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Dear Labyrinth_親愛なる迷宮_漆黒の影と神の使徒  作者: 森の番人
第一部 「世界の迷宮 labyrinth」
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第七話 「地下で その4」

 進む先はだんだん細くなって水が流れる場所も無くなってきた。モンスターが出てくる気配もなく出てくるときには分かれ道のないここでは簡単に見つけることができる。さらに祐樹の探知も引っかからないので安心ができる。

 さっきふと思ったのだがこの探知に引っかからないモンスターもいるのではないのかと思ってしまう。よくあるスキル『気配遮断』。そう気配を遮断する能力、暗殺者が持っていそうな。ここではそんな暗殺者のようなモンスターもいるのかもしれない。

 それがフラグだと気がついたのはこの広い空間にたどり着いてからだ。

 だんだんと細くなる道を抜けた先はだだっぴろい広場だった。反対側には自分たちが違う道がある。その道は大きな重機が余裕で入ることができる大きさ。何かあるような場所だ。

 「ここはとても広いですね。こんなところに食料なんてあるのでしょうか。」

 「怖い場所だね。」

 「そうですね、少し薄暗いですね中央付近には電灯もないからでしょうか。」

 二人は当たりを見回しながらそうコメントする。確かに地図ではここのはず。

 「あの大きなトンネルの先なのか、ここが目的地のはずなのだが。」

 零も少しおかしいと思っている。そんな中自分はここがとてもある場所に似ていることに気が付く。ゲームで以上に広いエリアがあることがある。

 考えていると、広間の中央から声がする。暗くて全然見えなかった。

 「おーい、そこに誰かいるのか。いたら返事をしてくれー。」

 そして駆け寄ってくるのが見える。そいつは人がいて嬉しかったのだろうがその選択は大間違いだ。その答えはすぐにわかる。

 「ブウォオオオオオオオ」

 耳が痛くなるぐらいの雄叫びが鳴り響く。その声の主はあの大きな道から聞こえる。

 「ここはやっぱり、、、ボス部屋か。」

 「ボス部屋?」

 零の疑問に答える間もない。

 トンネルから地響き共に近づいてくる。誰しも視線がそっちに向いてしまう。

 そこから出てきたものは巨大な手。人を丸々捕まえることができる大きさを持っている。それも両手。そして体もそれなりには大きくすごく強そう。最後に出てくる下半身はなかった。いや、ないと簡単には言い切れない。潰されてなくなったというのが正しいと見える。つまりこいつは、上半身が超巨大化した下半身のない人型のモンスターであることだ。

「あれはなんだ。今までみた奴らとは全然違うじゃないか。」

 声をかけてきた男はまた大きな声を発している。自分はここにいますよとアピールをしているようなものだ。あの怪物は普通に相手をしたくない。

 (馬鹿かお前は!)

