第四十三話「挨拶(略)」
剣を構えて深呼吸をする。固まりそうな思考を柔軟にしていく。
正念場だ。ここで黒幕を倒すことができればみんな救われる。
「シャドウドッグって実態のある影ってことだな。技の効果を表している名前をわざわざ戦闘中に言うなんてお決まりは現実にはないもんな。」
研究者の口角が少し上がる。俺に向けて手を向けると影は右往左往しながらこちらに迫ってくる。
影に実態があるのならそれを一つずつ潰していこうかと考えたのだが、本来であれば影に実態はない。
なので、影の攻撃を躱して研究者を攻撃する方が確実性が増す。
先程もらった攻撃から攻撃範囲をその距離だと想定して合間を縫って近づいていく。
影は急な旋回などをしてくることはないが、研究者に近いものは俺を近づけさせまいと進路をふさぐように動き出す。
明らかに進路が開けている個所がある。そこが罠だということはわかるのだがあえてそこに言って見る。
「君は罠だとわかっている場所に行くほど馬鹿ではないと思っていたのだけどね。」
進路の脇には実態のある影が真っ黒な棘を出して逃げ道を塞ぐ。
そして、進路の中央にいる俺にめがけて銃のトリガーを引いてくる。銃口はしっかりと見えていたので大剣でしっかりと防ぐ。
大剣で塞がっている視界の端から黒い靄のものが見えた。
この場にいるのはまずいと思い、後ろに引こうと思っただが、何か嫌な予感がして横にすぐさま移動する。
「惜しいね。後ろに飛んでくれたのなら君が先程避けた影に自分から貫かれたのに。」
「子供のような浅知恵に引っかかる程間抜けじゃないからね。」
子供が考えそうな罠ではあったのだが、戦闘という高速で状況などが変化する場では意外と有効であることがわかった。
「大きな怪物を倒すことが出来ても、研究ばかりして貧弱な人を倒すことが出来ないのはやはりいい研究対象だな。」
やはり、人を研究対象としてし見えていないようだ。
こいつが、零の親だとは一切思えない。赤の他人なのではないだろうか。
「うるさいやつだな。少し黙っていろよ。」
影は常にまとわりつくように迫ってくる。さらに、研究者の態度や発言に少し腹が立つ。
「人生は常識を凌駕してくる。魔法は常識じゃ図れない。影が勝手に動くことはない。」
迫ってきた影は棘で突き刺そうとしてくるが大剣を思いっきり叩きつける。
影なので感触はないのだろうと考えていたのだが、岩のように固いものにたたきつけたような感覚がした。
「影は影だけど影の中に何かが隠れていたのか。魔法というわけでもないのか。」
「おや、ばれたか。意外と早いものだね。慎重なやつほど引っかかる手だからまだばれないと思ったのだけどね。」
大剣を叩きつけた影からは白い煙が立ち上がっていた。
よく見てみると真っ白な球体が影を消しながら現れた。球体の一部に穴が開いておりそこからくたびれたデカい針が突き出されていた。
「空中を移動する近未来のドローンのようなものに魔法か何かで真っ黒な影として視界を誤魔化して影と錯覚させていたんだな。」
「君は今起きていることを解説でもしないと気が済まないのかな。」
「うるさいな。手品のネタをばらされてイラつくのもわかるけど、その間に攻撃でもしてきたらどうだ。」
今までの中で最速最短距離で研究者に詰め寄る。
彼?の顔は見えないのだが体をびくつかせていて、驚いているのがわかる。
ただただ、解説をしていたわけではない。研究者が攻撃してきていない間に力を溜めていた。それを爆発させるように8割ぐらいを使い研究者に近づくために使用をする。
残りの力は油断している研究者を吹き飛ばすために使用をする。
「油断大敵、ふきとべぇ‼」
剣の能力も使用して速度を加速させて振るう。鋼鉄の塊は研究者の腹部をめがけて迫っていく。
「モニタ越しで見るのとは全くちが、」
「感想をどうも!」
しっかりと研究者の体を捉えたものの肉を捉えた感覚ではなく鋼鉄の塊だ。
この大剣は叩き潰すのが本来の使い方であり今の力であれば鋼鉄を砕くことが出来るのだがそうでもない。
振りぬくと研究者の身体は壁に向かって勢いよく吹き飛んでいく。
