第四話「地下 その1」
酷く臭い、薄汚れた緑色の気体が見えてネズミが徘徊しているような場所を想像していた。けど、その想像は大きく違っていた。水路にはとても綺麗とはいかないが十分まともな水の色をしている。(田舎の川の水の色ぐらいだけど) 壁などは灰色と苔などは生えていない。照明はないが視界はそんなに暗くない。
そんな中を歩いている。
「この先に小さな部屋があるんだな。」
俺は自分よりも年の小さな男の子に話をかけていた。こいつはここの上に位置する路地裏で助けた子だ。名前は祐樹と言うらしい。この先にある扉の先の部屋で目が覚めて上に上がってきたらしい。
「うん、あそこを左に曲がったら部屋があるよ。」
左という場所はここ十字路。その中央には水が流れている。所々には対岸に渡れるよう小さな橋がある。幅は人が1人通る事が出来る。少しだけ耐久性が心配だ。
祐樹の言う通りに道を進んでいくと扉があった。3人は念のため臨戦態勢を整え、取っ手に手をかける。しかし、中には何もいない。誰かが侵入した形跡もなくセーフティゾーンとも言える場所だ。
「俺の最初いた場所はゴブリンがいたな。何もいなかったのか。」
「うん、何もいなかったよ。」
その言葉を信じて3人はここでしばらく休憩することにする。ここには水道水があるらしく零の火傷の手当てをすることにした。しばらくは水で火傷の部分を冷やさないといけない。その間は少し話をした。
この少年のいた場所ここにもモンスターがいることは確実なのに少年は上でのモンスターに遭遇したのが初らしい。よく出会わなかったな、というと何か嫌な感じがしたところにはいかなったらしい。何かしらの能力があるのか。そこで思ったのは薬液。
そこで、祐樹にそれは先天的か後天的のどちらなのかを聞いた。それは後天的らしい。運が良かったとか言っているが、どうしてもそれが気になった。
ここが絶対の安全とは言えないので祐樹を敵探知マシーンとして連れて行き周囲のマッピングを試みようとする。一応扉には鍵をかける事が出来るらしいので零には残ってもらうようにする。
そして、マッピングを始める。探索を周囲から徐々にしていき、敵は祐樹に探知してもらい安全な道を確保して行く。少し、敵をチラッと見ると水にはカエルのような今までの敵と比べて小さなやつかいるがカエルにしては大きすぎる。つか、色が気持ち悪い。明らかに毒を持ってそう。
その奥からまた、モンスターがこちらに向かっている。カエルは挟み撃ちの状態にある。
そもそも、モンスター同士は争うのか知りたかった。こっそりと身を潜めながら様子を伺う。
そのモンスターは狼のようなカエルの群れに気にしないかのように歩みを止めない。
カエルたちはぴょこぴょこと狼にくっつく。毛の中に潜り込む。
狼は痺れたのかその場に小さくなる。身動きができないらしい。カエルの合唱が鳴り響く。
毒は麻痺系らしい。確認して離れようとするが狼が吠える。体からは火が出て、火を纏った。自爆か?
すると、狼の毛の中から燃えかすがボトボトと落ちる。おそらくカエルだろうか。
狼は体をブルッと震わすと火が消えていった。自爆ではなく自分自身を火に変えたような感じだ。
あれで喰いつかれたら爆発はもろに食らってしまうだろう。敵対したくない一体だ。
二人でその様子を見て、(安全なところはないのか)と思わされる。
「ここは地上よりも安全そうだな。まだ、モンスターとも出会ってないし。」
「ええ、そうね。少し休める場所がここにあればいいのだけど。ほら、しっかり歩きなさい。あなたの魔法が頼りになるのだから。」
「う、うん。」
複数の足音が聞こえる。団体さんだろう。陽気に話をしているのが聞こえてくる。しかし、ここは迷宮。未知の場所での警戒心の無さは命取りになるだろう。今そこに狼がいる。
狼の鳴き声がするとその団体は武器を構え始める。
前衛にいる人は木の板を重ねてまとめた盾のようなものを構えている。団体さんの数は5名。
「祐樹、この近くにはモンスターいるか。」
「あいつと後ろの方に2匹いるよ。助けに行こうよ。」
「いや行かない。」
「なんで。僕のことは助けてくれたのに。」
「あくまでも偵察。それに俺は強くない。ただ飛び出しても彼らの足でまといになる。それに彼らがいい人かもわからないからコンタクトを取るのは慎重にならないと。」
「よくわかんないよ。」
「今はわからなくていいよ。」
小声で話しをして団体をこっそりと覗くのを続ける。