 小さな声で大声を出した男につい怒ってしまう。本当に何してんだよ。

 近づいてきたのは1人だけではなかった。

 そしてその男は呑気に話しかけてくる。

 「なんだい、君はあの怪物を知っているのか。」

 「そういう問題で言ったんじゃない。お前の声のせいでこっちにきたんだよあのモンスターは。」

 はぁ何言っているのかわからない、という顔をこちらに向けてくる。

 こいつよく今まで生きてこられたな。なんかイラつく。ブン殴ってやりたい。

 大声の主が近くに来たことにより姿がよくわかった。

 金髪でほそ顔、耳にピアスがしていることがわかるぐらいの髪の短さ、服装は少しちゃらめの身軽な格好。見た通りチャラいやつだ。

 「すまないな。こいつ頭が少しいっているやつなんだ。」

 チャラ男と同じ方向から声がかかってきた。爽やかなイケメンだ。他の人たちも視界に入り気づいた。みんな共通の服装をしている。

 それぞれ男女三人ずついる。

 「僕は征東高校2年Aクラスのクラス委員の星川。彼らも同じ学校の仲間だ。よろしく。」

 加えてカースト上位グループであろう。なんとも社会受けが良さそうな感じがする。

 「ああ、こちらはみんな今日が初めましてのチームだ。よろしくはあちらさんに言った方がいいのでは。」

 そう言いあの怪物に指を向ける。ようやくこちらの存在に気がついたのであろう。体の向きを向けてくる。

 「そうだね。で、ここで手を組まないかい。」

 「あいつをやるのか。逃げた方がいいと思うけど。」

 この陽キャはやる気満々のようだ。こっちとしては非戦闘員が二人いるから逃げたいのだが。

 「何文句をいっているのあなた。ヒロトがやるならあなたもやるのよ。」

 いきなり割り込んできたのは高校生にしては化粧が少し濃い今時の女子高校生だった。しかも時代遅れのグループリーダーがやるならみんな強制よと言ってくる少し調子乗ってないかというやつだ。

 「いや美優彼らの言い分は最もだ。僕たちは今ここであったばかり。しかもここは死んでしまうかもしれない迷宮だ。強制なんてよくはな

 「避けろ!」

 自分の叫びと同時に美優と呼ばれる人以外は反応をした。

 そうあのモンスターは巨大な手で岩を掴みこちらに投げてきた。それも正確にまっすぐに。

 美優という人はその岩を確実に喰らう位置にいた。この中でおそらくあのモンスターを意識をしていなかったのは彼女とチャラ男だけだろう。そのチャラ男は声に反応してはいた。

 「クソッ!」

 星川は彼女を庇うために飛び込んで抱えるギリギリその岩の軌道上からは避けることができた。一人のぞいて。

 「腕が腕が違う方向にィィィ。」

 美優の腕が反対方向に赤く向いていた。人の腕の可動域を超えている。そして皮が向けており血が流れていないところから肉が見える。そして腫れている。

 「みんな戦闘準備。これからあいつを倒す。」

 これはやっちゃう流れですな。こちらもやるしかない状況だ。

 「さてと祐樹と智代子さんは下がっててくれ。零やるぞ。」

 「さっきまでとは意見が違うね。」

 「そりゃそうだ。入り口が塞がって元の道がないからな。それにあの大きなトンネルの先は何があるかわからないからここで戦った方がいい。」

 そう入り口があの岩とそれで崩されたもので塞がってしまっている。これで逃げ道は先に何があるかわからないトンネルだけだ。

 あのモンスターが出てきた場所。そこに何があるかわからないし行き止まりだとあの怪物の餌食だ。

 「それでもいいさ。手助けありがとう。カイト、美優を連れて行ってみんなを守ってくれ。」

 星川に呼ばれたカイト。体がでかく体格もいい。ラグビーや柔道をやってそうな感じがある。

 「ああわかった。」

 無愛想に返事をして彼女を担ぎ遠くへと引いていく。そんな態度とは反対にデカイ背中が信頼できることを語っていた。

 「早口だがいっておく、俺は星川ヒロト、あっちの金髪がキース、白髪はカタリア、黒髪はカムイ、みんな魔道士だ。」

 そう言い、左右の手から橙色の光が出て光が強くなる。それは星川の前で凝縮し1つの炎へと変わる。まるで自我を持っているかのように滑らかな曲線を描きながら怪物の顔を目掛けて飛んでいく。

 少し距離があるので大きさはよくわからないが飛んでいく間に大きさが変わらないことから段々とでかくなっていることがわかる。

 魔法と聞いてこいつは中二病かと思ったが今見たことでそれが本当だとわかった。

 魔法は超常現象、架空の現象として誰もがないとそう考えている。もともとアニメなどは見る方だからこそ魔法に目がいってしまう。

 その魔法はよく魔法を始めて出した場面で相手を倒すような日曜の朝の顔とは違う。

 怪物は目ではそれほどの速さではないが車で言う四十キロの速さで向かってくる。200キロを優に越えた巨体でだ。物理をやっている人ならわかるだろう。それがどんだけ危険なことか。

