第二十七話「残り者たちを探索」
森の中は静かだと誰もが想像してしまいそうだが森全体に風が吹けば、葉と葉がぶつかり合い乾いた音が合唱のように鳴り響く。ただ、それを騒音としては感じ取ることがなく、普段森に行かないものからすると心地よいと思うのではないのだろうか。
その心地よさを阻害し心に不親切な波をたててくる騒音が零に近づいてきている。
「2人とも早くこっちに。誰か来る。」
零がそう指示をすると二人、カタリナと智代子は頷き草むらと木が多く茂っている外から見えず中からは見える位置に身を隠す。数刻前なら智代子が騒ぎこれから来る相手と遭遇をしていたのだろう。
「くそ、なんだよ。俺は勇者なんだぞ。それをあんな態度をとって。しかも、首に剣を、死刑だぞ。死刑。勇者は誰よりも偉くて羨まれる存在なんだ。それをあの野郎。」
「私のことをおばさん呼ばわりをしたあの平民のガキは許せないわ。王族をそんな呼び方をしたことを後悔させてあげますわ。」
戦闘を智代子とは別の意味で無防備だ。もし、零がここで二人を襲い掛かると簡単に仕留めることができるだろう。怒りでなんにも考えずにずんずんと進んでいる。更に顔がとても見ていられないようになっている。零は昔絵本で読んだ「舌切り雀」や「はなさかじいさん」に出てくる悪いおばあさん、おじいさんを思い出していた。
そして、醜い二人に続いてやる気のない足音とため息をついた一行がそれに続いていく。2人の仲間であろう。この迷宮にとらわれている人間の一人であるとは思うが、あの感じでは話をかけると災いを呼び寄せてしまいそうだ。
一行が遠くに行くまで三人は静かに待ってから元の位置に戻った。
「あれってなんだったのかな。ものすごく怒っていたけど。」
「そうですね。王族が、勇者がと言っていましたけどどこの発展途上世界から来られたのか。」
「しかし、収穫はあった。あいつらは誰か人間と会ってトラブルを起こしてここを通り過ぎた。そして、血の跡の先からここに来ていた。」
「そうか、この先の星川君や有二君がいるかもしれないということだ。」
「それなら、早く行きましょ。」
カタリナが急ぐように提案をしてくる。
「そうだな、急ごうか。」
「無事だといいけど。」
零と智代子も早く合流をして、有二と祐樹の安否を知りたいからだ。祐樹の心配をするのはまだ子供であるから落石でケガをしている確率が上がっている。有二のことを心配だと口に出さないのはただの照れ隠しだ。
血の跡と勇者と言っていた男たちがやってきた方向に早足で進んでいく。みんなちょっと浮かれている。
「誰か、来たよ。これって。」
祐樹のスキルの範囲に誰かが入ってきたようだ。銃でもない限り奇襲のできない範囲を有している。
彼はその範囲内に入ってきた者を知っているようでいきなり走り始めた。星川たちはそれがただ気が狂い走り出したとは思ってはいない。祐樹の知っている人間がやってきたということだ。つまりは星川たちの仲間であるカタリナ、カムイ、キースの誰かがいるのかもしれない。
「俺たちも行こうか。」
星川がそういう事によって二人、カイトと美優は動く。
祐樹が走っていくことは敵がいないということだろう。そして、祐樹が少し走った先に3人の人影がある。
「カタリナ。良かったー無事で。」
「美優!腕がもう治ったのね。今度は油断しないでね。あなたがいないと補助役が足りなくて困ってしまうから。」
「いうわね。私にそれを言えるのはあなたぐらいものよ。」
美優の腕が治っていることをカタリナは言葉が悪いものの治ったことを喜んでいる。そこに星川が当然の疑問をする。
「カタリナ、有二、キース、カムイは一緒ではないのか。」
「ええ、零がその3人は私たちとは反対の方の川に落ちていったそうです。3人はだれも落石に潰されてはいないそうですよ。」
「そうか、良かった。あの時点ではみんな無事だったということだな。」
