボサボサ頭をした20代らしき若い男性がレオへ問いかけてきた。


「あぁ、やっぱり! ガイオさんのお知り合いですね?」


 渋めのおっさんという一言で、やはり彼らはガイオを探していたのだとレオは分かった。

 その言葉を聞いて、舟から下りたみんなが目を見開いた。


「おじょ……!!」


「ガイオ! ガイオは生きているのですか!?」


 その中でも若い女の子がレオの言葉に強く反応する。

 若い男性が止めようと止める間もなく、レオへ掴みかからんばかりに問いかけてきた。

 余程ガイオのことを心配しているようだ。


「えぇ、運よく助けることができました」


「マジか! ボウズ、よくやったぞ!」


「うぅ……」


 女の子の勢いにレオは面食らいつつ、ガイオは大丈夫だということを伝えた。

 その言葉に反応した若い男性は、近寄ってきて手荒にレオの頭を撫でまわした。

 頭をグリグリされて、レオは若干声を漏らす。


「ここから少し行ったところに僕の家がありまして、ガイオさんはいまはそこで安静にしてもらっています」


「お前の家?」


「ここはヴェントレ島ではないのか?」


 家という単語を聞いて、若い男性の2人は聞き間違いかと首を傾げた。

 この島のことは知っている。

 何度か近くを通ったこともあるし、少しの時間の休憩として立ち寄った事はある。

 魔物が多いことで有名なヴェントレ島のはずだ。

 こんな所に住んでいるなんて命知らずも良いところだ。


「えぇ、ここはヴェントレ島ですよ」


「何で……?」


 質問に答えるレオだが、その答えに更に疑問がでる。

 そのため、女の子をレオから少し下がらせた女性が問いかける。

 子供がそもそもこの島にいることがおかしいのだから。


「申し遅れました。ここの島の領主をしているレオポルドと申します」


「りょっ!? 失礼しました!」


 作業用のつなぎを着て、童顔をしているから気付かないのも仕方がない。

 彼らでなくても、このレオが領主だなんて分かるはずがない。

 領主と聞いた彼らは、慌てて膝をついて頭を下げた。


「あぁ……、かしこまらなくていいですよ。領主と言っても貴族ではないですし、ここには僕しか住んでいませんから……」


「……ありがとうございます」


 領主であるのに貴族でないのはまだ分かる。

 小さな村だったり、国への税があまり見込めない土地の領主は貴族を送ったりしない場合があるからだ。

 しかし、だからと言ってまだ疑問は残る。

 貴族でない領主の場合、市民の代表がそのまま領主とされることが多い。

 そうなると、人生経験のある年齢の高い者がなることが多いが、レオはどう見ても成人して間もない少年。

 その疑問に目を瞑っても、人もいない所の領主をさせるなんてどう考えてもおかしい。


「申し遅れました。私はエレナと申します」


「ドナートだ!」


「ヴィート!」


「イメルダよ!」


「セバスティアーノと申します」


 レオの疑問は残るが、こちらはまだ名乗りもしていない。

 そのことに気が付いた女のエレナは、すぐさまレオへ自己紹介をした。

 それに倣い、ボサボサ頭の若い男性ドナート、そのドナートに似た男性ヴィート、エレナの前に立つ女性イメルダ、エレナの背後に立つガイオと近い年齢をしている男性セバスティアーノが名前を名乗った。