激突をすると壁は研究者を中心として亀裂が生まれ、身体が少し埋もれる。
「ゴホッ、ゴホッ。あ、危なかったぁね。耐衝撃プレート7式を着込んでいなければ真っ二つだったわ。」
「うっすぺらい装甲だけで守られるはずがないだろ。7式ってちょっと名前がかっこいいな。」
研究者は腰のポーチから何やら液体が入っている筒を取り出して首に当てる。
「ああ、これかい。これは鎮静剤とちょっとした薬をね、身体の痛みをなくすために必要なのさ。君の『鈍感』みたいに痛みに耐性があるわけではないからね。」
内筒頭を押して液体は圧力によって押し込まれていく。
液体が入っていった箇所には血管が浮き出ていている。明らかに鎮痛剤ではない方が割合の多いものを投与している。
「俺のスキルまで見えているのか?ここにいる人の数はそれなりにいるのにいつどうやって見たのかな。」
「研究者は簡単には手の内を教えることはないんだよ。論文など手の内を教える場が整っていなければね。」
研究者の頭にあるうさぎの被り物は真っ赤になっている。
先程の俺の攻撃で口から血を吐いたからだろう。あれって布か何かで出来ていたのは驚いた。
こういう場合は、被り物の中は機械で出来ていてSFチックな感じになっていると思ってたからだ。
「そろそろ、邪魔だなこの被り物。取るか。」
研究者は首元に手を当ててカチッと被り物に手をかける。そして、思いきり手と腕を上げると素顔が現れる。
顔の左半分が火傷なのか赤みがある茶色であり左耳がない。
顔全体として中性的であり火傷もあり女性なのか男性なのかもわからないが、声は男性の特徴である低い声である。
閉じている目を開いた。
右目は青色、サファイヤのように透き通っていてどんなことを見抜いているようで薄気味悪く、左目は誰も見向きしない地下で反逆の心を持ち合わせているようなルビーの色をした赤色。
つまりは、オッドアイである。
「今まで顔を隠していたのにここで晒してもいいのか。それとも晒すからには生かしては帰さないっていうのか。」
「ははは、君は物語を読んだり聞いたりするのが好きなようだな。なら、この後のセリフはわかるだろう。」
「「誰も生かして返すわけがない(だろう)」」
研究者の声は先程とは変わり低い声から中性的な声と変わっている。
ようやく謎だった存在の顔を拝めたのだが、またも謎が舞い振ってきた。
「君とだけの相手ならまだ良かったのだが、時間がかかりすぎたな。この場所がばれてしまった。君も聞こえるだろう。悪魔の足音がね。」
研究は敵を目の前にしているのにもかかわらず上を見始めた。
相手を油断させるための罠かと思ったのだが、油断していなければ攻撃を避けることもこのテンションならできるはずだ。
「悪魔の足音?悪魔はお前のことではないのか。」
「いやいや、私が悪魔なんて本物の悪魔に殺されるようなことを言わないでくれ。あと少しでここに到着するだろう。その前に私は最終調整に入らなければいけない。」
先程、投与した注射器とは違うものを取り出してまたも首に当てている。
「先程の薬の効果がようやく聞き始めたからね。次は遺伝子情報を組み込むことで完成すること出来る。究極の生命体の第一歩に。」
またも液体が身体に入り込み血管が浮き出ている。
研究者の身体が徐々に大きくなっていく。
「ほら、そろそろ聞こえてきているんじゃないのか。君の中にある神の遺物も反応をするだろうし。」
そう言われて気が付いた両腕が熱くなってきている。
研究者の言っていたことは本当であることがわかった。
何者かがここに近づいてきていてもうすぐそばにいること、それは研究者にとって敵である、自分にとっては似たような存在でありまた、敵でもある。
「本当だな、お前の奥の手でもなさそうだし大変なことになりそうだ。」
突如、天井に切れ込みがはいるとゆっくりと落ちてくる。
研究者と自分との間にそれが落ちて爆音を鳴らしながら煙を上げる。
「やっっっと見つけた。俺がどんだけ探したのかわかっているのか?なぁゼロ、お前を殺してやりたい気持ちがようやく解消されそうだよ。」
