第四十四話「神の一撃」
「『真空撃』」
最初に放たれた攻撃とは違い、2,3倍の量の斬撃が飛んでくる。
一つ一つがまともに受ければ四肢が飛んでしまう威力であるので、油断は出来ない。
「その腕は異様に頑丈なんだな。牽制程度とは言え俺の攻撃を生身で防ぐのは褒めてやろう。」
斬撃を放ってきた桃色の頭をした女であるトモエは、遠距離からの攻撃の手を緩めない。
大剣で対応をしようにも量のある攻撃をすべて防ぐほど扱いきれてはいないので、不懐の腕で守れる箇所は守っていき反撃のチャンスを伺う。
「私のことを忘れないでくれないかぁ。この肉体とその性能を見て見なさい。」
研究者ゼロは、立ち幅跳びのように助走なしで遠くにいるトモエに向かって飛んでいく。両拳を握って振りかぶって叩きつける。
彼女は最初は受け止めるような素振りを見せたが、すぐさま回避する。叩きつけられた地面は薄くクレータが出来るほど凹んでいる。
かなりの威力でありまともに受ければ潰れる可能性がある。
「あれはまともに受けるのは難しいな。ってこっちに来ちゃった。」
ゼロはこちらを向くと同時に再度立ち幅跳びでこちらに飛んでくるが、先程とは違い1回転している。
巨大化していく体で回転力を加えたかかと落としが繰り出される。
転がることで避けることに成功はしたものの先程以上のクレーターが形成されている。
「威力は高いけど、その分だけ隙があるんだよ!」
転がりながら立ち上がり地面にめり込んでいる足を目掛けて大剣を叩きつける。
足を分断することは出来はしなかったが、叩き折ることは成功する。
「2人まとめてぇ死ねぇ!」
トモエがいつの間にか肥大化した太刀を構えて横なぎに払ってくる。素早く鋭い一撃であり避けるのは不可能。
「少しだけ力をかいほぉぉう、ずれてくれぇ!!」
腕の力を少しだけ解放させて大剣を斬撃の来る位置にギリギリのところで合わせてぶつける。
とんでもない威力であり、足腰がその威力に負けそうになるが、今までの戦闘を活かして向きをそらす。
「よぉし!成功!」
ゼロは避けることも出来ず、先程叩き折った足が分断され、顔に切っ先が触れて大きな血しぶきが出る。
「いてぇじゃねか、足もぶった切られてこの醜い顔にまで攻撃するとはな。だが、私には奥の手があるんだよ。足を失ったままだと君たちには勝てないからね。」
またも肥大化した腕をふるってくるので後ろに飛んで距離を取る。
トモエはゼロを挟んだ形で反対側に位置する。
「私には、怪我を瞬時に塞ぐ『超速回復』と怪我から更なる強固な肉体へと進化させる『サイコウチク』が備わっていル。ほら、失った足もすでに形になっていル。」
失ったはずのゼロの足は奇妙な動きをしながら足の形を形成するかのように生えていた。
心なしか斬られた顔は歪んできていて、語尾も少しおかしい。
「ちっ、厄介なスキルを持っていやがる。そろそろ俺もスキルを解放していくかな。」
トモエから異様に力の高まりを感じ始めた。
しかし、ゼロの様子がおかしいことに気が付いた。
「な、なんダ?スキルがいう事をキカナイ。スキルヲ奪っても制御がキカナイとハ。マサカ、カノジョのスキルが支配権を、、、」
急に首を垂れるかのようにぴたりと停止させる。
「スキルを奪ったとか、スキルに支配権をとか何を言っているだ?」
ゼロが急に片言になったかと思うと気になることを言い放った。まるでスキルが生き物のように意思を持っているかのように。
「貴様は知らないようだな。スキルとは個人の資質に合わせて取得するものと、修行などで後天的に取得するものなどといくつかある。その中で特に資質に合わせて取得するものの中には生物のようだったりマシンような意思を持つスキルが存在する。まぁ伝説の中の伝説だがな。ゼロというやつはそのスキルに意識を奪われようとしているのだろう。」
先程まで感じていた生気がみるみると減少していっている。
「今のうちにゼロ、貴様を地獄へと送ってやる。剣技『破魔の太刀・居合』」
トモエは太刀を鞘に納めて居合の構えを取る。すると、オーラが一気に放出されているかのような錯覚が見える。彼女の足が少し膨張すると地面が割れる。
そして、彼女の姿が一瞬消える。
ゼロの目の前に現れると同時に鞘から神速の一撃が放たれる。
「まじか、あの硬かった体の胴体を真っ二つに切り裂いた、、、。」
彼女の一撃はゼロの体を上と下に分けてしまった。
「敵ヲ視認。肉体ノ損傷ヲ確認。優先順位ヲ肉体ノ修復。完了。肉体ヲ再構築。完了。敵2対ヲ排除する。」
ゼロの体は先程までの巨体とは違い高身長の細マッチョへと変貌する。
そこでようやく自分の置かれている状況に気が付く。
「これ、トモエにもゼロにもこのままじゃ勝てなくないか?トモエはこれから全力だし、ゼロはダメージを負うほど肉体が強くなっていくし。中途半端な吸血鬼の俺にあるのは不懐の腕だけだし。」
この戦いはローズの時とは違って絶望を感じることはない。
なら、勝機はあることは確かであること。