 片手は体が崩れないように地面に、もう1つの手は迫ってくる炎を受け止める。そもそも重さなんて無いに等しい。だが、振り解くことで簡単に消えるぐらいなものではない。

 進行することを止めることに成功する。

 それを見てから急いで怪物が来た方へと移動をする。誰も指示は出してはいないが戦わないものたちから引き離し離れたところで戦うことを即座に行動を移した。

 自分でもそんな行動が取れていることに驚きだ。それだけでなくあの高校生身のこなしが自分とは違い迷いがない。どんな高校生なんだ。

 「君たちも魔法で遠距離攻撃をしてくれない。私たちだけだと火力不足だから。」

 「魔法なんて使えないぞ。俺たち二人。」

 「あなたたちノーマルなの。あなた達も隠れてなさい。」

 魔法が使えないものは守られる側という考えらしい。確か白髪のカタリナだったっけ。星川とは違い淡い青白い光を放つ。それは白い煙と共に透明度のある物質を作り上げる。

 氷魔法だろう。両端が尖っていて中が膨れている。不格好な槍といってもいいだろう。でもその大きさは30cmを超えている。

 それを怪物に目掛けて触ることなく氷を投擲する。先ほどの炎と違い直線的。速さもそこそこ。怪物もその魔法には気付いており氷を手で受け止める。それを握り砕く。

 パラパラと氷は落ちていくが一部は手に食い込んでいるようだ。痛手にはなっていないと思うが一応攻撃は通ると言うこと。

 このナイフで傷をつけることはできるのだろうか。今持っているのは明らかに海外だったら市販されていそうな普通のナイフ。スキルもただただ身体能力を上げるものばかり。飛び道具の1つもないから遠距離戦闘はできない。

 「接近戦しかないのか。あの手に掴まれたら死んでしまうな。」

 頬を叩き集中力を高める。先ほどのワニと同様軽く接触したら危険だから。

 反対に回り込んだ星川が同じような魔法を放っている。怪物もそちらを向く。

 そして、俺と零は怪物に向かって走り出す。みぎに自分、左は零。零の方が早く差が段々と開くが時間差での攻撃にはちょうどいい。

 「ちょっと、私の言葉が聞こえなかったの。」

 カタリナは死んでも知らないわよ、といい魔法を使うのに集中することに戻った。

 怪物は手を中心としてデカイが頭は普通の人と大きさはかわらないようだ。弱点はそこだろう。さすがに頭全体があの手のように硬くはないだろう。このナイフでも十分通用するだろう。

 近く2人に怪物は向きを変えるもう十分に手が届く位置にある。だが2人がいる位置は完全に背後、確認ができるはずがない。

 「目が後頭部にある!?」

 後頭部にデカイ目がついていた。それは確かにこちらを捉えていた。

 空中にあった胴体を地面につけ片手で地面を掴み強引に回転させる。その時もう片手で俺たちをなぎ払おうと手を振る。

 強引に回転したおかげか安定はせず地面とは離れていて隙間ができている。

 体を全力で地面と平行にするよう反らしスライディングでその隙間に入り込む。コンクリートと学生ズボンという滑るには相性が悪く尻と足全体が擦れて痛いはずだがスキルのおかげでそれはなかった。

