第三話「路地裏の鼓動」
奥へ進んでいくに連れ暗くなると思ったがあまり変わらなかった。それはだんだんと目が慣れてきたおかげだろう。灯りも必要はないだろう。そのおかげで見落としがないか確認しする余裕を作ることができた。前は自分、後ろは零で並びながら進んでいく。
路地は時々左右に分かれているところがあるがすぐに行き止まりか奥まで続いて先が見えなっかたりしていたのでまっすぐ進んでどこまでいけるか確認することにした。
先ほどから魔物にも遭遇せず、静か、静かすぎる。少し、寂しくなり声をかける。
「ここって案外奥まであるな。建物の構造からして何かおかしいよな。」
「ああ、そうだな。」
「、、、、、、、。」
口数が少ない。やっぱり先ほどの研究者の話に関係があるとしか考えられない。聞いている時の表情が結構こわばっていておかしかった。何かあるかもしれないから聞こうと思ったがなんか聞くタイミングが掴めず困っている。どうしようか。
そう思ってあれやこれやと考えているうちに行き止まりにあった。左右は壁がそびえ立っていてもと来た道を戻るしかないらしい。ここまでに歩いてきた道の途中にある分かれ道のどこかにまだ進むところがあるのだろう。しかし、ここまででも結構な数の道があったので骨が折れそうだ。
「戻って分かれ道でも調べますかね。」
「そうね。戻りましょう。」
そう言うと180度に素早く体を翻しそのまま進んでいく。会って間もないけど彼女が何かおかしいことがわかる。最初にあった時にあった威圧感がない。相手を威圧することより何か考えることに力を使っているようだ。
だからこそ、気になってしまう。俺は俺で他のことに集中が完全にできない。困った、自分がこんなに他人思いだったとは。
その様子を感じ取ったのか
「すまないな、先ほどから深刻な顔をして不安を与え心配をかけた。」
向こうから話を持ち出してきた。こちらが考えたのが無駄骨となったが、まぁいいか。
「いや、謝られるほどではないよ。けど、あいつの説明を聞いてからおかしくなったよな。何があったんだ?」
「ああ、そうだな。君ならこのことを言っても大丈夫だろう。少し聞いてもらえないだろうか。」
「俺で良ければ。」
彼女の話を端的にまとめるとこうだ。
先ほど研究者と名乗っていたうさぎ。その声が昔自分を捨てた(育児を放棄しそれを知った親戚が保護したらしい)母親の声にそっくりだという。そしてその母親は研究者だったと。もしかしたらこの事件の黒幕の一人が自分の母親の一人だと思うと心の奥がざわつくらしい。それを落ち着かせそれを制御するため少し怖いオーラを出していたということらしい。
いきなりラスボスを倒す前にヒロインに真実を告げられた主人公気分だ。いや、もしかしたら俺が死ぬフラグなのでは、、、。考えすぎかな。
それでも、話を聞くとこの迷宮の探索に気合と集中力が戻ってきた。普段しないような考え事の種類はとても疲れるからしたくないものだ。
「ありがとな。正直それをいうの怖かっただろ。必ず生きて黒幕のところまで言って確かめようぜ。」
そういって頭を自然と撫でた。そこで気づいた。ついつい頭を撫でてしまった。零は手を払うどころか顔を下に向け頰を赤く攻めていた。カッコいいそんなイメージが多くを占めていたが零も女の子。可愛いところもあるなと思ったことは言うのを伏せておこう。彼女はプライドがありそうな気がするからね。
そんなやりとりの後に探索をすぐに再開した。
分かれ道に入ってみると意外と行き止まりの道が多かった。右に行って左に行って引き戻ったりの繰り返し。しかも、周りは同じ色の灰色ばかり。もう見飽きてきてしまっている。はぁとため息をついた。
何度か繰り返しているうちに、ようやく先に進める道を見つけることが出来、ドンドンと進むことができた。先ほどからビルが高く連なっていてトンネルのような穴に入っていると変わりがない。音が反響している。
そんな中、ビィィンと空気を切る音がなり響いている。耳元で虫の音、蚊の音のようなのが聞こえる。けど、周りにそんな虫もいない。
少し遠い前の方から音が聞こえてくる。聞く感じからその音源は大きいと思う。
その音を注意深く聞いてみると少し先の通路から聞こえる。あまり近づきたくはないが何の音かは確かめた方がいいだろう。前にいる零をみると目で同意してくれた。
何がきても大丈夫なように少し身構えながら先に進んでいく。
先に進んでいくと虫の音に隠れて足音が聞こえてくる。その音はだんだん近づいてくる。
「く、来るなぁ!誰かいないの!助けて!」
男の子の叫び声が聞こえた。
その瞬間、体は命令するよりも前に動いていた。自分の恐怖心など関係なしで。
腰につけていたナイフを抜き戦闘に備える。零も後ろからついてきてくれた。彼女は仕方ないと言わんばかりに自分勝手な行動にもついてきてくれている。
