第六話「地下で その3」
「食料がある部屋は親切に教えてくれているみたいだ。」
「それってさっきのメッセージで届いたってこと?」
零は食料がある場所がわかって裕樹と話をしている。ここで気づいて探索を始めてからかなり時間が経つ。
裕樹のお腹が空いた発言から自分の空腹に気づいた。
そこで食料がある所に行く計画を立てている。
「ここからだとさっき行った所より先に進んで行った先らしい。」
「私は今すぐにでも行けるが、この子にちゃんと説明してやらないとな。」
零はそう言い倒れている女の子に視線を向ける。
視線を向けられた彼女はビクッ!と反応した。
「おい、起きているなら返事をしてくれ。何かしようというわけじゃないから。こっちは情報が欲しいだけだから。」
そう声をかけるとまた彼女の体はビクッと反応をした。それからゆっくりと体を起こしてこちらを見る。
「わ、私は何も持ってないです。殺さないでください。お願いします。」
怯えながら命乞いをし始めた。
「お姉さん、僕たちはお姉さんを殺したりはしないよ。安心して。」
祐樹が駆け寄ってしゃがみ顔の高さを合わせながら落ち着かせようとしている。こういうのは俺と零がするよりは祐樹がした方が効果的だ。
祐樹と会話をしながら今の状況を飲み込んでいるらしい。少しずつ顔の力が抜けてきている。
しばらく会話をして区切りが着いたのか立ち上がって祐樹とこちらに歩きてきた。
「もう大丈夫だって。智代子さんて名前だって。」
「すいません。動揺しちゃいまして。この子からお話は聞きました。助けてくれたのですね。本当にありがとうございます。」
「いいって気にするなよ。動揺してしまうことは誰にだってあるし。」
「ああ、無事でなりよりだ。動いて平気か。」
「はい、怪我とかはないので大丈夫です。早く友子を探しにいかないと、一人で寂しいと思うし。」
「友子って生き残った一人のこと?」
「はい、聞いた外見だとそのはずなので。あの中で唯一の友達ですから。」
彼女を置いて逃げたあの女の人は友子というらしい。これからその人を探そうとしているが、
「これから俺たちは食料探しに行こうと思っているんだ。そろそろ取りにいかないと空腹になるし、なくなるかもしれない。その後でなら俺たちも出口探しを兼ねて探すのを手伝うが。」
「グ〜〜〜ゥ。」
祐樹と零は俺の顔をさっと見る。それに対して顔を横にブンブンと振って否定する。
「あははは。私のお腹の音です。すぐに探したいのですが私もその食料探しに協力させてください。」
そう彼女は申し訳なく行動を共にしようと言ってきた。
目指す先が先ほどのパーティーの戦闘していた場所より奥に進んだところにあることがわかった。マップはお互いに了承を得ることで情報を提供することができる。そしてマップには目印のピンを建てることができ、みんなと目指す場所を共有しもし逸れてもそこを集合場所にした。
先頭は零。指示、罠感知係として。中央に智代梨、祐樹。後ろは自分がいる配置になった。
「智代子さんは自分のスキルの確認はしたのか。」
「いや、まだです。そもそもスキルって。」
彼女はスキルの存在を知らなかったらしい。隊列だけ決まってまだ部屋を出てないので間に合った。
「君を助けるときの話は聞いているよな。」
「はい。自分の体から電撃を出していたとかでしたね。無我夢中だったので覚えていないのですが。」
「そうか、もしかしたらスキルの能力とか見れば制御方法とかわかるかもしれないから見てみよう。」
「でも私能力は怖くて使いたくないです。」
そう言ってスキルに付いて調べたくはないらしい。けど、彼女の能力の電撃は、
「いや、確認してくれあれを知っていないと君は能力を暴発させて周りを巻き込むようになるかもしれない。だから使い方は調べていたほうがいい。」
「でも、」
「私も話を聞く限りだと賛成だ。知っていると知らないとでは違ってくるだろう。自衛のためにも知っておくべきだ。」
「そういうのなら。」
そう言い時計でスキルの確認を行う。
『蓄電・放電』 体内に電気を貯めて放出できる。貯蔵方法は人によって異なり放出方も人の個性がある。
「全然参考にならない。あのウサギ役に立たないな。まぁ電気を蓄える系の能力だってことはわかった。」
「方法と言ってもあの時は怖がっていたように見えたよ。」
感情が貯める方法なんだろうか。謎が深まってしまった。けど、あの時の状況に能力の使い方のヒントがあることは確かだと思う。
「私も扱い方は模索してみます。食料探しにいきましょう。今は考えるよりも行動しましょう。」
「そうだね、なんか落ち着いているから全然学生には見えないよ。」
「それはそうだな。」
「お姉ちゃんって何学生なの。」
みんなの話している内容を聞いて困惑している。それとがっかりしている。
「私ってそんなふうに見えるんだね。」
「「「???」」」
「私今二十四歳なんだけど。」
「「「えっ?」」」
「ここで燃える狼との戦闘があったんだよ。」
「床に焦げたところがあちらこちらあるな。」
団体さんの戦闘跡までやってきた。ここまでの道のりはモンスターとの戦闘はなく安全にたどり着くことができた。ここから先は未知の領域。狼など普通に手強いモンスターだけでなくカエルのようなトラップ型のモンスターもいる。おそらくボス級のモンスターもいるはず。もし地上にいたミノタウロスがボスだとしたらここのボスも相当やばいやつであることは確かだ。
会いたくない。
「左右の道にそれらしき影はない。」