 勢いを利用し立ち上がる。

 実際に怪物に近づくとわかる。壁だ。怪物の体は屈強な筋肉の塊で如何なる攻撃も跳ね除ける盾になりそう。垂直に立っていないだけまだどうにかできるだろう。

 先にいた零は急な回転で自分より遅れてしまった。おそらく自分と同じく登ろうとしたのだろうがあの回転だと落とされてしまう。

 勢いがある俺が怪物の体を踏みつけ登っていく。あがるほど速度は落ちていくが頭にはしっかりと届くことには間違いない。

 一番近くの一歩を跳びナイフで目ごと突き刺しにかかる。

 が、右脇腹に強い衝撃が走る。そして、体は地面と怪物の体とも離れる。近づきそして遠くに離れる。飛ばされた。

 確認できたのは体から何かが生えていた。それは手だ。馬鹿でかい手ではないが、自分の体ぐらいの太さがある長めの手だ。先ほどまではなかった。

 そして視界が薄汚れた景色に変わった。水の中に投げ込まれた。

 この空間の端のところに用水路のような溝と木箱が積んであるところがあった。おそらくそこだろう。

 「ゴホォ、ゴホォ、ゲホォ、ハーハー。水思っ切り飲み込んだ。不味すぎる。」

 右脇腹の衝撃で体の中の空気が抜けそして息を吸う暇なく水の中。体は空気を取り組もうと誤って水を飲んでしまった。

 くそ、あの手接近戦でナイフの俺じゃまともに攻撃ができない。手を斬り付けながら頭を狙う技術もない。その前につかまれてしまう。最悪、デカイ手にお手玉されて握り潰されるのが落ち。

 どうするべきなのか試行錯誤していると、

 「あいつ、大したスキルもないのに何をしているんだ。足手纏いだな。」

 聞いたことのない女の声が聞こえる。見回すと黒髪の女の子からだった。名前はカムイ。

 「聞こえているならさっさと離脱してくれ。雑魚が戦闘に参加しても邪魔なだけだ。もし、わかって参加しているなら周りの迷惑を考えてみたらどうだ。」

 そう言って、去って行く。

 (クソ野郎が、文句だけいいに来やがって。ベラベラとお喋りなやつだ。)