連携を崩されないように慎重に距離を詰めていく。後ろにいる二人は部品を組み立てて長い棒を作っている。先端は刃物が付いていないようだから槍ではない。
最近授業で習ったファランクスに見える。
それよりも狼の方だ。まだ何かある気がする。
一番近くにいる狼がその集団に向かって走り出す。後ろにいる二匹も走る。そいつらの口から火が出てきた。
上にいたあの虫とは違う感じだ。
一番近い狼は集団に向かってそれを吐き出す。盾を持っている人はそれを受ける。ただの炎ならそれでよかった。
「なんでこれ消えてないんだ。」
それを受けた男はそう言う。炎はいまだに盾の表面で燃えている。急いで盾を捨てる。その選択は間違いだった。
後ろにいる一匹がそいつに向かってその炎を吐きかける。他の仲間はその盾に気をとられてフォローするのが遅れる。
男は炎が自分の体が離れず顔がだんだん苦痛から笑顔に変わっていた。あまりの痛みにおかしくなったのだろうか。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い、誰か取ってくれよ、おい何見てんだよ。顔まで回ってきたぁやばいやばいやばいおい早くしろぉっぉぉぉぉ」
だんだん何を言っているのかわからなくなってきた。壊れてきた。
狼たちは歩みを止めない。盾持ちは体重を使った突進に尻餅をつく。盾持ちは抑えられた。
「これはパニックになってるな。」
一匹の狼はおそらくもう死んでいるであろういまもなお燃えている男のからだを食べている。先ほどまで居たはずの女はどこかに消えていた。最後に残っていた人は、
「加奈子どこなの、助けてよ。いや、来ないでよ。誰かいないの。」
最後に残ったのは気が弱そうな女の子だ。流石にここまで傍観しているのは良くない。彼女からの情報も欲しいから。幸いタイミングが合えば彼女を連れては逃げれる。
そこに転がっているコンクリートの破片を二、三個拾う。後ろにいる祐樹に
「周りに気をつけて隠れてろ。」
「行くの?アレを見ても行こうと思うの。」
「お前さっき言ってただろ助けに行かないのってな。」
「でも行かなかったじゃん。」
すごく心配な感じと疑問をぶつけてくる。
「流石にモンスターのことをわからないのに一人で行ったところでどうにかなるものでもないからな。」
策は地味で自爆の可能性は低くはない。
破片を一つ持ち自分たちと反対側へと投げようとするが、前の方で何か光っている。
「こっちに来ないでよぉぉ!」
彼女の叫びに反応して身体中から火花が飛び散っている。いや、雷である。いままさに飛び出そうとしたが急いで身を翻す。
そしてバチッとこの辺り一帯が閃光に包まれる。
「いきなりファンタジーを出されるとこうも危ないのかよ。」
あの人の体が雷を放つなんてここでの警戒心が3段階ぐらい高まった。
それにしてもなんだあの人の雷の放出は。ここにきてからミノタウロスとか空飛ぶ蝿とか見たけど、人間が驚きの行動をすると、本当に現実にいるのかと疑問に思ってしまう。
ゆっくりと彼女の方を見るとそばの狼は倒れていて少し痙攣しているように見える。周りには何もいない先ほどの喧噪が綺麗さっぱりとない。
祐樹は、、、、ほっといても大丈夫かな。そこにあるドラム缶に完璧に擬態している。服の色がぴったしだ。
狼が起き上がることに注意して近づきナイフで喉元に突き刺したりし絶命させる。ついでにそいつらの毛皮を少しだけでいいから取ろうとすると、何か硬い音をしながら落ちてきた。
それは赤い球体だ。ビー玉ではないのかと思おうものだけど別物だとはわかる。
それをポケットの中に入れておく。残りの2匹からはそれは出てこなかった。場所が違うのかはわからないがこれ以上は血まみれの状態は嫌だ。
「血とか死体を見ても動じないのはおかしいな。あのぴょんぴょんこのせいだろうな。」
そう、普通はこんなこともしないはず。元々はこんなことはあまり耐性はなかった。今は安全なのかどうかだ。彼女が。アレを受けたら一撃であの世行きであろう。狼と一緒には寝たくない。
「おーい、大丈夫か。生きてますか。」
倒れている彼女の肩を叩き、反応を見てみる。
「うーん。」
ありきたりな反応が聞こえた。無事みたい。ここから移動しないといけないな。
「よいしょっと。」
お姫様抱っこになってしまった。一番持ちやすいから自然とそうなったけど。
「この子軽くないか?」
重量が合いそうな物を持ったところ軽くて上に飛びそうになる感覚。ちょっとわからないか。
そのまま祐樹を拾ってからあの部屋に戻るために来た道を引き返すことにした。