第四十二話「力と女」
女は歩みを止めると言うことを忘れた。
疲労なんてものはとうの昔になくなったからだ。
心にはドス黒い塊が己の行く先を示してくれるだけでなく、止まらなくてもいい力を与えてくれる。
その力をもらうたびに誰かのことを忘れていくような喪失感が心にぽっかりと穴を開ける。
しかし、その穴を黒が埋めてくれる。
目の前の敵を屠る力の一端はこの黒であること、そして何かを失っているのはこの黒であること、どちらも黒のせいだと知っている。
だが、目的を忘れないように黒は心の火に薪を焚べてくれている。
お互いの目的が一致して共存している状態なのだろう。
「私が通った道は黒く塗りつぶされていく。黒、あなたは何者だ。」
ある日そう尋ねても答えは返ってこない。否、これが答えとも言わんばかりに力を与えてくれる。
女は黒という名前でいいと諦めながら名付けた。
力の源には限界というものはない。永遠に力を与えてくれる。しかし、女の体には限界というものもある。
そのため女は限界が来るまでの時間を伸ばすために人間の体を捨てた。
見た目は人間だが中身は人間ではなくより強靭な肉体となっている。
その彼女はようやく目的のところの手前までたどり着いた。
足元に広がっているであろう場所の主人はどこにいるのかはわからない。しかし、真っ直ぐに進んでいけば辿り着くと思い隠された入口を壊す。
そこはこの迷宮の主の本拠地だ。
彼女は先客がいることを知らない。
いたとしてもただ排除するのみだからだ。
力の権化はようやく最終決戦の地に降り立つのだった。




