11話 何で隣に…?
面接の日、あまりにもお腹の痛みが酷くてトイレから出られなくなって麻衣姉に医務室に運んでもらって、休ませてもらった。そこまでは覚えているのだが…
「Zzz…」
「何でお姉ちゃんが横で寝てるの…?」
目を覚ますと家に戻ってきているし空はすでに暗くなっているし、しかもなぜか麻衣姉が横でぐっすりと眠っていた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」 ユサユサ
「ふぇ?ふぁ〜…あ、澪音起きた?」
「何でお姉ちゃん隣にいたの?」
「澪音をベッドに運んだら疲れちゃったから、寝ちゃった!」テヘペロ
「それはそれは良うござんしたね…」
「それはそれは良うござんしたよ…」
「あ、そういえば面接!」
「安心しな、合格だってさ」
「え?なんで知ってるの?」
「まぁそれは………」
麻衣姉に、俺が寝ている間の出来事をすべて説明してもらった。
「……ということ、分かった?」
「分かったよ、大分メンタル削られたけど…分かったよ…」
「まぁしょうがないよ、あの人はそんな人だから大丈夫だって」
「はいはい」
「じゃ、晩御飯でも作ってくるから待っといてね〜」
「は〜い」
その日の晩御飯もお粥だった。ここんとこずっとお粥しか食べてない気がしないでもないが、やっぱり麻衣姉のお粥はいつ食べても美味しいし飽きない。
「はぁー…美味しい、おかわり」
「だめ!これで何杯目?」
「まだ4杯目じゃん…」
「そう言って食べ過ぎてお腹ピーピーになったんじゃない」
「それはそうだけど…」
「だからだめ!またお腹の調子良くなったら食べていいから」
「はーい…」
ちなみに、翌日お腹の痛みがだいぶ楽になってから病院に行ったら「胃腸炎」と診断された。原因は「多分(じゃなくてほぼ確実だけど)食べ過ぎ」と言われた。
そして帰り道では麻衣姉には
「まったく…これからはコンディション管理とか徹底しなさいよ、そんな事でいちいち休んでたらアイドルなんてやってられないよ!」
「ましてや食べ過ぎでお腹壊すとかもってのほか、食べる物にも食べる量にも気をつけないとすぐに肌なんて酷いことになるしボディーバランスとかスタイルとか目に見えて変わるといろいろ言われるからね!わかった?」
「はい…」
珍しくお小言をくらった。
そして、翌朝から調子もそこそこ良くなってきた俺は
「はいそこ!もっとしっかりやる!!」
「はい」
〜〜〜
「全然だめ!もう一回!!」
「はぁ…はぁ…はい!」
「そこはしっかり表現して!」
「はい」
最終面接の合格者が集められる日まで、再び鬼教官と化した麻衣姉に地獄のようなダンスレッスンを受ける事になった…。
「そーそー、まぁまぁいい感じにはなってきてるよ」
「お…お姉ちゃん…いつまでやるの…?」
「え?『何時まで』って時間で区切ると思ってんの?」
「デスヨネー?」
「『時間』じゃなくて『できるまで』よ?澪音みたいなへっぽこ、時間で区切ってたら終わるわけ無いじゃん」
「デスヨネ…」
「嘘もへったくれもないよ!できたら終わり!できなかったらエンドレス!私もレッスンでやってたんだから」
「……」
「はい踊る!!」
「はい…」
「声が小さい!!」
「はい!!」
「うーん、まぁまぁかな。とりあえず今日はここでおしまい!」
「はぁ…」
麻衣姉から「終わり」の言葉が聞こえた瞬間に、その場に座り込んで立てなくなってしまう。それほどの疲労だった。
「もう…無理…」
「ははは、毎日これはキツイでしょ」
「お姉ちゃんいつもこんなのやってるの?」
「うーん、まぁいつもではないし今日みたいにやり直しになる事は少ないから体力自体はそんなに消費しないよ」
「えぇ…」
軽く絶望の縁に立たされる。もっともこんな状態になってしまっているのも俺の体力が極端に少ないせいでもあるのだが…。