「ええ、そうなります。ですが、あの場所からこの血が続いていたのですけど誰かケガをしていたのではないでしょうか。」
カタリナが地面についている血について聞いてくる。
「僕の血です。」
カイトが後ろからゆっくりと出てくる。するとカタリナの目がとても険しくなる。
「カイト、その血は誰かを守って流したものですか。」
「はい、落石の時に2人を守るために。」
「よろしい。誰かを守るために命を燃やすこと、それを続けていきなさい。」
「、、、、。」
カタリナの目はいつものようにやさしい目つきに変わる。
彼女は何か罪を犯したものを監視するような態度である。祐樹たちはその行動が不思議で不思議で仕方がなかった。
「さてと、残るやつらの方向に行こうか。零が生存していると確認したから大丈夫だろう。」
星川が流れを変える。合流をしたのはまだ一部であり有二一行はどこにいるのかはわかってはいない。
みんなそれに従い歩き始める。
「俺たち、さっき勇者を名乗って不快な事ばかりするやつらにあったけどそっちは何かあったか。」
星川がそういう。
「私たちはモンスターに遭遇するだけで得にはありませんでしたよ。モンスターも見たことのない種類でした。あと、その自称勇者のパーティは先程見ましたよ。隠れてましたが。」
智代子が答える。
「出会ってしまうと悪いことが起こる予感があったので隠れたんだ。祐樹ほどではないのだがスキルの範囲内に来たことで気が付いたんだ。あと、彼らには探知をすることが出来るものはいないようだ。」
「確かに隠れてたとはいえかなり近かったですものね。」
「あと、王族とか勇者だから偉いんだって言ってたよ。同じように迷宮で困っているのに関係ないこと言っておかしなお兄さんとおばさんだったよ。」
祐樹は自分の気づいたことをいうが、美優を除く3人は悲しい顔をしていた。
「、、、私たちももう少しすればおばさんと呼ばれてしまうのかな、、、」
「、、、零はいいじゃないですか。私なんて少し経てばそう呼ばれてしまうのですよ、、、」
「、、、純粋な悪気のない言葉ってあんなに怖くて攻撃力が高いとは、、、」
「どうしたの?」
「「「いや、なんでも。」」」
祐樹は3人の様子がおかしいと思い声をかける。星川は笑っている顔を見られないように顔を背ける。見られたら大変なことになってしまうからだ。
「ごほん、とりあえずあのパーティは危険ということで今後遭遇したら警戒態勢ということで。そろそろ川が見えてくるとは思うのですが。」
話している間にも有二たちが落ちたであろう川が見えてくる。彼らも川の流れには逆らえずに流されてしまっているだろう。あとはどこに流れ着いているのかを川に沿って進んでいき見つけてそこから探索範囲を広げていけばいい。
「祐樹は探知に力を入れてくれ、それ以外はどこに流れ着いたのかを見つけてくれ。」
「「「りょうかーい。」」」
祐樹の探知能力のおかげでみんなが探すことに力をいれることが出来る。
「あそこ、私たちが流れ着いたところに似てませんか。」
カタリナが指を指したところは陸と川が平行に近く上がりやすい部分である。そこから陸にあがった可能性は高いだろう。しかし
「ここから川に飛び込んで向こうに行くのは危険だよな。迂回路があるかを探すべきだろうな。」
「水に濡れてしまっては動きも鈍ってしまう。」
零たちは一度川に落ちた経験から迂回路を探す提案に賛成をする。水中ではいくら祐樹の探知があっても無防備であるので行きたくはない。智代子はよくわかっていないけど。
「落石があったところのように横断できるところがあるだろ。進んでいくか。」
結局数十分歩いたところに橋を見つけた。
橋と言ってもダンジョンであるような木製だったり石で作られていたりはしていない。
「あれってコンクリートで作られているよな。渡った先も見たことのあるような建物だし。」