悲鳴が聞こえた方に向かうと道は左右に分かれている。羽音は右方から聞こえる。その道を曲がると思わず足を止めてしまった。そこにいたのは悲鳴をあげたと思う少年と羽音と耳に叩きつけている音の元凶。モンスターだった。
そいつは、頭部が蝿でそこから気持ち悪い筒ような黒色の胴体?と50センチぐらいの大きさの羽をつけていて筒のようなのに数本の触手がついている。想像上で止まっておけばいいモンスターがそこにいた。
先ほどの勢いが殺されてしまった。そいつはあまりに気持ちが悪い。
しかし、零はそんな見た目に構わず特製の槍を構えてそいつに突っ込んでいった。
あんな、気持ちの悪い生物に恐れることも無くよく突っ込んでいけるな。
細かく足を刻んで最大限の力を込めることができる体勢で槍はでかい目ん玉、左目を捉え突き刺さる。その中で槍を少し捻って引っこ抜く。突いた後からは緑色をした液体、おそらく虫の血であるものが垂れ出てきた。
モンスターは悲鳴のような声を上げて空中で少し後退する。
俺は、その間に子供の手を取ってモンスターから距離を取る。手を取り引くと子供は素直に立ち上がりついてきてくれた。
モンスターは少しふらつきながら浮上し、触付きの筒を前に曲げて触手が零の方に向ける。ある程度高さまで上がりこちらは手が出せない。
あの高さからの攻撃で零は警戒をして構える。こういう時、あんな虫型は酸性の液体を吐く。ゲームではよくあるパターンだが。
それを伝えようとすると、モンスターは触手を先端同士をこすり合わせる。攻撃のモーションなのか。
すると、ボシュと音がして触手から小さな火が出てくる。明らかに虫としては異常なことだ。火を自ら生み出すと。
自分は子供の手を掴んだまま奥に走る。あれは、
キシャーと虫は音を出して筒が軽く膨らみ何かが出る色などはわからないが液体であることは違いはない。それと火がある。まさしく、
「火炎放射だ!」
零は油断などしていなかった。だが、相手の攻撃がそんな構えを無視する攻撃。急いで真横に飛び避けようとするが、遅い。
液体が火と接した瞬間放出された火炎が零の衣服に纏わりつく。そんな長くはない火炎だが、液体として浴びたものを燃やしていく。そいつはゆっくりと零に近づきもう一度火炎を出そうとする。
それを助けに行けば二の舞いとなってしまう。今、俺がすることは、
零は服を脱ぎ捨てる。中の服までは引火しなっかたようだ。
虫は地面に近くなるまで降りてきた。長い間、高くは飛べないようだ。
「これでも喰らえ。」
ゆっくりと背後をとるように歩みより背中へ飛び乗った。虫は振りほどこうと動こうとする。その前にナイフで羽がついている根っ子の部分を削ぎ落とす。
空中にいたのでそのまま地面に激突する。地面に落ちる前に飛び降り筒の方へと向かう。
ナイフで思いっきり斬りつける。何度も何度も。
肉々しい見た通り柔らかく簡単に傷がつき黄色い液体が漏れ出てくる。これが火炎放射の燃料だろう。
モンスターはキシャーと悲鳴をあげていた。零もすかさず頭の先程さした場所のと反対へ槍を突き刺す。それを押し込みながらひねる。効果音はグチャグチャが適切だろうか。
見ていると自分もいやになってみることが出来なくなりそうだ。顔、頭部をぐちゃぐちゃにしてようやく動くのをやめた。頭からは何の汁か想像もしたくない。たらたらと、血らしいものも流れている。ようやく、絶命したらしい。
「終わったの?」
少年は恐るおそる聞いてきた。死を体に刷りこまれていたのか、いまだに横たわっているモンスターの死を信じることが出来ていないようだ。
零は火傷をしている体で近づいていき足をついて座って微笑み
「大丈夫だよ。君を追いかけ回していたやつはもういないよ。」
本当に綺麗な笑顔だ。それを見ると少年はホッと息を吐き出した。
まだ、小学生であろう小ささに少し驚いた。この実験は、若い人から選んだと言っていたがここまで小さい子まで対象とはますますあの研究者が何を考えているのかが恐ろしいと認識し出した。
「君の名前は何かな。お姉さんに教えてくれないかな。」
「大代祐樹。お姉さんの名前は?」
「零よ。祐樹くん立てる?ここに止まるのは危ないから。」
うん、と返事をして立ち上がる。なんか自分の疎外感ていうのかな、そんな感覚がする。そもそもあの少年はこの通路の先からきた。
「祐樹くん、僕の名前は森崎有二。この先にも道があるのかな。あるなら案内をして欲しいのだけど。」
「あ、はい。地下水路?ていうのにいく入口があります。降りたらすぐに小部屋もあります。」
なんて優秀な子なんだろう。次に俺が言おうとしていたことをやってのけるなんて。
「そこまでの案内をよろしく頼む。零もダメージを負っているから休ませたい。」
わかりました。と言って奥に進んで行く。先ほどの恐怖も消え去っているようだ。心が強いようだ。祐樹は気付いてないようだがあの虫と同じような羽音が近づいている。戻ることはできない。
零も察したようだ。火傷を負った体をどうにか手当できたら。そう思いながら3人は地下へと向かう。