ゼロとトモエを睨みつけて力を再度溜めなおす。
「スキル発動。これからが本気だ。」
トモエの体から淡い赤色の煙がゆっくりと立ち昇っていく。人間の体から赤色の汗が出ると言うことは普通ではない。
明らかに体を変化させるようなスキルである。
「俺は俺で、今最大限の準備は完了した。大剣のブーストもいつでも出せる。」
ゼロは、こちらをターゲットにしたようで走って向かってくる。
2人の弱い方から潰そうとする考えだろう。
細マッチョの男の肉体であるのにも関わらず、四足歩行で獣のように接近をしてきたと思ったら射程圏外で急速にブレーキをかけた。
そして、片腕を振り上げて拳を握り込むと、振り下ろした。
その腕は振り下ろすと同時にゴムのように異様な伸び方をしてこちらに向かってきた。
「嘘だろ?腕が伸びるのは想定外すぎるわ!」
どのような攻撃がくるのか身構えていたのだが、想定外の攻撃に驚いてしまって少し固まってしまった。
そのため、攻撃を避けるための時間がなくなってしまった。
「人より大きな拳だからまともに受けられないし、大剣は面積が大きすぎる。」
大剣を地面に置き捨てて、腕をクロスさせて構える。
強い衝撃が腕に伝わってくるのと同時に体を少し捻るようにして力の向きを逸らして直撃を避ける。
「さっき言っていたスキルによるものなのか。体を自由に変化させることが出来るってことね。」
大剣を足で踏むことで浮かび上がらせて掴む。
そして、背後に向かって剣を全力で振って、奇襲を防ぐ。
「あんたはゼロを探し求めていたんだろ。なぜ、俺を真っ先に狙うんだ?」
「弱い奴をさっさと倒した方が強いやつに集中できるからな。剣技『七点抜刀』」
今度は、トモエの太刀がこちらに向かってくる。
斬撃が来ることは予想をしなくてもわかるので、全て防ぐつもりで警戒する。
初撃はなんなく防ぐことに成功するが、これが剣技っていうほど凄さはない。ただの斬りつける攻撃だ。
次も狙っている部位が違うぐらいであり、威力は変わらないが、少しだけ速度が上がっている。
その次は更に速度が上がりその分威力も上がっていき、次の攻撃までの間隔も短くなっていってようやくこの技がどういったものなのかがわかった。
「防ぎきれない、、、。」
六撃目になると防ぎきれずに右の太ももを浅く斬られてしまった。
次の一撃は最速の攻撃になるので防ぐ自信は一切ないので、2箇所だけ腕で守るようにして他はできる限り脱力させる。
最後の一撃は横からの斬撃であり首を狙ってきた。
ちょうど構えた腕を構えた箇所であり、強力な一撃に身を任せる形で勢いよく回転をして反撃の蹴りを繰り出す。
つま先が彼女の横腹に突き刺さり後退させる。
「また、危ない攻撃だった。いくら腕は壊れないからって全てを防げるわけではないんだな。」
ゼロは今度は後退させられたトモエに向かって壊れた床を投げつけながら接近している。
今度は四足歩行ではなく、二足歩行で巨人が走っているかのようだ。
射程圏内に入ると今度は蹴りを繰り出してくる。
「先程ほどと同様に切り飛ばしてやる。」
トモエは鞘に刀身を戻し居合の構えを取り、神速の一撃をお見舞いするが、腕の中ほどまでしか入り込まず切断することが出来てはいなかった。
トモエの攻撃力は今まで出会ってきた強敵にも劣らない威力を誇っている。
「そんな人の攻撃でも切り落とすことが出来ないのかよ、、、。」
そこまで口から出てから思い出す。
今までの強敵と劣らない攻撃力と戦ってきた。先ほどまでのように受け流していたり力を使って真っ向から向かっていったりしてきた。
身体能力が劣っているのなら押し負けるはず。更に、力を使ったとしても差がかなり広がっているのならそう簡単には覆らないはず。
つまりは、知らないスキル、隠れた力がこの腕には備わっているということになる。
「今、この場で弱い俺が勝利をもぎ取るための運試し。都合よくゼロが来てくれた。」
腕に溜めた力は最大になっている。
全てを使うのではなく半分以下に放出を抑えて迫ってくるゼロの胴体を目掛けて拳を全力で突き出す。
大剣で斬ったときのコンクリートを叩いたような硬い感覚とは違い少し弾力のある大きなゴムを殴った感覚で、ダメージを負わせた確かな手応えを感じた。
「ふき飛べぇ!!」
相手の防御力がいかに高かろうとそれを無視するかのように攻撃を貫通させる雷の一撃。
相手が結界など纏っていようものならそれすら攻撃のためのエネルギーに変えてしまう。
人の力などを無にする神の一撃。
ゼロは胴体に拳の形をつけ、遠く離れた壁まで吹き飛んでいく。
(あれは、条件が揃えば発動する神の兵器の力。たしか、条件の一つが自信より強い存在と戦っていること。)
「運試し成功!!よくわからないけど、挑戦してよかった!」
思わずガッツポーズを取ってしまったがまだ勝負はここからであることを忘れてはいけない。
新たな相手の防御力を貫通する拳と、ブーストを残した大剣、これで強敵2人と戦えることで勝利という光が見えた。