 ものすごく腹が立つ。

 中学生この頃、いつも同級生から因縁をつけられて喧嘩になっていたことがある。クラスのみんなからもほっとけと言われたがどうしてもその喧嘩を買ってしまうことがあった。

 数を重ねるうちに冷静になっていく。

 なんでこんなことをしていたのだろうか。こいつはなぜ喧嘩を売ってくるのだろうか。

 そいつのことを無視するようにした。誰もがそこでそれが当たり前の行動と思うだけで終わるだろう。

 けど、俺は相手の動機が気になっていた。

 よく見てみるとそいつは俺しか今まで対応してくれる人がいなかった。

 そう、起こった時ほど怒りと共に冷静な自分がいることで見えてくるものがある。今がその時。

 「はぁぁ。よし!」

 声を出し少し気分を変える。

 ナイフが通用しないなら違うもので対応すればいい。現地調達をすればいい。

 「何かないか。」

 向こうでは攻撃音が大きくちょっとやそっとじゃ気にされることはない。

 この溝を上がった先に木箱が置いてある。その中に使えるものが入っているかもしれない。

 ザバザバと水を進んでいきそこから出る。

 木箱は十数個ほどある。色も形も一緒で同じ印が付いている。悪魔のような鬼武者のようなデザインだ。

 「開けてみるまでわからないか。」

 まだ少しイラついているので思いっきり壊しながら開けていく。

 空、空、空、空、パックがたくさん、空、、、、

 武器になりそうなものはない。他に何もないのか。まだ木箱はあるが同じようなものか何も入っていなさそうにしか思えない。

 木箱の残骸を蹴飛ばす。邪魔だ、こういうちょっとしたことにも腹を立ててしまう。まだ、子供らしさは抜けない。

 「イテッ、何これ。」

 蹴飛ばした木箱の残骸の中から細長い箱が出てきた。

 「鉄でできた箱か。何が入っているんだ。」

 手ではこの表面を拭きながら開け口を探す。ボタンが付いている。

 「これを押したら開くのか。」

 少し固いボタンをガチッと押す。プシューっと空気を噴出をする。そして、中が出てくる。

 全身鼠色の剣が出てきた。刀や刀剣よりでかく分厚い。斬るというより叩くのが正しいと思わせる刃先が砥がれていない。

 刀で言う峰などに当たる部分は分厚く、何かの噴出口が付いている。

 手に取ってみる。普通に持ち上げることができた。だが、まだ振ったりするには重い。片手でなく両手を使ってようやくのレベルだと思う。けど、

 「これを使えばまだ戦うことが出来る。使い方はよくわからないがなんとか出来るはず。」

 馴染む感じがする。気のせいでも今はそのほうがありがたい。

 足は勝手に動く、地面と密着しているかのようだ。

 みんなはまだ戦っている。怪物から受けたものではないと思うが擦り傷がよく目立つ。

 意識がこっちに向いていないなら好都合。これを脳天に打ち込んでやる。

 剣を肩に担いで走り出す。さっきよりも体が動く気がする。スキルが進化したのか。

 怪物との距離が近くなりみんなが自分の存在に気がつく。その視線か怪物もこちらに気がついた。

 近くにある瓦礫を掴み取り投げつけてくる。大きい塊だけが届き当たりそうなので剣の横部分で受ける。カンと金属音がしそれを防ぐ。

 しかし、まだ攻撃が続いている。掴みにかかってきた。まっすぐ突っ込みながら。剣で手の軌道をずらすことをしようと振るうが間に合いそうにない。

 その時剣の噴出口が吹き出す。それにより遅れていた剣は加速していき巨大な手を弾く。

 「大丈夫か。」

 星川の声が飛んでくる。怪物は方向を変え飛来する魔法を防御する。その隙に離れる。

 「すまない、ありがとう。助かった。」

 「そんな、君は大丈夫なのか。脇腹、血が出ていないか。」

 そう言われ脇腹を見てみると血が出ているらしい。怒りとスキルの効果で痛みを感じなかった。気づいた今はうっすらと感じている。

 『鈍感』のスキルはデメリットで自分の状態管理がしにくいと言うことだ。オンオフができると便利なのだが。

 「大丈夫だ。このぐらいの怪我なら。」

 「ちょっと聞いてくれ。魔法を撃つのはただそれだけならあれぐらいの威力を出せるけど。」

 「あれ以上が撃てるのか。」

 「時間がかかってしまう。だけどそれをあいつが許さない。」

 「確かにデカくて頭が悪そうに見えるけど自分が不利になってしまうこととかはわかるのか。」

 今は俺の悪口を言っていたカムイが怪物と相対している。身のこなしがすごい。巨大な手の動きを少し先読みして先に動いて安全圏へと移動をしている。

 カムイが移動しているときの動きが少しおかしい。人間の動き方ではない気がする。水平にスライドしているかのようだ。あれも何かしらの魔法だろうか。しかし避けることで反撃することができそうにないように見える。

 この剣の加速機能でタイミングが合えば弾くことが出来る。けど、2度同じことが出来るかはわからないけど。

 「任せとけ。さっきので俺は十分警戒されていると思うから。1発よろしく。」

 「少しでいいから魔力の溜めるまで稼いで。」

 星川の前に出て剣を中段に構える。カムイがこっちにやってくる。

 「また放り投げられにきたのか。懲りないやつだな。」

 「そう言う君はお喋りなんだね。その投げられたやつに2回も会話をしにくるぐらいだからね。」

 物凄い形相でこちらを見てくるけど知ったことはない。今は星川の魔法の準備を手伝うことと、これをどう叩き込むかを考えることに集中すること。

 今いる向きは後ろ。チャラ男君が引きつけているが危なっかしい。転がったり、某海外作品ごとく体をそらしたりなどと。怪物の後ろの目がグッと目を開く。そしてその場で回転する。そしてこっちに向かってくる。

