第二話「クリア条件」
「まったく、ここはとんでもなく危険な場所だ。早く安全なところにいかないと、あの怪物がまだこの。」
ゴブリンの血を浴びた彼、有二はビルの一階のロビーで死体の上に座っていた。動物?を一度も殺したことのないのにかかわらずゴブリンを殺しても意外と冷静であった。殺したというよりは今考えて行動をしなければ死んでしまう気持ちの方が強く前者が限りなく薄れているのである。
立ち上がり出口へと向かう。ここにはあの怪物ミノタウロスがいる。早くここを離れた方がいいと思い足を進める。
外を見ようと入り口に目を向けるが、明順応かあまり景色が見えない。ビルの中が案外暗いってことらしい。この周りの様子を確かめないとこの先の身の振り方が決まらまい。
ようやく慣れてきた目にはビルの正面にはまたビルが建っている様子が写っていた。そして、自分のいたビルを見上げる。自分が先ほど入っていたビルと同じぐらいの高さのやつが両側にずらっと並んでいる。少し広めの車道がビルが両側で挟まれている。
次に左右を見回すが左の方はビルが途切れるようには見えないが右の方はビルが途切れるのが見える。そっちの方が何かありそうなので右に曲がり進む。
しかし、誰が何の為にこんなことをしているのか、生物実験にしても腕にARウオッチを着けるのはよくわからない。その中の機能もそうだ。あれってRPGゲームによくあるやつだ。ステータスウインドウ、自分の身体能力が書かれていたり、なんか能力欄て言うのもある。アイテム購入などはおまけなのかもしれない。使えないけど。
普通に人が死ぬのを見て楽しむやつならこんなのは搭載させない。おそらく、これを見た本人がどう成長させていくのか、それによって身体的にどう影響を及ぼすのかを知りたいのだろう。
「なんか俺冴えてないか?こんな極限の状態にいたらこんな風になるのかな。」
そうかつてないほど頭が良く回る。普段はそんなにで結構ノロマで、、、ドジである。そう自分自身を悲観すると生きて帰れるのか不安になってきた。しかし、マイペースな性格でもあるので不安をポッと忘れていく。
武器の面でナイフだけでは心細いのは性格ではどうにもならないので歩きつつめぼしいのはないかと探す。しかし、ごみひとつすら落ちていない。人がいる町より綺麗だ。だから、武器になりそうなものはない。
そんな中で前方の数メートル先にあるビルから
「ギ、ギ、ギ、、、」
と変な声が聞こえてくる。
この声は先ほど聞いたことのある。先ほどのゴブリンの声と同じだ。
声だけではない。足音がだんだんと聞こえてくる。近づいてくるようだ。そして、緑色の頭、体の順にでてき全身が出てきたと思うと玄関の先にある溝につまずいてこけた。
その溝はほんの少しぐらいしかない。とても焦っているようだ。
その行動に気をとられてしまった。急いで腰に携えていたナイフに手をかける。
しかし、ゴブリンはこちらに気をかけることはなくむしろ後ろ、走ってきた方を向いた。そちらに何があるのだろうか、ゴブリンが向くと声がそれにかかる。
「外に逃げてしまったか。私も腕が落ちてしまったな。」
と声の主は鋭利な刃物と長い棒である武器、槍をゴブリンの喉元に突きつけ出てきた。短く肩より少し上で揃えた髪、引き締まった体には鍛えられた部分が出ている。明らかに強いことがわかる。
「しかし、お前の命はここで、、、」
「終わり」だと呟き首を突く。ゴブリンは手で槍を掴み抜こうとするも精神的にも参っているのか力が思ったより入らない。徐々に力は緩み地面の上にストンと手が密着する。
彼と同じように怪物、ゴブリンに襲われたのか。ようやく人と直面出来て何だか寂しさから解放されたように手から力が抜ける。すると、
「おい、貴様。ここはどこだ。さっさと答えろ。」
彼女に喉元に槍を突きつけられる。怪物よりも人間が一番怖いというのは本当であるかのようだ。そう言った人のことが今わかった。てか、この人本気なのかな。突如目がギラッとなり
「喋らないのか、この化け物と仲間なのか。なら、」
判断が早すぎて即決即突である。