「僕もいないと思うよ。」
二人の探知系能力が役に立つことはとても楽できていい。
「地下水道だから向こう側に渡るのが大変だよな。橋は意外とたくさんあるからいいけど。」
「確かにそうですね。私運動神経悪くて走る飛ぶとか苦手なんですよ。」
「ここはしょがないですよ。間が10メートルぐらいありますから。」私は行けるのだが(零)
何か聞こえた気がするがまあいいか。世界記録で8メートル台で10メートルを超える人はいない。橋が多くあるのは親切設計であることは間違いない。
橋は金属製であり多少の手荒な扱いをしても大丈夫な感じな作りをしている。
4人全員が渡り終えたところで祐樹が前、その先を突然見た。
「何かすごい速さでこっちにくるよ。」
そう言ったときに自分の視線と警戒は言われた方に向いた。すごい速さ。祐樹は一度マークしたモンスターならわかる。だが、何かと言った。新しいモンスターということになる。
唯一の武器であるナイフを抜き逆手で構える。これなら拳とナイフの切り替えがしやすくなる。
零も槍を構え、二人は身構えている。
すると、音がだんだんと近づいてくる。タイヤが転がる音に似ている。ここに来て機械系のモンスターが来るのか。
そう思っていたが、見えたのは想像していたタイヤのような形をしたものが転がってくる。それも軌道を変えながら2つも。
それは自分に向かって左右からやってきた。咄嗟によけよと思い足を一歩引くが未知のモンスターてことなのか足が全然動かない。ゆっくりになってしまった。
避けきれず肩にぶつかる。しっかりヒットしたわけでないのだが肩はグイッと後ろに勢いよく持っていかれる。
体が浮いた感覚。そして背中から勢いよく地面に激突する。
「ッッッツ!!」
肺などにある体から空気が全て抜け息ができない状況がわずかにできた。抜けた分を体が取り戻そうと呼吸をしようとする。しかし、取り込めない。
回転しているモンスターはまた戻ってきている。ゴゴゴと音が近づいてくる。
叩きつけられた衝撃と酸素不足なのか体にうまく力が入らない。このままでは轢かれる。
しかし、
「おーいこっちだよ。」
祐樹が声を出す。モンスターは進行方向を変更して祐樹に向かって行く。
それを衝突する前に零が祐樹を抱き抱えて躱す。それでモンスターたちは自分たちより離れた場所まで行く。
丸めていたであろう体を解放する。その姿を見るだけでそいつがどんなやつなのかはわかった。
ワニだ。よくゲームの地下水路に登場する敵である。ワニの咬合力はとても強い。普通は噛み付いてくるのが基本的な攻撃方法だろう。
だがこの攻撃方法は明らかに自分のポテンシャルを捨てている。けど、先ほどぶつかった時の威力は凄かった。少しでも衣服に当たると巻き取られてあの回転の餌食になる。
今の自分にはあの回転を止める手段はない。
幸いにもあのワニたちは回転をやめている。長時間は回転できないと思う。なら今止めたのはしばらくのクールタイムであること。咬合力の方は口がある方向だけ。
叩くなら今であることは明白だ。
足は少しだけふらつくが問題ない。今が好機。
すぐさま駆け出す。幸いナイフは落としていない。距離にして数メートル。一応だが身体能力は上がっている。すぐに詰めることができるだろう。
こちらに自分が来ることを確認してワニの1匹は口を大きく開ける。その中からはゴツゴツとした歯、赤黒く見える肉。あれに噛まれるとただでは済まないのが容易に想像できる。
その頭ごと横に傾ける。縦でなく横向きで噛みつこうとしている。ワニの大きさからしてふくらはぎ部分は持っていかれる。
走っているうちにふらつきは取れた。走り幅跳びの感覚で地面を蹴り飛ぶ。先ほどまで足があった位置にはワニの口がある。少しでも遅れていたら足はなかっただろう。
そして自分が意外と飛んでいることもわかった。ワニの体は尻尾も合わせて4メートル。走り幅跳びの要領と言ったものの軽く飛んでそのまま背中に乗ろうと考えていた。だがそれをあっさり過ぎてしまった。
すぐに振り返り、ワニの首?あたりのところにしがみつく。
そして目玉にナイフを突き刺す。このワニの鱗にナイフは無理。
当然ワニは暴れ出す。だが足でしっかりと固定し、引き抜き刺す。何度もさす。生物の殺し方はわからないが滅多刺しは一番わかりやすい方法だと思う。
それも途中で終わった。
ゴゴゴゴゴッの音と共にもう1匹のワニが自分に向かって転がってきた。今度はしっかりと動けるので完璧に躱す。
追撃はしない。2匹だと流石に行くことはしない。
間を開けるため後ろに少しずつ飛んでいく。
零たちは無事であるようだ。
「一人で先走るな、さっきまでふらついていただろ。」
「すぐに治ったから大丈夫。あいつどうやって仕留めたらいいのだろうか。」
「こっちはもともと装備が悪い。撃退の方が好ましいかな。」
ワニたちはこれで回転するためのクールタイムが終わっているはずだ。またあれを躱すのは骨が折れる。
だが、ワニは自分たちの方には来ず違う場所へと行った。
「どうしたのでしょう。いきなり襲ってきていきなり逃げて。」
智代子は不思議そうに遠くに行くのを見ている。
「これで、先に行くことができるようになったな。」
「早く行こうよ。」
ようやくこの先に進むことができる。
早く着きたい。お腹が本格的に空いてきた。
「この先にまたモンスターがいるんだろうな。」
「僕なんか嫌な予感がするよ。」
「それは口にしてはいけませんよ。」
四人は先に進む。