第二十八話「今回も休憩」
駅に入っていくキースに星川、零たちは続いて中に入っていく。入った先は熱が籠らない構造なのか風と共に寒く感じる。その中は殺風景で左側手に券売機、右側手にはベンチが数台と自動販売機だ。そして、正面には改札機がある。
それをキースはささっと通り抜けてホーム内に入る。
改札機をキースが通ろうとした時、零と智代子は一瞬だけ体が止まる。駅を何度か利用したことのあるものなら切符やICカードを使ってから通るためどうしても速度を落とすことになるがキースはそれがなく、つい侵入防止機能が作動してしまうのではと思ったのだが電気が来ていないのか作動はしなかった。
みんなが改札を通ってきたのをキースは確認をすると改札横にある駅員さんがいる部屋につながる扉に入っていく。駅員以外はいることがほぼほぼないであろう部屋に。
みんな入って行くと駅員が作業をしている部屋であるのにおかしいということに気がつく。駅員が使っているであろう金属製の大きい机は部屋の隅に避けられている。奥には黄緑色をしているふかふかなソファーが二つ並べてある。そこに有二がめんどくさそうな顔をして座っていて彼の膝を枕にして2人の少女が眠っている。
「みんな無事だったのか。良かった。」
有二はキースと一緒に入ってきた仲間を見てめんどくさそうな顔から喜びの顔に変わる。すると彼は膝で眠る彼女らをそのままソファーから落とす。おそらくかなり長い間あの体勢であり辛かったのだろう。2人とも落ちる前に片手をついてその反動を使ってそのまま立つ。
彼女らの服はかなりきれいである。このダンジョンにいれば嫌でも服が汚れてしまう。それが一切に見られない。この町にあったものなのだろうか。
「有二、キース、あれカムイはどこにいるんだ。」
「そこそこ、横にいるだろ。気配遮断なんてスキルを覚えてからずっとそうやって気配を消しているんだ。祐樹、カムイのことをスキルで分かったか?」
「うん、頭の中にあるマップは人なら丸の点で表示されるんだけどカムイさんはゆっくりとした消えたり出たりしてたよ。」
「なるほどね。祐樹、これからはそのスキルを信用しすぎてはいけないよ。おそらくだけど気配遮断以上のスキルを持ったやつは探知できないってことだ。」
祐樹に近づき頭をなでる。祐樹はその行為がうれしく少し顔を下に向けて赤くなった顔を見せまいとする。
「とりあえず、みんな無事に合流が出来たということでいいんだよな。」
「ああ、有二たちと俺たちで何が起きたのかを確認しあいたいのだが。ここは安全なんだよな。」
「キースが魔法のトラップをあちらこちらに仕掛けて、ノレンが物理的な罠を仕掛けたから大丈夫だと思うよ。」
有二はそう言って部屋の隅に置いてある椅子を複数持ってくる。
椅子に座って話を始める。ビルという爺に会ったこと、天狗にあったこと、その天狗からこの迷宮から出る方法、そして、吸血鬼といった強敵との死闘。その過程で仲間になったもの達のこと。
星川と零に起きたことを話す。
「では、改めまして私はノレン。有二様に仕えることになりました。よろしくお願いいたします。」
ノレンは有二の仲間たちに挨拶をする。彼らは彼女が只者ではないということを今知った。彼女が魔力を纏ったからだ。纏った魔力の質が星川の本気以上のものと知ったカタリナ、美優、カイトは少し怖いと感じた。
話に聞いた通りなら彼女を有二たちが倒すことが出来ているところを考えると彼ら、有二たちは凄いことだと言える。彼女一人で一匹の怪物だと言えるからだ。更に、
「我が名はワーグリン。偉大なる真祖である吸血鬼の孫である。雑種な人間どもひかえ。」
「お前は何を偉そうに言っているんだ。これから俺たちと一緒に脱出を目指す仲間なんだ。」
と態度のデカいワーグリンを注意する。ワーグリンはそれに反抗するのに殴っていくが全部有二がさばいて一発も当たらない。
「きゅ、吸血鬼って私の世界ならS級の危険指定のモンスターなんだけど。」