「私は見たことのないものですけど。」
同じ世界から来たはずである星川とカタリナで橋を見た感想が違うことに零は疑問をもった。
「星川はコンクリートやあの建物をしっているのか。カタリナは知らないようだが。」
「ああ、祐樹には言っているが俺は転生者だ。たぶん、零や祐樹の世界からカタリナたちの世界にやってきたんだ。ちなみに美優は転移者だ。さてとこの町は周りが壁で囲まれているからどこからあそこまで行こうか。」
「かなり、重要なことをさらりと。」
零が珍しく驚くのだが星川は知らぬふり。そのまま橋に向かっていく。
零は止まってしまった。
「私たちの世界ではなく、祐樹君たちの世界の街なのですね。どの建物も城下町と同じぐらい綺麗ですね。これがどこにでもあるのは驚きです。」
「まぁ都会よりは静かで落ち着けそうだわ。、私が住んでいたところのほうがすごいけどね。」
カタリナは零たちの町がこの規模でいくつもあることに驚いて、美優は何故か誇るという謎の行動をとっている。
そして、星川の言う通りこの町の周辺は建物より少し高めの壁が覆っているのが見える。かなり厚く、建物から少し離れていることから登ったり壊すこともできないだろう。
「とりあえず入って探索しようか。」
「食べ物があったらいいな~。」
みんなゆっくりと入っていく。コンクリートの橋は崩れそうなこともなく丈夫であった。
渡った先はしっかりと舗装されていて日中なのに車が通っていない光景であり零たち四人は少し物足りない感じがした。
人がたくさんいてもおかしくはないような外観をしていて誰一人としていない。まるで自分自身が小さくなりミニチュアの箱の中に入ってしまったように思わせる。
「なんだかおかしな気分になってしまいそうだ。」
「昔、小さくなって誰もいない世界でいろんなことをしてみたいって思ってました。」
零は自分の中に実はあった好奇心をおかしいと捉えていて、祐樹は昔の夢が実現できるかもしれない場所だと興奮している。
星川は転生して二度と行けない、見れない光景であった。しかし、驚いてもいない。
「星川は懐かしいとかは思わないのか。」
「懐かしいとは思う。けど、俺の故郷はもうこういうところではないからな。」
そういうものかと零はそれ以上は何も言わなかった。
みんなキョロキョロと建物を見て歩いていく。祐樹が何も言わないのでモンスターがいないという事。カタリナやカイトはこういう建物があるのかと興味深々で見ていて、智代子はルンルンで歩いている。満面の笑顔だ。
しばらく道なりに歩くと横に大きなところにつく。入り口には扉がない建物にたどり着く。
「駅に着いたな、それで右に進んでいけば有二たちが上がったであろ場所の方向になるわけだな。」
「ああ、それならさっそくそっちに行って手掛かりがあるかどうかをみに。」
「あれ、みんなこっちまで来ていたんだ。」
と間の抜けた声が聞こえてくる。
「ぶ、無事だったのか。キース。ていうか何を持っているんだ。」
「ああ、これはこの辺の家に会った食料だよ。持ってきた食料だけだと5人じゃ足りないしさ。」
「5人って有二とカムイ以外にもいるのか。」
キースの発言にみんなが驚く。一晩のうちに2人も増やしているからだ。
「まあまあ、みんながどんなことが会ったのかは知らないけどそろそろ俺たちは寝たいんだよ。死にかけるぐらいの戦闘とか数段上の実力者が相手だったり大変だったよ。」
早く来いよと手招きをして駅の中にキースはみんなを誘う。疲れているようだ。
「そういえば祐樹。スキルでキースがいるのがわかっていたのでは?」
「みんなにはサプライズで知らせようとしてたら忘れてた。」
零の当然の疑問を祐樹は忘れていたという子供らしい(尤も子供だけど)反応をする。
彼女は仕方がないと責めることもしない。無事に仲間と合流が出来るからだ。