 なぜこの場で回転をした?あの目で捕捉したなら一気にこっちに向かってくればいいはず。

 「もしかして。」

 「足をまた引っ張るなよ。」

 カムイが1人で走り出す。あいつは1人狼なのだろうか。他のみんなと連携を取ろうとはしていない。自分1人でなんでも出来ると思い込んでいるかのようになりふり構っていない。体には少しずつだが傷が身体のあちこちから作られていく。最小限の動きでかわし近づいていく。

 よく漫画であの動きで動くキャラクターが出てくるし表現をしているが本当にこの目で見るとは、そしてそれを見てわかる自分がいる。今の彼女動きはここに来る前、戦う前だと動きの早いことしかわからなかったはず。

 「今は彼女の分析をしている場合じゃない。星川を怪物から守らないと。」

 怪物は星川の魔力が高まったのを感じたのだろうか、カムイを巻き込む形で体当たりで向かってくる。カムイは巻き込まれないようにうまくその軌道から離脱する。

 その先は俺と星川がいる。両手で地面を掴みでたらめに前へ前へと進んでくる。顔がすごいことになっている。顔中に皺という皺が付いていて正直怖い。

 そしてあんな巨大な手はぶつかるだけで脅威になる。まともに受け止めることは自殺行為になってしまう。

 「タイミングがさえ合えば・・・・・いける、この身体能力とこの剣なら。」

 力関係は明らかに怪物が上、スピードは俺が上、正面衝突は自分は潰されることは間違いない。なら避けるのか。避けると星川が潰れる。怪物は繊細さはない。体の感じからして不安定であることは間違いない。

 勝負は一瞬で決まる。

 巨大な手があらかじめ決めていた範囲に入るか接するかまで待つ。手が範囲に入る。怖がることはない。もう逃げることはできない。足を前に。

 体を低くして素早く体をひねりながら怪物の領域に入り込む。頭に付いている目の死角となるところなおかつ狙う場所のところで剣を振り抜く。

 振り方はあの加速が起きた時と同じ、それを次に地面を掴み体の支えとなる巨大な手に向かってぶつける。今度は力がしっかりと乗っていて十分な速度もある。

 巨大な手に鈍い音と共に剣は超加速をして吹き飛ばす。怪物は支えがなくなりそのまま倒れていく。

 地面が震えている。

 「もういいだろう、星川ぁあ。」

 「ああ、助かった。これで終わらせてやる。今撃てる最大火力『エルプション』!!」

 火花が次々と怪物の周りで大きくなりながら近づき一気に拡がる。それはまるで閃光のような光と共に爆発音がこの場所に響き渡る。これが本当に爆発だったと気づくのは怪物の火傷と焼けた匂いが漂っていたからだ。

 「まだ、終わっていない。早くとどめをさせぇえ!。」

 星川の叫び声で怪物が辛うじてあの爆発から体を守っていた。弱点部分であろう頭と胴体は健在している。

 剣を引きずるように持ちながら走り出す。まだ視界は爆発の影響ではっきりとしていないが、動けるのなら動くのみ。

 「援護よろしくゥウウ。」

 あの体から生える手の対処はその時考える。猪突猛進が一番ふさわしい。

 足は地面を踏み抜く勢いで蹴る、体は地面に平行になるぐらい傾ける。風の壁を頭の天辺で突き破る勢いで加速する。後は間合いに入ると一回でいいから早く加速すれば勝機はある。

 巨大な手は動かないだろう、あの爆発はそれほどのものだったのだろう。

 そして、体を登り最後の一歩で飛ぶ。手は出てこない。

 「これでどうだ。さっさと決めてしまえ。」

 チャラ男君が怪物の体を凍らせている。氷の魔法だろう。囮りしか役に立たないと思っていたが一番良い援護をしてくれた。これだと手を生やすことはできなくなった。後は叩き潰すのみ。