ワーグリンは不快そうに反論する。
「モンスターとなった吸血鬼なんぞと一緒にするな。我らは人間の上位種である。人間より下の種族に成り下がった吸血鬼もどきなんぞこちらが消し去りたいと思うぐらいだからな。」
「有二も半分吸血鬼になったわけだけど太陽に弱いっていうのは本当なのかな。」
「初めてだから許してやらんこともないが、太陽に弱いのはモンスターの吸血鬼の方だ。伝承や物語にある吸血鬼の弱点はそいつらのことだ。半分の貴様でも弱点には一切ならないからな。」
そういい有二に指を指す。本人は「吸血鬼っても人間よりも強いだけということかな。」と安直に考えている。
「そんな話はいいとしてこれからどうするんだ。龍人と戦うというのは強くなった俺でも絶対に無理だぞ。あれは明らかに勝てる相手ではないからな。」
有二は今後の方針を決めたいようだ。星川もそれに賛同し話をする。
元の場所に戻ることはせずまだ行ったことのないところに行くこと。川の対岸、つまりは星川たちが落石したときに行った森を抜けるということだ。その先はこの中で誰も知らないという事らしい。
ワーグリンは特殊な転移にてここに来たらしくここ以外を全く知らないと来た。
結果ここで休憩をしてから出発をすることに。目的は脱出手段。要石がないとここから出られないというのは研究者たちがどのようにここを作り出しモンスターを搬入しているのかが理由が付かない。データを取るのなら現地にも行くことが重要だからだ。
それを探し当てることによってここから出ることが出来るということだ。目印などがあるはずなのでそれを見逃さない事。
更に強敵と遭遇しない事。ここの強敵は厄介な能力を持っていることがあると想像できるからだ。
話はここで終わり準備をしたり休憩をすることにした。情報もないので解決策を考えるのではなく注意点や目標の再確認といったものだ。
有二は元居たソファーにどっかりと座る。するとワーグリンはスカートのポケットから何かを取り出して外に出ようとする。
「わしは少しこいつを吸ってくるのでな。少ししたら戻るぞ。」
ワーグリンは喫煙者だったらしい。取り出したのはタバコである。有二の世界ではタバコは値段がワンコインでは買えなくなり電子タバコの方が主流であった。ワーグリンは紙タバコであった。
「タバコって体に悪いんだぞ。吸血鬼もタバコの吸いすぎで体こわすんじゃないのか。」
「高貴な吸血鬼にもなればタバコの毒なんぞ効きはせんわ。おそらくだが貴様もタバコが害には成らんはずじゃ。」
そう言って部屋を出ていった。外で吸うあたり意外と気遣いが出来るようだ。ゴスロリで喫煙って警察沙汰になるような絵面だなと有二は思った。
智代子がいきなり立ち上がって
「わ、私もちょっと外に出てきます。」
そう言いワーグリンに続いて外に出ていく。
もしも、これがライトノベルとかになるのならこういう人たちって喫煙キャラではなくなるように編集されるだろうなと有二は智代子の行動を察しながらそう思った。
有二はソファーの近くに置いた剣を持ってみる。
「剣がまた軽くなった。力がやっぱり上がっているわけだよな。このステータスで動くのに慣れないといけないな。」
身体能力が向上することはいいことだけど動かす本人がその動きに追いついていなければ何もできない。
「零、ちょっとだけ手合わせお願いできる。」
立ち上がって零のところに行きお願いをする。道具の確認をしていた零はそれに頷き武器を取る。
「どこでやる。」
やる気があるようだ。
「跨線橋を渡った先の二番線三番線のところでどうかな。部屋にいる人にも邪魔にならないし。」
「わかった。では行こう。」
零は自前の槍を持って、有二は大剣を持つ。部屋を出ていこうとする2人に星川が声をかける。
「俺が立会人として行ってもいいか。2人はヒートアップしてしまいそうだし。」
「ああ、構わないよ。」
「(こくん)」
三人で外に出ていく。
零相手にどこまでできるか有二は気持ちが昂る。