第三十七話「アホすぎるのも問題です」
巨人の元となっていた人よりも小さな存在を倒したことによりゴーレムの残骸たちは自分たちを繋げていた四肢がガラクタのように音を立てて崩れていった。
「本当にこれで終わりかな。アリス、よく本体が巨人の体の中にいることがわかったな。俺の技は領域内のことなら意識を向ければ把握出来るのにわからなかったし。」
「えっと、私声だけじゃなくて自分が出した音を聞いて周囲の状況がわかるんです。だから、巨人の体から何か歪な反響音が聞こえたので。」
「すごいな。超感覚ってやつなのかな?」
アリスは少し照れながら頷く。
「えっと、昔からそうなんですよ。教室とかで誰かが物を落とした時に、どこでどんなものが落ちたのか分かってたんです。」
有二は気になったことが一つ解決したので改めて聞く。
「これで脅威は去ったということになったてでいいよな。けど、なんでこんな化け物が出てきたんだよ。」
「それだよそれ。アニキ。こっちに来て見てくださいよ。アネキ達いいですよね。」
傭兵の1人が有二の問いに答えた。そして、今回の原因になったというところに連れて行こうとして上司に確認を取っている。
「ああ、これ以上何も起きないだろう。連れて行ってやりな。今回の功績者にあれを見てもらうといい。」
ネリーが許可を出した。すると、彼女の隣に座っていた彼女、アリスが立ち上がった。
「私もついて行っていいですか?ちゃんと確認をしていなかったので。」
「アリスのアネキ、ちゃんと見てなかったんですかい。ついてきてください。」
下っ端Aが手招きをして現場に向かっていく。
巨人が建物が中央から変に壊れているところに向かっていく。そして、建物に入るとおかしなところに気がついた。
「この建物変な地下への入り口があるのか。明らかに建物の時代と一つもマッチングしていない。」
「そうなんですよ。神話とか未来の物語に出てくるような場違いなものなんですよ。アネキが言っていたあれ、なんでしたっけ?」
「SF、サイエンスファンタジー。あれの謎の科学者がいる研究所の入り口みたいなね。」
下っ端はアリスが言っていた話のような怪しいものが現実にあるって言いテンションが上がっている。
「真っ白な扉のくせに強化プラスチックとかでもないし、金属でもなさそうだな。」
有二は地下への入り口の扉に手を触れる。
真っ白で円状になっている。そして、端っこにはキーボードが入力できるパネルが備わっている。ここで、開閉ができるということらしい。
パネルに触れるとキーボードが出てきたが見たことのない文字であった。日本語、英語などではない。
「あーうん、パスワードどころか何語かもわからないや。」
「私も。」
「あっしもです。」
3人とも知らない言語であるらしい。そもそも、こんなハイテクなところであるならパスワードも普通に関連性のあることではなく、端末がオススメする関連性のないパスワードなので開けることも出来ない。
「壊すことができるのなら壊して侵入するしかないな。」
「有二なら出来そうだけどね。」
「アニキ、今からはやめてくださいね。」
「やらないよ。」
有二は野蛮もののように考えられていて少しショックを受けていた。
3人は一度戻り被害の状況を確認した。
死傷者なし。
重傷2名。
軽症者7名。
死傷者がいないだけ幸運だった。
重傷者も骨折などで今治療をして命に別状はないという状態である。
「後は俺のところに来た巨人だけだが、連絡は来たか?」
ネリーは首を横に振った。
「なら、これから行かないとな。体力も回復したし目的地をハッキリしたからな。」
「怪我をしていただろ。もう大丈夫なのか?」
「そうですよ。もう少し休んでからでも大丈夫でしょ。あちらにはかなり強い人が多くいますし。」
アリスも心配をしてくるが有二は問題ないと言う。
「人間じゃなくなってからは回復力が格段に上がったんだ。」
「半分人間、半分吸血鬼ですけどね。」
ケットシーがまだ人間の部分があると指摘してくるが有二はそれを遠くに投げ飛ばす。
「あっちには、ノレンやワーグリン、星川もいるから大丈夫だと思うけど心配だな。」
「そういえば、かなり強い人たちが多くいましたね。なら大丈夫でしょ。心配することが失礼になってしまいそうですし。」
有二はそれを聞いて納得する。
「そういえば、呪いがかかったメイドに、ババア口調の吸血鬼、転生者、武人、魔法使いなどなど個性が強いよな。」
「あんたが、それを言うのかい。」
ネリーにツッコミを入れられた。そこに突如通信機から音と振動がする。
『あー、聞こえる?おれだおれ。突如現れた巨人を討伐完了。そっちの様子を聞きたいんだが大丈夫か。』
