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ガイオ

「う、うぅ……」


「ニャッ!」


「んっ? 良かった。目が覚めたみたいだね」


 台風が過ぎ去った翌朝にロイたちが連れてきた男性は、半日目を覚まさなかった。

 ロイたちにどこから連れて来たのかと尋ねたら海岸を指差したので、濡れていたことから流れ着いたのだと分かった。

 少し心配になっていたレオだったが、いち早く男性の反応に気が付いたクオーレが呼びに来てくれた。

 料理をしていたレオは、手を止めて男性の様子を見に寝室へと向かった。


「こ、ここは?」


「ここはヴェントレ島ですよ」


「ヴェントレ島……?」


 知らない天井を見て、男性は不思議そうに呟き、それに対してレオが島の名前を告げた。

 島の名前を聞いてもすぐにはピンと来ていないのか、男性は答えが返ってきたレオの方へと顔を動かす。 


「君は?」


「この島の領主をしているレオポルドと申します」


「領主……?」


 成人したとは言ってもまだ15歳で、しかも童顔気味のレオを見た男性は、島の少年に助けられたと思っていた。

 だが、返ってきた領主という予想外の言葉に、理解するまで間が空いた。

 何せ、レオは作業用のつなぎ服を着ている。

 少年だからというのもあるが、その服装からも領主っぽく感じられない。


「海岸に流れ着いていたのをここに運びました」


 領主と言っても、島に自分しか住んでいないのだから名ばかりも良いところのため、男性が戸惑うのも無理はない。

 それよりも、どうしてここで寝ているのかを簡単に説明した。


「それは申し訳……ぐっ!」


「あぁ、起きなくていいですよ。足も折れてますし……」


 説明を受けて、男性は助けてもらったことの礼を言おうと体を起こそうとした。

 しかし、足の痛みで顔を歪ませた。

 そんな男性に、レオは無理をしないように促す。 


「申し訳ない。救って頂き感謝いたします。私はガイオと申します」


「お気になさらず。ガイオさん」


 男性ことガイオは、何とか上半身を起こしてレオに頭を下げてきた。

 倒れていた人間をそのまま放っておける訳にもいかなかったので助けただけだが、感謝されると助けた甲斐があったというものだ。

 レオは少し照れながら感謝を受け取った。


「領主ということは、貴族の方ですか?」


「いいえ。爵位はありません」


「そうですか……」


 領主は大体爵位持ちの貴族が行うものだ。

 そのため、レオも貴族なのかと思ったのだが、どうやら違った。

 しかし、この若さで領地を与えられているということは、何かしらの理由があるのだとガイオは察した。


「動けるようになるまでここで休んでいくといいですよ」


「しかし、ヴェントレ島は魔物の巣窟と聞いていますが?」


「確かに多いですね。けど、ここは比較的弱い魔物しか出ませんから」


 たしかに、ガイオの言う通り魔物は良く出る。

 しかし、ロイたちのお陰もあり、レオは特に危険な目に遭わずに過ごせている。

 森の奥はどうだかはまだ分からないが、とりあえずここは安全だと言える。

 骨も折れていることだし、少しの間安静にしていた方が良い。


「何があったのですか?」


 運良くこの島に流れ着いたが、ロイたちが見つけなかったらもしかしたら死んでいたかもしれない。

 ガイオの記憶の確認のためにも、レオは理由を尋ねることにした。


「昨夜、海上を航行していたのですが、船が悪天候に見舞われまして……」


「確かに昨夜はすごかったですね……」


「それで高波によって船から身を放り出されてしまいました。ここに流れ着いたのは幸運としか言いようがありません」


「なるほど……。災難でしたね」


 直撃した訳でもないこの島でも結構な風雨にさらされたというのに、昨夜の台風の中海の上となると、相当高波に振り回されたことだろう。

 なので、振り落とされても仕方がないことだ。

 そのため、レオは海岸で気を失っていたことの原因を理解した。



「ニャ~!!」


「なっ! 闇猫!?」


「大丈夫です! この子はクオーレ! 僕の従魔です!」


 ガイオが驚いてはいけないとクオーレには少し外にいてもらっていたのだが、何故だか急に顔を出してきた。

 結局驚かしてしまうことになってしまい、レオは慌ててガイオにクオーレことを紹介した。

 

