第三十二話「移動する迷宮①」
モンスターと出口が見つからない迷宮の中で2つのグループが出会った。彼ら彼女らは違う世界から来たもの同じ世界から来たものと多種多様な存在である。
人間は自分とは違うものをどうしても嫌悪したり突き放そうとするなどの行為を行うものが多い。しかし、2つのグループは簡単に距離を縮めていた。
「ここは膨大な広さだからこっちとそっちで別れて探索をしていく。何か発見次第これで連絡を取ること。定時連絡はどうする。」
「ああ、俺達傭兵は定時連絡をしたいが出来なかった。だから一定の期間を決めて時間が来るまでに拠点に戻って手に入れた情報を照らし合わせていくんだ。しかし、ここは家まで移動をしてしまってその方法がとれない。」
「なら、期間を長くしてこの移動するエリアの外に集まるようにすればいいのでは。何かを隠しているなら移動するものに隠すことはしないと思うし隠しているならわかるような目印や移動の規則性があるはず。」
「おけ、それなら12時間ごとでいいかな。長すぎても大変だから。」
と迷宮やダンジョンを探索したり傭兵稼業を行っているプロたちが話をまとめていた。その横では話がまとまるのにあと少しとのことなので準備をしていた。
それぞれの通信機で会話をすることが出来るように調整をしたり、道具の交換、修理などと有二たちと傭兵たちがそれぞれ出来ることをお互いに行っていた。
「準備はできているな。12時間で森から入ることができる入り口に定期的に集合をすること。何か発見した
ら通信機で連絡。みんなが集合するべき発見の場合などもそこに集合すること。2日で何も発見できなかったらちがう場所の探索に移ることになった。それじゃ、行くぞ。」
星川を先頭に進み始めた。祐樹のスキルを頼りにして何か不自然なところはないのか、今通っている所の視覚で気になるところを探していく。
それを繰り返し繰り返しでおこなっていき見落としなく脱出の糸口を探っていく。しかし、大半が建物が移動して空間が出来ているだけであったり、なぜか建物の一部が積みあがっていたりしただけなどと脱出には何も関係ないことばかりであった。
「本当に建物が移動し続けてるから頭の中の地図がおかしくなってしまうわ。」
「ああ、いくら祐樹のスキルがあるからといっても自分の頭の中に地図がないといざという時には祐樹に聞けないからな。」
美優が同じような建物が移動し続ける中で移動しているのに脳内マップを作製をして頭の中がごちゃごちゃになっていると。あの何も考えていないようなキースも同じように脳内マップを作製しているようだ。
「それにしても建物が移動をし続けるのはどういう原理なんだ。魔法?かなり発達した科学技術?それを維持するにもかなり魔力やエネルギーが必要だと思うけど。」
「両方だと思うよ。魔力の反応はあるけど建物を移動させるには少なすぎる。だから科学技術、それか超能力か、魔術か。見ただけだとわからないけど、ここまでするということは何か隠していることは確実だからな。」
有二の世界の人なら当然の疑問を抱くことだが星川が答える。建物を触りながら何かを理解しているような言い方だった。
「以前に行ったことのある未踏破の迷宮『ディストーション』は歪んだ地形が多くたとえ地図があっても実際に行って見てみると地形によってまっすぐ歩いているように思ったらいつの間にか直角に進んでいたこともあった。その地形があるところは攻略のカギともいえる仕掛けもあったことがある。」
「なるほど。そういうところにこそ脱出のヒントがあるわけじゃな。じゃが、迷宮ならそういうところにはヒントがありそうだと思わせておいて何もないというのが落ちな気がするがの。」
ワーグリンが星川の考えをやんわりと否定をするが、有二が星川の考えに賛同する。
「この迷宮は侵入者を阻むものではなくあくまで研究するための施設だ。しかも、モンスターなども配置をしていくための通路や研究所へと続くところがあるはず。それを隠蔽するためにここが一番怪しいとは思うよ。」
「結構骨が折れそうな作業になるね。」
祐樹の言葉に誰もがこの行動を繰り返すというめんどくささを想像してしまったので落胆する。単調な作業ほど飽きる事はないという。みんなため息をつきながら交代交代で作業を行っていく、
「ここに何かあったとしても見つかった時には疲れ切ってしまった後な気がするな。」
「ご主人様、吸血鬼の体では疲れないですよね。大丈夫ですよ。」
「あ、いや、肉体的な問題ではないのだけど、精神的なことなのに。聞いていないし。」
ノレンは有二なら大丈夫と肉体面で丈夫であるので心配しなくていいと言った。有二は肉体は吸血鬼ではあるが精神的にはまだ人間であるので心配してほしかったとのこと。
「あっちにも瓦礫が積もっているよ。スキルでは何があるかわからないよ。」
「よし、キース行ってこい。俺と交代してね。」
「なんで俺なの!?しょうがないな。」
有二は瓦礫をどかしたりその辺りを調査することに飽きてキースに番を交代した。キースは嫌な顔をしてぶつくさと言っていたが調査をしに向かっていく優しいやつであった。
「こっちに何かあったぞ。棺桶だ。棺桶が何個もあるよ。しかも、開いている。何が入っていたんだ。」
「棺桶って何であるんだ。ここは墓地なのか。」