「ちょっと、待って。俺もここがどこかはわからないんです。それよりもこの槍を」
そこでようやく敵意を向ける人物を初めて見た。俺より少し大人びた女性だった。
彼女も俺を見て本当のことを言っていることがわかったらしく、ため息をつく。槍の矛先を変えてくれた。絶対にあの目は本気だった。その殺意が消えて気づいた。
息が上がっていて相当呼吸が乱れていて彼女の殺意から解放されたことがわかった。
ゴブリンにも殺意を向けられたがこれほどではなかった。あの人、一体何者と疑問を投げかけたいが、また殺されそうになるのは嫌なので、開きかけた口を閉じる。
「おい、ここで座ったままでいるのか?」
と向こうから声をかけてきてくる。これはありがたいと思い立ち上がる。冷たい態度とは違い意外にも会話をする、出来るようだ。
「いや、俺は出口を探しているから行かないとな。一人でも多くいた方が安全かもしれないから一緒に行かないか?」
結構言葉を振り絞ったがなんか物足りないような雰囲気だ。このまま拒否されることもあるだろう。
「ああ、いいぞ。このような場所では一人よりも二人が良いからな。」
快く承諾してくれた。これはとてもありがたい。あのゴブリンを容易く殺す腕前の持ち主だからな。こわばっていた体や顔に力が戻ってくる。
(よしやれる、とりあえず、お礼を言おう。一緒についてきてくれるのだから。)
そう思い彼女の方向を向く。
「ありが、(ピュン)・・・・・」
「あ、すまない。虫がいたものでつい。」
目の前に虫を切り裂いた槍があった。一瞬で先ほどまで右腰ほどに携えていたのに顔のまん前に。俺、怪物にやられるよりも先にこの人に殺されるのでは。不安事が増えてしまったような。しかも、虫は大きかった。
(気にする事はないよね、こんなに真面目そうだから。うん、キニシナイ。)
「い、いや。どんどん、いこうか。」
「つまり、ここに来ている人は最近起きているニュースに関係しているという事になると思うんだけど。結局は犯人が誰かはわからないな。」
「仕方がない事だ。訳も分からず眠らされて奇妙な生物な生物に命を狙われるなんて普通はありえないからな。そもそも、あれぐらいのやつをやれないとこの先、生きる事は難しい。」
歩き始めて目覚めてからのことをお互いに情報を共有をした。彼女の名前は零。それでわかったことはおそらく一人一匹の怪物が最初に出会うように仕組まれているということだ。そして自分の体が少し不自然ということだ。
「なんかゴブリンをあの程度と言われるとこの先が不安になってくるけど。」
「大丈夫だ。少しも傷をせず殺したのだからな。有二は十分生き残ることができるさ。」
「そうだとしてもアイツからは逃げた方がいいよ。」
「先ほど言っていたミノタウロスというやつか。」
「ああ。見ただけであいつが何か、どれぐらいやばいヤツかはわかった。アイツと会うのは絶対にないことを願うね。」
「そうなのか。ふーん。」
この人絶対にアイツとやりたいと思っているな、とすごく顔に出ている。一緒に行くのは間違えたかな。
「このまま歩くのはいいが、どこに行くんだ?」
そういえばそうだったと思い再度周りを見る。今大通りを歩いてて周りにあるビルから丸見えで狙われやすいところである。
ビルが隙間なく並んでいるように見えて時々隙間がある。路地裏に繋がっていそうだ。脱出ホラーでもよく通るルートだ。狭く見通しの悪いところは何かを隠すにはもってこいのところ。
「あそこに行こう。裏に行くのは脱出系でのセオリーだからね。」
そう言ってそこに歩みを進める。ふと疑問に思った。
「そういえば思ったけどその槍どうやって作ったの。そんな棒もこの辺りには落ちてなかったけど。」
「ああ、これか。もともとここに来る前に持ってたものだ。それに落ちてたナイフと靴紐を使って作った。」
この人一人で生き残れそうだな。そう思いながら路地へと歩く。
「意外と暗いな。周りのビルが光を遮ってるな。」
彼女が向けた視線の先を見てみると納得した。真上を見ても空が見えない。ビルとビルに何かが繋がっている。そして、人が一人と半分ぐらいしか幅がない。だが、奥に何かがありそう。そう思いながら周りに気をつけて歩いて行く。