「どうしたの? ちょっと外にいてって言ったのに……」


「ニャ~!」


「海? ……もしかして海岸か」


「ニャ!」


 いつもちゃんと言うことを聞くのに、どうしたのかと思って問いかけると、クオーレはレオを外に呼ぶかのようにように歩き、レオが付いて行くと海の方向に向かって鳴き声を上げた。

 何か言いたいのかと思って、クオーレの顔が向いている方へ目を向けると、レオは何が言いたいのか分かった。

 クオーレが向いていたのは、この島唯一の海岸がある場所で、そちらに何かあるようだ。


「海岸に行ってみるよ。クオーレはここにいてガイオさんを守ってね?」


「ニャ!」


「ガイオさん! ちょっとそこで休んでいてください!」


「えっ? あっ、はい!」


 海岸に何かあるのなら行ってみるしかない。

 ガイオが置いて行かれたら不安になるだろうと思い、クオーレに付いていてもらう。

 そのことを告げてレオは海岸へ向かうことにした。 


「んっ? あれは……船?」


 海岸にたどり着いたレオは、クオーレが何を言いたかったのかすぐに気が付いた。

 周囲を見渡すと、遠く離れた所に船が一隻進んでいた。

 しかし、進む速度を見ているとだいぶ遅いように思える。 


「……もしかしてガイオさんを探しているのかな?」


 船で航行中に海へ落ちたという話だし、もしかしたらあの船はガイオを探しているから遅いのではないかと思えてきた。

 そもそも、この周辺では海賊も出るという噂から、漁船もあまり近付かない。

 来るのはちゃんと目的のあるアルヴァロくらいのものだ。


狼煙(のろし)でも上げてみるか……」


 ガイオを探しているなら、もしかしたら狼煙を上げればこっちによって来るかもしれない。

 そう思ったレオは海岸近くで火の付きそうな枝を集め、気温も高いなか狼煙をあげるために焚火をすることになった。


「……あっ! やっぱり寄ってきた……」


 煙を上げて少し船を眺めていると、思っていた通りこちらへと近寄ってくるのが見えた。

 どうやら狼煙を発見してくれたようだ。

 後はあの船がガイオを探していたのだとすれば話が早い。

 目で確認できる距離だとは言え少し時間がかかると思ったレオは、近くの岩に腰かけて、足だけ海に浸かって船が来るのを待つことにした。


「まあまあ大きいな……」


 近寄ってくると、船の大きさが分かる。

 遠かったので分からなかったが、船は結構大きかった。

 2、30人くらいは乗れる中型船といったところだろうか。

 島には大きな船を停泊させるような場所がないので、海岸から少し離れた所で止まり、小舟で男女数人がこちらへと向かってきた。






「何だ? おやっさんじゃねえのか?」


「遭難しているかもしれませんね。行って一応話を聞いてみましょう!」


「了解しました!」


 小舟の上では若い男性が船先に立ち海岸の周囲を見渡す。

 しかし、狼煙らしきものが見えた海岸には、男の子供が1人いるだけで目的の人物の姿が見えない。

 そのことに若い男性は落胆したように呟く。

 それに対し、周囲に者たちに守るように囲われている女の子は、レオのことを見て遭難者の可能性を感じた。

 そして、レオを救助した方が良いと判断したのか、そのまま海岸へと向かうように漕ぎ手に指示を出す。

 女の子の意見に特に誰も反対を言わない所を見ると、彼女が一番立場が上なようだ。


「気を付けてください! あそこは魔物が跋扈する島です!」


「おう!」「了解!」


 女の子のすぐ側にいる女性から船員たちへ忠告が飛ぶ。

 自分たちの船がいる位置から考えた結果、今近付いている島は魔物が多いことで有名な島だ。

 どんな魔物がいるか分からないので、警戒が必要だ。

 先程呟いた男性ともう一人似た顔をした男性は、女性の忠告に頷きを返した。


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