 「早く倒れやがれぇええええ!」

 剣を加速させて頭に叩きつける。今度こそ頭に命中させることができた。グチュっと音と共に頭が体に入り込むかのように潰れていく。

 受け身には失敗して転がり回りながら落ちる。

 これで終わった。

 みんなが俺の元に駆け寄ってくる。戦った人たちはみんなが傷を負っている。俺以上に怪我をしている人はいないらしい。脇腹が大きく負傷をしているから立っているのがスキルのおかげというのがわかる。

 「大丈夫ですか。今手当てをします。そのままじっとしていてください。」

 大人しめの女の子がカバンに入っている薬品を取り出し始める。他の人たちは座って休憩している人、周りを警戒している人とばらばらだ。

 「お前はよくやった。すまないフォローができなくて。」

 零は俺に近づき膝をつき話しかけてくる。少し顔が暗い。

 「気にするなよ。俺が突っ込みすぎただけだから。」

 「だが、、、。」

 祐樹も近づいてきて

 「零さんは僕たちを守ってくれてたんですよ。あいつだけじゃなくて他のモンスターもやってきたんですよ。」

 他のモンスターが怪物と戦闘に参加していない人たちの元にやってきていたそうだ。零はそちらの対処に向かっていて怪物の相手ができなかったそうだ。

 あの少ない人数でよく対処できたものだ。

 そう思ったと同時に地面がまた揺れる。今度は一体何が。

 そう思い周りを確認しようとしたら、みんなの視線は一点に集まっていた。

 そう怪物はまだ動いていた。体が変化していく。次々と手は生え巨大な手は収縮していき細くなっていき、胴体からは足らしきものも。人らしきものに変化が近づいてきている。煙を出しながら。

 「まだ、死んでいなかったの!?どんだけよ。」

 誰かが言った。それでみんなじっと固まっていたのが解かすように。

 「早くここから離れろ。」

 怪物は吠える。これからが本番だと言わんばかりに。俺は血が結構出ていてフラフラの状態だ。星川も顔に疲れが出ている。ボスが第二形態など変身するときは強くなるのが定番。ただでさえ変身前で苦戦をしていた。この状態で勝てる気がしない逃げることもできそうにない。

 万事休すなのか。

 「くそ、ここも外れか。」

 という発言と共にザスッと着地音が聞こえた。そこには見たことのない女の子がいた。ただの女の子ではないことはわかる。オーラが違う。怪物から感じたものとは質と量からして違う。俺たち全員で戦っても勝てることは奇跡が起きても勝てるかわからない。

 「お前は何者だ。敵なのか。」

 星川はみんなの疑問を代表して質問をしている。予想外に予想外で頭がパンクしそうだ。怪物の変身もそろそろ終わりそうなのだが。

 「天から舞い降りた救世主でいいか。助ける気もないがハズレばかりで八つ当たりをする相手が欲しかったんだ。こいつをもらっていいか。」

 「「「どうぞ。」」」

 みんな一斉にお譲りする。こんなすごい人が倒してくれるのだから断る理由が見つからない。

 「じゃありがたく頂戴するよ。」

 彼女は腰にある刀を抜く。

 その後は語るまでもない。刀は巨大な手が収縮した鋼並の強度を持つ部分を難なく切り裂く。足があることから俊敏な動きをするようになった相手を上回る早さ。それはあの怪物の全てが彼女の足元に及ばないことを意味している。誰もがその戦いから目を離せない。時間にして1分も満たない。手足は全て斬り取られ頭は潰れたまま。もう終わりを意味している。

 「こいつの本体はこの胴体にある心臓なんだ。頭を潰しても胴体を傷つけても心臓を潰さない限り再生する。」

 だから、と言い胴体の心臓があるであろう場所を突き刺す。怪物は見る見る小さくなっていく。花が枯れているようだ。

 刀を抜くときに飛び出る血は不思議と綺麗に感じた。彼女に鮮紅色が似合うと。

 

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