間抜けなキースの声が周囲に響く。心配していたのがバカバカしくなるように気が抜けてしまった。
「あー、ゔぉほん。おれおれ詐欺はお断りです。それでは。」
「あー、待って待って!!キースだキース。それに何?おれおれ詐欺って。初めて聞く詐欺なんだけど。」
キースの慌てている様子は面白い。遊んでいたいが報告を聞いてからでも遅くはないだろう。
「巨人を倒し終わったんでしょ。なら、こっちに早くきてよ。傭兵達が脱出に繋がりそうなものを見つけたからさ。」
「ほんとか!なら早速そっちにいくよ。あ、こっちは誰も重傷者はいないぜ。ノレンさんやワーグリンさんって化け物なんじゃないかって疑ってしまったぜ。」
キースはワーグリンはともかくノレンとの戦闘に加わっていたのに彼女達の力が化け物じみていることに今更気がついたようだ。
「キース、お主わしを化け物呼ばわりとは何様じゃ。」
「ご主人様、彼を罰してもよろしいですか?」
しかも、直ぐ近くに彼女達がいるところでそんなこと言うから聞かれてしまっている。有二は彼女たちの怒りの矛先が自分に向かわないように生贄を差し出す。
「キース、アウト!」
そう有二が言った途端キースの叫び声が無線から響き渡った。
「あー、あー。星川です。そっちに向かいます。キースが死なない程度でやめてくださいね。」
そう言って無線が切れた。
傭兵達はキースの言動に呆れていた。「あー、あんな人の悪口をいうなんて」「姉御達は怖いからな」「怪力だったり悪質だったり男にはない方法で俺たちはやられるからな」「最初はそうでやしたね。ケンカふっかけたアニキがボコボコにやられてましたね」と色々言っていた。
ネリーが彼らを一瞥するとみんな違う方向を見たり、装備を手入れをするふりをして誤魔化していた。
「キースは悪い奴じゃないけど、空気を読めないから痛い目にあったりするんだよな。」
「とりあえず、彼らが来るまで色々準備をしておきましょうか。」
「「いへ、姉御」」
アリスが傭兵達に指示を飛ばす。そして、一斉に動き出す。統率が取れていることが素人目でも簡単にわかる。
「統率が取れているってのはリーダーの負担にもならないな。」
「有二さんもリーダーなら彼らのように出来る様に指導しなくては行けませんね。」
「俺はリーダーはなりたくないよ。緊張したりしてお腹が痛くなるからな。」
「案外脆いんですね、腕と違って。」
ケットシーが余計な事を言ってくるのを有二は嫌な顔をしながら答える。
「あと、なんだかんだで心配をしていたでしょ。ワーグリン様がいるのに。」
「うるせ。心配はするわ。あっちには裕樹っていう子供がいるからな。」
赤面しながら答える。有二は仲間を心配しているということを堂々と言うことは年相応の恥ずかしさがあった。
「裕樹は俺よりもしっかりはしているけど、力はないんだ。それに巨人っていかにも力があるモンスターと遭遇したら危ないからな。」
それからしばらくは有二のダラダラとしたトークが続いた。ケットシーや傭兵の男どもはやんわりとした笑顔でそれを聞いていた。
「ん、ようやく来たか。キースは死んでるな。」
有二は到着した星川達を見て無事であることを目で確認できてホッと安心した。みんなも所々怪我してたり服が汚れていたりしているが何かやり遂げたという達成感が顔に現れている。
「お互いに誰一人死ぬ事なくてよかった。これからどうする」
「ご主人様、無事でよかったです。」
「どばざれだのによぐぶじらだったな。」
星川は割り込んできた2人のうちキースだけを死ぬギリギリの範囲で危ない投げ方で遠くに飛ばす。
「で、お互いの状況を知りたいんだけど。」
と星川は一瞬のうちに顔を切り替えて笑顔を見せる。こっちの笑顔はかなり怖い笑顔であった。下手な事をすると怒りの矛先が向く事を傭兵一行は理解してアリスとネリーの方へと顔を向ける。
有二も含めて3人は「なさけない」と思いつつも星川の怒りの気配はものすごい鈍感でもない限りは感じ取ることが出来る。そして、星川はかなりの強者なので感じ取れば怖いと思うのは仕方がないが、3人にどうにかしてもらおうとする押しつけはなさけないと思うのこそ仕方ない。
「それではあちらの建物で話しましょう。巨人が倒れてからは建物が動かなくなりましたし。」
アリスが促し星川一行と彼女達が向かうと傭兵達は安堵した。
「なるほど、巨人が現れたのはその入り口を見つけたからで、明らかに技術レベルがかけはなれていると。」
「移動する建物で迷路にして入り口へと向かうのを遮っていると思わせて乗ろうと思わない移動する建物の下に隠す。自然と選択肢を外すようにしているのは気が付きませんでした。」
星川とカタリナは報告をすぐさま理解した。