キースが調査に行った先には複数の棺桶があり、その一つを手で持って見せてくる。木で作られた質素な作りであった。
「そんなことはないだろ。棺桶に魔力の残滓がある。」
「魔力の残滓って何ですか?」
「魔力の残滓っていうのは魔法を行使したときにその周辺に残る魔力の残りかすです。魔法の扱いが上手な者ほどその残滓が少ないです。おおよそ二日三日で残滓が消えます。」
キースが言った魔力の残滓に智代子が疑問に思ったのをカタリナが答える。そして、キースがさらに答える。
「この魔力の残滓からして魔法を使ったのは半日も立ってはいないぞ。」
そういってこっちに向かって走ってくると同時に建物の窓が中で爆発が起きたかのように飛び散った。そこから人が上半身だけが勢いよく後から出てきた。肌が青く明らかに人間ではないようにしか見えない。そして、その上から更に青い肌をしたやつが暴れるように窓から出てくる。無様に顔から落ちてゆっくりと起き上がってくる。
「ヒィッ、ゾンビ。」
「おいおいおい。アンデッドじゃないか。しかも、誰かが魔法でアンデッド化させてるやつだ。」
キースはアンデッドと呼んだものから全力で距離を取る。外に出たアンデッドはゆっくりと立ち上がってこちらを向く。首が向いてはいけない方向へと曲がっていた。それが嫌な音を立てて瞬時に元通りの方向に治る。
「アンデッドが出てくるなんて。まるでB級映画にでもいる気分になってくるよ。」
有二は背中の大剣を抜く。その他も各々武器を構える。
すると、アンデッドのいる方向から更にアンデッドが湧いて出てくる。10体そこらでは済まなく何10体も出てきた。大の男から女性、種族が違うのと様々である。
「獣人に、あのローブは大陸の魔法使いのものだ。」
「あれって自衛隊の装備だよね。あのアンデッドって私たちと同じように連れてこられた人達ってことだよね。死んじゃったらアンデッドになってしまうの。」
星川がアンデッドになっている人たちが元々どのような人であるかがわかり、智代子がアンデッドに疑問を思う。アンデッドがこの迷宮のモンスターであるならば、ここで死んでしまうと彼らのようにアンデッドとしてまだ生きている人たちを襲うモンスターになってしまうのではと恐怖した。
「いや、アンデッドはこんなに簡単にはならない。疑似的な魂を死体に入れてアンデッドを生み出すか、死霊魔法の中でも行為である『デッドライジング』を使って死体をアンデッドとして操作をすることの2つしかないはず。」
「そんなことよりこのアンデッドをどうにかしないとやばいよ。アンデッドは死体の身体能力で強さが変化するから早く燃やして討伐しないと。」
「そうなの。ならあの緑の服装の男は自衛隊っていう組織の人間だから強いはずよ。気を付けて。」
死んでもアンデッドには簡単にはならない。それがわかったことで有二サイドの人は安心をしていた。そして、アンデッドは気持ちの悪い走り方で迫ってきた。ドタドタとまるで立つことが初めてできた子供ように。
中にはものすごい速さで間合いを詰めてくる個体もいた。適切な距離を保とうとするがただただプログラミングされた動作であり考えている動きではない。更にはこの面子では敵ではない。
「さてと、我も戦おうとするかのう。でないと暇になってしまうからの。」
「私も前線で戦おう。」
ワーグリンと零がアンデッドに歩いて向かっていく。何も考えずに接近してくるアンデッドに零は槍で斬り払いと神速の速さと槍さばきで360度から襲ってきてもスキルによる把握で的確にさばいていく。ワーグリンは雨粒ぐらいの魔力弾を遠くからやってくるアンデッドに向かって飛ばす。地面に着弾と同時に地面が盛り上がって突起を作りアンデッドを貫く。
雨粒の魔力弾の正体は小さく凝縮された魔法陣であった。それを見抜いたのは星川とカタリナ、カムイ、有二、ノレンだけだった。これがかなりの高等技術であることは有二は知らなかった。
「2人だけでまだ湧いてくるアンデッドを倒せそうだね。」
「、、、うん。」
「ワーグリンはさすが本物の吸血鬼だと思う強さだけど、零もかなり強い気がするな。前の戦闘を見た時よりも更に磨きがかかったように思うな。」
アンデッドは次々と湧き出てくる中で2人は苦も無く次々とアンデッドを討伐していく。
アンデッドは違う場所からも湧いては来るが星川達が火の魔法で焼いていく。
このアンデッドの大群は星川の予想通り勝手に湧いているのではなく人為的なものであった。
「アンデッドがあんな簡単にやられているじゃないか。どうしてなんだ。」
「あいつらはアンデッドでも低級か中級程度の力しか持っていないのよ。だから大丈夫、私に任せておけばいいのよ。あの子達とずっとずっと一緒にいられるわよ。」
男が隣にいた女に焦ったようにアンデッドを倒されたことを危惧していた。しかし、女は男の隣にある棺桶をなでながら男を落ち着けた。
男の顔は蒼白でまるで死んでいるかのような色をしている。げっそりとしていて目も現実を見れないかのように焦点があっていない。
「ああ、そうだな。俺は彼女たちとお前と一緒にいられるだけでいいんだ。」
男は女の言いなりになってるらしい。
「そろそろあいつらにも退場してもらってアンデッドの一人になってもらおうか。」
2人はその場から消えていく。