身長は俺と同じぐらい、髪は明るめの桃色で染めたような感じもないロング。大きな瞳で、ほっぺたはやわらかそうな赤色をしている。
そんな頭部だけを見るとかわいいファンタジー世界の女の子だと思えるのだが、腰に携えている得物が彼女の見た目とは反した太刀がある。
更に足は素肌を晒しているからこそわかるのが異様なほどごつい。筋肉の付き方がボディビルダーのように無駄がない。
「それに、ゼロにまんまとさらわれた間抜けの代表例が、、、いや。お前はなるほどな。お前もここで殺しておこうか。その方が良い未来になる確率が上がりそうだ。」
鞘から太刀を抜くと同時に彼女から今まで浴びてきた以上の殺気を当てられる。
「こいつらを倒せばようやくここから抜け出せるってことは、ラストバトルかな。」
大剣を中段に構えていつでも戦闘に移ることが出来るように態勢を整える。
これまで戦ってきた敵を超える力を持ったことがわかる。
今まで得た力を出し切って、まだ奥底に眠る力も引き出して勝利を引き寄せてみんなと帰ることだけを考えよう。
「手始めに、剣技『真空撃』」
女が太刀に何かを纏わせると力任せに振るうと、剣の軌跡から少し遅れて斬撃が飛んでくる。
こちらには3つの斬撃が向かってきたので大剣で確実に叩き折るように迎撃する。
「これぐらいは防いでもらわないと面白くもない。少しずつギアをあげて」
「ちょっと待って。」
突如現れて攻撃をしてきた謎の女に対して声をかける。
彼女は人を襲う事しか脳を使わないモンスターと違うことは見るだけでわかりどうしても聞きたいことがあった。
「なんだ、戦闘中に何を聞くことがあるんだ。剣と剣を互いに向ければ最後は勝つか負けるかの場だ。」
「いやいや、俺とあの変態との戦闘に割り込んできて上から言わないでもらえますか?俺は有二と言いますが、あなたの名前は?」
「「は?」」
研究者(変態)と女は同時に変な声を上げる。
「俺はあなたのことを知りませんし、いきなり襲ってくるモンスターと変わりがない状態です。人であるのなら名前を教えてください。それなら、人と人の決闘ということで心置きなく戦えます。」
自分で何を言っているのかはよくわからなかったが、これは大事なことだと思い行動した。
彼女は口を開いたまま動かずにいて、研究者は口を押えて笑っている。
何かおかしな行動をしたのだろうか?
「彼女だけに名乗らせるのは対等ではないから私から言わせてもらうか。」
研究者はそういうとこちらに体を向ける。
「私はお前たちを様々な世界から攫ってきた誘拐犯であり、世界を渡り歩いてきた研究者のゼロだ。有二くんといったか、君もご存じの通り零は私の親族だ。以上だ。」
研究者、ゼロと名乗った者は零の言う通り親か何か関わりのある人物であった。自己紹介でも親族と言っているので彼女の両親とも限らないので何とも言えない。
「ちっ、俺はそこのろくでなしを殺しに来た剣士トモエだ。ゼロに攫われた野郎は信用が出来ん。何をされているのかがわからんからな。」
「安心してよ。私が施したのは世界を渡らせるための処置だけだ。後は、本人たちがどう変化するのかは知ることはないね。むしろ観察対象だ。」
「ふんっ、これで満足か、有二とやら。」
トモエは、こちらを鋭い目つきで睨んできたので返事をする。
「満足です。これで本気を出せるよ。やる気が出てきたし。」
今さっきの2人の自己紹介の間にゆっくりと力を全身に溜めていった。
(力を今まではむやみに放出させていったけど、効率よく部分的に放出させれば威力高くなって、消費も抑えられるはず。ぶっつけ本番でどうにか習得してやる。)
研究者ゼロの身体はだんだんと大きくなっていき、トモエからは先程以上の強力な殺気を感じるようになってきた。
本気で殺しにくることがいやでもわかってくる。
今までと違うのは人間とは違う種ではなく同じ人間同士で生きるために殺しあうということだ。
「さぁて、充電完了したし油断せずにぶちのめしてみんなと帰るかな。」
相棒の大剣を肩に担ぐと少し心が躍る。口角も上がってしまう。