すると、左手首から振動がする。時計からだ。
隣にいる零も同じく左腕が震えてる。これを取り付けたやつからだろうか。
腕を前に取り出し確認しようとすると時計から光が飛び出て少し手前にAR表示が出てきた。
そこには変なBGMと共に小さく可愛い野うさぎのアバターが写っていた。けど、頰などの毛を血で染めていた。趣味が悪い。つか、変なやつに捕まってしまった。
うさぎに吹き出しが出てきた。
『やあ、おはよう、こんにちわ、こんばんわ。私は君たちをさらいここでモンスター達の相手をさせている張本人、研究員Hとでも名乗っておこう。さて、なんで僕たち私たちがこんなところに誘拐されているのかと疑問に思っているだろう。簡単な話、若い年代から無造作に選んだ結果だよ。君たちの事はよく知っている。どこそこの高校の野球部のエースや全国レベルの棋士やら普通にどこにでもいる人など全ての人のプロフィールはわかっているよ。そろそろ本題に入ると君たちには僕たちの実験に付き合ってもらうよ。』
いきなりこんなところへ連れてこられ実験に付き合わされる、と言われて普通は動揺するだろう。だが、何かしらの企みがあると二人で予想していたので特段驚くこともなかった。
『今回の実験内容は大きく二つ。もう会っていると思うが私たちはモンスター、それもよくゲームなどで出てくるものたちの開発に成功した。そいつらがどんな行動をするのか、人と行動するとどうなるのか、生態調査をさせていただく。しかし、モンスター達と人では明らかに力の差があるので、そこでもう一つ。君たちにはある液体を投与した。それは、人間に何かしらの力を与えてくれる不思議なものだ。人それぞれで効果が違い、とても興味深く実験のしがいがある。この二つを同時にやれば一石二鳥。どうだ、面白いだろ。』
(こいつ同じ人間を実験に使っておもしろいだって。ふざけてやがる。こんな可愛いうさぎアバターな癖に頭がイカレたこといいやがって。)
零も少し顔が険しくなっている。槍を持っている手が小刻みに震えていて力が込められていることがわかる。
『君たちにやってもらいたい事は一つ。ここラビリンスから脱出したまえ。ただそれだけだ。簡単な事でしょ。』
(出口はある、それがわかりホッとした。けど、あいつは自分たちに未知の液体を投与したと言っている。今はモンスターなどよりもそれが恐ろしい。あいつは液体が何かしらの力を与えると言っていた。一体なんだろうか。)
うさぎのセリフからヒントはないのか、自分たちの体にどんな変化があるのかを考えようとするがその暇もない。
『君たちが普段から命のやり取りをしているわけではないので、あるサポートをするよ。もう気付いている人もいると思うがその時計には色々な機能が付いている。』
最初に見たゲームみたいなあれだ。
『見た通りの機能だ。地図は自分が行ったところの周囲何メートルかを映してくれたりする。更に、最弱のモンスターに誰でも勝てるぐらいの身体能力は備えている。だから簡単には死なないし、デブだろうとガリだろうとどうにかはなる。これぐらいするんだ、私を楽しませてくれよ。それでは頑張れよ。君たちに幸あれ。』
プツンと通信が切れた。
2人の周りは静まっていた。不気味なほどに。これからとてつもなく危険なことが待ち構えているような。
しかし、それがなんだろうとやる事は決まっている。だから、前を向いた。
「ここで考えても仕方がない。やることが変わらないなら進まないと。」
零にそう呼びかけ再び路地裏へと足を進める。何かしらのショックを受け放心状態だったが声をかけると元に戻りああ、と素っ気なく返事をして付いてきた。
何にショックを受けていたのか少し知りたかったが、後にしようと歩き始める。
進路方向は薄暗くいつどこからやつらが出てくるかわからなく不気味だ。そしてそれらを強調させるかのように灰色のコンクリートが辺りを覆っている。
二人は異様な空気な路地裏へと入って行った。
ステータス
名前:有二 性別:男
能力:no date