 後で知ることになったが、ドナートとヴィートは兄弟らしい。


「ガイオさんの所へ向かいましょうか?」


「はい!」


 姿を見て確認したいだろうし、ここにいつまで居ても仕方がない。

 そのため、レオはみんなを連れて自宅へ向けて歩き始めた。

 レオの言葉に、エレナが特に強く返事をした。






「ガイオ!!」


「エレナ……」


 レオの家に着くと、みんなガイオの無事な姿に笑みを浮かべた。

 特にエレナは嬉しそうに抱き着いた。

 ガイオもみんなが迎えに来てくれたことが嬉しそうだ。


「ごめんなさい。私のために……」


「気にするな。お前が無事で良かった」


 何だか色々事情があるようなので、彼らが再会している間レオはクオーレと共に外で待機していることにした。

 レオがみんなを連れてきた時、闇猫のクオーレを見たドナートとヴィートは、腰に差しているナイフに手をかけた。

 しかし、すぐにレオが自分の従魔だといって、何とか収めることができた。

 エレナはなんとなく触りたそうにしていたが、みんなに止められていた。


「ガイオ……落ちそうになったお嬢様を救ってくれた礼を言う。ありがとう!」


「気にするな。俺が勝手にやったことだ」


 確かに台風の波によって船は大きく揺れていたが、ガイオは経験上凌ぎきれると思っていた。

 しかし、エレナはそうはいかず、波を受けた揺れで船から落ちそうになった。

 そんなエレナを救い、代わりにガイオが海へと落ちてしまったのだ。

 そんなガイオに、セバスティアーノは感謝の言葉と共に頭を下げた。

 昔からの友人に頭を下げられ、ガイオは照れくさそうに返事をした


「それにしても、さすがおやっさん! あの波に呑まれた時にはどうなることかと思ったぜ!」


「あぁ、まさか骨折だけで済むなんて……」


 大荒れした波に呑み込まれ、もしかしたらと最悪のことも予想していたが。

 元気そうなガイオの姿を見て、ドナートとヴィートは骨折で済んだガイオの強さに改めて感心した。


「いや、本気で死ぬと思った。レオポルド殿のお陰だ」


 死なずにこの島の海岸に流れ着いたのはたしかに自分が頑丈だったともいえるが、そこで放って置かれていたら確実に死んでいた。

 ガイオとしては、レオに命を救ってもらったという思いが強い。


「それにしても、あのボウズは本当にここで暮らしているみたいっすね?」


 大きいとは口が裂けても言えないが、暮らす分には十分な設備が整っている。

 家の中を見渡したドナートは、レオの話へとシフトした。

 この家を見る限り、魔物の巣窟の島の領主をしているというのはでたらめではないようだ。


「それに、闇猫を従魔にしているとは言っても、とてもあの子が戦えるようには見えませんね?」


 ヴィートもレオのことが気になっていたので、ドナートの意見にプラスするように疑問を口にした。

 魔物が跋扈する島で住んでいるとなると、例え弱い魔物だとしても闇猫だけで凌げるとは思えない。

 かと言って、レオ自身が戦えるように見えないので、どうやって生き残っているのか分からない。


「……何か特別なスキルでもあるのかもな」


 2人の疑問にはガイオも考えさせられていた。

 レオはここは島でも弱い魔物しか出ないといっていたが、つまりは弱い魔物なら出るということだ。

 だが、レオは2人の言うように戦えるように見えない。

 顏も色白だし、成人したばかりの貴族の子という印象が浮かんで来る。

 何があったのかは分からないが、もしかしたら何かあっても構わないという思いでここに送ったのではないかと想像できる。

 それに反してこのような家を作って暮らしているということは、何かしらの力が無いと不可能に思える。


「レオポルドさんには改めてお礼を言うことにして、詮索はやめておきましょう」


「ですね。こちらも探られたくありませんから……」


 エレナも何故レオがここで暮らしているのか色々と気になる。

 きっと何か理由があるのだろう。

 それを聞いて答えを得て、逆に彼に自分たちのことを聞かれた場合、答えないわけにはいかなくなる。

 しかし、自分たちにも色々と事情があるので、余計なことを聞くのは良くない。

 そのことをエレナが言うと、セバスティアーノがそれに賛成するように言葉を述べた。


「皆さん。船にはまだ乗っている方がいますよね?」


「えっ? えぇ……」


「もしよかったら、皆さんも呼んで来たらいかがですか? 食事も用意しますし……」


 少し時間が経ったので、もういいだろうとレオは家の中に戻ってきた。

 エレナたちの乗ってきた船は結構な大きさだったし、まだ船員がいるはずだ。

 そのため、レオはその船員たちにも休憩がてら船から下りてもらおうと考えた。

 時間的にも日も暮れ始めるころだし、今日は休んで行ってもらおうと思った。


「……宜しいのですか?」


「えぇ!」


 たしかに、今から出発するとすぐに夜になってしまう。

 1泊くらいなら魔物も出ないかもしれないし、出ても多くの人間がいれば対処できる。

 そのため、ガイオがためらいつつ尋ねると、レオは大きく頷きを返した。

 その言葉に甘えることにした彼らは、少し沖に停泊している船へと仲間を呼びに行ったのだった。




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