第三十八話「」
星川やネリー達などパーティのリーダーが集まって話している。しかし、有二はリーダーである立ち位置に関わらずその役目を零とノレンに任せてアリス、ワーグリン、祐樹と話しをしていた。
「そういえばさ、ワーグリンは俺の腕やアリスの喉のことは知っているの?」
「ああ、その創造神のやつのもののことか。それがなんでお前達に宿っているかは知らんぞ。」
「いやさ、これが創造神のものってこと今初めて聞いたんだけど。」
「ワーグリンさん、、、」
有二はここの研究者のことを知っていそうなワーグリンに、ここに来てから手に入れた壊れない腕のことを聞いたら思わぬ情報が出てきた。
「これって創造神のものなんだ。」
「有二は創造神を知っているの?」
「いや、知らんけど。」
祐樹とワーグリンは呆れている。ワーグリンは有二を蹴り飛ばしてアリスの方へ向く。
「創造神とは、お主らや星川、ノレンなどの多くの世界を生み出した存在であり我らが吸血鬼の始祖など上位種を生み出した生みの親である。しかも、創造神は複数いる。それぞれが役割を持って一つの世界を作り出した。思考する頭脳、音・大気を生み出した喉、大地を動かすほどの力を蓄える腕などと体の部位に例えられている。知っているのはこのぐらいじゃ。このことを知っているのはごく僅かしかおらんし、その力をなぜお主らが持っているかなんて知らん。」
「なるほどな、この腕が力を溜めることが出来るのはその創造神の力なんだな。大地を動かす力を溜めることは出来ないな。」
「創造神は人間の上位種である吸血鬼より上の存在じゃ。半分人間半分吸血鬼のお主には無理だろうよ。本来の力を溜めることが出来ても体が保てずこの迷宮ごと木端微塵じゃ。小娘は歌の才能があるものの未だ使いこなせておらん精進せよ。」
有二は自分の力でさえ使いこなすことが出来ていないことは自覚している。だが、彼はいきなり力を持ちその感覚に慣れていなかったこと、度重なる連戦によりコツを掴み始めていた。一つだけ自覚がないとするなら彼は一度死にかけていた。人間は死を見るとたまにだが特別な力を得ることがある。
アリスは才能はある。創造神の力を使いこなすことが出来るほど。しかし、彼女自身無意識にその力に蓋をしてしまっている。有二よりも素質はある。
ワーグリンはそのことをわかってはいるが口にはしない。彼ら自身でその力を開花させなければ今後生き残ることすら出来ないことを知っているからだ。
「祐樹は魔力の扱い方を覚えるべきじゃ。それによってその銃を自在に使えてスキルと併用した探知能力の向上が可能じゃ。ほら、手を貸してみるのじゃ。コツぐらいは掴ませてやる。」
「う、うん。わ、魔力が僕がやったのと違う。流れ方が綺麗でたくさん流れてる。気持ちがいい。」
「そうじゃろそうじゃろ。魔力が綺麗に流れるのはそれだけ魔力回路がしっかりとしているからじゃ。魔力をしっかりと扱うことが出来れば人間の中でも最高位の使い手になることが出来るじゃろう。」
ワーグリンが裕樹のことを魔力を扱う才能があるという。しかし、人間の中でもってことに人間を下にみなしていることがわかる。
「ワーグリンさ、俺さっき吸血鬼の技が使えたけど半分人間でも影響はないのか?」
「知っておるわ、ローズマリー様の技を使ったんじゃな。悪影響といえば間違いじゃし良い影響といえば間違いじゃな。」
3人は首を横に傾げた。
「どういう意味なんだ?結局おれは何の影響を受けているんだ。」
「あー、そうじゃな。人間の部分が更になくなっていて吸血鬼の部分は変わりがない。わしにもわからない何かがお主の体で増殖したんじゃ。」
「何かはわからないんだな。吸血鬼の技を使って吸血鬼とは違うものが体に増えてるって不思議だな。」
有二は未知のものが体に増えていてもなんの恐怖もなかった。それが何であるかはわからないがわかると言った感覚があったからだ。
「さてと、裕樹のスキルの探知系じゃが、世界から情報を読み取っているんじゃ。」
3人はまたも首を横に傾げた。
「どういうことなの?」
「『探知系のスキルというのは大抵は魔力のソナーを放ち帰ってきたものを処理をする。しかし、裕樹は世界が保有している情報にアクセスをして必要な情報を読み取り処理をする。正確な情報を読み取ることができる。しかし、処理能力はスキル保有者による。』が神話級魔法の魔導書に書かれていた現代語訳じゃ。」
「それって魔力のソナーだとその魔力に気が付かれる場合があるけど、世界から情報を得るのなら相手に感知されない最強の探知ですよね。」
アリスは裕樹の探知があればどこに誰がいるのかがわかるのでは?と聞いている。
「そうじゃが、裕樹全く知らない人物のことを最初からわかっていたか?」
裕樹は首を横に振る。
「僕は知らない人のことは探知は出来るけど、探知した人が誰かはわからないよ。」
「そういうことだ。その人物が誰がわからなければ読み取りも困難になる。人間の子供にはこれ以上の能力はない。」
裕樹は自分のスキルにはまだまだ上の段階がある事を知った。
「私たちは私たちのこと、手に入れた力のことを知らなく、技能もまだまだですね。」
ワーグリンはその言葉を聞いて突然笑い出した。
「それはそうじゃろ。平和の国にいて突然化け物の巣窟で戦うことになったんじゃ。今の状況、戦う知識などは欠落していて当然。一朝一夕で万全な状態になるわけはない。まぁ戦闘能力がおかしなぐらい強くなったやつもいるがの。」
ワーグリンはちらりと有二を見た。彼は強くはないと否定した。
「ま、お主たちは己を見つめ直すべきじゃな。この後は休んでいる暇が出来るとは限らんからの。」
その後は、話が終わるまでは自分自身のスキルを確かめたり知らないことがあれば知識バンクのワーグリンに聞いてできる限り不足したものを少しでも蓄えていった。有二は自分自身について少し考えていた。
有二、彼は自分自身が本当にもとは人間だったのか。ただの平和の国の一般人が吸血鬼という上の種族になれる素質を持っているのか。たとえ持っていたとしても創造神の腕を最初から身につけているものなのか。そして、ワーグリンさえ知らない何かが体にあり、それを知っている。知っていても何なのかは説明が出来ない。得るだけではなく人間の部分を失ってきている。
有二は自分自身が何者なのかを知るためにここに招かれたのではないかと考えている。しかし、それが研究者ではなく別の何者か。
今まで、腕のことはただ鎧のような感覚だったのだが体の一部としてしっかりと定着した。異物なら体が拒否反応を示すはずだがそれもない。もともと自分のものだったものが返ってきた感覚だ。さらに強くなった事がわかる。
それでも、化け物はいる。化け物を完封した女、ミノタウロス。神話の化け物であり、勇者でなければ倒すこともままならない。
有二は強さの上限を見ることがを初めて知った。
今後、どのように敵の内部に向かうべきなのかの話し合いは白熱していた。




